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1、クラヤミ

 目を覚ますと、そこは暗闇だった。


 深い眠りに陥っていたのか、頭がズキズキと痛む。心なしか体の節々も痛く、立ち上がるのが難儀だった。

 なんとか立ち上がって、頭を振ってはっきりしない思考をクリアにする。


 ここは……どこだ?


 相変わらず視界は暗いが、段々目が慣れてきた。


 どうやらここは、石造りの広々とした空間らしい。所々に台座が置かれていて、まるで聖堂のようだ。


 だが広々としているのに妙に感じる圧迫感。なんだか閉じ込められているような感覚に陥る。


 もしかしたらここは地上では無く地下なのかもしれない。圧迫感があるのは、地上と比べて空気が淀んでいるからだろう。


 ……なぜ俺はこんな所に居るんだ?


 落ちついてきたら、そんな疑問が生まれた。


 ここで目が覚めたということは、俺はここで寝ていたらしい。だが、こんな妙な場所で眠りこけるほど危機感を失ってはいないはずだ。

 こんな、今にもモンスターが出てきそうな場所、そもそも入り込んだりもしないはず。


 思い出せ。いったい俺に何があった?

 そうやって記憶をたどろうとしていると、大事なことを忘れているのに気付いた。


「……そもそも俺は誰なんだ?」


 まずそこを失念していた。俺は……俺の名前はなんだ?


 思い出そうとすると、ズキっと頭が痛み、目がくらむ。くらんだ視界に、妙な光景が浮かんだ。

 急にモンスターが現れ、俺の心臓を貫く。そんな光景。


「……!」


 そこで俺は一気に記憶を取り戻した。


 俺の名はリックだ。アルテナという小さな村に住む、ただの村人。


 その日、俺は村近くの平原で薬草を摘んでたんだ。隣の爺さんが腰を悪くしているから、気を利かして定期的に腰に効く薬草を摘んでやってたんだ。

 そこで、俺は普段とは違う物を発見した。


 階段だった。青草が茂る平原で、石造りの奇妙な階段がぽつんとあった。

 そんなものは昨日までは存在しなかったはずだ。俺は好奇心にかられ、その階段を降りてしまった。


 階段の先は、広い部屋に繋がっていた。ドアがいくつもあり、その中の一つを開けて中に入ってみた。

 するとそこには、剣を持った骸骨がいた。スケルトンというモンスターだ。


 そいつは俺に気づくとすぐに剣を振り上げて……そして、俺は……。


「俺は……死んだんだ」


 記憶を思い出した俺は、驚愕の事実に愕然とした。


 そうだ、俺は死んだ。ならここは、死後の世界か?

 天国……なわけないか。とすると地獄か。暗い石造りの聖堂は、確かに地獄っぽいかも。


 だが死後の世界なんてあるのかわからないが、あったとしてこんなに意識がはっきりしているものだろうか?


 ……わからない。はっきりしているのは、俺は確かに死んだことだ。


 だけどなぜかここで目覚めた。ここは俺がスケルトンに殺された場所に似ているが、違う場所だ。

 ここは何だろう。いや、俺が足を踏み入れたあの迷宮そのものが何だったのか。


 ……とにかく、今自分が生きているにせよ死んでいるにせよ、このまま何もしないという選択肢はない。


 まずは辺りを探索してみよう。

 とりあえず壁に当たるまでまっすぐ進んでみる。


 やはり広々とした部屋らしく、暗闇だから恐る恐る進んでいたことを加味しても、何十歩もかかっていた。

 壁にぶつかったら、今度は右手を壁に当て、そのままぐるりと一周する。これで全体が把握できるはずだ。


 そうして進んでいると、何度か角をまがった。一回、二回、三回。ここが四角形の部屋なら、そろそろ元の場所に戻るはずだ。


 だが、その前に俺の視界にそれが現れた。


 それは、茨だった。こんな殺風景な場所に、突如植物が生えている。しかもしれは大きな棘を蓄えた茨だ。

 何より奇妙だったのは、その茨は女性を包み込んでいたのだ。


 人だ。人間がいる。まさかこんな場所で誰かに出くわすなんて。


 茨に囚われるように包まれた女性は、息を飲むほどの美人だった。薄く白いドレスに身を包み、綺麗な首飾りをしている。もしかしたら貴族、あるいは王族なのかもしれない。それほど高貴な存在に見えた。


 そんな女性がここで茨に包まれているのはかなり異常な事態なのだが、それよりも先に俺は会話がしたかった。

 こんな暗い空間で一人ぼっちというのは結構精神的にくるものがある。どうにかして彼女が目を覚ましてくれないものか。


「お、おい、あんた、起きてくれ!」


 ダメ元で声をかけると、女性の瞳が薄ら開いた。


「なあ、あんた、ここはいったいどこなんだ!? なんであんたはそんな風になっている!? さっきからわからないことだらけなんだ!?」


 必死でそう叫ぶも、彼女から答えは帰ってこない。

 ただ、その瑞々しい唇を動かして。


「マナを……」


 そう呟いて、彼女は目を閉じてしまった。


 ……そう、だよな。ここで彼女が目を覚まして、実は彼女はここが何なのかを知っていて、全てを話してくれる……なんてうまくいくはずがない。


 俺だって分かっている。これは、あまりにもおかしい。

 死んだはずなのに生きている俺。目覚めたら謎の地下聖堂。そして茨に囚われる美女。

 なにか……なにか、とんでもないことが起きている。


 それを受け入れてしまうと、俺の心は壊れてしまう。ただの村人の俺に、こんな緊急事態は手に余るのだ。


「……すぅー……はぁー……」


 ひとまず深呼吸して気分を落ち着ける。


 今ごちゃごちゃと考えるのはやめよう。まずは、現状を把握することに努めるんだ。

 そうすれば、何か光明が見えてくるかもしれない。


 それにしても、この茨の美女は変なことを言っていた。

 マナを……とはどういう意味なんだろう。


 彼女のことを興味深げに見ていると、その隣に階段があることに気づいた。地面にも茨が張っていて大分気づきにくい。


「地下への階段……」


 このままここに居ても、どうしようもない。ならいっそのこと階段を降りてみるか?

 しかしここ自体が地下だろうに、更に地下に降りてどうなるんだろうか。


「……いったん降りて周りを見て、また戻ってくればいいか」


 そう判断した俺は、恐る恐る地下階段を下るのだった。

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