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悪魔の証明

 男は小説を書いていた。

 小説といっても男の趣味で執筆しているもので、投稿サイトに時々アップしては読者からの感想を待つ。

 そういった遊びの一つだった。


 今日もせっせとペンを走らせる。

 男は下書きをペンと紙で行い、書き上げたものをパソコンに打ち込みそれを清書の作業とする。

 この一連の流れがルーティーンになっていた。

 最近では男が頭で考えるよりも早く、彼のキャラクターが勝手に動き出してくれる。

 今日も勝手に動くキャラクターをまとめるので精一杯だった。


 コンコン。


 男が執筆に追われていると玄関をノックする音が聞こえた。


「はい、どちら様で?」


 玄関を開けた男の前に、この世の物とは思えない生物がいた。

 全体的には猿のような奴だが、羊のような角が生え背中にはコウモリの羽がある。

 

 まるで悪魔のようだった。


「どうだ、俺は悪魔だ。」

 ……なるほど、悪魔らしい。


「悪魔が何の用で?」

 男は目の前の悪魔に驚くこともなく平然と返した。


「いやな、どうも今の時代悪魔召喚をする奴が居ないもんだから、こうして人間の家を回っているんだ」


「ほぅ、それはそれは、結構な事で。ですが、他を当たってはくれませんか?」

 男は至って冷静な対応だった。


 その対応に悪魔の方がたじろぐほどである。

「い……いや、俺は悪魔だぞ。これから説明するが願い事を叶えてやれるんだ」


「ふむ、なんとも魅力的な話ですが私には興味のないことです」


 悪魔は愕然とした。

 古の頃より悪魔は人々の願いを叶えてきた。

 当然見返りを要求したがそれでも人々は悪魔を呼ぶことを辞めなかった。

 それなのにどうだ、目の前の男は悩む事もなく悪魔である俺を追い返そうとしている。


「お前みたいな奴は初めてだ。それならこういうのはどうだ。本来なら3つお前の願いを聞いて死後、お前の魂をもらう。」

 悪魔はニッと男に歯を見せて笑い続ける。

「どうもお前は俺の力を分かっていないようだ。だから1つお前の願いを無償で叶えてやろう。」そう言った。


 すると男もニヤリと笑い「それは面白い」と呟いた。


「それじゃあ、願い事を言え」

 ちなみに願いを増やすことや、永遠に纏わる願いは認めないぞと釘を刺してきた。


「ふむ」と男は顎に手を当てて考えて言った。


「お前が悪魔であることを証明してくれ。」


「はぁ?」

 悪魔はポカンと口を開け目を丸くしている。


「お前が悪魔である事を証明してくれと言っている」


「だからそのために願い事を叶えるんじゃないか」

 悪魔は男の意図を読み取れず苛立ちをみせる。


「いいや、違うだろ。お前は自分の力を見せつけ様としていただけだ。私はお前が悪魔だなんてコレぽっちも信じていない。」


「な……俺の姿で分かるだろ。こんな生物が地球上にいるか?」


「いませんね。けれど、私は人を見た目で判断しない主義なんです。」


 それを聞いて悪魔は「よし分かった」と、右手から大量の金貨を出してみせた。


「どうだ、これだけ出せば俺が悪魔だと信じるか!」


「ふむ、手品を見せてくれたのですか。」

 どうやら男は大量の金貨を出しても悪魔と認めないらしい。


「それじゃあこれはどうだ。」

 今度は左手から蒼白い炎を出してみせた。


「ほう、これはまた凄い。熱くはないのですか?」


「この程度俺には屁でもない。それよりどうだ。俺が悪魔だと認めるか?」


「……いえ、残念ながら私は貴方を悪魔とは認められない。そもそも、貴方私の願いの意図を理解していませんね。」男は悪魔を見ながらなんとも悲しい表情をした。


「貴方が如何に人ならざる者の力で私を驚かせたところでそれは貴方が悪魔である証明にはなりません。」


「どうしてだ!」


「どうしてかって? 右手で金貨を出そうが左手で別のことをしようがそれは悪魔だけに限ったことではないでしょ?例えば神や天使も居るのなら、同じ事ができるのではないですか?」

 男は悪魔に同意を求める。


 それを聞いて悪魔は「確かに」と呟き、自分が悪魔であることに自信を持てなくなってきた。


「それじゃあ、俺は一体なんなんだ?」

 悪魔は自問自答しながら、素直な疑問を男に投げつけた。


「そうですね、貴方は私の想像の一部です。……だからほら」と、男が指をパチンと鳴らすと悪魔は消えた。


 男は自室に戻り小説の続きを書きながら言った。

「どうにも最近自分で作ったキャラクターが勝手に動き出すのだが、こうも外に出てこられるとたまったもんじゃない」


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