1569年-2
誤字報告ありがとうございます。
「殿、ではその様に手配します」
卯月も中ごろを迎えた頃である。
小一郎は本陣を訪れ、対朝倉家の対応を話し合っていたのだ。
其れは、今の時点では越前国に攻め込む事が出来ない為に、北国街道の要所に砦を築き守りを固める作戦である。まあ一向一揆との戦いで織田領に出陣は出来ないだろうと思うが。
小一郎はその後、内政の問題を次々と報連相をして退席しようとした時だ。
「小一郎」
そう言って一通の書状を渡して来た。
急ぎ目を通してから。
「殿!」
「その事で、相談したい。
いや、小一郎の案を聞こうか?」
この書状は、三好家からの和睦交渉の打診である。
三好家とよしみを通じている堺の商人を通じて、殿に届いた物であった。
「はっ 御提案させて頂きます」
非常に悪い顔をしながら小一郎は語り出した。
「殿、三好家には臣従を求めたいと思っております......
話し合い次第ですがご当主の三好殿には織田領内にて出家して頂くと供に、三好殿のお子様方にも出家して頂き、行動に問題がなければ小姓として召し抱えたいと、そして将来的には織田家内で分家を立てる道を示してやりたいと思います。
また、肝心の三好家ですが...」
......
......
......
「気にするな、小一郎の思っている事を述べよ」
「はっ、では...
木下千熊丸を三好家の跡継ぎとして送り込み、千熊丸の妻を織田家御一門より迎えて織田家を支えてもらう臣下にしたいと思います。
その為には、まず千熊丸の守役を迎えたいと思います。守役には織田家から信用のおける者と松永様と三好家からの者を迎えたいと考えています。
いかがでしょうか?」
・・・・・・・・・・・
流石の殿も驚いて、声が出ない。
まさかと表情が物語っていた!
「小一郎、何時からこの状況を考えていたのだ!
あの時(千熊丸養子願い)からか?」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
「殿のご想像にお任せいたします」
そう言って平伏する。
殿は小一郎を見つめながらも、決断をする。
「では、小一郎!
吉兵衛(村井様)と共に交渉役を命じる。
見事に纏めてみせよ」
「ハッ
最善を尽くします。
ですが殿、一言宜しいでしょうか」
平伏して、返事を待つ...
「うむ、申してみよ」
「はっ
先程の話は纏めません。
三好家に呑ませる話だと思っております。
ですから、三好家側が拒否をしたら捕虜の三好殿達には遠行してもらい、本願寺攻めが終わり次第軍を再編して四国に攻め込む所存でございます。
宜しいですね」
平伏している小一郎の目と言葉に力がこもっている。
帝の顔を立てて共に歩もうとしたのを蹴ったのは三好である。
最早、此方が譲歩する必要は無い!
「......生半可な覚悟では、足元を見られるか
好きにするが良い。
一癖も二癖もある三好家の者を見事に喰らい尽くせ
良いな!」
「ハッ!」
小一郎は念の為の保険までかけて対応する狡賢い男でもあった(笑)
そこからは、善は急げで会談の日時が直ぐに決まったのであった。
「お待ちしておりました
三好家の方は、もう到着しております」
「この度は、お手数をおかけします」
堺の今井様と挨拶を交わし屋敷に通された。
会場は今井様の邸宅である。
広い屋敷の豪華で落ち着きがある部屋に通されると、初対面の三好家の重臣方の後ろに見慣れた顔が....
苦労が顔に出ているが、確かに木下藤吉郎秀吉こと兄者がいたのだ。
お互いが驚いているが、兄者は顔に出ている。
(まだまだだね)そんな事はを思いながらも、席に着くと。
「お待たせしました。
この度の交渉を担当する織田家家臣、村井長門守と申す」
「同じく、木下小一郎と申す」
兄者は驚きのあまり目を見開いている。
弟が出世して、交渉役に抜擢されているからだ。
「三好家代表の、三好日向守と申す」
「同じく、三好宗渭と申す」
「同じく、岩成主税助と申す」
そう、三好家代表団は三好三人衆であった。
また、兄者は三人衆のお供として岩成殿の後ろに控えていて小一郎を見詰めていた。
なにかを言いたそうにしているが、藤吉郎に発言が許されるわけはない。あくまでも主である岩成殿の共の者として出席しているからだ。一人落ち着かない雰囲気を醸し出していたが、それを除けばお互い、落ち着いた雰囲気で和睦交渉は始まった。
小一郎は三好家の内情を把握していた。それは服部殿から内々の報告で、今回の戦で大敗した事で三好家強硬派から戦に反対していた融和派が実権を掴むことに成功して今回の交渉に臨むことが出来たと聞いている。相手方に戦う意思はないし再度畿内に軍を遠征させる余裕も無いとも報告が来ているのだ。
そして、何としても捕らわれている主君を開放して頂き朝敵の汚名を除きたい一心で覚悟を持って交渉に臨んでくる事も報告で聞いていたのであった。
「この度は、和睦の話し合いに応じて頂き感謝する」
そう三好日向守殿が切り出し、話し合いが始まった......
