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おめでとう!

 「おめでとう」その言葉は、いつも私を励ましてくれた。


 母はよく「美咲が産まれたとき沢山の人が『おめでとう』って、貴方を祝福してくれたのよ」と教えてくれた。


 高校に入学するときも、県内一の進学校だったため「え、美咲ちゃんX高校に受かったの!おめでとう!」同級生の皆んなが私にそう言ってくれた。


 それからと言うもの、私はなんでもそつなくこなす事が出来た。コンクールに出場すればそれなりの結果を残し賞を受賞する機会が多くなった。


 その度に周りからは、「おめでとう!」と、私を賞賛してくれる。


 私はそれが誇らしかったし嬉しかった。


 だから一層頑張った。勉強も部活もどちらも誰にも負けない。頑張れば頑張った分だけ皆んなが褒めてくれる。

がむしゃらに努力したお陰で成績は一位をキープ出来たし、部活は全国大会に出場できた。


 そして大学も誰もが知ってるいる名門に進んだ。

もちろんその際「おめでとう!」と、親戚からも同級生からも言われ、少し鼻が高かった。

 _____


「おめでとうございます」


 予兆はあった。

 けれど今日まで自分を騙し騙しに生活してきた。


 おめでとう。

 この言葉は、嬉しい言葉の象徴だった筈なのに。


 私はその後どんな話をそこでしたか覚えていない。その日の帰り道はなにも考える事が出来なかった。


「あ、今日なに食べようか……」


 目の前の問題から目を逸らす。


「昨日は魚だったから……今日はお肉にしようかな」


 帰り道スーパーに寄った。

 入り口には子供の手を引く母親の姿が目に入った。


 胸がズキっと痛む。


 店内に入ると試食でウィンナーでも焼いているのか芳ばしい香りが漂った。


 普段なら鼻腔を刺激して食欲をそそるはずのその香りが私に吐き気を催す。


 もうその場にいることが出来なかった。

 買い物など忘れてすぐ様自宅へと向う。


 自宅に着くなりトイレに向かって嘔吐した。

 昼はなにも食べていなかったから、胃液だけが込み上げてくる。口中が酸っぱい。胃の痙攣が治らない。

出せる物があるなら全て出してしまいたかった。


 けれど私から出るのは、飲み込んでいた空気と胃液ばかり……それと目からは涙が溢れて、嘔吐から嗚咽へと変わる。


「おめでとうございます。妊娠しています」


 今日、診察を受けた産婦人科でそう言われた。


 え…?


 その言葉を聞いて頭が真っ白になった。


「おめでとう」は私にとって1番の褒め言葉だった。


 けれど今回は違う。

 ……こんな「おめでとう」は初めてだった。


「誰の子なの?」


 大学に入学後、タガが外れた様に遊んだ。授業に出るのは週に一回あるかないか、ほとんど夜遊んで昼間は寝ていた。

 大学からは一人暮らしだった。高校の頃の私を見ていた両親は「美咲なら大丈夫」と、私を信頼して反対することはなかった。


「分かんない……分かんないよ! どうしたらいいか。なにがおめでとうだよ。勝手に決めつけんな!」

 私の叫びは誰にも届かない。


「私はあなたに心からおめでとうって言えるのかな?」


 私のその問いに対する答えはなかった。

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