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1568年−1

誤字報告ありがとうございます。

「木下様、お気をつけ下さい!

大手門にて、母衣衆が待ち受けております」


「!!!!!」


それは、年が明けた睦月の事で、小一郎は約半年ぶりに尾張国に帰って来た時の事だった。

登城の途中に町人に変装した弥七殿がすれ違い様に囁いてくれる。とうとう実力行使に出るのか?しかし・・・相手をしていては面会の時間に遅れてしまうどうしたものか?


“ポン”


「裏口からにしよう」


母衣衆の相手は後回しにして仕事優先であるが、城内にて面会を待っている時に女中に耳打ちをしてあることを頼んだ。

これで万が一の時でも大丈夫だろう。



そして夕刻・・・・・・報連相を全て済ませて大手門より帰路に付く。


「おつかれさまです♪」


「おう、おつかれさん」


大手門で寒さに震えながら待っていた、母衣衆の横を通って何事も無かったように帰って・・・・・・


「お おい おい 待て!」


全員が寒さでブルブルと震えながらも大声で呼び止められた!


「何か?」振り返り声をかけると。


「お お お お前よくも俺達をこけにしてくれたなぁ!

 俺達を!俺達を!」


母衣衆の筆頭の一人、前田殿が怒りに任せて大声で叫んでいる(寒さに震えながら)

史実では兄者を通じて仲良し?だったのだが、今は内政官嫌いの筆頭の一人であった。

因みに、もう一人も母衣衆の佐々殿であった。*弥七殿調べ


「織田家の獅子身中の蟲  木下小一郎ー!

 我々との約束を蔑ろにしてくれたなぁ!」


「えっ・・・・・・約束などして無いですが・・・」


「えっ・・・・・・」

「・・・・・・」


「おい・・・」仲間で集まりボソボソと話しをしている。


アホかと思ってしまいその場を後にしようとするが、その頃には大手門前には人集りができもの珍しそうに皆が見ているのだ(逃げれない)

そして・・・小一郎の回りを囲むと。


「そんな事はどうでもいい!!!!!」


逆ギレして叫びだす。

誰も約束してなかった事を誤魔化す為にの逆ギレだった。


「織田家の獅子身中の蟲である木下小一郎を弾劾する!

 重臣である村井様を騙しご息女と結婚、今度は虎の意(村井様の力)を借り織田家の内政を壟断して私利私欲を肥したことは明白である。

 よって、我ら織田家の赤・黒母衣衆が殿に代わり天誅を加える!」


大声で小一郎を弾劾(みせもの)にして正義は我にありをアピールする自分達に感動している。

自己陶酔にも程がある。母衣衆=エリートの図式が底辺にあるのだろう。


「はぁ〜」


余りのアホさかげんに溜め息しか出ない。

母衣衆達は刀に手は掛かっているがまだ刀は抜いていない。抜くと後に退けなくなるからだ。

小一郎は刀に手はかけていないが、対応出来る様に回りには気を配っている・・・ただ相手方に殺気は無い。

すると・・・あっ・・・・・・・騒ぎを聞きつけ(多分見物に)やって来ていたのだが・・・


「犬、ワシは小一郎に傀儡にされているのじゃな」


「はっ、殿をお助けする為に我らは立ち上がりました。暫しお待ちください」


「ほぉー、ワシはそんなに頼りないのか」怒


「はっ」


怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒

殿は激怒!!!六天魔王モード発動!