神経を擦り減らながらの話し合いが始まった。お互いに額汗を浮かべながら。
激しい内容の言葉のやり取りから始まり、厳しい内容の言葉の応酬を交わし、一刻・二刻と時は立って行った。
少しでも良い条件を引き出そうと頑張る三好家側と、それを突っぱねる織田家側。
話し合いは、平行線をたどるかと思われたときだ。決裂をさせる訳には行かない三好家側から、休憩の提案があり、双方が了承!半刻後に再開する事になり、お互い別室に分かれた...そして兄者が動き出す。
「小一郎!」
織田方の休憩室に入る前に、走り寄ってくる。
そう、満面の人たらしの笑みを浮かべて!
人たらしの才能と機転を利かせる事にかけては当代随一と、小一郎は兄者こと木下藤吉郎を評価している。従ってスキを見せる事は無いが...
「小一郎、このままではワシらは本国(阿波)に帰れない。
何とか、譲歩してくれ頼む。この通りだ」
そう言って小一郎の足元で土下座をする。
木下藤吉郎なりのパフォーマンスであるが...
「兄者、今は織田家と三好家の話であって我ら兄弟の話では無い。
その様な行動は控えられよ」
そう話すと、兄者とは目を合わさずに部屋に入った。
戸が閉まるのを確認すると口角が少し上がり、兄者の行動が三好家方には余裕がない事から来るものと感じたのであった。
その後...
「藤吉郎!」
「申し訳ございません!」
平謝りの藤吉郎と怒りが込み上げている岩成殿がいた。
これも藤吉郎の計算で岩成殿のガス抜きで、怒りを爆発させて冷静さを取り戻させるのである。
あと交渉役の木下小一郎が実弟である事を話で何とか小一郎に接触を計り、あわよくば譲歩(同情)を引き出す事を考えた行動であった事を伝えた。
「岩成殿、そのあたりで」
三好殿(二人)が助け船を出して、収めてくれる。
岩成殿が怒りまくっているのを見ていて、二人は反対に冷静さを取り戻し控室で話し合いをする、しかし状況を打開する案を絞り出すことは出来なかったのである。そして事あるごとに接触を図ろうとした兄者(木下藤吉郎)がいたのを書き加えておこう。
その後、交渉は1週間に及んだ。
両家共ギリギリの交渉を続けていた。
双方とも急げば足元を見られる。
そんな中、早馬が山崎の関所から書状を持って訪れた。
内容は、畠山家の降伏を知らせる物であり、和睦交渉に大きな影響を与える事となる。
「お話中、失礼致します。
村井様に書状が届いております」
今井家の番頭から書状を預り、急ぎ目を通す。
小一郎も目を通し、了承の上で三好殿達に書状をお渡しをする。
流石、歴戦の強者達であった。表情ひとつ変えずに話を受け止めたが、直ぐに三好家側から休憩の申し出があり一旦時間を取る事になる。すると三好家の家臣達は事実確認の為に慌ただしく堺の町に走り出して行ったのである。
「織田家より提案されている和睦の条件をお受け致す」
翌日、話し合いの席で三好日向守が言葉を絞り出した。
畠山家の降伏が本当の時点で、条件の変更を期待するのが無意味であると痛感したのだ。いやこの事で条件が悪くなることはあっても、良くなることは無いであろうと考え和睦の条件を受諾したのである。
どうにかして、殿(三好家当主)の出家は回避したかったのだが状況が其れを許さなかったのであった。
村井様と小一郎は大役を勤め上げる事が出来て“ほっ”とする。
そして、この時点で敵は石山本願寺と朝倉家の二つの勢力にする事が出来て、油断は出来ないが兵士の運用に余裕が出来るのである。
