表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/47

1569年-1

誤字報告ありがとうございます。

新年を山崎の関所で迎えた小一郎は、殿に急遽呼び出しを受けていた。

伊勢志摩より早馬が訪れたからだ。


「小一郎、平島公方の足利様が遠行された」


「そうですか」


素っ気ない対応に......


「小一郎、お主何か知っていたな」


「・・・はっ

 報告によると足利様は、背中に腫瘍が出来ていて体調が悪いと聞いていた為に驚きが無かったのです」


前世の歴史で知っています。なんて答えようが無いから、あくまでも報告で聞いた事にしておく。


「では、対策も出来ているな」


「はっ、足利義助様に跡を継いで頂き足利の血脈を保護したいと考えています。

 また、織田家には其れを行うだけの懐の大きさも有ると思っています。

 それと......失礼しました」


「それと、何だ?」


殿の目線が早く言えと、訴えている。

仕方無く話し出す。


「足利様には、伊勢志摩国で心安らかにお過ごし頂きたく思っています」


「ふん、真面目に答えおって!飼い殺しにするのだろう?」


殿~直訳しないでぇぇぇぇぇぇぇぇ、と心の中で叫びながらも表情にはいっさい出さずに、平伏して誤魔化すのであった。


「まあ良いわ、で小一郎!これからどうするのだ!」


ギロリと殿の視線が刺さる。

織田家の現状は、一番の山場は越えたが四方に敵を抱えたままだからだ。


「申し上げます。

 現在の各諸将が行っている作戦をそのまま遂行していきます。

 そして、殿自らが出陣して柴田隊と合流!して本願寺を兵糧攻めにしたいと思います。

 難攻不落の要塞の為に、無理攻めはせずに二年でも三年でも戦をする覚悟であります」


「やはり、その覚悟が必要か......

 わかった....」


殿の御前を退出した後に、小一郎は考え込む......

織田本隊と柴田隊を再編すれば二万七千から二万八千の部隊となるだろう、実際にその人数では包囲が出来ない為に、その部隊を用いて敵軍が出陣出来ぬ様に入り口を塞ぐ事しか出来ないだろう。そしてその為には水軍も必要だと考えてしまうが、考え出したらキリがないひとつずつ進めて行こう。

しかし、小一郎はこの時に思い出す。西国の大国が水軍を派遣して本願寺を援助する事を、そして小一郎への無茶振りが始まる事を!


では、現在の状況を確認しよう。

北の朝倉家との現状は、冬将軍のお陰で休戦だが雪溶けを迎えたら状況がどの様に動くか判らない。ただ保険(一向一揆との争い)があるので北国街道を南下して織田家との戦を朝倉家から行う余裕は無いと思われる。いや思いたい。南下されるとハッキリ言って非常に厄介で小一郎の戦略にも狂いが招じるのである。

次に浅井家との戦闘だが、北(織田信光隊)と南(蒲生・平井隊)から攻め立て浅井方の支城を次々と攻略!浅井家はもはや風前の灯火となっていた。

大和国の状況は遠巻きに、信貴山城(松永家)を中心に監視している。内藤・平手隊は要所に陣取り、織田家本国を守る任務を忠実にこなしているのである。

それと畠山家との戦はこれからである。畠山家には三雲隊と橘・池田隊を派遣!対畠山家の作戦を実行中である。

また、三好軍に対しては畿内より駆逐する為に、佐久間隊が掃討作戦を展開している。

問題なのが、本願寺である。

野戦で勝利したとはいえ、多数の兵士達が本願寺に帰還して籠城の準備をしていたからだ。

その上、寺とは名ばかりの城塞の攻略である、簡単に行くはずは無いからだ。今は柴田隊が本願寺に対応してもらっているが、本隊の再編が終わり次第に殿自らが出陣の予定であった。



