1570年
誤字報告ありがとうございます。
睦月 新年を迎えて...皆忙しそうであった!
良い関係を構築しようと新年のあいさつに近隣の大名家(国人領主を含む)の使者が山崎の関所に大勢が訪れ、その対応に殿と佐久間様・平手様などが追われている。そして、対石山本願寺は柴田様が総大将として対応しおり今現在も締め上げている最中だ。また公家達も畿内は織田家で落ち着くと考えだして、今まで以上に良い関係を作ろうと接触を持ってきているが、此方の対応は村井様と義兄が中心となり対応していたのだ。
そんな中、殿は三好家(千熊丸)に五徳姫が嫁ぐことを正式に発表!されて三好家からは好意をもって受け入れられたのである(かなり驚いたが反対は無かったのである)
それから、越前国(朝倉家)からの荷止めと朝倉領の湊に立ち寄った船は臨検する事を正式に発表したのである。因みに、小一郎が提案してから根回しの為に時間がかかり、新年に発表されたのであった。
その様な状況で社畜の如く働いている小一郎の下に、親方や百地様が服部様が藤林様が報連相に訪れ手を打っていく!今後の事を考えると大切な準備の時間で合った。そして最後に服部殿が訪れたのである。
「木下様にお伝えしたい事がございます」
そう言ってから、報告が始まった。
話はこうだ!昨年秋ごろから石山本願寺側は半年近く包囲されていてこれ以上の戦は無理と考えている者が増えてきているとの事、そして連日話し合いがもたれているが、強硬派が声高に降伏に反対して纏まる話も纏まらない状態なのだとか。そして今は何とか補給線をギリギリ維持できているがそれは最低限の話であり、それも織田家の攻略で風前の灯火となっているらしいと。
その話を聞いて、食料や補給物資も厳しい状況だと考える小一郎がいる。ニヤリ
「ちなみに反対派とは?」
「はっ、石山本願寺の主戦論者は六角殿親子に服部殿(服部党元当主)と一部の坊官が反対しているとの事です」
その名前を聞いて、そりゃあ反対するわなと思う小一郎が居るが...
「服部殿、この情報はどこから仕入れた?」
返事の後に服部殿は言葉少なく語りだす。それは休戦派が(勝手に)石山本願寺派閥の公家に送り出した使者(坊主)を何人も捕まえて吐かせたとの事である。城内の休戦派は一日千秋の思いで待っている事だろう。
休戦派は休戦の為に秘かに使者を送り出し、石山本願寺方の公家に接触!帝の休戦を働きかけて貰う様に動いている。
条件を出せば、主戦論者も大人しくなるか?と小一郎は思ったが昔からの敵である此方に温情を掛ける必要はない!そう考え直して、総大将の柴田様に書状で頼みごとをする事にしたのであった。
ちなみに、捕まえたお坊様の尋問には苦痛などは与えず、酒・料理を与え女を抱かせて堕落する捕虜生活を送らせて、自暴自棄になった数名の者から聞き出した事を纏めたのである。下手に苦痛を与えて信仰心を刺激するよりエグいやり方であった。
睦月月末
「柴田様、ご無理を言いました」
そう言いながら小一郎は頭を下げていた。何故かと言うと大筒の連射試験を行いたいとお願いしたからであり、柴田様も小一郎のやる事に何かしらの考えがある事を認めているのですんなりと話が通ったのだ。
それから伊賀衆が作ってくれた石山本願寺内部の地図を基に、目標はここにしてくれと大筒兵に指示!従来の3門と小一郎が持ってきた3門で三連射を行うのである。
あくまでも訓練だが、相手方は半年以上かけて思い込ませた大筒の攻撃は夜間だけとの思い込みを吹き飛ばす事が出来るであろう。
因みに、目標は情報通りなら指導者クラスが集まる建物であった。ニヤリ
「では、始めます」
柴田様達に伝えて、対爆発音対策事をおねがいしてから。
「撃てぇぇぇぇぇぇ!」
バアァァァァァァァァァン×6の轟音が響き全弾が発射される。
第二射急げぇ!と大声が飛びかう中、観測班から命中したと合図が届く!