その後、堺から山崎の関所に三好殿達と移動。
三好殿達と一緒に殿と面会、その後三好殿達は三好家ご当主としめやかに別れの杯を交わした後、阿波本国に捕虜(帰国希望者達)となっていた者達を連れて帰って行った。
家臣達と別れた三好義継殿(その他家臣達)は義兄(前田様)とご縁の深い尾張小松原寺にて出家の為に向かわれたと伺ったのであった。
ちなみに兄者こと木下藤吉郎は、最後の最後まで小一郎と接触を持とうとあの手この手と繰り出してきたが、初日に言葉を交わしただけで相手にしなかった(護衛が阻止した)のであった。
ただ、兄者でなければ手荒い対応をしていたであろうが、やっぱり兄弟である為に非道になり切れなかったのである。
三好家の臣従!浅井家攻略に畠山家の降伏と織田家の領地が広がると、小一郎達のしごとは忙しくなってくる。ベテランの役人達は頼りになる頼もしい存在で、先ずは浅井領から役人を派遣それに表立っては近江の視察として小一郎は同行するのである。
そしてお決まりの別行動をとって、近江国坂田郡石田村に向かったのだ。
ある人物をスカウトする為に!そう石田三成殿の父である石田正継殿を木下組に迎える為に...
石田正継殿は、知る人ぞ知る人物で学問の志が深く才文武を兼ね、学は和漢を通じ和歌を詠ずる風流心があったという人であるのだ。また、息子の三成殿を影から支えていた人物で、実質的に近江佐和山(19万石)を治めているが裏方に徹していて内政官に打って付けの人物なのだ。
「御免、石田殿は御在宅かな」
わざわざ訪れたのだが、残念な事に出掛けられていた。
名前を告げて、また寄らせてもらうと言づけを頼み石田家を後にするのであった。
次に小一郎が向かったのは、国友村で合った。
織田家の鉄砲鍛冶の棟梁でもある権六殿と太郎殿の師匠や師匠筋(兄弟子?)に当たる人々に会う為である。
「織田家家臣、木下小一郎と申す
お忙しい中、時間を取らせて申し訳ない」
そして集まって貰った国友鉄砲鍛冶衆に挨拶!話を切り出した。
自分は権六殿・太郎殿と共に鉄砲生産に携わっている事を告げると、雰囲気が柔らかくなる。
多分、今までは鉄砲の注文とか当家で仕官をしないかとか、もっと安くしてくれとか上から目線で武士たちの相手をしてきたのであろう。鉄砲生産の工程などは一つも答えられないが、二人ともが棟梁として50人以上の弟子を抱えていると伝えた時には「おぉぉ」と驚き個々に「出世したなぁ」とか「あの時、尾張にいっていたら」などの言葉が飛んでいた。2人の事を中心に雑談をした後、流れを見て本題に入る。
「それで、本日国友村を訪れたのは... (その会場を緊張感が支配をする)
権六殿・太郎殿が手掛けた種子島の試射にご招待したい。
そして、色々と助言を頂きたいと思い訪れた次第なのです。
尾張国まで、来てはいただけないでしょうか?」
ホッとした雰囲気が会場に広がった。
国友鉄砲鍛冶衆は、織田家に仕えよと間違いなく言ってくると感じていたからだ。
小一郎も計算済みである(ニヤリ) 織田家に仕えよと言ってもうわべだけの可能性が高い。だからこそ尾張国での試射のご招待なのだ。そしてその後の話し合いで師匠と師匠筋に当たる名工4人(国友善兵衛殿、藤九左衛門殿、兵衛四郎殿、助太夫殿)が尾張まで来て下さる事となり、来月の頭に迎えに上がる事で話を纏めるのであった。
国友村を後にして、北近江から北国街道に向い朝倉家最前線に...
