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1571年-1

誤字報告ありがとうございます。

1571年の松の内が終わった頃であった。

正月の来客対応に、尾張国の清須城で仕事をしていた小一郎は仕事が落ち着いた頃を見計らい、殿に提案をする。


「殿、ご提案があります」


正月に一発目(こいちろうのむちゃぶり)を予想していなかった殿は驚き、急いで小一郎(こちら)を見て何かを感じ取ったのか、体温が下がるのを覚えたのである。

また小一郎の回りから寒さを感じた小姓は顔を蒼白にしているのであった。


「小一郎、いきなりでは小姓衆(こやつら)がもたぬぞ」


そう言って小姓を下がらせた後、小一郎は再び殿に語り掛ける。


「殿、ご提案があります」


そう言ってしずかに首を垂れる...

"うむ"と殿の返事を待ってから、言葉を紡ぎ始めた。


「殿、越前国を併呑いたしますか?

 それとも、このまま朝倉様に任せますか?


そのお考え次第で、作戦を立案いたします!」


「小一郎、話が見えぬ最初から全て話せ!」


「はっ、では....」


殿の言葉で、小一郎は語りだした。

内容はこうである。この度の朝倉様の裏切りで朝倉家本家は断絶!そして本家に変わり朝倉景鏡様が跡に座った事に不満を募らせている家臣が多数いて、反乱のチャンスを伺っている情報を掴んだのだ。またそれとは別に加賀国の一向一揆勢の中でも、穏健派と強硬派に分かれて一向一揆内で権力争いが起こっていると報告があったと殿に報告をしたのだ。

因みに、史実での朝倉景鏡様達の討ち死にを知っている小一郎は、百地様達を越前国に藤林様達を加賀国に派遣して情報収集に当たって貰っての成果である。また服部様達には西国の情報収集に当たって貰っています!


予想外の報告に、腕を組み眉間にシワを作り唸ってしまう殿!

小一郎も朝倉様にそこまでの指導力が無かったのか?とも考えたが、元々旧朝倉家では、景鏡派と旧景紀派の惨い諍いはあったのである。そして旧景紀派に不満がたまるのは必然と言えよう。その上、中立派もこの度の事には良い印象を持っていない為に、もしもの時には戦力になるか判らないのである。


「...小一郎はどの様な手を打つのだ」


「はっ、......火種を無理やり思いっ切り大きくして、爆発させその日の内に鎮火したいと考えています。それで反景鏡派と一向一揆(強硬派)を殲滅いたします。


その後に織田家が直接治めるか、朝倉家に治めさすかぐらいの違いでございます」


言葉では語っていないが、小一郎はえぐい事を語っている。それは朝倉様に援軍を送るか?それとも敵討ちで軍を上げるかと遠回しに言っているようなものであった。

史実通りに反乱が起これば朝倉様は負けると考えている。それで朝倉様は単独で反乱部隊を打ち破る強さはあるが、それを察知するしたたかさは備えていないと思っている。もし才覚(その両方)があれば絶対に独立を目指す!その為に殿の御心次第で朝倉家を見捨てるつもりで殿に話したのである。


話を聞き、殿の頭の中はフル回転をしていた。そして一つの結論に達するそれは...


「小一郎、朝倉家を助けよ!

 そして、朝倉家に恩を売り朝倉家の諸将の子息達を織田方に取り込み、織田家の片翼に育てる事を命ずる」


「はっ」


小一郎は、深々と頭を下げて殿の命令を実行に移すだけである。

こんな話を切り出した小一郎と予想外の命令を下した殿とは、面白い事にある事で意見が一致していた。それは織田家が短期間で大きくなり過ぎた事である。それでも直轄の領地が増える可能性を提示した小一郎は家臣として最善の作戦を提案し、殿は統治者として今の現状での最善な手段を選択したのであった!


