1552年
誤字報告有難うございます。
勧誘はいきなりやって来た。
正月を迎えて、数え年で12才になって少し経った時だった。
「ごめん、拙者 平手五郎左衛門政秀と申す。ご主人はご在宅かな」
落ち着いた雰囲気のダンディなお侍様がお供を連れて訪ねて来た。
「はい、只今呼んでまいります」旭はびっくりして、おとうを呼びに行く。
「小竹、此方へ来なさい」
「お前の将来の話だ。一緒に聞きなさい」
おとうは平手様のお話を僕に聞かせる。
そのお話は、若様である織田信長様の小者として仕えないかとスカウトに訪れたのだ。
ただ、平手様は無理強いはしなかった。
どうも、いろいろとご存じで本人の意思に任せてくれるらしいが・・・
「宜しくお願いします」
僕の返事は即答であった。
史実通りなら兄に振り回される人生だ。
戦国猿回しはしたくない。
それを思うと選択肢は無かったのであった。
「そうか、そうか」バンバンと僕の背中を叩きうれしさを表現していた。
その嬉しさの裏には、若様に付いて行けなくて供回りや小者にも苦労しているのだろうと想像ができる。
ただこれで、足軽では無く小者から武士に武将にと出世の道筋が見え始めたのであった。
「小一郎さん、若様が呼んでます」女中が呼びに来た。
(出仕の為に名前を小一郎に改める)
「若様、お呼びでしょうか」
若様にお仕えする様になって二ヵ月、困った事があると呼ばれる様になった。
「遅い!さっさと中に入れ!」
ヤング第六天魔王モード発動中だ。
激おこだが、僕の声で場の雰囲気が少し和らぐ。
「失礼します」部屋に入りふわりと柔らかく座る。
「小姓がワシが言っている事に対して、頓珍漢な答えを返してくる」
「どうにかいたせ!」
とそっぽを向く。
"はぁ~"とため息をつきながら、事の顛末を小姓達に一つずつ順番に確認する。
伊達に前世+12年の社畜出身ではない。
そして・・・
「若様!」
佇まいを直して、正面より目を見据えて語りだす。
「六角定頼公みたいな、商業政策をどう思うか!」
「そんな質問を行き成りされても、小姓の皆様方は目を白黒させるだけでございます」
「若様は言葉が足りません!伝える力を養って頂かなければ!」
「ただ、目の付け所は非常に良いと思います」
プイとそっぽを向き、ばつの悪そうな若様。
そして・・・
「小姓達も色々な事をご理解頂けなければ、将来この織田家を支える重臣になって頂かなければならないのですから」
両方にくぎを刺してから。
「この事は宿題にします」
「六角定頼公の事を調べて来てください」
"ブーブー"とブーイングが、それを見て笑う若様を・・・
「若様もです!!!」
「調べる事で六角定頼公の事を知り、良い所を自分達で活かして行ったら良いのです」
「では答え合わせは、平手様よろしくお願いします」
「ゴッホ ゴッホ ワシか・・・」
「はい、よろしくお願いします」
笑い声があふれ断れぬ雰囲気を作り、有無を言わせずにその場を収めて仕事に戻っていく。
こんな生活を続けているのであった。
しかし、順風満帆に見えた船出も、歴史通りに発生したイベントに巻き込まれていくのである。
そう、織田弾正忠家当主信秀様が亡くなったのであった・・・
皆が大慌てで、悲しみに浸る間もなく葬式の準備が進んでいく。
弟の信行様と土田御前様が差配して・・・
「・・・・・・小竹、俺は織田家(弾正忠家)をまとめる事が出来るか?」
葬式に出発する前日の事だった。
急に呼ばれて覇気も無く、この難局に乗り出さなければならない19才の若者がそこには居た。
「大丈夫です、先ずは弾正忠家をまとめましょう」
(まとめる事は、茨の道だが若様なら大丈夫)
「若様を全員で支えますから!」
若様の目がキラリと光った。
顔に精気がよみがえる。
「で、どうするのだ」
この切り替えの早さは流石である。
「・・・う~ん・・・そうですね~ぇ・・・かぶくのを辞めますか!」
「もう必要ないでしょう、味方と敵がハッキリと分かりましたし」
「えっ」
・・・
・・・
「気付いていたのか」
返事はせずに、深く頷いた。
「では、小竹の言葉を聞いて、かぶくのを辞める事から始めるか!」
その後に色々な事を話した後、若様の部屋を後にした。
そしてこれは、何が起こっているのだ。
喪主が二人だと、しかも若様と信行様だとー。
これでは、一艘の船に船頭が二人いる状態で直ぐにトラブルが起こるぞ。
殿様は何を考えているんだ。
殿様は老いてしまったか・・・・・・いや、土田御前様の猛プッシュで・・・・・・
しかしこれで、今川や斎藤(義龍)とどう戦えと言うのか、やはり病が元で老いてしまったのだな。
そんな考えが頭の中を廻るのであった。
困った・・・・・・
その後、萬松寺で行われた葬儀で若様の見違えるような振る舞いに、家臣達からは自覚が出来た!見直した!これで織田家も安泰だ!と株を上げる。
それに対して、準備万端葬式を行い跡取りの座を射止めたかった信行様は、まあ頑張ったよねぐらいの評価であった。
因みに涼やかな好男子を演じた若様を見て、涙を流し続ける守役の平手様がいたのであった。
ギャップ勝ちですね!
