2、スケルトン
地下階段を下った先は、先ほどの聖堂ほどではないがまた広い空間だった。
しかし暗くて全体が把握できない。まず明かりになる物を探さないと……。
すると、歩きだした足元にカツンと何かが当たる。
「なんだ?」
拾ってみると、それは棒だった。しかし棒の先に布が巻かれていて、ベトベトしている。
まさか……と思って、近くの壁に思いっきり擦りつけてみる。
すると、ぼうっと棒の先が燃え上がった。
松明だ。こんな物が偶然落ちているなんて運が良い。
一気に周囲が明るくなり、俺はほっと息を落ち着ける。火で安心感を抱くのは、人間特有かもしれない。
この松明があれば、さっきの茨を焼いて女性を助けられるんじゃないか?
そう思った俺は階段を登ろうとして、とんでもない事に気づいた。
「か、階段がない!?」
さっき俺が降りてきた階段は、跡形もなく消え去っていたのだ。一方通行の階段なんて聞いたこともない。
やはりここはかなり妙な場所だ。とても常識なんて通じそうにない。
こうなったらもう、先へ進むしかなかった。
周囲を照らすと、いくつかのドアが設置されていた。初めてここに来た時と同じ光景だ。
とすると、ドアを開けた先には……ドキドキしながら俺はドアを開け、先の部屋に踏み込んだ。
部屋の中にはやはりスケルトンがいた。
まだ後ろを向いているが、俺が入って来た気配と明かりに気づいたのだろう、すぐ振り向いて剣を構える。
「う、うわっ、うわわっ!」
俺は慌てて引き返した。こっちはただの村人で武器も持ってない。松明はあるがこんなのでスケルトンを倒せるはずがないんだ。
スケルトンは俺の後を追ってくる。骨だけの癖に意外と軽やかに走るのが納得いかなかった。
このままだと追いつかれる。とにかく適当にドアを開けて先へ進み、スケルトンの追跡から逃げ続ける。
だがそれもどうやら終わりのようだ。俺が踏み込んだ部屋には次の部屋に続くドアがなかった。つまり行き止まりだ。
そして背後にはスケルトンが追ってくる。もう逃げ場はない。
「う、うおぉっ!」
スケルトンが背後から攻撃してきた気配を感じ、俺は松明を手放してとっさに前方へ転がる。
一撃は避けられたが、もう無理だ。このまま壁に追い詰められて、殺されてしまう。
死を覚悟したとたん、震えが一気にきた。足だけでなく手まで震え、嗚咽が湧き出る。
「く、来るなっ!」
もはや怯えのせいで尻もちまでついてしまった俺は、尻に当たる硬い感触に気づいた。
なんだこれは……。
手に取ってみると、それは剣だった。何の変哲もないロングソード。
こんな迷宮に落ちている剣だ。きっと錆びているに違いない。
でも、俺はこれに賭けるしかなかった。このまま殺されるのだけはごめんだ。
震える体を叱咤して、立ち上がる。鞘から剣を抜き払い、一気に斬りかかった。
スケルトンも合わせて剣を振るうが、一瞬、俺の方が早かった。
スケルトンの肩甲骨からあばら骨までに深々と剣を斬り下ろし、斜めに両断する。
それで、スケルトンの動きは止まった。
「はぁ、はぁ……意外と弱かった……」
モンスターと戦うのはこれが初めてだ。村の周りは平和で、時折出てくるモンスターも角が生えたウサギなどの好戦的ではない部類なので、放っておくとどこかへ消える。
だからスケルトンのような好戦的なモンスターと戦うのは初めてだ。
そして戦ってみてわかったが、それほど強くはない。焦らずに戦えば、ただの村人の俺でもどうにかなりそうだ。
ふぅ、と息を吐いて初戦闘でドキドキする鼓動を落ち着けていると、両断したスケルトンの死体が黒い煙を出して消えていった。
そして後に残ったのは、紫色のクリスタル。
「なんでこんな物をモンスターが落とすんだ?」
クリスタルを拾い上げて眺めてみる。
透明な水晶の中に、紫色の炎のような物が閉じ込められていた。
これが何の役に立つかはわからないが、とにかくポケットにしまいこんでおく。
「よし、先に進もう」
俺は放り投げた松明を拾い上げ、右手にロングソード、左手に松明をかかげ、ドアの先に進んだ。
もうスケルトン程度が現れても怖くない。初勝利で大胆になった俺は、どんどん先へと進んでいく。
いくつかの部屋を抜けると、大きなドアを発見した。それまでのドアと違って赤い色をしていて、明らかに普通ではない。
この先に行けば、現状がもっと理解できるのだろうか?
そんな期待を胸にドアを開けて部屋の中に踏み入れると、そこには……。
「ギ、ギ……」
「ギギ……」
「ギィ…」
スケルトンが三体も居た。
「お、おいおい……」
確かにスケルトンは弱い。俺でも勝てる。
でも、だからって三体同時は……。
俺が驚きにすくんでいると、スケルトン三体が一気に襲ってきた。
前方と左右から一気に剣が振り落とされる。
「う、うおぉおっ!」
俺は叫んで前方のスケルトンに剣を斬り下ろしたが、それで倒せるのは一人だけ。
あっさりと左右から斬られ、焦熱感と共に激痛がはしった。
ああ……死んだ。
前にも味わった死の感覚。でも、これでもう目覚めないでいいのかと思うと、どこか安らかな気分にもなれた。