あと、千熊丸に小姓衆が付けられた。

数年後には四国の阿波国に向かうのである。今年からしっかりとした教育が行われる事となり、守役には千熊丸の実の祖父と父の片腕で活躍した松永様が任命されたのであった。

因みに、小姓衆筆頭には親方にお願いしてご子息である鶴松丸殿が就任、また伊賀衆からも数人抜擢して本格的な教育が行われる事となったのである(三好家からの小姓も今後合流します)

ただ、織田家譜代からの守役が忙しすぎて選考は終わっているのだが、着任できない状況であったのだ。(;´д`)トホホ



千熊丸、初、愛王丸(名づけました)達と別れて、睦月の後半には小一郎は山崎関所で社畜と化していた。仕事は山積み!その上で自分で仕事を作っているからだ。

小一郎達、木下組は日常の業務の上に安土港に安土政庁の計画!それに尾張国から山崎関所までの街道の整備計画と猫の手も借りたいぐらいの忙しさである。

正月に殿に人を回してとお願いはしたが、人材不足で無理だと断られていたのであった。

そんな時にある人物達が山崎関所を訪ねて来たのであった。


「御免、木下様はいらっしゃるか」


そう言って訪ねて来たのは、佐々成政殿に前田利家殿であった。

非常に丁寧に挨拶をした二人は「これを」といって殿より預かった書状を出す。

応接室には、小一郎に前田利益殿・佐々長穐殿もいたが誰も一言も発しない。何とも言えない雰囲気が場を支配したのだ...


殿の書状を呼んでみると、前田殿は内政官としての見どころが、佐々殿には工作兵の長としての才覚があるとの事、そして今回の人事は村井様(上司)の承認済みであると書かれていた。また前田殿・佐々殿達はこの度の戦いで内政官として補給の大切さと学び、一皮むけたとの事で今回の人事を決定したと書かれているし、その時の母衣衆全員が木下組に配属になるそれは決定事項の人事であった!

「殿もお人が悪い」と苦笑いしながら、こやつらを使いこなしてみろ!と殿からの挑戦状のような気がした(面白い、受けて立とうじゃないか)


「この話、お二人はご存知か!」


「「はっ」」


平身低頭で返事が帰ってくる。


「木下組は大変ですぞ」ニカ


そう笑顔で返すと「「ありがとうございます」」と大きな声でお礼を言う体育会系の二人がいたのである。

「では、前田殿達は石田殿の下に付き指示を仰いでください。

 また、佐々様は親方(蜂須賀殿)の下に付き、工作兵の3将として親方と木造殿を助けてください。

 よろしくお願いします」


「「はっ、こちらこそ宜しくお願いいたします」」


そう挨拶すると、退席をして前田殿は石田殿の下に佐々殿は親方の下に挨拶に向かったのであった。


二人は母衣衆の長として出世街道間違いないと思われていたが、あの事件の後に前田家と佐々家は織田家での立場がなくなり特に本人達は只の脳筋の馬鹿で一族の恥さらし者と、一族内からも責められていたのだが、人手不足のおり殿が汚名をそそぐチャンスをくれたのである。

前田殿、佐々殿の二人は、このチャンスを逃すまいと決死の思いで山崎の関所を訪れていたのであった。


そして、それら数年後にはハチマキが似合う内蔵助とそろばんの又左と織田家内に異名が響く事になるのであるのだが、其れは未来の話で数日後には佐々殿には尾張国から安土迄の街道調査の任務が、前田殿には安土の街(政庁、湊、街並み)をどの様にするのかの第一次調査を命じたのである。





「木下様...」


佐々殿と前田殿の来訪の数日後、山崎関所の私室に服部殿がある情報を持って訪ねて来た。


「木下様、御報告がございます」


其れは、雑賀衆の事であった。

服部殿達、伊賀衆の調べによると雑賀衆達が早くも困窮しだしたとの事である。

雑賀衆と言えば、傭兵部隊(鉄砲隊)が有名だが生活の基礎は海運業の商売で成り立ったいるが、得意先が消滅してしまって大変な状況になっていたのだ。

得意先であった石山本願寺に松永家や畠山家に三好家が織田家の傘下に入り、敵対勢力にあたる雑賀衆と取引を止めてしまったのだ。

勿論、佐久間様には織田家に兵を派遣した過去の敵対勢力である所との取引は...と石山本願寺側にボヤいて貰った。すると即座に取引を停止、織田方の商人がその後釜に入ったらしい。