「ただいま、帰りました!」


如月に入り、尾張国に帰って来ました。

子供達に(さき)が迎えてくれる。久しぶりの自宅!かわいい子供達に優しい妻と幸せを感じるのも束の間で、小一郎は精力的に動き出す。

清須城にて城代の織田信広様と会見、現在の状況の報告して三河一向一揆の現状の教えを乞う。

また、尾張国の現状を教えて頂き対策を打っていったのであった。




「全員揃いました!」


九鬼君の司会進行で小一郎の無茶ぶりが始まった。

清須の広間には、九鬼君と志摩から九鬼殿に佐治殿と両家の主だった者達と領地内(尾張・伊勢志摩)の船大工の棟梁が勢ぞろいで合った。あっ勿論信広様も御来席である。

これだけの関係者が揃う事は初めてで、全員が今から何が始まるのだと不安を抱えていた。

それは、別の意味で当たっていたのだ。

挨拶もそこそこに、本題に入って行った。


「皆さんに、仕事の依頼をしたい。

 織田領内で腕利きの船大工の棟梁達に、出来ない事は無いと思い集まって貰った」


威勢の良い返事が帰って来る。腕利きと言われて、悪い気はしないものだが...


「それで、作ってほしい船は!

 海上に聳える(?)黒鉄の城を作って頂きたい!」


「・・・・・・」


棟梁達は目が点である。

そして、こいつ何言ってるの?と表情に出ているがそんなの関係ない!


「具体的には、鉄甲船を作って頂きたい。

 安宅船を基本として、船体を鉄で覆った船である!

 この船を、織田家の旗艦として艦隊を形成し織田水軍を日の本一の水軍を作りたいと思います。


 力を貸してもらえませんか!」


・・・

・・・

・・・


棟梁達は目が点である。

棟梁達だけではない。織田信広様に九鬼殿に九鬼君・佐治殿とこの広間に集まっている者、全てである。前世の史実では、織田水軍が村上水軍にケチョンケチョンに負けてから対村上水軍の為に作り上げたものだが、今はまだ、毛利家と敵対関係ではない。あくまでも現時点ではだが...

このまま行けば、毛利家の家臣団の本願寺派の信者が動き、毛利家も動かざるを得まい。来るのが分かっているのなら、先に準備してしまえばよいよね!そんな発想であるが、この時代の人々にとっては鉄の船の発想はない。史実での織田信長様の着眼点の凄さとそれを可能にする決断力と財力と、殿のプレッシャーに耐える人材が揃っていたから出来たと考えている。

取り掛かるのが多少早いが、些細な問題である。

さあ、船大工の棟梁達はどうする?


・・・

・・・

・・・


誰も声を上げない。

誰も上げられないのだ。

前代未聞の依頼にしり込みをしてしまっている...


「誰か、挑戦する者はいませんか!

 ・・・

 ・・・

 ですか...ではこの話は無か「ちょっと待ったぁ!」った事に」


皆の目線が、奥にいた一人の若い棟梁にあつまる。


「その話、乗った!

 師匠や諸先輩方が受けないのなら、オラに受けさせてくれ」


諸先輩からは、無理に決まっているとか、やめておけとか言われているが、現在でもベテランは安定を求め若手はチャレンジしていく。その構図はどの時代でも一緒であったが...

一人が手を上げると、次々と若手の棟梁が手を上げて最後には・・・


「ワシも乗ろうか!」


今まで成り行きを見守っていた船大工の棟梁(源三郎殿)が重い腰を上げる。

かなりの影響力があるみたいで、若手の船大工達がビビっているが。


「面白そうな話には、乗るしかないな」


ニッカと笑いそこから全てが動き出したのだ。

話し合いの結果、九鬼君を頭としてその下に源三郎殿を筆頭とした船大工達が6隻の鉄甲船の建造にかかり、勿論挑戦OK責任は問わないと確約(小一郎が)してオール織田家の体制を整え、人物金を積極的に工面、後世に残る船づくりが始まったのであった!