戦をしに行くのではなく、砦?関所を作る場所の選定をする。ここが越前攻略の重要拠点になるからだ。
ただの守りの為の拠点ではない。今後の為にしっかりとしたものを建築したいと思っている。
その為の現地視察である。
「では信光様、関所(砦?)づくりをよろしくお願いいたします」
信光様と面談、報連相を行い双方に齟齬が無いようにしてから、退席をする。
信光様も「任せておけ」と請け合って頂けたので一安心である。
普段なら、親方に頼むのだが現在は石山本願寺攻めの砦の増築を頼んでいる為に、越前国まででばれないのであるからだ。
因みに、この地を任されている織田信光様もやりがいを感じていて、戦働きだけではない織田家にとっては命綱の一つの日本海側の小浜津と敦賀津を任されているからでもあった。
この二つの湊を北の玄関口として、近江の海(琵琶湖)を内海とし一大流通網に育てに掛かるからだ。その事は殿にも信光様にも内々に話してある。全てが織田領繁栄の為でありお二人とも興奮して話を聞いてくれたのである。その為の布石で北近江訪問と内海化を盤石にする為の砦づくりでもある。
そして...
「御免、石田殿は御在宅かな」
再び石田家を訪れていた。
前に訪れてから二週間以上がたって、皐月の中旬ごろを迎えていたのであった。
時は同じく、皐月の中旬ごろである。
石田殿をスカウトに成功した小一郎は、内政の達人の増田君に付けて仕事を覚えてもらう事に、この頃になると各部隊柄の補給の手配の仕事が減り、北近江や大和国・河内国・和泉国の内政関係の仕事にシフトしていった。
内政を任せた小一郎は薄暗い部屋で密談を行っている。小一郎と一緒に座っているのは、服部様、百地様、藤林様と服部殿である。敵勢力が石山本願寺と朝倉家に絞れたことで使者・密偵の拿捕に力を入れる必要がなくなったからだ。四人の労をねぎらい清酒や焼酎で一杯やってねとお土産を渡してから仕事の話に入る。
朝倉家対一向一揆勢の報告からであり、もはや修復は不可能と思われ織田領内に攻め込む事は無理であろうと報告を受け、その後も色々な件で報告を受けた。
「これから一番の重要事項は、本願寺の顕如殿とご子息が闇に紛れて石山本願寺を脱出する事を阻止、あわよくば捕まえて頂けたらと思う。
石山から他国、特に浄土真宗が盛んな地域に逃げられでもしたら厄介で仕方がない。その件お願い出来ないでしょうか?
あと、敵方の補給線を潰せたらありがたいのだが」
「「「「承った!」」」」
四人が、アイコンタクトの後に了承してくれる。
頼りになる伊賀衆である。ただ越前国、加賀国も(嫌がらせ?)よろしくとお願いも忘れずにしたのであった。
伊賀衆と打ち合わせをした小一郎は、直ぐに最前線の本陣に殿の下に向い報連相を行い北近江の状況を理解してもらう。そしてひと時でも早く織田家に心服してもらうように心配りをする事と伝える。またその目途がついたら大和国(松永家領)と河内国・和泉国(畠山家領)にも積極的に動く事となる。今現在も人は派遣しているが役人不足の為に優先順位を付けて順番に対応して行くと報告するのである。
その後一連の報告が済んだ後の事であった。
「小一郎、確認したい事がある」
殿が話づらそうに言ってきた。
殿の話とは、畠山様の件で小一郎が殿に、家臣として召し抱えて織田家の家格を上げるのが一番と提案したのに対して、殿は目を見開き鬼のような形相で聞いていた事の再確認であった。
「殿!、畠山様の件は殿がお決めになられたら良いかと存じます。
私が私の立場で最善と考えるのと、殿が殿の立場で最善と考えるのでは違いがあると思っています。
ですから、殿ご自身が最善と思う判断をされたら良いと思いますし、どうしても間違っている事であれば、自分が止めます。また佐久間様を始めとした織田家家臣が殿を止めに入ると思っています(願望)」
「そうか...
では、好きにさせてもらおう
ところで、小一郎ワシを止めると先程言ったがどのようにして止めるつもりだ?」
「はっ、これは一つの手ですが(笑)
今現在、蝶姫様に納めている殿用の砂糖を止めます。
そして、自分と蝶姫様の二人で説得に当たりたいと思います(笑)」
「砂糖を止められるうえに、お蝶に懲らしめられるか...そのような事が無い様にせねばな!