すると、織田領内での商売は禁止していないが、関銭免除の無い雑賀商人が太刀打ち出来るわけはなく、その様な状況で織田領以外の大和国や紀伊国の国人領主や寺院で食い繋いでいるが、その限界が近付いて来たみたいであった。

その上、前回の織田家の使者(九鬼殿)の申し出を丁寧にだが断っている。今更、織田水軍になりますと言っても九鬼殿の同僚ではなく、九鬼殿の組下に置かれる事は火を見るよりも明らかだからプライドが許せない。そんな状況で雑賀衆内は揉めているとの事であった。


「どう致しましょうか?」


なんとなくだが、目元が笑っている服部殿。

小一郎の一手に期待してるみたいであった!


腕を組み、顎を触りながら口元が笑う小一郎。


「では、少し待って頂けますか」


そう話して時間を貰い、書斎に消えて行ったのであった!





卯月中頃 尾張国清須城


「木下殿の新作の料理と聞けば、尾張国まで出向きますぞ ホッホホホ!」


新作の料理のお披露目を清須城で行う事を聞き付けた関白様は、わざわざ京から清須までやって来たのだ。フットワークの軽い関白様(近衞前久様)は誰かの思惑に乗せられた事も知らないのであった。ニヤリ


*この物語での近衛様は永禄の変への関与を疑われる事も無く。朝廷を追放される事は起こっていないのである。


「では関白様、殿 早速始めさせて頂きます」


小一郎は、関白様と殿の前で腕を振るい始めた。

活〆をしている数種類の魚を3枚に下ろし始めた。関白様と殿は目の前で行われる小一郎の包丁さばきに「ほ~」と目を見張っていると...


「お待たせいたしました」


皿に十貫乗せた握り寿司とアラのお吸い物をお出ししたのであった。

あくまでも素人の手料理の域だが、この時代には無かった料理に、関白様に殿は興味津々で料理に見入っていた。お皿に盛りつけられていたのは、魚が数種類とエビにタコ、そして勝負の(ギョク)であった。


「醤油を少しつけて、お召し上がりください。

 また、ワサビを少しつけて頂きますと、また違った感じを楽しみめます」


「ほほほ、楽しみでおじゃる」


そう言いながら、すしに箸を伸ばす。

しかし殿は、箸を使わずに粋な食べかたで、口の中に放り込む!


「「&%'(#'$&%」」


2人ともが、言葉にならない。

ネタと酢飯のお互いを引き立てるハーモニーに、打ち抜かれたのである。

関白様と殿は言葉を忘れて、ただ黙々と目の前にある寿司に手を伸ばし堪能するのであった......

食事中に関白様は(ギョク)の時には、流石に説明を求めたがメスだけで育てた卵で孵化する事のない卵でありますとお話しすると、美味しそうに頬張ってくれたのであった。

それと、今の時季にしか(ギョク)はお出しする事が出来ませんと、季節限定の食べ物であることも付け加えたのである。因みに、二人共がワサビのつけ過ぎで涙目になったのは秘密であっる。


「沢山、食べて頂きありがとうございます」


そう話しながら、デザートのお茶と大福をお出しすると...


「「もう、無理ぃぃぃ」」


と二人ともが呟いたのであった。


「小一郎殿、今日の料理は何と言う料理かな?」


予は満足したぞと、関白様の表情が語っている。


「はい、握り寿司と申します。

 これから織田領内で広げて行こうと思っております。」


「そうか、ではこの料理はいつでも食べる事が出来るの様になるのだな!!!

 それでは、織田殿!これだけの御もてなしをしてくれた小一郎殿に、褒美を取らしてもよろしいかの?」


小一郎と殿の目がキラリと光る。


「小一郎、関白様のお言葉である。

 何か、望みはないか?」ニヤリ


「はっ、ではお言葉に甘えさせていただきます。

 ・・・

 ・・・

 ・・・

 関白様!ご提案がございます!」


頭を垂れた小一郎からは、ダークモードが発動!

