2)可哀そうだが、わからないお前もどうかしている
アレキサンダー視点です
そろそろ休憩か。アレキサンダーが羽ペンを置き、背を伸ばした。ロバートも机の上の書類を片付け始めていた。ロバートは休憩の時に、ローズを連れて庭で軽食を食べている。面倒見がよいロバートにローズの世話を命じたのはアレキサンダーだが、可愛がりすぎだと思う。
それを口にしたこともあるが、ロバートは取り合おうとせず、エドガーに大人の嫉妬はみっともないと言われた。
「ねぇ、ロバート、テレンテ・クダってなに」
ローズの言葉にロバートが首を捻っていた。アレキサンダーは内心呆れた。なぜわからないと思うが、それがロバートなのだ。
「手練手管だろう」
アレキサンダーは仕方なく、ロバートに助け舟を出してやった。ようやく理解したロバートの顔が微かにしかめられた。それはそうだろう。ロバートはローズをまるで、王家の姫であるかのように、大切に大切に育てているのだ。代々、王族を育ててきた一族だから、当然と言えば当然ではある。
近習達は全員、仕事の手をとめ、耳を澄ませている。
「女性が男性の関心を引くために、いろいろ手をつくすこととでもいえば、わかりますか」
ロバートの言葉に、ローズがなるほどというかのように頷いた。
「そう。そう言うことなら知ってるわ。やったことあるもの。娼館の綺麗どころのお姉さんたちとね、一緒に考えたの」
ローズの無邪気な言葉に、全員の視線がロバートにそそがれた。凍り付いたようになっているロバートがいた。
可哀そうに。
というのがアレキサンダーの正直な思いだった。おそらく、ローズは何かを勘違いしている。ロバートは、ローズの言葉を額面通り受け取ったのだろう。アレキサンダーだけでなく、近習達もそろって憐れむような視線を向けているが、ロバートには気づく余裕もないらしい。
「お姉さんたちね、お客さんが通ってくれた方がいいでしょう。だから、一計を案じて、お手紙を書くことにしたの」
何も気づいていないローズの言葉に、ようやくロバートの硬直が解けた。
一度書類に目を通したロバートは、軽食の頃合いであることを思い出したらしい。ローズの手を引いて、部屋をでていった。ロバートの背が異様に疲れていたのは気のせいではないだろう。
部屋の扉が閉まって、十分経ったころだった。
「テレンテ・クダか」
ローズを真似たアレキサンダーの言葉に、部屋のそこかしこから笑いがこぼれた。
「ロバートがあそこまで振り回されているのを見ると、可哀そうになってまいります」
エリックがため息をついた。
「勘違いしたまま、ロバートをあれだけ振り回すんだから、ローズもなかなかやりますね」
エドガーは、妙なところに感心していた。
「確かにな」
ロバートにあれほどの衝撃を与えられるのはローズくらいのものだろう。
「無自覚であれだけロバートを振り回せるのは、ローズだけだろうな」
アレキサンダーの言葉に、頷くものは多かった。
副題「乳兄弟のロバートに、(一応は)同情しているアレキサンダー」
本日、10時頃、更新予定です