話し合いの後、九鬼君が蒼白になっていたのは秘密である。

因みに、最終責任は自分が取る!思い切ってやってくれと伝えたのと、報連相は忘れずに!とアドバイスをしたのだ。

またその後、前田殿(ぎけい)と筒井殿と会談、有る事をお願いして帰宅の途に就いた。


「御免、木下殿は御在宅かな」


すると計ったように弥七殿が訊ねてくれる。

挨拶もそこそこに、報告に入った。

まずは、覚慶様の近況報告で、心穏やかに過ごされていると警護担当からの報告である。怪しい接触者もいないとの事であった。もしここで覚慶様を担ぎ出して足利幕府を再興の動き出されれば大混乱が起こる可能性が有る為、今後も厳重な警護を依頼した。

次に、三河国の内情報告だが激しい戦いが続いており、一揆を鎮圧できても今川家領内には深刻なツメ跡が残り、周辺国と対立する事は難しいであろうとの事であった。

それから、武田家、北条家、斎藤家、上杉家の報告を受けた。

ただ、気になったのが上杉様が連合軍ブラス1(武田家)に対して激怒している事であった。上杉家と武田家は現在、越中国内で代理戦争を行っている最中だからだ。ただ直ぐにどうこうは無いと判断して次の話に進む。


「それと、依頼のあった鉄砲鍛冶衆ですが、怪しい人物はいないと報告が上がっております」


今や50人を超えた大所帯の鉄砲鍛冶衆ではあるが、良い人材が集まってくれて助かってる。それが本心である。おかしな奴が紛れ込むと、大事な事を頼めないからであった。

それから、善は急げで弥七殿と一緒に親方達(権六・太郎)の工房へ足を延ばし挨拶もそこそこに密談に入った。


「権六殿、太郎殿」


厳しい表情で話し始めた小一郎を見て、ただ事ではないと気を引き締める二人。


「お二人に、お願に参った」


そう言って小一郎は話を切り出した。

断れないお願いを...


「弟子達に仕事を任せて、お二人には新たに開発に取り組んで頂く。

 小音型の銃身にああで、こうで、そうで、こうなって、ああなるんです。

 頼めますかな?」


二人は目が点である。

よくもまぁ、こんな発想が出来た物だと感心している。

これが完成すれば、運用は面倒だが小音型の威力不足と命中率のアップが図れる。これがあるのと無いのでは織田水軍の火力に差が出るのだ。是非とも成功させて頂きたい。いや、成功して頂くと少しダークが出る小一郎である。


「木下様、承りました。

 ただし時間をください。

 今までは、全体を大きくしたり長くしたりでしたが、今回は全く初めての挑戦です。

 これが完成したら、どの様になるか楽しみです」


ニヤリと笑いながら、二人は鉄砲鍛冶の血が騒ぐのである。


「宜しくお願いします。

 それと、防衛専用の種子島と完成している大筒(地上設置型)✖️3を持って行きます。

また、使い方を指導する為に、数人に出張してもらいます」


「了解しました」その言葉で密会は終わり、短い尾張国滞在は終了したするはずであった。

其れは、出発の為に準備をしている時であり吉報を持った使者が清須城に訪れたのだ。

信広様に呼び出された小一郎は、三好軍の掃討作戦を行っていた佐久間隊が三好家御当主と側近達数人を捕虜にした事を教えられた。

報告よると、先の決戦の後に摂津国南部で数度となく三好軍対佐久間隊で戦闘が行われる。

ただ、一度折れてしまった兵士達の心は持ち直す事無く何とか負けない戦を展開していたのだ。しかし勝てない戦に上がらない士気、止まらない脱走兵と悪循環は止まらなかった。そんな中でも現状を打開しようとがんばっていたのだ。ただ頑張ったからと言って良い結果が出る訳では無かった。

最後の戦いでは佐久間隊9000人に対して三好隊8000人とほぼ拮抗した兵力であったが、士気の高い佐久間隊が押し切り、敵方は大混乱に...それを必死になって立て直そうとしていた三好殿達は結果として捕虜となるのであった。


