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新札

 とあるコンビニで働く俺は、今日も客の会計対応に追われていた。

「合計で2268円です」

 商品のスキャンを終え、俺は客にデジタル表示された代金を読み上げる。目の前の客は「はいはい、ちょっと待ってくださいね」と鞄から財布を取り出しいそいそと千円札3枚をカウンターへ置いた。


 俺はそれを受け取ろうと手を出したとき、客は「あらやだ、新札だったわ」と言って一枚を大切そうに財布へと戻して、今度は見慣れた野口英夫の書かれた千円札を置いた。これでカウンターにある千円札は野口英夫が3枚だ。


 俺は特に何か気のいたことを言うでもなく、3枚の野口英夫を受け取りレジに入れた。レジは自動精算を終え、お釣りが吐き出される。一緒にレシートが印字されるのでそれを切り取りお釣りと一緒に客へ渡し「ありがとうがいました。またどうぞお越し下さいませ」と挨拶をして次の会計作業を開始する。

 次の客もさっきの客と同じだった。なにが同じかというと、新札を大切そうに財布に戻したのだ。

 更に次の客はお釣りを返した際、お釣りに新札が一枚混ざっていた。それを見るなり「おっ、新札ラッキー」と呟き店を後にした。


 金は天下の回り物。その言葉の通り金は世の中をぐるぐる回っている。新札もぐるぐる回っている。きっと一ヶ月か二ヶ月もすれば皆の手元に新札が行き届いて新札のありがたみがなくなるだろう。

 寧ろ今大切にすべきはこれまで使ってきた旧紙幣の方だと俺は思う。今は新紙幣の方が少なくて希少性がある様に感じて新紙幣を取っておくなんて事をする人がいるが、半年もしたら野口英夫を始めとした旧紙幣がマイノリティとなり希少性が出てくるに違いない。会計の際には旧紙幣を出す事に躊躇う人が出てくるはずだ。

 あるウイスキーの話だ。それは金持ちの間で高値で取引されるという。どうにも味は美味しいとは言えないそうだ。元々そのウイスキーは3000円の定価だったのだが、蒸溜所の閉鎖を機に、そのウイスキーの終売が決まると瞬く間に価値が上がったのである。味は3000円のそれであるにも関わらず値段だけが分不相応に釣り上がっていく。要は希少性が付いたのだ。人は手に入らないものを欲する習性がある。売れない画家の絵が死後評価されるなんてのと同じだ。

 人の趣味にケチをつけるつまりはないが元々の値段を逸脱し元は飲料として売られた物を飲むのではなく飾る為に買い上げるというのは、ナンセンスに感じた。

 

 俺は定時を迎え私服に着替え店の外に出る。

 今日は給料日だったので、たまの贅沢に外で呑んで帰ろうかと財布の中身を確認する。俺の財布の中にも新札が何枚か入っている。この調子だと新紙幣が旧紙幣に取って代わるのもすぐそこだろう。俺は特別新札に希少性を見出したりしない。旧紙幣に対してもだ。金は金だ。ただ、旧紙幣に見慣れているだけに新しい紙幣に対してはまだ見慣れないなという違和感はあった。

 俺は酒を飲みに煌びやかな街中へと足を進める。街の中心に行くに従って肌の色が違う人、話す言語が違う人とすれ違う。それを見て俺は「……こっちも増えたな」と小さな声で呟いた。

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