・・・
・・・
「第二射 撃てぇぇぇぇぇぇ!」
再び、バアァァァァァァァァァン×6の轟音が響き全弾が発射され。
第三射急げぇ!と声が飛ぶ!
・・・
・・・
・・・
・・・
「遅い!」
大筒兵頭の激が飛び交う中に、準備が出来たと合図が!
「第三射 撃てぇぇぇぇぇぇ!」
小一郎の声が響く中、三度大筒が火を噴いたのだ!
バアァァァァァァァァァン×6の轟音が砦に戦場に響き全弾が発射された。
三連射とも目標の建物やその付近に着弾、目標物に対しての命中させる事が出来て、初めての連射試験では最高の結果であろう。その後大筒の異常や今回の反省などを大筒担当の兵士達で話合い、運用の改善に充てられたのであった。
因みに、壊れた大筒が無かったので"ホッ"とする小一郎が居たのである。
同時刻 石山本願寺側、建物内
轟音を聞き、ピクと集まっていた皆が反応したそうだ。
昼間には聞く事の無かった爆音が、境内?(城内)にも響いた!
今まで以上の轟音が鳴り響き"バッキ、バキバキ"何かが折れる音を聞いたと思ったら、目の前の景色と着ている着物が真っ赤に染まった!何が起きているのか判らないが、建物の中に居た誰かが血まみれで倒れている。
"ギャァァァァァァァ"と発狂じみた悲鳴が上がり、大混乱が起こる...
「%$&(&#$&」
声に鳴らない悲鳴を上げて、取り乱す本願寺顕如殿。
今まで人の生死は近くで見て来ていたが、味方の者が余りにも無残で残忍な死に方を見てしまい冷静さを欠き混乱に拍車が掛かった。
皆が皆、何が起こったか判らない。この現状で冷静に考えることなどは出来ない。ただ分かっているのは目の前に仲間の惨い死体が転がって居る事だけであった。
そして、バアァァァァァァァァァンと再び爆音が!
建物をバキバキと凄まじい音が当たりを支配した。
全員が慌てふためく!僧侶の何人かは頭を抱えて念仏を唱えている始末だ。
大混乱に拍車がかかる中、三度バアァァァァァァァァァンと爆音が...
バキバキと凄まじい音が当たりを支配したと思ったら再び、建物内が真っ赤に染まった。そして"バタン"と音と共に僧侶が一人板間に倒れると。
大混乱にさらに拍車がかかり、本願寺顕如殿を残して正気のある首脳陣は我先にと建物から逃げ出して後に救出された時には意識が無く倒れていたそうであった。
因みに、この話を小一郎が聞いたのは石山本願寺戦の終戦後で、この時に目標の建物内に居た者が後に語った事であった。
如月
「お呼びにより、参上いたしました」
織田本陣に呼び出された小一郎は、佐久間様を筆頭とした織田家首脳陣が揃っていた。そして、諸将の表情と雰囲気が柔らかくなっていたのである。そう一山越えたのであろうと感じたのであった。
「小一郎!知恵を出せ!」
状況を把握していないのにと心の中で思いながら、佐久間様に今の現状の説明をお願いをすると...
石山本願寺から降伏の申し出があった!ただ本願寺顕如殿は心の病に侵されてしまい療養が必要な事態とのことだ。
そして、本願寺の扱いをどうするかで話が纏まらずに、小一郎の呼び出しとなったと説明を受ける。
・・・・・・
・・・・・・
小一郎はしばらく黙り込んだ後に語りだした。
「殿、一番大事な条件は石山本願寺側の武力放棄!これが一番大切な事だと考えます。
それは、石山本願寺の要塞としての機能の放棄も含みます。
また、ここに籠城されれば次回はどれだけ時間がかかるか分かりません!つきましては要塞の無力化も条件に加えて頂けますようお願いいたします。それと石山本願寺の建物の修理や改修の時には事前の申し出が必要として頂きたい!