「これで、三好家は動けなくなるな」


小一郎はそう呟く、二万の大軍を誇った三好軍も数度の戦で兵は四散してしまう。やっとの思いで繋ぎとめた兵士達も士気は低く敗退してしまう。やはり戦は難しい慎重に慎重を重ねねばと深く思うのであった。





「殿、只今もどりました

 この度は「そんな事はよい」お・・・」


尾張より戦場(石山本願寺、攻略作戦本陣)に出頭した。それは弥生に入った頃であった。


「小一郎、あれをどうにかせよ!」


挨拶も済まない内に、殿の無茶ぶりが...

あれでは判らないので、堀殿が立て板に水が如く言葉を紡ぎ出して説明をしてくれた。


「本願寺方の鉄砲隊ですな

 どちらの者達ですかな?」


「多分、雑賀衆だと思われます」


堀殿が簡潔に答える。


「そうだ、練度も高く腕も良い!攻めようにも邪魔で仕方がない。

 我が軍にも多数の被害が出て来ている。


 小一郎、どうにかいたせ!」



「・・・ハッ」


帰って来ていきなりの命令に小一郎も対応が出来ない。

準備が必要だと心の中で思い殿に時間を頂き退席すると、急ぎ山崎の関所まで帰り滝川殿に書状を書く、内容は鉄砲隊で腕の良い者を5人送ってくださいとお願いの書状であった。

其れからは、ある物を大量に山から切りだし束にしてから、山崎の関所に集める事を命じたのであった。




「さぁ、始めようか


 全軍出陣!」


小一郎が珍しつ陣頭に立っている。

脇には親方に木造殿がサポートをしていた。

前田殿と佐々殿が兵1000率いて......

ただ、先陣の兵のうち半分が竹の束を持ち、隊列を組んで竹束の壁を作り前進していた。



「上手いこと行きますかな」


敵方鉄砲衆対策の竹束の壁に、織田軍の諸将は興味津々で見ているのである。

そして、作戦目標は石山本願寺の西側で門の無い辺りである。

何故って、小一郎の作戦は橋頭保作りであり、雑賀衆をはじめとした敵方の鉄砲衆対策だからだ。


木下隊が竹束を持って前進!兵達もおっかなびっくりである。

本願寺攻めを数回行うが見事に撃退されているからであり、敵方の飛び道具対策が竹束?だ。

敵方も準備万端で、迎撃準備が出来ている・・・


バァァァァァァン


バキバキと先方隊の竹束に弾が当たるが・・・


「大丈夫か!」佐々殿の声が先陣に響き、兵士も無傷を伝えた。

そこから、敵方の発砲が続くが被害はごくわずかで死者はいなかった。


「木下様に伝令だせ、作戦は成功と!」


先陣よりの報告の後に。


「親方、木造殿、頼みます」


「「心得た」」


「野郎ども、一仕事しにいくぞ!」


「「「「おう!」」」」


親方と木造殿と工作兵たちの作戦が開始される。

乱れがみられる敵方、数回の攻防で押し返しいたからどこかで安心していたのであろう。

頼みの鉄砲隊がほぼ無力化されたから、対応に追われ出したのだ。

敵の乱れは、我が軍にとってチャンスである。


「では、頼みます」


「心得た!」


小一郎はここで敵方をもっと混乱させる為に手を打つ、敵方の鉄砲隊狙撃の為に滝川隊より出向いてもらった腕利きに出陣してもらう。そして全員が普通の三倍の長さがある狭間筒を持って...


