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FAKE SMILE

人生はじめてのデートを貴方は覚えていますか?

「はい、10本ですのでおまとめで千円になります。」


 それを聞いて、俺は財布からしわくちゃになった千円札を取り出し、店員に渡して商品を受け取った。


 明日はデートだ。

 ……それも初めてのデート。

 26歳独身。

 これまでの人生において女性と付き合ったことはなく、まともに女性と話した覚えもない。それが高木彰人こと俺なのだ。


 けれど、さっきも言った通り明日はデート。

 俺は入念に下調べをしていた。

 待ち合わせの場所、ランチをする場所、観光する場所……完璧だ。これまで俺は数多の恋愛作品を見てきた。

 だからきっと大丈夫。


 そう意気込んでデート当日が始まった。


「おまたせ!高木君!」

 水下麻耶は眩しい程の笑顔を浮かべながら俺に手を振ってきた。

 周囲にいる人はきっと目を疑うだろう。

 水下麻耶の容姿はモデル顔負け。

 それに彼女はミニスカートを履きその美脚を露わにしていた。

 対して俺の容姿は決して良いとは言えない。

 そんな俺に彼女は笑顔で手を振ってくるのだ。

 周囲の人々は何かの間違いだろと首を傾げていた。


「あ、ど、どうも。」

 俺は彼女の眩しい笑いに引き攣ってしまう。

 いや、女性とまともに話した事が無いんだ。

 これだけちゃんと答えられれば良しとしよう。


「それじゃあ、行こっか!」

 水下麻耶はそう言って俺の手を引いた。

「今日ね、高木君のためにミニスカートにしたんだよ!あ、高木君じゃよそよそしいからアキトくんって呼ぶね!」


 完全に彼女のペースに飲まれてしまった。


「あ、あ、あ……」

 俺とした事が情けない。

 緊張のあまり言葉が出ない。

 ただ、口をはぷはぷさせながら単語、単語を口に出すのが精一杯だった。


「なになに…今日の、デートのために、お店を、予約した。」

 水下麻耶は俺が発する言葉を一つ一つ訳してくれた。

 そしてその意味を理解すると「ホントに!」と喜びの表情を浮かべ、口元に手を当てて「高木君は頼りになるな〜」と一言。


「おぉぉふぅ。」

 彼女の嬉しそうな笑顔を見ると俺もつられてにやけてしまう。


 スマホを頼りに予約した店に入った。

 普段お洒落な店に入らない俺は、席に着いてもそわそわしてしまう。

 なんとか、店員にメニューを注文し2人だけの時間が流れる。


 俺はこの時のためにいくつも会話をスムーズに進めるネタを用意していた。

 俺は一呼吸置いて口を開く。


「あう…あうあう。」


「え……あっそうだね。今日は晴れてよかったね。」


「あうあうあう。」


「うん。私はあんまりアニメは見ないかな。」


「……あうあうあう。」


「休日か〜。休みの日は大体寝てる。フフフ。」


 よしよし、順調に会話も進んでちょうど良いところで料理が運ばれてきた。

 ここは見せ所だ。

 俺はネットでしっかりとチェックしている。女性は沢山食べる男性が好きだとどのサイトにも書いていた。


 俺は運ばれてきたパスタを豪快に啜り大食いなのをアピールする。やはりネットに書いてあった通りだ。水下麻耶に限らず店内の誰もが俺に注目している。そのままズルズルとパスタを口に入れあっという間に食べ終えた。


「あうあうあう」

 先に食べ終えた俺に気にせずゆっくり食べてね。これを言えるか言えないかで、女性への印象は大きく変わる。これもネットで得た知識だ。


「う、うん。ゆっくり食べるね。……それよりアキトくんすごいお腹空いてたんだね。」

 水下麻耶は、俺の食べっぷりに驚いている。狙い通りだ。


 それからおよそ20分後、彼女もパスタを食べ終え俺は支払いをした。支払いをするのは俺の義務だ。


「美味しかった! ありがとう!」

 彼女の笑顔は何度見ても飽きない。


「あうあうあぅ」

 昼も食べたし、今度は事前に調べておいた水族館に行こう。俺がそう切り出した所で…


 ピピピ、ピピピ、ピピピピ


 彼女のバックから突然電子音が鳴った。

 水下麻耶はそれを慌てて取り出す。


「はい。契約の3時間です。」

 そう言って彼女は電子タイマーの音と、さっきまで浮かべていた笑顔を消した。


「あうあうあう」


「え、水族館に行きたい? お客様ここからは延長になりますがよろしいでしょうか?」


「……あうあうあう」


「延長料金を持ってきていないのでしたら、ここまでになります。」

 そう言って水下麻耶はまたバックから何かを取り出す。


「えー、基本の3時間コースにオプションでミニスカートですので合計で1万8,000円ですね。」どうやら、彼女が取り出したのはこれまでの契約料金が書かれた書類だった。


 俺は財布を取り出しちょうど1万8000円を彼女に渡した。


「…あうあうあうぅ」


「はい、この度はレンタル彼女She You Againをご利用頂き有難うございました。またのご利用お待ちしております!」

 そう言って彼女は飛びっきりの笑顔を見せて俺の元を去っていった。


 俺はほんの一時でも、デートが出来たことに満足した。本当はもっと他のこともしたかった。

 その為にいくつもプランを練っていた。

 けれど、いかんせん金が無く彼女をレンタルできる時間は限られていた。

 初めて会った人だったけれど、俺は本気で彼女に恋してしまったようだ。

 きっとこれは、同じ時間を過ごした水下麻耶もそう思ってるに違いない。

 だから今度もまた彼女をリピートしよう。

 そして今度はしっかり告白までするんだ。

 俺はそう心の中で強く思った。


 高木彰人は家に帰り昨日借りたDVDを適当にプレイヤーに入れて映画を流す。恋愛映画だ。今度また彼女をレンタルした際にスムーズにエスコート出来るように予習しておく。

 10本も借りた恋愛映画に出てくるヒロインは、誰もが今日見た水下麻耶と同じ笑顔を浮かべスクリーンいっぱいに愛想を振りまいていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] She You Again このネイミング「うまいなぁ〜」と唸ってしまいました!
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