また、越前国攻略の後にはなるのですが、一向一揆勢の武力解除も条件に入れてください。あとは...本願寺の客将である六角殿達や服部殿も織田領内退去か帰農を条件にして頂ければ、好きな方を選ぶと思われますし、そして以上は細かい事は決めずに前田殿と筒井殿を窓口として今後の石山本願寺の立ち位置を少しづつ固めて行けば良いと思われます。
如何でしょうか?
あっ、それと一向一揆の武力解除が行われた後で、はじめて禁教令の解除を帝にお願いする事を伝えておいてください」
「誰かに、責任を取らさなくてよいのか?」
諸将の誰かが語った。
「そうですね......武士ならば責任を取って切腹と考えるのでしょうが、実際には三好殿も畠山殿も切腹などはさせていませんし降伏している僧侶をせっ..打ち首などにしようものなら、畿内...いや織田領のどこで一向一揆が起こるかもしれません。表面では降伏していても腹の中では何を考えているか分かりません。そんな相手側にワザワザ火をつける必要はないかと...もし何かしらの事を考えるのでしたら、賠償金として向こう何年間か矢銭を出させる事の方が(織田家的にも)良いのではないでしょうか?と自分は考えます」
諸将はキョトンとしてしまう。
名より現金を取ったからだ。内政官としては何をするにもお金が居るし大きなプロジェクトも提案している。またまだ朝倉家とは戦中であるから、現金はいくらあっても困りはしないのだ!
「ワッハハハハ!
小一郎らしいわ、名誉より金か!」
恐れ入りますと言いながら、頭を垂れる。
「では、皆の者!他に意見はあるか?」
・・・
・・・
・・・
「では、右衛門尉(佐久間様)権六(柴田様)
2人が代表して、この話を纏めろ!」
「「はっ」」
殿は二人に任せて(丸投げして)陣内から出て行った。
そして、小一郎は(悪い顔で)直ぐに、急ぎ足で佐久間様と柴田様の下に向い返事を待たずにお願いをする。
「佐久間様、柴田様、お願いがございます。
この度の話が纏まったら、石山本願寺の西側の水路と北側の水路は織田軍を動員して、あっという間に埋め立て下され!どうせ本願寺側が埋めますと言ってくるのが目に見えています。本願寺方が埋める事で話を纏めて貰っても構わないのですが、実際には織田軍が埋めてしまい石山本願寺方に本当の止めを刺したいと思います」
小一郎の意図に二人は気が付くが...
「小一郎、約束が違うと抗議してくると思うが如何に!」
「佐久間様、その時にはいけしゃあしゃあと、本願寺方が埋めるのをお手伝いしたまでの事としらを切って頂きたいと思います」
佐久間様の問いに悪い顔の小一郎が答え、そして小一郎を見ながらこれはひと悶着ありそうだと諦め顔の二人が居たのであったが、埋めてしまえばこちらの物である!と考え直したのである。
石山本願寺方が本願寺(要塞)さえあれば織田家と再び戦えると考える可能性があると小一郎は思っている。四方を水路に囲まれた要塞などもう二度と攻略したくない。だからその可能性すら潰す為にタヌキ作戦を実行するのである。
弥生も終わりの頃を迎えて、やっと石山本願寺から全軍の撤収が始まった!
石山本願寺の水路の埋めてが済んだからだ。抗議もあったみたいだが、知らん顔でやり過ごしてくれたようで、大きなトラブルにはならなかった(いや出来なかったのだ...)