ハッ!と気が付いて信長様に助けを求めようとするも、関白様は魔王モードが発動している殿を見て。

「謀ったな小一郎!」と心の中で、絶叫するのであった。

そして其処は尾張国清須城!逃げ場はない。

腹を据えた関白様は、海千山千の公家の世界を生き抜く強者の顔になっていたのであった!


「では木下殿、直言を許す」


先程までのフレンドリーな感じはない。

関白様は扇子を広げ、口元に当てて戦闘態勢だ!

そしてこの場所は、戦場となったのである。


「ハッ、では...

 関白様、時代が変わった事を世に知らしめる為に改元をいたしましょう!


 最早、足利幕府は中央には無く。地方にその過去の権威が残るだけでございます。

 そこで...改元を帝のお力で成し遂げて、帝中心の日ノ本を作る事をご提案いたします」


「改元だと!

 帝中心の日ノ本だと!」


予想外の提案に驚きが隠せていない。

口元がお留守になってしまっている。

しかし、そんな事はお構いなしに関白様は頭の中でソロバンを弾く、権力が朝廷の下に帰って来るかも知れないからだ。

しかし、小一郎の言葉は関白様の想いをお構い無しに吹き飛ばす!


「関白様、朝廷には関白様を議長とした公家と大名家の議会を設置して、話し合いで政治(まつりごと)をするのです。そしてそこで決まった事を帝が承認する形で日ノ本を帝が統治する政治態勢の構築を提案させて頂きます。」


「         」


反応の無い。いや反応が出来ないのを良い事に、話を進める。


「そこで、次にその議会に参加する大名家ですが、帝の名の下に同盟を結んでいる事を条件にします。そして同盟国の中核を担うのが織田家と今現在同盟を結んでいる美濃の斎藤家・甲斐信濃の武田家・東海の今川家・伊豆相模の北条家に越後の上杉家などを関白様にまとめて頂き、新しい日ノ本を作って行く足掛かりにして頂きたいと考えています。

また、当織田家としまして、帝の臣下として同盟に参加してくださる国々に農業の技術援助をする用意がございます。


そして.....


そのお話を、帝と公家衆にお話をして頂き纏めて頂きたいと思います。


・・・

・・・


反対意見が出る場合には、その対案を示して頂けますようお願いいたします。

・・・・・・

決して、前例が無いからと拒否する事の無い様にお願いいたします」


「木下殿......



 織田家の日ノ本を思う忠義の心、しかと受け取った。

 この事を帝にご報告させて頂く」


力強く返事をして頂いたが、果たしてどうなるものか?

関白様の反応は悪くない。地方にも足を伸ばし押し寄せる現実を見て来ているのだ!後の事はお任せしよう。

ただ、あまり時間も無い。弥七殿の報告によると北条様(ご隠居)と今川様(ご隠居)の容態があまり良くないと報告が来ている。もう50才を越えているのだ何があってもおかしくない。ただ救いなのは今川様(御当主)と北条様(御当主)がしっかりとされている事だ。三河国の一向一揆の鎮圧の為に今川家を纏めて見事なリーダーシップを発揮されたと聞いている。しかし海道一の弓取りと言われた父が居なくなれば状況が一変する可能性すらある。決して油断は出来ないのだ。今川様や武田様とほぼ同年代の北条様(ご隠居)も病には勝てずに息子である北条氏政様の強力な後ろ盾として共同統治をしてきたが、強力な後ろ盾が無くなれば周辺国がどの様な動きになるか判らない。不安材料はいっぱいある。しかし同盟が成立すれば上杉家が関東に攻め込んでくる事が無くなる。それだけでもかなりの負担軽減になるであろう。

また武田家でもご当主の武田様は史実通りなら1570年代前半に亡くなられたと記憶している。それが正しいのであれば体に病気を患っていると考えるのが自然であろう。その為に波風なく家督を武田勝頼様に譲れる状況を作る為の一手としても最適であると思う。

それと、不安材料は上杉様がこの話をどの様に考えるかである。

帝が改元して足利幕府の終わりを示すと、足利幕府の役職である関東管領を目指す事が無くなるかもしれない。義に厚い方である。帝からの同盟の話を断る事は無いと思うが...そうであってほしい。頼むからお願いします!