殿を中心に気温が急激に下がり、恐ろしい緊張感がその場一帯を支配し見物人達が真っ青で冷や汗を流し出していた。


「犬!内蔵助!ワシはそんなに頼りないのか!」


「「えっ」」


二人がタダならぬ雰囲気を感じて殿の方を見ると・・・

怒髪天に髪の毛を逆立てた殿がいる。

一気に血の気が引く二人リ、いや母衣衆達!自らの手で死刑執行書にサインをしたのだから・・・


(あーあ、やっちゃった)と腹の中で思う小一郎。


「申し訳ございません」


母衣衆全員が殿に見事な土下座をしている。

大手門の前で町民達がいるのだが、そんな事を考える余裕もないみたいだ。


「お前達の考えている事はよーく分かった!ここで刀のサビにしてくれる!」


怒りに任せて刀に手をかけた。


「「殿、お待ち下さい!」」


二人の声がその場に響き、殿がギロリと此方を見る。

止めに入ったのは、小一郎と小姓の堀殿であった。


「殿、此処でのお手討ちはお控えいただけますようお願い致します。

 これはこの者達だけの問題では御座いません、各家や母衣衆にかかわります。ですから取り調べの上で裁きを下されますようお願い致します」


流石は堀殿である。ハイパー六天魔王モードの殿に対して立て板に水を流すが如く流れ出る言葉でその場を収めようとしているからだ。

すると今度は、小一郎の方を見て“言いたい事があるだろう話してみよ“と目で訴えている。


「殿、此度の事はワザと泳がせていたのです。

 自分に対する不満や嫉妬を、どれだけの人達が持っているか計っていたのです。

 ですから、取り調べにて何が原因かを明らかにして頂く事の方がありがたいのですが・・・」


その後の事は言葉を飲み込んだ。言えるわけが無いからだ。


「うむ、分かった。

 この者達を清須に軟禁いたせぇ!」


小姓達に連行されていく母衣衆達。

危機が去り周りを確認すると、弥七殿や饗談衆に服部殿に伊賀衆までいた。


「これでは万が一も無いな」


ボソッと呟く小一郎であった。

その夜の事だ服部殿が自宅に訪ねて来たてくれたのだ。


「木下様はご在宅かな。

 父より手紙を預かって来ました」


先程の護衛のお礼を伝えた後に、差し出された手紙を受け取り目を通すと。


「服部殿、伊賀の服部様達は何か言われてなかったですか?」


「いえ、何も・・・

 父達はなんと言って来たのですか?」


心配そうに小一郎を見つめる服部殿に、手紙を渡して今回の件が片付いたら伊賀にお伺いする旨をお伝え頂きたいとお願いするのであったが、伊賀に何か問題が発生した?と考えてしまうのであった。


それから数日後に呼び出しが掛かる。


「皆の者ご苦労」


大広間で関係者が全員集まり、殿の判断が下された。


「この度の騒動について、処分を言い渡す」


佐久間様の声が大広間に響き、関係者に緊張が走る。そして母衣衆に衝撃が訪れた。


「今回の件を鑑み、母衣衆は解散する!」


ガ――――ン!!!!


前田殿と佐々殿を始めとした母衣衆は衝撃を受けている。


「殿を無能と決めつけ殿の為と大義名分を上げて、多数で一人の忠臣を弾劾する武士にあるまじき行為に、厳罰をもって処する!

 次に、この者達には常備兵としての訓練と、工作兵としての訓練、そして役人としての訓練を各一年づつ申し付ける!もし、訓練に耐えれずに出奔した時にはその家はお取り潰しとする」


「以上を申し付ける!」


佐久間様の重い言葉が大広間に響き、一連の騒動は終止符を打たれた。

そして・・・殿が重そうに口を開いた。


「犬!


 お主は、利益に家督を譲る事を命ずる」


「内蔵助!


 お主も、長穐に家督を譲る事を命ずる。

 そして、利益!「はっ」長穐!「はっ」両名には小一郎の与力といたす。良いな!」


「「ハッ!」」


「そして、小一郎」


「はっ」


「両名(母衣衆)の訴えが誤りであった事を、利益と長穐に見せつけるのじゃ、良いな!」


「はっ!」


打ちひしがれて言葉も出ない両名・・・殿が期待を掛けていた分の反動はすさまじかった。

これで全ての仕置きが済んだのであった。

なお、今回の件は勝竜寺城外の戦とそれ以降で仕事をした(つもりの)母衣衆達が戦場にも出て無いのに評価の高い小一郎に嫉妬したのが動機で、色眼鏡で見出すと小一郎が織田家の問題児にしか見えなかったらしいと報告を受けた。脳筋の思いそうな事だなと思うも、それだけで考えるのは危険を孕むと注意しようと思うのであった。