また、六角殿達や服部党元党首の服部殿は織田領内から退去したと教えて貰う。何処までも戦い抜くらしいが、相手にしてくれるところはあるのかなと思う。
因みに、旧幕府の諸将で三好家に逗留していた者達は、いつの間にか消えたそうである。
佐久間様と柴田様が代表として交渉している時に小一郎達は、次の戦の準備に追われていた。常備兵や内政官の募集(佐久間様や村井様には事後承諾)に始まり、松永家、畠山家の家臣団に対しての雇用説明会と旧松永領と旧畠山領に役人の派遣。それに対朝倉家の為の食料を始めとした物資の調達に、殿に提案する為に作戦に動員する規模!進軍計画と補給線の確保の手段などである。あっ新しい領地の内政は増田君達がフル活動で頑張っています(小一郎も内政の仕事もしてますが...)
そして、その頃にある書状を持って百地様が越前国より帰って来てくれた。
「木下様、此方を...」
「ご苦労様でした。
これで、織田家は戦えます」
山城国と越前国をかなりの回数行き来してもらったがその努力が実を結び!作戦面での不安は解消されたのである!ニヤリ
それから、百地様は越前国の詳細な地図を取り出したのだ。百地様配下を使い完成させていたのであった!
街道に城にと詳細に書かれた物である。これを活用できれば負けることは無いだろう。
これを持ってきた百地様は、小一郎を見て微笑みながら...
「お節介が過ぎましたかな?」
と語り掛けて来る。
お礼を言った後に、地図を基にして百地様を質問攻めにしたのは秘密である。
「小一郎!策を示せ!」
卯月 に入っても何も言ってこない事に、業を煮やしての呼び出しである。
少し六天大魔王モードが発動している殿である。
「殿、今は無理でございます。
もう少し準備をする時間を頂きたいと思います」
ギロリと厳しい視線を浴びながらも怯みはしない。汗汗
ここで中途半端な事を言った方が地獄を見るからである。
「では、朝倉攻めの兵は何時起こす!」ギロリ
「はっ、具体的には来春の雪解けを「遅いはー!」待ってから......」
殿からピーと湯気が湧き出した!
思い立ったが吉日の殿であるから、我慢が出来ないのであるが...
小一郎は攻め込む事の無理な理由を具体的に説明をして行く。
「ああで、こうで、そうで、この様な考えになり来年、雪解けを待っての出陣が一番理にかなっているのです。
殿、ご理解を頂けましたか!」
こう言いながら、首を垂れると。
「その様な理由なら仕方がないな」と渋々理解を示して頂き事なきを得たのである。ホッ
まぁただ単純に準備が完了していないだけなのだ。ただ戦をするだけの者は良い。後方を預かる者の一人として、その後の内政を担当する者として、戦の終わりを考えその後の為の準備を万全にしてリスクは少しでも少なくする為に色々と手を打っているのである。
そして、この話は織田家が来年の雪解けを待って朝倉征伐の軍を上げるという事になり(公式)その話は、殿の周りから、諸将にそして織田領内に周辺国にと噂話として広まり朝倉家まで聞こえて行ったのであった......ニヤリ!
それからの小一郎は内政官を1000人に増員!人員の欠員の出ていた常備軍を10万人に補充!スパルタな訓練を行い、無理やり即戦力にしてしまい来春と言った事を4ヶ月でしてしまった...いや計算通りであった。
スパルタで一人前?にした内政官達を、ベテランに付けて旧松永領と旧畠山領に派遣!経験を積ませる為ときめ細やかな内政をする為に送り出すと、小一郎はその足で殿に面会を求めるのである勿論、あの地図を持って!
長月 尾張国清須城
「殿、木下殿(前田殿、佐々殿を含む)が面会を求めています」
小姓の話を見居て"えっ"とビックリしている。それは小一郎は殿の居る尾張国清須城までわざわざやって来たからだ!殿は石山本願寺との戦の終戦後は山城国に尾張国にと忙しく各地を回っていて、この時には尾張国(清須城)に滞在していたのだ。
因みに小一郎(木下組)の仕事場は山崎の関所がホームグランドになっている。
「殿、お待たせをいたしまた!」
その言葉を聞いて"ハッ"と気づく。自分が騙されていた事を...