「野郎ども、段取り良くいくぞ!」


親方の掛け声に、「「「「「おう!」」」」」と掛け声が戦場に響き士気でも織田軍が上回ると、見事な速さで砦の基礎部分が構築されていく。それは見事な無駄のない動きであり、親方と木造殿の統率力の賜物でもあった。

そして親方と木造殿に前田殿・佐々殿には事前に、竹束は長時間保たない事と一点集中されれば直ぐに壁が崩れる事を伝えてあるから、無理はしない様にと伝えてはいたのだがそれは杞憂に終わりそうであった。


ブァアアアアン

大きな爆発音が響きだす。

それは、滝川隊の射撃が始まった合図であった。。

鉄砲兵達は寝ころび銃口を専用の台の上に設置して射撃をしだす。正に現代のスナイパーと同じであったが、射撃場所は発射音でばれてはいたが...



爆音とともに着弾音が敵方に...

武将の怒鳴り声が響くが、鉄砲隊の位置を見て愕然とする。


「馬鹿な、織田軍の鉄砲隊は化け物か」


防がれる我が隊の鉄砲と、我が隊の射程距離外から届く織田方の鉄砲もはや打つ手は無い。その事を本陣に伝令を出すことしか出来なかったのだ。



「予定通りに進んでおります」


半日が立った頃、親方からの伝令に考え込む小一郎...

殿に伝令を走らせて、打って出てくる敵方の迎撃を頼んだ。

本願寺方の打てる手は、それぐらいしかないから先に準備に入る。

そんな事をしている間に組みあがって行く砦、現代のプレハブ作りみたいであった。

ただ、そう上手い事ばかりでもない。敵方も馬鹿では無い敵方の鉄砲隊が一点集中射撃をしだしたのだ。

大体だが竹束の耐久力にも限界はあるし籠城戦は時間がかかる、無理をする事は無いと思い前線が崩れる前に射程外までの後退を指示、しかしなんとか砦の体裁(石山本願寺側に防御壁を作る事に成功する。それを見た敵方は夜襲や明け方の襲撃や強襲を何度も行うが、織田家の各諸将が何とか凌いで撃退する。そして一週間後に砦は何とか完成したのであった。




「小一郎、見事だ!」


殿はご機嫌である。

今まではこれと言って戦果が挙がっていなかったが、砦が出来た事でプレッシャーをかける事が出来るからだ。


「ありがとうございます。

 しかし、此処からが本番であります」


本陣で殿と会見中に、使者が走り込んで来た。

書状を読み口元の口角が少し上がった。

柴田様に書状が渡ると、一瞬にして驚きの表情に。


「殿!」


「ああそうだ。

 松永が降った」


此処にいた全員が寝耳に水であったが、本陣が喜びに包まれる中で小一郎なぜ?と考え込む...

情報はシャットアウト出来てないのでは?疑問が浮かぶが使者が行き来出来ているのなら、先の決戦で各地の敵方が陽動に動く筈だがそんな動きはなかった。疑問は深まるばかりであった。




「では、始めようか!」


ドガァァァァァァン


恐ろしい程の爆音が砦に響くと、大筒の球は石山本願寺の本堂方向に飛んでいく。

ただし、どこまで飛んだか分からないが...


「成功だ」


続いて、ブンと投石器が石を打ち出した。

そして綺麗な放物線を描き、水堀の対岸(石山本願寺)の寺町の建物に命中した。

恐ろし破壊音に慌てふためく敵兵達。本願寺方は反撃のしようにも反撃が出来ない。敵方の武器の射程外からの攻撃で反撃の方法がないのだ。

投石機が200から300メートル先の敵方の寺町を一方的に攻撃するのだ。止めるには、門より打って出て砦を落とすしかない。しかしそれは待ち構える織田軍の餌食になるから、打って出る事とも出来ない。

一方的に殴るだけである。そして、そんな事をしている間に大筒が本願寺に対して火を噴く...しかし当たっているかはわからないが、散発的にではあるが安全地帯と思っていた城内?本堂に大筒の玉が飛来する。当たったとか当たらなかったとかは問題ではない。もはや石山本願寺内に安全地帯ではなくなったのであった。