また其れとは別に、今後元服をした暁には各訓練に参加する事が発表され訓練中に元母衣衆達に不満をぶつける若者がたくさん居たそうな・・・

あと言い忘れていたが、村井組に太田殿と中村殿が加わる事になりました。お二方+与力の二人で我慢しろと言われているみたいであった。




短い滞在で後ろ髪を引かれながらも伊賀に向かう。

今回は小一郎に増田君と九鬼君それと前田殿と佐々殿の面子だ。

(親方や木造殿は街道整備の仕事が忙しく尾張国(伊勢志摩国)に帰って来ていない)


「木下殿、伊賀に行くのはどの様な理由か教えて頂きたいのだが?」


前田殿の素朴な質問である。

一言でいうとお呼びが掛かったと説明しなが大荷物と一緒に街道を進んで行く(伊勢志摩を視察しながら)

そして何時もと同じで、伊賀国に入ったら「お待ちしておりました」とお出迎えが・・・

前田殿・佐々殿が目を見張っている(これが伊賀忍者か)あの二人が気配を全く感じなかったからだ。

小一郎や増田君に九鬼君に。とってはいつもの事であるが、初体験の時には生きた心地がしなかった事を遠い目をしながら思い出していた。


「ご無沙汰しております」


屋敷に入り、伊賀惣国一揆の一人で上忍三家の藤林様が出迎えてくれた。


「明日には全員が集まれるとの事、今日はゆっくりと休んで下さい」


近況報告と雑談の後に屋敷の部屋に案内をされる。待遇は良い!が女中の皆さんからの期待の目線が痛い・・・


「台所をお借りできますか?」


その言葉を聞いて嬉しい悲鳴を上げる女中さん達が居たそうな。


翌日。


「はい・はい・はい・はい・はい」


元気な声が庭から届く。

小一郎達と女中さん達でお餅をついているのだ。


「次行くよー」


元気な声が響くと、杵でコネコネしてからまた餅をつく。


「ワシも入れて貰おうかな」


上半身はだけながら、服部様が輪の中に・・・

鍛えに鍛えられた引き締まったからだに、流石の一言しかなかった・・・小一郎の体は・・・聞かないでください。


「ご無沙汰しております」


広間にて伊賀惣国一揆の代表が揃っている。

雰囲気は差し迫ったものはないが、皆の表情は硬い。


「木下殿」


小一郎を見据えて藤林様が切り出した!


「織田殿は、我々を伊賀をどの様にするお考えか?教えてくれまいか。

 今や、飛ぶ鳥を落とす勢いの織田家が我らに何も言ってこないのが反対に不安になって仕方ない。

 いつか、いきなり攻めて来る事があっても困るのだ・・・」


伊賀惣国一揆の代表者達の心配も最もだと思う。今や尾張から伊勢志摩、南近江、山城、河内、摂津に勢力を広げている大大名だ。今が良い関係を結んでいるが同盟国でもなく、傘下に入っているのでもない。しかも窓口は木下殿で一本化されて怪しい動きが一つもないから反対に恐れているのだ。


「ご心配なら、織田家の庇護を受けられますか?」


戦国放置プレイのしすぎだった。早く不安を取り除かねばならない。

具体的な提案をして行こう。

参加者が頷くのを確認後に。


「今考えられる事は2つです。

 一つ目は、伊賀国を一つの独立国と考え傘下に入る事です。

 条件は付きますが、皆様の裁量が一番反映しやすいと思われます」


・・・周りを見渡すが反応は薄い。


「二つ目は、甲賀と同じ方式の織田家の領土となるが伊賀国の統治を引き伊賀惣国一揆で行う方法です。

 条件が付くでしょうが、三公七民の年貢で皆様は織田家の直臣に給金を現金で支給される形となり、民から治められた年貢で収入が左右されることは無くなるでしょう!」


・・・


「また、この形を取って頂くと私も色々とお手伝いがしやすくなり、伊賀国の発展に協力できると考えています」


対等の同盟を結ぶ事が出来ない現在の状況では最高の条件だろう。


「木下殿、伊賀の発展に協力できると言われたが、具体的にはどの様な方策があるのかな?」


重い空気の中で、百地様が口を開く。


「はい、一つ目は皆様ご存じの清酒の規模を拡大したいと考えているのですが、下手に規模を広げると秘密が漏れてしまいます。しかし伊賀(ここ)ならどうでしょうか?」ニヤリ