そして、その後は水が染み込んでいくようにゆっくりではあるがこの枠組みを広げていければ、全国に相互扶助の同盟を結ぶ事が出来ればと思っている。

もし旨い事行けば、奇妙丸様の御子息の世代に日ノ本は纏まる事が出来るであろう。

しかし、全ては帝の御心中に掛かっているのである。

公家の反対は?と思われるであろうが、対案も無く前例が無いと反対すれば獅子身中の虫である!静かに除外するしか......いや無理か、中途半端に政治力を持っているから面倒だなだったら私的な勉強会として賛同者を集めて、事実上の指導部を作ってしまおう!そうだ其れが良いと一人納得する小一郎であった。




皐月 中旬 山崎の関所


「木下殿、申し訳ない」


そんな第一声で、百地様が硬い表情で詫びを入れている。

何故かと言うと、越前国で内偵を進めていた伊賀衆だがどこかの草の者と接触してしまったのだ。

これで相手方の動きを探っていると気付かれてしまった!ただ、相手方もどの勢力の手の者と接触したかは分かっていないらしく活動を自粛して様子をうかがっていると報告されたのだ!


「息をひそめましたか...

 それで、今の状況で反影鏡派を処断できるだけの証拠は....無理ですか...」


首を振る百地様を見て、言葉を切る小一郎。

「う~ん」腕を組み顎に手を当てながら、頭の中を整理する


・・・

・・・

・・・ チーン!


「百地様、もし反対勢力が暴発するなら、朝倉様(景鏡様)とご家族の脱出の手助けをお願いします。

 そして、自分は尾張国に寄った後に敦賀に向かいます。

 何かあった時には、そちらで落ち合いたいと思います。」


「合い分かった! では!」


足早に消える百地様、あとの事を増田君と石田殿に託して動き出す。


「佐々殿、この書状を佐久間様と柴田様に、軍を1万人動員して敦賀に向かわせてもらってください。

そして、佐々殿とは敦賀で合流したいと思います。お願いします。

前田殿は、自分と一緒に尾張国経由敦賀行きの行程を付いてきてください。

あと... 「ワシも行こう」 親方!...大丈夫ですか?来て頂ければ助かりますが...」


「木造殿、後はよろしく」


「ご安心ください」


何事もなく引き受けてくれる木造殿を横目に...


「では、直ぐに出ます。

 あとの事はお願いします」


そう言ってから小一郎達は動き出した。

尾張国経由、敦賀行きの強行軍である。覚悟を決めて馬に跨った!





「殿、朝倉家の件!急を要します。一任して頂けませんか?」


清須城に走り込んだ来た小一郎の第一声がこの言葉であった。

状況は判らない?マークが頭の上に付いている殿に対して、例の件で内偵しているのが露見したと伝えると...


「マジか...

 

 小一郎!至急対応を命じる」


「はっ!」


「では、ごめん」と言って清須城を後にすのである。

その後、やりすぎが起こる事を思った殿は二人の人物を至急呼び出した。

そして......


「小一郎の暴走を止めよ!」


そう命じられて送り出されたのである。

ただ、命じられた二人は「「そんなの無理ぃぃぃぃ」」と心の中で叫ぶのであった!