クワバラ クワバラ」
甘党の殿がおどけると場の雰囲気も幾分か明るくになり、殿の御前を後にする。
その後の殿の御判断は畠山様を家臣に加えて、重臣に加える判断をしたのであった。
「皆さん、尾張までお越しくださり感謝しております
では、そろそろ始めたいと思います。
水無月に入って国友鉄砲鍛冶衆が尾張に、試射会に訪れているのだ。
名工4人(国友善兵衛殿、藤九左衛門殿、兵衛四郎殿、助太夫殿)とお供が数人付いてきていて、権六殿・太郎殿と旧交を温めていた。
しかし、小一郎の呼びかけで権六・太郎の二人の顔が、織田鉄砲鍛冶の棟梁の顔に...
「では、始めます
先ずは、あれを...」
指示を出し中筒が出て来る。
少し離れた場所で観察している国友鉄砲鍛冶衆の目線が鋭くなり、権六殿・太郎殿がどの様な種子島を作っているのか興味津々である。
バッアゴォォォォォォォォン
約25mから30m先にある標的(鎧)に見事に当たり鎧を貫通した。
眉一つ動かさず観察していた国友鉄砲鍛冶衆だが、小一郎の指示で標的を持って行き近くで見せると...
目線がさらに鋭くなり、考え込んでいる。
「次、お願いします」
次は狭間筒である。
余りの長さに国友鉄砲鍛冶衆があんぐりと口を開けている。
そして、標的の位置を見てさらに驚いていた。
標的は約100m先であるし専用の台に銃口を置き、射手は腹ばいに寝ころび現代のスナイピングの要領で撃ち出された。
バッアゴォォォォォォォォン
轟音と共に撃ち出された弾丸は、標的を見事に捉える。
この二射を見て此方に聞こえない様に、小声でああだ・こうだ・そうだなどと話している。
今まで、国友で製造した事のない種子島の為に興味がそそられているのだ。
「では、次お願いします」
次は少音型である。
目標は約25mから30m先にある標的(鎧)であったが...
ブァァァンとシャンパンの栓を開けたぐらいの音が響く。
・・・
・・・
・・・
国友鉄砲鍛冶衆は何が起こったか、理解できていなかった。
火縄銃よりかなり小さい音に火薬爆発による煙も無い。
でも、標的には弾痕が・・・
国友鉄砲鍛冶衆が、権六殿と太郎殿に話を聞こうと詰め寄りだすと...
兵士達が二人を守る様に立ちはだかったのだ。
「これはどういう事かな?」
国友鉄砲鍛冶衆の誰かが言った。
皆、直ぐに二人(権六殿と太郎殿)に話が聴きたいのだ!
兵士達の行動に少しイライラしているのが分かるが小一郎はどこ吹く風である。
全てが計算通りであったからだ(ニヤリ)
新兵器を見せられて、鉄砲鍛冶の血が騒がない訳がない。しかも初見である!
もう我慢できないのであったが。
「アレを見て頂き、ご意見をお聞かせください。
ただし、種子島をお見せする事は出来ません!」
小一郎は鬼の様な仕打ちをしたのである。
鉄砲鍛冶に珍しい鉄砲を見せつけて、それだけ...マテ!の状態である
「そんなのは、種子島を見なければ意見など言い様もないわ!」
と返事がくるも、小一郎は涼しい顔である。
そして...
「困りましたな、お約束は試射をお見せするまででございまして、これは織田家の最高秘密であります。
織田家の鉄砲鍛冶か射手にしかお見せできないのですが...
困りましたな........
仕方ありません、こうしましょう!国友鉄砲鍛冶衆が織田家家臣となって頂けたらお見せしましょう」
恐ろしく白々しく下手な演技を全員に見せ付けて全員の反応を見る。
国友鉄砲鍛冶衆も此処に来て罠にハマったと思うも後の祭りであったが、あんな物を見せられればもうたまらない。もう我慢が出来ないみたいで......
「分かった、家臣になればよいのであろう家臣に!」
我慢しきれずに一人言うと、全員が頷いたのだ。
心の中でニヤリと微笑みながらも、腹芸を発揮して...