「どうですか?」


「木下様、問題ございません」


試射を終えた、大筒と投石機には双方とも問題がなく作戦に移る事が出来る。

ただ、大筒(地上設置型)の弾には限りがあり連射は出来ない。

大事に使わなければならないが、尾張より輸送便が届くまでの我慢である。


「では、嫌がらせを始めましょうか!」


小一郎は、鉄砲鍛冶衆に用意をお願いして大筒の弾を真っ赤に成るまで熱してから打ちだす事を指示する。狙いは敵方の被害を大きくする為だが、具体的には火災狙いである。

打ち出した弾が、建物内部の可燃物にでも着弾すればそこから火災が狙える。かもしれない。

正直に話すと嫌がらせであります。

それで大筒は取り合えず、明日から一日一発で夜中に時間差で三発打ち込むように指示をしてこの砦を佐久間様に任せたのであった。

守る事や撤退する事にかけては、織田家ナンバーワンに預けるのが一番だからだ!

この砦が、対石山本願寺の橋頭堡なのだから!

そして小一郎は次に取り掛かるのだ。

それは砦を中心として、石山本願寺の水堀に沿って砦を延長させていくのである。しかしそれだけではない。小一郎は織田領内の鍛冶屋に鎖の製作を依頼していたのだ。

その納品されている鎖を使い大きな材木をつないでいって、水堀りの外側に渡らせて本願寺方の補給路の水運を一つづつ潰していく地味な作戦を指示したのだ。

暗闇の紛れて、船で補給をしているのは間違いない(はず、してると思う、たぶんそうだろう、そう思っている)ので、それを地味に潰していくのである。

何か月もかかる地味な作戦だが、本願寺との戦いを一回で終わらすためだ!手は抜かないのである。

この作戦は、小一郎が長島一向一揆様に考えていた補給路封鎖の作戦だが、この物語では長島一向一揆が起こらなかった為に、石山本願寺攻城戦で試してみるのであった。






「小一郎、お呼びにより参上いたしました」


山崎の関所で各自の手配をしていた時に、殿に呼び足され急ぎ本陣に出頭したのだ。


「ご苦労」と殿のねぎらいの言葉の後で殿の無茶ぶりが始まったのだ。


「小一郎、松永か降伏したのは聞いているな

 その松永弾正が、この戦に参加して織田家の一員として手柄が上げたいと、あの男が殊勝な事を申してな。

 その手配を頼む!」


「ハッ」


返事をして頭を垂れたが(殿~無茶が過ぎます~)と心の中で思うも、顔には出せない。

主命である。どうにかしなければならない。

ただ、現在作戦実行中の部隊と合流させれることもかなわず。裏切りにあっても痛くない。ただ本人達からははとても重要な任務と思わせなければならない...考えを巡らせていると。


「困ったな」ボッソ


「小一郎、何か言ったか?」


ギロリと鋭い眼光が...殿の地獄耳に小一郎の愚痴が...

しらを切り何事も無かったように、殿の前から退席したが頭の痛い問題を突き付けられたのだ。

先日まで、敵方であったのだ。戦国の世の習いで先陣を任せて忠誠を見せてもらうぐらいしか思いつかない。しかし、現実的には城攻め(本願寺攻め)の先陣など死んで来いと言っている様な物である。

武士が戦で死亡するのはまだ良い。己の尊厳を掛けて戦うからだ。ただそれに付き合わされる兵士(農民)はたまったものでない。そう思っているからであった...困ったものである。


予想外(松永家の参戦願い)の事を保留にしながらも地味に着実に、本願寺の首をじわりじわりと絞めつける作戦を展開していると、弥生の終わり頃である。蒲生様から伝令が本陣に訪れたのだ。それは小谷城落城の知らせで合った。

囲むこと数か月、じわりじわりと城攻めをしていた。織田信光・蒲生・平井の各隊は山崎丸を始め福寿丸や大獄や金吾丸に月所丸などの出丸を攻略!じわりじわりと首を締めあげていたのである。