表情を見た数名の目がキラリと光る・・・後に。


「二つ目に、織田家で使っている農器具や知識を動員して、お米の収穫量を増やしたり織田家の農業試験場で栽培している芋の栽培で特産品を創り出す事です」


伊賀国では導入されていない、正常植えや塩水選の導入で耕地面積を変えずに収穫量を増やすことや、サツマイモにジャガイモと荒れ地で育つ食料の生産を考えているのだ。


「三つめは・・・秘密です」


「それはないだろうー」


惣国一揆のメンバーからブーイングが起こるが、あえて聞き流して・・・

すっと背筋を伸ばして座りなおして・・・


「どうされますか?」


広間の緊張感が一気に高まった。其処にはダークモード発動の木下小一郎が!伊賀惣国一揆にプレッシャーを掛ける。

小一郎は伊賀惣国一揆を落としにかかったのだ。

目を見張る上忍三家の服部様、百地様、藤林様。


「やはり、只者では無かったな」


誰かが呟いた。そして三人で頷いた後に。


「木下殿、一つ条件がある」


重たい雰囲気の上に、緊張感が高まり息苦しい空間が出来上がっている。


「我ら伊賀惣国一揆は木下殿の与力となりたいがいかが!」


「へぇ?」


予想外の申し出に、おかしな声が・・・それと同時にダークモードも解除されて場の雰囲気が軽くなり。


「・・・まぁそのー、・・・この件に付きましては・・・今後の検討課題とさせて頂き・・・別途相談させていただきたく・・・・」


小一郎の返答がシドロモドロで、先程とはかけ離れすぎていてその場に笑い声が響くのであった・・・




「待たせた」


殿の私室での面会である。佐久間様と村井様に蒲生様と脇に堀殿が控えている。


「小一郎、伊賀で何かあったのか?」


「はい、実は・・・・・・と、申し出があったんです。

 ・・・どうしましょう?」


困り果てている珍しい状況の小一郎がそこには居た。

これを受けると織田家家臣団内ではひときわ大きな勢力となり、いらぬ誤解をうけていらぬ波風が立つ可能性があるからであった。


「右衛門尉(佐久間様)どう思う」


「はっ、伊賀が味方になるのは非常心強いのですが・・・・・・」


「権太朗(蒲生様)はどうだ」


「はっ、木下殿から伺った伊賀衆の申し出の選択肢以上は無いと思われます。伊賀衆の申し出を受け木下殿の与力として織田家発展の為に頑張ってもらいましょう」


「だな」


「吉兵衛(村井様)はどう思う」


「はっ、蒲生殿と同じです。受ける以外の選択肢が思いつきません」


「うむ、そうか・・・

 ・・・では、小一郎に申し付ける」


「伊賀衆を小一郎の与力とする。そして3公7民と関銭廃止以外の自治を認める。

 それと服部、藤林、百地の当主を重臣に加える(他は武将に取り立てる)

 あと、小一郎を重臣に取り立てて吉兵衛(村井様)の仕事を引き継ぐ事とする」


「はぁ?」おかしな返事が・・・


「・・・」

「・・・吉兵衛(村井様)」


「はっ」


「京都所司代に命ずる、山城国にて朝廷との折衝役を命ずる、それと山城国・和泉国・摂津国の内政を安定させてくれ、頼んだぞ!」


「はっ、謹んでお受けいたします」


殿はニヤリと笑いながら小一郎を見ている。

いつもアタフタとさせられているからだ。殿としたらある意味の意趣返しでもあるが、しかし改めて平手様(じい)の見る目が確かだったことを痛感するのであった。


それからは、引継ぎ業務が襲ってこなかった。

尾張での引継ぎは増田君(ないせいのたつじんにせい)がすべてを把握、小一郎が仕事をしやすい状況を創り出してくれていました。山城方面では義理の兄(貞成殿)が内政無双状態で父の名に恥じぬ内政官と成長の階段を上り始めていたのであった。

しかし、伊賀衆関係で仕事が忙しく(殿と伊賀衆の謁見や各種手配)全てが落ち着いた時には、卯月を迎えようとしていたのであった。




つづく。






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