「では、此方の起請文の内容をご確認の上、署名・血判を全員お願いします」
心の中でクーリングオフはありませんしさせませんと思いながら、起請文を渡すと我先にと4人の名工が手に取り、内容の確認!署名・血判を済ますと飢えた獣の様に種子島に権六殿と太郎殿に食らいつくのであった。ナム~。
ただ恐ろしい事に、4人の名工達は次々と問題点を指摘していきその話を必死に聞く権六殿と太郎殿、鉄砲鍛冶としての熟練度の差をまざまざと見せつけられる。そしてその足で鍛冶場に全員で向い魔改造が始まったのであった。
種子島の事は専門家に任せて小一郎は鉄甲船の造船所に、九鬼君を訪ねる段取りを行うのであった。
因みに、小一郎が試行錯誤している硝石の製造は今だに出来ず自家製産を諦め、三雲様と九鬼殿を中心とした商いで仕入れる事とした。ただそれでも発生するであろう火薬不足を鑑み、堺からも購入するし小浜湊と若狭湊に来る外国船からも積極的に取引をしていく事になったのを書き加えておこう。
結局は新しい畑の肥料ができたとさ...トホホホ
「木下殿......それは.......流石に.......ちょっと.......」
あの荒くれ者達を従える。九鬼殿と佐冶殿が言葉に困っている。
表情もなんて事を言ってくるんだと書いてあるのだ。
今度は何を提案したか?それは瀬戸内の塩飽衆と真鍋衆と日生衆!それと熊野水軍・雑賀水軍を味方に引き入れられないかと相談をしたのだ。
「木下殿、何故それらの水軍衆を味方に引き入れたいか、教えてくれないか?」
二人の素朴な疑問である。
今、織田家は瀬戸内や紀伊水道など構っている時では無いと考えている。
敵は石山本願寺(加賀の一向一揆勢)であり、朝倉家であるからだ。
「分かりました」
そう答えると、日の本の地図を広げて現状を指し示しながら語り出した。
ただ小一郎の表情が消え、淡々と丁寧な言葉で...
「九鬼殿、佐冶殿、この戦はひとつ間違えば畿内の争いでさえ5年はかかると思っているのです。
そして、戦に決着が付かない最大の理由が石山本願寺に補給が来る事だと考えています。
今現在、補給路の洗い出しなどもやっていますが、石山本願寺は水路を張り巡らせた場所にある要塞である為、完全に封じるにはかなりの時間がかかると思っています。そんな時に外の勢力から補給が届いたら......どうにもなりません!ですから敵方の補給路を潰す為の水軍衆の取り込みなのです」
「では、どの勢力が織田家と敵対してまで手助けると?」
小一郎の雰囲気と内容にただ事ではないと、佐冶殿の表情と言葉に鋭さがます。
「......西国の大国...毛利家
その補給部隊として村上水軍が出てくる可能性を危惧しているのです」
「「まさか」」
「そのまさかです。
中国地方には浄土真宗本願寺派の寺が沢山あると聞いています。特に安芸国には。
家臣達(信者)が毛利家首脳陣に援軍(補給)などを出すようにと訴えて行けば、一大勢力である為に無視できなくなるでしょう。ですから塩飽衆・真鍋衆・日生衆・熊野水軍・雑賀水軍を味方に引き入れたい。
ただし、雑賀衆は本願寺方とそれ以外に分かれている可能性があります。水軍関係が本願寺方でなければ良いのですが...」
小一郎の話内容は、九鬼殿・佐治殿にとって意外なもので、そしてまさかの毛利家参戦の可能性まで聞くと、この戦の山場はまだまだ先にあるかもしれないと思う。
其処まで話をすると九鬼殿と佐治殿はダメもとでも話をしようと言ってくれた。ただ、水軍衆を従える為には圧倒的力!が必要だった。正直に話すと例の鉄甲船が完成していれば...とない物ねだりをする二人が居るのであった.....
2人と別れた小一郎は、とんぼ返りで山崎の関所にかえる。今や織田方の畿内の中心地は山崎の関所となっていた。いつの間にか人口が増えて行く。人物金が集まり熱気のある街に成長し始めていた。
帰るなり、服部殿にご足労を願い安芸の国へ人を入れてもらう。そして「石山本願寺を助けたならば、毛利家も朝敵となるかもしれない」と噂を流すようにお願いをした。もし補給部隊を送る気でも毛利家の両川である吉川殿と小早川殿に噂が届けば二の足を踏んでくれるかもしれない...いや毛利元就公のお言葉を思い出してくれればよいが...また、ご当主の毛利輝元殿が迷えば儲けものか?そんな事を考えながら、今打てる手を一つづつ打っていくのであった!
つづく。