水無月に入ると、小一郎は全軍を殿より派遣された森可成殿を総大将に丹羽長秀殿を副将になってもらい軍一万を率いてもらう、小一郎と親方に前田殿・佐々殿は数名の護衛を率いて先を急いだのである。

そして、この時点で殿の思惑は早くも崩れてしまったのである。

北国街道を急ぐ小一郎達、先触れを走らせていたから問題なく街道を通過!無事に越前国大野郡の亥山城に到着をする。

そして間髪を入れずに、面会を求めたのであった。




「はじめてお目にかかる、織田家家臣 木下小一郎と申します」


挨拶もそこそこに大広間にて、会談は始まったのである。

他愛の無い会話を交わしながら、お互いの人となりを探り合うのである。


この者が織田家の張子房か!と朝倉様を含めて家臣達は興味津々であった。

そして、小一郎もこの方が朝倉様かと...しかしそこには朝倉軍の総大将(当主名代など)として出陣した偉丈夫などではなく、眼はくぼみ、頬はやせ、眼の下のクマがひどい事になっている非常に疲れた人物が座っていたのである。

ただ、織田家からの使者である小一郎達にはその事を気付かせまいと振舞っている事が、その事が越前朝倉家を纏める為に苦労しながら試行錯誤している事の証拠でもあった。


「朝倉様、早速では御座いますがお人払いを願いたいのですが!」


その言葉を聞きいきり立とうとする腹心達を鋭い眼光で抑え込み、二人きりでの会談が始まるのである。


「ご無理を言いました」


この言葉で会談は始まり、グイグイと攻めて行く。

小一郎の第一声で早くも言葉を失うのだ。


「朝倉様、朝倉家当主を降りて織田家に仕官しませんか?

 勿論重臣待遇です!」


最初から、小一郎節全開で攻め立てる!


「        

        

 そ の理由を教えて 貰って も 良いかな...」


何とか、言葉を絞り出した朝倉様だった。

「では」と言って小一郎は朝倉様に理由語りだした。

それは朝倉様がご存じな事より詳細な情報で、ハッキリ言って何とか反乱が起こらない様に綱渡りをしている越前国の現状をかたった。


そして...


「朝倉様の心身はもはや限界を迎えているように思います。

 もし倒れたりしたら反対派は動き出し、内乱が起こるでしょう!

 内乱だけならまだ良いのです。一向衆とも手を結び、越前国内と加賀国内で一向一揆の嵐が吹き荒れると某は考えております。

 その後......最終的にお味方は敗戦、朝倉様の配下の者の多数は討死、朝倉様のご家族や一族の者は処刑されると考えるのが自然と思います。


その様な考えの下で織田家に大功がある朝倉様を救出する為に、某が派遣されたのであります。

また、殿は太っ腹です。朝倉様だけでなく配下の者で希望する者は全て織田家で召し抱える事も確約して頂きました。(暴走真っただ中!)


また、織田家では反対派を抑え込む為に軍1万を派遣して府中城に進軍中でございます。

今が、好機です....ご決断を!」


小一郎の言葉を聞いた朝倉様には明らかな葛藤が起こっていた。

織田様は越前の現状を把握して助けてくれようとしている。だったら反対派を討伐すれば....ダメかそれでは結局のところ、朝倉家家臣団の溝を深めるだけで解決にはならん...そしてら織田軍に駐留してもらい反対派の行動を押さえて貰えば...ワシのメンツは丸潰れかと眉間にシワを作り答えの出ない問答を一人繰り返す朝倉様がいる。


しばらくの間は、静かに朝倉様の様子を見ていたが結論迄は辿り着かなかった。

そして......


「朝倉様、 個人的に思う事を申し上げます。


...生きてるだけで丸儲けです!」



「    ! 



 ワッハハハハハハ・・・・・


 生きてるだけで丸儲けか!

 そうか、そうか


 木下殿、良いお言葉を頂いた」


大きな声でひと笑いした後に何かを悟った朝倉様は、憑き物が落ちた様で先程までとは比べ物にならない程に表情と雰囲気が明るくなったのである。

その後、大広間にて景鏡派の諸将を集めて今後の方針を語り、諸将には無理強いをせず希望者だけ同行を認めたのであった。


その顛末を見届けた小一郎は、「次の行動に移りますか」とニヤリと笑いながら府中城に向かったのであった。





つづく









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