無事に葬儀を終えて、喪も開けぬ間に事態が動く。
「鳴海城主の山口教継様が駿河の今川義元に寝返りましたー!」走り込んで来た使者に再確認した後「陣触れをだせぇー出陣じゃあ」そう言って平手様達と兵がそろい次第に、出陣していった。
この戦を赤塚の戦いと言い、引き分けで終わる。
まぁ、相手も攻めて来るのを分かっているから仕方ないよね。
この出陣は尾張の主は誰かと示す為の出陣であり、ここでも兄弟に評価の差が生れるのであった・・・
「平手様、ご相談があります」
赤塚の戦いが終わって、少し落ち着いて来た頃に僕は動いた。
「ご相談と言うのは、若様に尾張を統一して頂く為のご提案です」
「ここだけの話で、他言無用でお願いします」「それは・・・」話が始まると、平手様が腕を組み眉間にシワがより険しい表情に、全ての提案と質疑が終わったのは一刻後の事であった。
「小一郎、このまま若様の所に行くぞ!」
その後、小姓達を下がらせて若様と3人で二刻程密談をするのであった・・・
密談から一月後、多くの若者が城下に集まっていた。
そう、織田家への入社試験である。
「受験生の方は、受付の後この番号札を首から下げて、待合室でお待ち下さい」と担当者が大声で指示を出していた。
予想以上の人数に困り果てていたが、嬉しい悲鳴である。
僕は、周りを見回しながら困っている人や、トラブルを起こしている部署は無いかと動き回っていた。
そして、常備軍500人、工作兵200人・役人見習い50人を確保!この取り組みをこれからの織田家の躍進の中核にする為に鍛えまくるのである。
因みに、小姓達は全てに精通する為に鶴の一声でスパルタが行われたそうであった。チィーン!
二ヵ月後。
内藤様、蜂屋様(常備軍担当)村井様(役人担当)のご尽力により、メキメキ力を付けて行くそれは、チャンスを掴む為に必死な採用組と講師陣による有無を言わせぬスパルタに見事について来たのである。
此処まで急ぐ理由は今の織田家(信長サイド)の置かれている状況が厳しいからであった。
「小竹、これからどうするのだ」
「情報が欲しいです」
「何故だ」との問に「孫子の兵法ですよ」その答えに「あっ」と抜かっていた事を認識後。
「尾張全体の情報が欲しいです。その情報を元に常備軍を動かしたらどうなるか想像して下さい。」
二人の視線が重なりニヤリと笑いあう。
「では、他勢力に忍びを放つとしよう」
そう、情報の有効性とそれを基にした運用これで先手を取れる。
先手を取れると、負ける確率がかなり減るよね。
ただ、柴田勝家と言う化け物には特に注意が必要だけど。
だって、個人の武力で戦の流れを変えかねないから。
「出陣じゃぁ」
若様の大声が響く。
葉月に入って清洲織田家に出陣の動きアリと第一報が届いた。
「お待ちくだされ」平手様が冷静に大人の貫禄で諌め、それでも浮足立っている小姓達を見ながら「喝!!!」カミナリを落とす。
「若様、小姓達は置いて行きましょう」
「まだまだ、修業が必要そうです」
何か言いたそうに平手様を見つめるが"ギロリ"と睨まれては"キャインキャイン"と尻尾を巻くしかなかった。
本人達には、二ヵ月間の特訓を越えたと言う自信があるみたいだが・・・
無駄に命を散らす事は無い。
「目的地が分かりました、松葉城と深田城です」「ごくろう下がって休め」報告を聞き若様は即断する。
「常備軍で出陣する」
「爺は兵がそろい次第、後詰せい」
若様と常備軍は両城を守る為に出陣していった。
その後、平手様は織田信光様、織田信広様と織田信行様に伝令を走らせ、松葉城と深田城に清洲織田家が兵を挙げたと伝えたのであった。
「平手様、少し宜しいでしょうか?」
僕は忙しそうに指示を出している平手様に声を掛ける。
僕から声を掛けるのは、先日のご相談以来だ。
「うむ、少し待て」そう言って指示を出し終わった後に、密談に入る。
「小一郎の事だ、なにかをしでかすに違いない」そんな思いから、忙しい時に時間を取ってくれる。
「平手様、後詰め止めましょう!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
小一郎はいきなり、凄い事を言い出した。
“お前何を考えている”と怒気を含んだ表情での訴えだが、言葉をどうにか呑み込んで続きを促す。
「はい、兵が集まってから後詰めに行っても勝敗は決しています」
「若様が勝つので(確信)後詰めの兵で清洲城を強襲しましょう!」
「まぁ、後詰めは信光様と信広様と信行様に任せましょう」
白湯を飲んで時間を取ってから、しれっと話した。
恐ろしき事を考える、そしてそれが実行出来る状況が目の前にあるのだ。
「清洲か・・・」・・・表情がクルリと変わる!留守居役から、戦人に!
「此処まで・・・いや、これ以上は不粋だな」
「では、出陣致す!」
留守居役を佐久間様に任せ、集まった兵士達500人と残りの武士を率いて出陣していった・・・
後は天命を待つのみであった。
つづく。