7、レベルの解放
俺はゆっくりとアルティナの唇から離れた。
アルティナはキスを終え、一度俺の目を見つめてから、恥ずかしそうに俯く。
なんだか、すごく妙な雰囲気だ。気恥ずかしくて全身がこそばゆい。
その空気を変えるべく、俺は口を開いた。
「な、なんかさ、頭の中で声がしたんだけど」
「あ、ああ、それはスキルを授与した時に流れるサインです」
アルティナもわざとらしく咳払いをし、ちょっと流れていた甘ったるい空気を払拭する。
「もう分かっていると思いますが、今回あなたに授けたスキルはレベルの解放です」
「レベルの解放っていうのは、どういうスキルなんだ?」
「このスキルは、モンスターを倒すことで経験値を得られるようになり、それが一定量溜まることでレベルが上がるのです」
「レベルが上がるとどうなる?」
「簡単に言うと、強くなれます。あなたの筋力や素早さなど、生来持つステータスに補正がかかり、強化されるのです」
「おお!」
なんだか凄そうなスキルだ。
「このスキルは、かの四英雄も最初に取得した、由緒正しき王道のスキルなのです。このスキルがあれば、スケルトン三体程度きっと倒せることでしょう」
すげえ。まだそのレベルとやらの効果を実感してないが、伝説上の英雄にも授けられたスキルが俺に与えられたんだ。
なんだかすでにスケルトン程度楽に倒せる気がしてきた。いや、本当に気のせいなんだろうけど。
「それと……私との間に絆ができたことで、いくつかの能力が解放されているはずです」
能力? ……今の所自覚はない。
「例えばどういうのだ?」
「そうですね。まずはマナの吸収能力です。これまでリック様は、モンスターが落とすマナクリスタルを集めて茨に囚われる私に捧げていませんでしたか?」
「ああ、そうそう。あれ、結構大きいからポケットがパンパンになるんだよな」
「これからは、周囲のマナクリスタルから勝手にマナを吸収できるので、拾い集める必要はありません。リック様に吸収されたマナは私と共通ですので、受け渡す手間も省けますね」
「へえー、便利」
「その他にも、マナを使って武器を作成することが可能になっているはずです。見本を見せましょう」
アルティナは、手の平を空中に向けた。するとその手から紫色の魔力が放出され、何かを形作っている。
やがて出来上がったのは、地下で何度も手にした事があるロングソードだった。
「どうぞ」
アルティナに渡され、剣を抜いてみる。
重さも握り心地も、ロングソードそのままだった。おそらくは切れ味もそうだろう。
「すごいな。これ俺でもできるの?」
「ええ。しかし現状、魔法効果がついてるような強い武器は作成できません。より強い武器を作成するには、対応したスキルが必要となります。それに作成にはマナが必要なので、不用意に使うとマナが枯渇し、スキルの授与を行えなくなりますので気を付けてください」
とにかく、適当にマナを使うと後で後悔すると言いたいらしい。
「ですがロングソード程度でしたら、スケルトン一体程度のマナで十個は作成できますよ。素手で地下迷宮に潜るくらいなら、ロングソード程度なら作っておいた方がいいでしょうね」
「確かに。地下は武器が落ちているかもランダムだからな」
「それと、マナによる防御結界もオートで発動しているはずです」
「防御結界?」
「ええ、ある程度の攻撃なら、体表を覆う防御結界でいくらか軽減できるはずです。スケルトンの攻撃で一撃死することはないでしょう。もっとも、この防御結界はマナを使っているので、受けるダメージ量が多ければ多いほど消費するマナも多いという事は留意しておいてください」
聞けば聞くほど、マナがとにかく大事だと分かる。
とにかくモンスターを倒してマナを集めるんだ。そしてそれを使ってスキルを手に入れ、もっと強くなって地下深くへ行く。
そしたらもっと強いモンスターと戦えて、得られるマナも増えていく。そして更に強くなり、地下の呪いの元をいつかは断てる。
よし、やるぞ。俺は気合を入れ、地下への階段へ進んだ。
階段を降りる前に、ふと気になってアルティナに尋ねる。
「ちなみに今のマナってどれくらいあるんだ?」
「1です」
少なっ!
「……スケルトンから得られるマナは?」
「2です」
やっぱり少なっ!
「ちなみに、魔王レイドルグを倒したかつての四英雄の一人が持っていた聖剣グランウェルは、振るうだけでマナを五千は消費していましたよ」
え、マジですか……。
その程度のマナの消費が余裕ぐらいにならないと魔王とは戦えないって事か。
そしてここはその魔王が死に際に残した呪いの産物で。
……先は長そうだ。とにかく、まずはスケルトン三体を倒すところから始めよう。
俺はこの迷宮に囚われる日々が長くなるのだろうと予感しつつも、いつか絶対に攻略するという決意を秘めながら地下へと進んだ。
これから俺の本格的なダンジョン攻略が始まる。