8、初めての作成
アンブロシアの檻、地下一階。
意気揚々とそこへ繰りだした俺は、うっかりあることを失念していた。
「しまった……松明が無い」
地下は暗い。目が闇に慣れればある程度は見えるようになるとはいえ、歩くのも大変だ。
いつもは地下に来てから必死で松明を探しているのだが、しかし今回は違う。
女神アルティナと絆を結び、俺はマナで武器を作成する能力を手に入れたのだ。
松明は武器ではないが、その能力できっと作り出せるはず。
「でもどうやって作るんだ?」
そういえば、見本を見せて貰ったけど肝心の作り方を教えてもらってなかった。
やばい……暗い……怖い……スケルトンに襲われたらどうしよう。
暗闇の中で頭を抱えそうになった時、頭の中で聞き覚えのある声が聞こえた。
『リック様、聞こえますか?』
それは、スキルを手に入れた時に聞こえるサインではなかった。確かに女神アルティナの声だ。
「あ、アルティナ? まさか追ってきたのか?」
慌てて周囲を見回すが、暗くて何も見えない。
『いえ、違います。これも絆を結んだ際に得られる能力でして……私とリック様の絆により、遠く離れていてもこうして会話ができるようになったのです』
「おお……マジかよ」
女神ってこんな事までできるのか。確かによく女神から託宣があったと聞くが、それもこの力によるものなのだろう。
女神って凄いな。
『ちなみに、この会話は脳内で考えるだけで意思が伝わりますので、声を出す必要はありませんよ』
「なるほど……でも実際声を出さないと変な感じだから、しばらくはこうしておくよ」
『はい、リック様のお好きな方で構いません。モンスターと戦っていて余裕が無い時は脳内で話しかけて下さい』
「わかった。あ、そうだ、アルティナに聞きたいことがあるんだ」
『なんでしょうか?』
この機会に作成のやり方を聞いておこう。
「今松明を作ろうとしてるんだけど、作成の能力の使い方を教えてくれないか?」
『……そ、そういえば、見本は見せましたが具体的なやり方を説明していませんでした。申し訳ありません』
声だけで顔は見えないのに、アルティナが恥ずかしそうに俯いているのがわかった。
『こちらはそんなに難しいものではなく、頭の中で作りたい物をイメージしながらマナを放出すれば大丈夫です』
「なるほど……じゃあ結構どんな物でも作りだせるのか?」
『いえ、こちらは一度でも入手した物でなければ不可能です。手順は簡単ですが、具体的には記憶の中を探り出し、『過去の存在』をこちらに呼び出すような感じなので……』
「なるほど、わからん」
なんか作成とは言うが、実際は過去の記憶からその存在を具現化してるということなのだろうか。
『とにかく、一度でも入手した武器や道具であれば作り出せるという認識で問題ありませんよ』
「わかった。早速やってみるよ」
俺は教えられたとおり、脳内に松明のイメージ像を作り上げる。
松明……松明……棒状で、先っぽに油に濡れた布を何重にも巻きつけている形だ……。
よし、イメージできた。
あとは、手から魔力を放出すればいい。
……どうやってやるんだ? とにかく、マナクリスタルの中に入っている紫色の炎を手から飛ばすようなイメージをした。
すると、手の平の先からぽわっと炎が浮かび上がり、それがじわじわ物体を形作っていく。
炎が松明の形を描いた次の瞬間、急に光り輝き、そこには本物の松明が現れていた。
本当にできた……。
自分で作ったというのに呆気にとられて見ていると、空中に静止していた松明は糸が切れたように落下した。
『無事作成できたようですね。初めての作成、お見事でしたよ』
アルティナに褒められ、ちょっと照れてしまう。
「……ん? もしかして声だけじゃなくて俺の事も見えてるのか?」
そうでなければ松明を作れたのが分からないはずだ。
『はい、リック様の背後から俯瞰しているような視点で見ることができます。もっともこれは私が女神だからなので、リック様の方が私の状況を映像で確認する事はできませんが』
「そうなのか。ってことは、地下探索の際はアルティナからも色々アドバイスできるんだな」
『はい。差し出がましいですが、できるだけリック様の動向を確認してサポートしたいと思います。もっとも、リック様の気が散らないよう、不用意には喋りかけないようにします』
俺はなんだかほっと息を吐いた。
この薄暗い中での地下探索。モンスターもうろついていて、いつ死の危険に合うか分からない。
そんな状況で、女神が俺の事を見ていてくれてる。それはかなり救いに思えた。
よく俺の村の人々も教会で女神に向けて見守ってくださいとお祈りしていたが、その気持ちがよく分かった。
落ちた松明を手にし、壁にぶつけて炎をつける。
よし、松明も剣もある。そして女神アルティナも見守ってくれてる。
地下一階を探索する準備は完璧だ。俺は意を決して次の部屋に続くドアを開けた。
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