「小一郎!」
と少し怒り気味に発した言葉に対して。
「敵を騙すには、先ずは味方からと言うではありませんか!」ニコリ
口角を少し上げながら笑う小一郎に、やられたと顔に書いてある殿の表情が対称的でもあった。
では、と言ってからおもむろに地図を広げていたら、殿の目が光る!其処に書き込まれた情報(小一郎の戦術を含む)を一気に見渡して理解したのだ!
「で、何時から戦?」
「何時からででも、ただ不自然さを無くす為に(朝倉家に警戒されない為に)、大規模な軍事訓練を抜き打ちで行うと噂を流しましょう!織田領全土で行い越前国の敦賀郡の敦賀湊を目的地として5万軍を集めます。そして油断をしている朝倉家に電撃的に攻め込みたいと思います。」
「陣容はどうするつもりだ」
「はっ、先ず織田領の守りには、織田信広様に北畠様・佐久間様に平手様・内藤様達に南近江衆から平井様に後藤様・進藤様達にお願いしたいと思っております。また攻め手ですが先陣の大将を柴田様 第二陣・第三陣を蒲生様・目賀田様 本隊に蜂屋様を始めとした諸将(松永様・畠山様含む)を考えております。後方の本陣(敦賀)には織田信光様に詰めて頂きたいと考えています。また石山本願寺からも人手を出して頂、一向一揆との諍いを未然に防ぎたいと思っております。
如何でしょうか?」
「うむ・・・
・・・
・・・」
パンパン 手を叩く音が響くと小姓が直ぐに表れ。
「殿、お呼びでしょうか!」
「諸将に早馬を出せ、今から抜き打ちの軍事訓練を行う!
守備兵を残して、5万の軍を敦賀郡の敦賀湊まで集合させよ!」
「ハッ!」
「では、小一郎ゆくぞ!」
「はぁ?・・・(ギロリ) はっ!」
そう言ったと思ったら、清須城より出陣!若狭国まで愛馬にまたがり小一郎達を護衛に引き連れて突っ走って行ったのであった!
それは、小一郎に騙された仕返しの意味もあったのかもしれない。
その後、尾張の民で語られたのだが早馬で駆けて行くお武家様が"さぁぁぁぁきぃぃぃぃ"と涙を流しながら物悲しげに叫んでいたらしいと...チーン!
「百地様、藤林様宜しくお願い致します」
そう言って伊賀衆を送り出す。それは柴田様が出陣する前の話であり北国街道を安全に通る為の手段でもある。役割は、先の戦でも行った情報の遮断で対朝倉戦でも先手を取り続ける為の作戦である。
地味で縁の下の力持ちなのだが、小一郎は非常に重要視している。何故?其れはこの作戦が機能すると織田軍の被害(死傷者)が少なくなる可能性が高くなるからだ。
そして、伊賀衆を送り出した数日後に、柴田様を先頭に織田軍4万人が出陣していった。あれ、人数が合わないと思うかも知れないが、補給部隊の兵8000人と敦賀の守備兵2000人を残しての出陣であり、越前国の府中城を本拠地と出来た時に食料を初めてとした補給品をピストン輸送する予定である。
そして...
「では、仕事を始めようか!」
出陣を見送った後に、木下組は仕事にとりかかった。
今回は、太田殿や中村殿が敦賀まで出張してくれている。その上に親方や木造殿も助っ人に入ってくれて万全の体制を強いて臨むのである。心強いぜ!