ただでさえ、謀反で実権を取り返した浅井久政殿である兵力不足の上に援軍は無く補給は立たれている。士気は上がらず風前の灯火であったのだが、武士としての意地であろう最後は城に火を掛けて自刃、こうして浅井家攻略が終わったと報告が来たのである。

殿は使者に、浅井長政殿の安否を尋ねたが不明であることが伝えられた。

そして、大きな山場の一つを越えた織田家は、北近江を領有して人物金の流れが増々良くなる事に思いをはせる小一郎が居たのであった。





「殿、手柄を立てさせてください!」


松永様が殿に再び願い出た。

それを小一郎は保留して、半月程が経った卯月に入った頃であった。

その申し出は...


「畠山家に使者としてまいり、降伏を進めてきたいと思います」


畠山家には、三雲隊や橘・森隊が作戦を実行中で、徐々に追い詰めていると報告が入っている。

ただ、敵方は情報封鎖にあっている為(伊賀・甲賀勢の活躍により)に現状を理解できていない。

(小谷落城に松永家降伏に朝倉家と一向一揆の戦など)

其処に付け込み、降伏を進めてきたいとの事。

ただ、殿の条件は鬼であった。


「では、弾正(松永様)!無条件降伏のみ許そう。

 打ち首になるか、切腹するか、落城して一族や家臣が迫害に合うか好きなのを選べと申し伝えい!」


「ハッ!

 かしこまりました」


そんな鬼のような条件を突き付けられても、表情を少し見変えずに涼しげに旅立つ。

その話を聞きつけて、小一郎は慌てて殿に面会を求め本陣に出頭したのだ!


「殿、ご提案がございます!」


本陣では殿を始め、首脳陣が揃っている所に小一郎は押し掛けたのだ。

ただ、最初からダークモードで!

この状態の小一郎に散々振り回されて来た殿達の雰囲気が一気に変わり、本陣内は恐ろしい程の緊迫感に支配され、小姓がバタンと倒れ運び出されるほどである。


「殿、ご提案がございます」


静かに語り掛けながら、首を垂れる。

「うむ、申してみよ」と返事を待ってから話を始めた。


「殿、聞いた処によると松永様が畠山家に使者として向かったそうですが...

 その事で、もし無条件降伏をしたら重臣に取り立てて頂きたい。

 その事をお願いに参りました」


「小一郎!

 お主の考えを述べよ」


殿の目線は鋭く、殺気に近い物も感じられる。

小一郎は、恐ろしさを感じながらも微塵も其れらを感じさせぬ態度で、話始めた。


「はっ

狙いは、織田家の家格を上げる為にございます。

畠山殿は足利氏(足利将軍家)の一門にて室町幕府の三管領家の1つである畠山氏出身の名門中の名門の御家柄であるのはご存じだと思います。そして織田家は尾張下四郡を支配する守護代「織田大和守家(清洲織田氏)に仕える庶流として、主家の重臣の清洲三奉行の一家で弾正忠を称した家であります。そこから殿が目覚ましい活躍を見せられて、現在に至るのですが家格が低いと思われているのが現状であるのは致し無き事でありましたが、ここで好機が訪れました。

畠山様を家臣として迎えて、足利家の治める時代の終焉とこれからの織田家は足利家一門よりも格上と見せつける好機にございます。

ご一考をお願いしたいと存じます」


その話を聞いた殿は、眼をグワッと見開き恐ろしい眼光を小一郎に向けながら...


「その話は、畠山家が無条件降伏した後に再び話を聞こう!

 ご苦労であった!」


殿の前を退席した後に改めて考えて見ると、殿は畠山家を倒して足利一門の時代も終わったと周囲に見せ付けたかったかも知れないと思う。ただ松永様の畠山家に対する降伏勧告だけが予想外でその上、小一郎が提案をしてきたものだから...

全ては、松永様の成果次第かと思う小一郎であった!





つづく。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