6、女神との絆
今、女神アルティナは何と言ったのか。
確かにこの耳ではっきりと聞いた。
力を授けるには……キスをしてもらう必要があると。
「な……ど、どういうこと?」
混乱した俺は必死で声を振り絞った。
何度もスケルトンに殺されて殺伐としていたのに、急にそんな色恋沙汰になると、頭が切り替わらない。
こんな美しい女神とキスするくらい俺からしたら嬉しいだけであって断る理由もないのだが。
正直急すぎて意味を求めてしまう。
女神アルティナは相変わらず頬を染めたまま、こほんと咳払いをした。
「いいですか? まず、私が力を……その力のことをスキルと呼ぶのですが、そのスキルを授けるには、条件があるのです。その一つがマナ。これは本来私自身が持っているマナで十分なのですが、今の私は封印によってマナが枯渇している状態なので、あなたがモンスターを倒して集めてくれなければいけません」
「……で、二つ目がキスなのか?」
「せ、正確には、女神である私との絆です」
「絆?」
「ええ、本来は私が認めた人間であれば、それでスキルを授けることができました。しかし今の私は力が弱っているため、ただ認めただけではスキルを与えられないのです」
「……で、ここでキスが出てくるのか?」
「そ、そうです。キスをすることで……その、あなたと私の肉体と魂に繋がりを作り、その繋がりを深めることで絆となるのです」
「……なるほど」
いや、何がなるほどなのかは分からないけども。
とりあえず、俺の理解力で分かったのはこうだ。
女神からスキルを授かるには、女神とキスができる仲にならなければいけない。
……うん。俺からしたら断わる理由は全くない。
問題があるとすれば、それはアルティナの方だが……。
ちら、と彼女を見つめると、照れたように唇を押さえた。
めっちゃ意識してるじゃん。
「あの……確かに俺はここから出たいけどさ、その、弱みに付け込んで女神様とキスするってのも罰当たりな気がするし、無理ならいいよ。なんとか地力で強くなって、地下深くまで行けるようになってみるさ。どうせ何度も死ねる身だからな」
ははっ、と笑いながらわざと明るく言うと、アルティナは感銘を受けたかのように息を飲んでいた。
「……いえ、キスをしましょう」
アルティナは決意したように言いきった。
「い、いいんですか?」
まさかのキス承諾に、俺は思わず敬語になる。
「ええ……今、あなたの汚れなき魂を感じました。封印されし我が身を解き放ってくれたのが、あなたのような素晴らしい人の子で私は嬉しいです。なればこそ、私はあなたに力を与えたい。無駄に死の痛みを感じないように、強くなってほしいのです」
するっとアルティナが俺の胸元まで近寄って来た。
それだけで、ふわっと良い匂いが漂ってくる。
艶やかな髪に、きめ細かい白い肌。瞳は大きく、すっきりとした美しい目鼻立ち。
まさに女神。絶世の美女が、俺の目を見つめる。
「キスをする前に一つよろしいですか?」
「ああ、どうぞ」
「あなたのお名前をお教えください」
そういえば、俺はまだアルティナに名乗ってなかったのか。
「リックだ」
「リック……では、リック様と呼ばせてください」
女神に様をつけられるのは何だかむず痒かったが、そうしたいというのなら断る理由は無い。
アルティナは、そのまま何も言わずに目を閉じた。わずかに顎を上げる。
キスをしろ、ということなのだろう。まさか女神からするわけにはいかないから、俺の動きを待っているんだ。
……これ、すごい恥ずかしいな。
アルティナもそうなのか、目をつぶりながらも体がふるふると震えていた。
俺も男だ。覚悟を決めよう。
アルティナの細い肩を掴み、唇を近づける。
俺の唇に、柔らかい感触が走った。
その瞬間、俺達の周囲が光に包まれる。
そして、脳内でアルティナのに似た声が響いた。
『スキル、レベルの解放が授与されました』
今更ですが、以前ダークソウル3にハマってたのもあり、ソウル系とローグライク系なイメージのダンジョン物です。