翌日から、伊賀衆が戦況報告を送ってくれて今の状況が手に取る様であった。
それによると柴田隊と蒲生隊・目賀田隊は、精鋭部隊を選抜して街道沿いにある朝倉方の木ノ芽峠城砦群(西光寺丸城・木ノ芽峠城・観音丸城・鉢伏城)を強襲!攻め落とす事に成功したとの事、朝倉方は織田の強襲に驚き抵抗らしい抵抗も無く落城したと報告が入った。
朝倉方は戦時ではあるが、織田軍の朝倉攻めを来春と信じて疑っていなかったのであろう。最低限の守備兵しかいなかったそうだ。正直に言えば対一向一揆討伐に人を回していたのであろう!
すると、初戦で勢いに乗った織田軍は燧城・柚尾城・杣山城をあっという間に攻略!北国街道の山間部を見事に攻略して、当初の計画通り府中城の攻略に掛かるのであった。
その頃になると流石の伊賀衆でも伝令や使者を100%捕まえる事が出来ずに、一乗谷の朝倉様隊(ご当主)にまで織田軍の強襲の報が伝わった。朝倉様(ご当主)の対応は早く、まず初めに朝倉隊(景鏡軍)兵5000人に対一向一揆戦線から転進して織田軍討伐の命令を出す。それから、諸将に出陣(転進)を要請!朝倉隊(影鏡軍)に合流して織田軍を迎え撃つように命令を出したのである。
その行動は今現在、朝倉家中でも一・二を争う大将に討伐の命令を出す凄く自然な流れであった。
そして、自らも出陣する為に徴兵を開始するのであった。
電撃的に進軍した織田軍は府中城を落として本陣と定めた頃に、朝倉方の諸将の軍が集まり始めて対陣し始める。しかし500人や1000人の部隊ではどうする事も出来ずに凄く遠巻きに陣を構える事しか出来ていない。そんな時に朝倉隊(景鏡軍)兵5000人が到着、大軍を前にビビっていた朝倉方の諸将に希望の光がともった。地元の利を生かして戦っていけると思わせるほど、堂々と織田軍4万人(正確には3万7千人強)の軍に対して朝倉隊(景鏡軍)5000人で対陣をしたのであった。
対陣をしたのだが...
「なんだとぉぉぉぉ!」
朝倉方の諸将は目を疑った!
朝倉隊(景鏡軍)は織田軍と合流したのである。
織田軍の柴田隊と轡を並べ朝倉隊は織田軍の先鋒として行動しだした。まさかの裏切りであった。
「「「「「 」」」」」
朝倉方の諸将は言葉を失った。そしてその知らせは、出陣しようと準備していた朝倉様(ご当主)に早馬で伝わり、「かげあきらぁぁぁぁ!」と憎しみのこもった大声が一乗谷に響いたのであった。
景鏡憎し!と激怒するも打てる手は限られている。朝倉家中で朝倉殿(景鏡殿)と同格の大将である朝倉景隆殿や山崎吉家殿は朝倉隊(景鏡隊)が抜けた為の対一向一揆戦線の維持の為に身動きが取れない。後は......打てる手がない。自分自身で出陣ぐらいであるが負け戦に兵は集まらない物である。
もうこうなると戦処ではない。落ち目の朝倉家を見捨てて、自分達が生き残りを掛けて朝倉方の諸将が次々と裏切っていく未来が見えたのである。それも憎っくき朝倉景鏡殿を頼って...
戦が始まって、10日しかたっていないが、戦いは佳境を迎えていた。
諸将の離反が後を絶たない状況に、最高で一万人近く集まった兵士達は蜘蛛の子を散らす様にいなくなり、本拠地の一乗谷では朝倉家に最後のご奉公と将兵約1,000人が籠っていた。
「殿...
ここに至ってはどうしようもございません。
一乗谷をすて「もう良い」さい はっ」
「すまぬ」
「いえ」
朝倉景恒殿の問に、静かに謝り自分自身が招いた事であると後悔をするのであった...
その頃、小一郎の下を訪れている使者達の報告を聞き、思わず何事が起こっている!と考えてしまう。
情報を精査しても、これといっておかしなところはない。「不思議だぁ」と呟くしかなかった。
朝倉方とは激戦があり織田家が寄り切ると考えていたのだ。そしてそれをする為の準備に時間をかけて、相手のスキを突き、内応を整え準備万端で攻略に来たのだ。しかし朝倉様(ご当主)の人望が此処まで無かったとは...いや此処まで堕ちていたとは...
そして、この戦は最後の時を迎えるのである。
殿は小一郎の計画に沿って一乗谷に使者を送る。勿論、降伏を促すからだ。
勝負はついているのだ。ここで無駄な命を散らす必要などないのだ!
しかし......答えはNOであった。
「であるか...では朝倉殿(景鏡殿)」
「ハッ!」
「明朝、一乗谷攻めの先陣を越前衆にお任せする」
「ハッ、ありがたき幸せ」
殿は戦国の習いに従い、寝返った朝倉方の諸将を使い一乗谷攻めを命じたのである。
そして、未明から始まった一乗谷攻めは凄惨なものになった。
ここで手柄を立てなければならないと、寝返り組は恐ろしい勢いで相手の事など気にせずに攻め立てる。それに伴い、討ち死にを覚悟している一乗谷勢の兵士達も獅子奮迅の働きをして最後のご奉公をおこなった。そして...半日後に落城!朝倉殿(ご当主)以下全ての武士達が討ち死に(自害)で幕を閉じたのである。越前攻めでの最初で最後の激戦は此処に終結をしたのである。
因みに。攻め手の被害は戦死者だけで1500人を超えていたそうで、戦死者の数だけを見ても激戦であった事が伺えたのである。
その後、一向一揆と対陣していた朝倉勢も一乗谷落城、朝倉殿(ご当主)を始め側近達の討ち死にを聞き最早これまでと投降!越前国を平定したのであった。
また、多少の小競り合いはあったが織田家(朝倉家)と一向一揆との停戦の為に働いてくれた僧侶達がいた事を記載しておこう。
戦が勝利で終わったと早馬が到着!歓声に沸くそして、最後のひと頑張りと事後処理に邁進している。
越前国(敦賀郡は含まない)は、朝倉景鏡殿が大名として朝倉家を継ぎ織田家に付き従う事で話は着いているが、細かい話し合いを小一郎達は朝倉家から来る予定の代表達と詰める事になっている(織田家の内政方法を教える事になっている)
実行しろとは言わないが、考え方の違いからのトラブルを防ぐ為であった。
「木下様は、いらっしゃるかな」
それは、霜月に入った頃で藤林様が部下達を連れて訪れたのである。
お人払いをと言って、周囲を確認した後...
「よし、入ってまいれ」
その言葉で、一人の女性が赤子を抱いて入って来たのだ!
ハッと表情の変わる小一郎、それを確認した後に藤林殿は語りだした。
「戦が終わってから生まれた。朝倉様の御子息であります。
戦国の世のならいとも思いましたが、無駄な殺生を嫌う木下様に相談してからと思い連れてきた次第。
如何いたしましょう」
そう語ると、小一郎の言葉を静かに待った。
・・・
・・・
・・・
しかし流石の小一郎も即答は出来ず言葉を失っている。
事実の報告だけならまだしも、赤子を連れて来てどうしましょうと言われても答えに困るし、赤子を見てしまえば、守る事を考えてしまうのが子を持つ親であろう。
そう、小一郎は父親としての本能で赤子をどの様にしたら守れるかを必死に考えだしていた!
そして藤林様に事の経緯に付いて聞いて見ると、朝倉様が懇意にしている僧侶に頼み身重の奥方を秘密裏に城を落ち延びさせていたのだ。その情報を掴み調査をしていた手の者が行き着いた時には、もう生まれていたとの事。その話を聞くと、生まれたばかりの子でも朝倉家の正当な跡継ぎには間違いない...戦国の世の習いを当てはめるべきだが......
悩める小一郎である。
眉間にシワができて、表情が非常に険しくなっているが...
「藤林様、この子が朝倉家の正当な跡継ぎである証は託されていますか?」
返事の後、奥方の守り刀をさしだした。
それは、とても立派な物であった。
「これを預かっても構いませんか?」
「はっ」
「では、預からせて頂きます。
そして、これからですが...伊賀...いや尾張の木下家にて匿って貰って下さい。書状は書いて渡します。それと伊賀から数人ひとを廻してください。あとは野となれ山となれです」
そう言った後、書状を書き上げ藤林様に託すと小一郎は動き出した。
事後の事を親方達に頼み前田殿・佐々殿を引き連れて山城国まで早馬で駆けて行ったのである。
戦の戦略・戦術を指示して、何千人とあの世に旅立たせる片棒を担いだ小一郎ではあるが、窮鳥懐に入れば猟師も殺さずの心であった。
急ぎ、上洛した小一郎は殿に面会を求める。
絶対零度のナイフのような表情で"お家の一大事"と言って無理やり時間を作らせたのだ!
小一郎と顔を合わせた小姓は生きた心地がしなかったであろう。
「殿、お人払いを!」
私室に通された小一郎は、挨拶もそこそこに話を切り出した。
「小一郎、ここにはワシとお主と久太郎しかおらぬが」
「ですから、お人払いをお願いしております。
殿がどうしても良いとおっしゃられるのなら、同席頂いても構いませんが...」
小一郎から滲み出る多々ならぬ雰囲気に、堀殿を退席させ
望み通りにしたぞ、存分に話をしろという状況が出来ると...
「殿、養子を迎えとうございます」
そう言いながら、藤林様から預かった守り刀を差し出した!
平伏している小一郎を見ながら、守り刀を手に取ろうとすると!
カッ!と目が見開かれる。
「小一郎!!!」
殿の怒気が混じった大声が、私室の響きバーンと小姓達が走り込んでくる。
「誰が呼んだ!
出て行け!」
そう叫んで小姓達を部屋の外に追い払うと。
「小一郎、お主は何を考えている」
怒り、驚き、困惑がブレンドされた心内を表した声色で殿は語り掛ける。
反対ではない。いや反対は出来ない。
それは、千熊丸の件で小一郎の先見の明が証明されているからでもある。
しかし、滅ぼした大名家の嫡男を養子にするだと!殿の困惑は計りしれない。
そして、再び同じ言葉を投げかける。
「小一郎、お主は何を考えている」
「はっ
窮鳥懐に入れば猟師も殺さずの心でございます。
そして、その守り刀が無ければ...只の孤児でございます」
平伏したまま、冷静を装い言葉をなんとか紡ぎ出すが。
もう心臓はバクバクで、殿の顔は怖くて見れない。
そして殿も言葉を失った...
......
......
沈黙が流れた後、諦めた殿が語りだした。
「仕方あるまい。この度の戦の褒美として養子を認める!
ただし、守り刀はわしが預かり小一郎の申した通り、ただの孤児として引き取る様に。
良いな!」
「はっ ありがたき幸せ」
そして話は、奥方の事に移り出産後に出家して亡き夫と我が子の幸せを願い、仏門に帰依したと報告、
監視を怠る事の無いようにと言葉を頂き終了した。
その後、報連相を行い山城国(山崎の関所)と敦賀を行き来して社畜の如く働いたのであった!
「只今、帰ったぞー」
師走に入り久し振りの我が家である。
そして、子供が増えて、にぎやかになった我が家。
千熊丸が初が赤ちゃんの相手をしている。
「あなたお帰りなさいませ」
さきが出迎えてくれる。
「また、苦労を掛ける」
一番にさきに謝り、にぎやかになった家の中に入って行くのであった。
つづく。




