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1551年

それは文月の事であった。


「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


のどかな尾張国の中村にお侍様達の一団から驚きの声が響く。

そう、キッチリと規則正しくそろえて植えられた田んぼの稲を見たからだった。

この時代の稲作と云えば、水田の形に植える上に種籾の選別をして無いので高さが揃う事が珍しいそれが普通である。しかし、いやだからこそこの田んぼの異様さが目立つのである。

ただ、この田んぼの異様な事に気が付いているのは若様だけであった。


「じいどうだ、面白いだろう」


「はぁ、何と答えて良いやら?」


爺と呼ばれたお侍様は、理解できてないみたいで生返事をするのであった。

"ゼイゼイ"言ながら年配の男性が走って来た。

「お武家様、本日はどの様な御用件でございますか」その男は中村の村長でありお侍様が見に来ていると聞いて、家から飛び出してきたのだ。


「うむ、この村に木下小竹と言う子供がいるであろう、呼んでまいれ!」


ギロリ


「はっ はい!」


村長は恐ろしい速さで、木下家まで走って行くのであった!





「久しいな、小竹」


「ご無沙汰しております」


小竹の家の周りには、村長をはじめ人だかりだ。

何故って、織田の若様が小竹を訪ねて来たからどんな話か気になって仕方がないからだ。


「早速だが、この前のアレをお店に卸してもらいたい」

「市と犬が煩くてな」


実は、前回の時にハチミツを買い付けたと市と犬に自慢をしていたのだが、ハチミツを食べきったので手に入れてと妹達に懇願されてやって来たのだ!

“史実通り、身内には激甘だな”そんな事を思いながらも...“仕方ないか”と思い切り出した。


「無理でございます」


平伏しながらも、おどおどする事なくハッキリと答えたら・・・


「つべこべ言わずに、取ってまいれ!」


一瞬で沸点に!目尻を吊り上げて怒り120%で!

周りのお供はハラハラしながら見守っている。

年配のお侍様は取りなしてくれているが聞く耳を持っていない。

(うわぁ、激おこだぁ!これどうするの)

心の中で無茶苦茶あせる。


しかし。


「無理でございます!」


「きっさまぁぁぁぁぁぁぁ!」


若様の頭から"ピィィィィィィィ"と湯が沸いて刀の鍔に手がかかる。

「若様ぁ」お供から叫び声があがるが。


「無理な物は、無理でございます」

「今、稲刈りをしてもお米がとれないのと同じだからです」


目を見据えて、言葉を返す。

"ハッ"と我に帰る若様、冷静さが戻ると。


「それで!」


続きを促され話を続ける。

ただ、怒りは治まっていない。


「いまハチミツを収穫すると前回の10分の1位は獲れるかもしれません...ただし共倒れになり次回の収穫は見込めないでしょう」


目線は若様を外さない。


「・・・・・・」

「では、どうすれば......」


頭を抱える若様を尻目に「ほぉ~若様を・・・面白い」小竹は知らぬ内に若様の守り役に目を付けられた。


・・・

・・・

・・・


重い空気の中で…


「あの~」


奥から、母親のなかが声を上げた。


「これをお持ち下さい」


そう言って一つの壺を差し出して来た。


「これを...」そう母親に買収(わたしてあった)ハチミツであった。


現金な物で途端に機嫌が良くなる若様!

「爺、褒美を母殿に取らせよ」と言ったら壺を抱えて帰って行く。


「ご迷惑をお掛けした。褒美は後ほど届けさせるゆえご勘弁願いたい」


そう言って頭を下げる。


「それと、ご子息は木下小竹殿と申したな」


「はい」


「先が楽しみな、ご子息ですな!ではごめん」


守り役の爺様が帰って、木下家に嵐のように訪れたピンチは去ったのであった。

因みに、その後で村人達に色々聞かれて大変であった...とほほほ。








「こんにちは!」


一年振りに、お店に訪れた。

大橋屋は昨年と変わりなく、繁盛して忙しいそうだ。


「旦那様は、いらっしゃいますか?中村の木下小竹が来たとお伝え頂きたいのですが」


丁稚が番頭さんに伝えたら、慌てて奥の部屋に通された。

(ハチミツの効果は偉大であった)


「ご無沙汰してます。今回もよろしくお願いします」


「また、良い取引が出来ると良いですね」


そう言って雑談を少しした後に「今回は、ハチミツともう一つ奥方様に試して頂きたいものがありまして!」


「ほぅ、それはそれは?」と言いながら、キラリと目が光る。


「早速、此れを」興味深々に小壺を手に取り中身を確認するも???だった。

水が入っていて、いや、ほのかに香る匂い。

少しがっかりしながら「これは」とご主人が尋ねると。


「名を付けるなら、美人水! 良い物です」


小竹は此方に持って来る前に、母親で試しているので自信があります。


「これを、奥方様が化粧を取られた後に、肌に馴染む様に塗って頂けたら良さが分かって頂けるかと」

「・・・・・・そうですか」

「・・・・・・では、お預かりしますね」


明らかに乗り気で無いのが分かるが、どの時代でも男性が女性達の美しさにかける想いは判らないものであった。


「それとは別に、ハチミツが6升あるのですがどれ程ご入用「全部です」です。ありがとうございます。」

「では、改めて持って来ますね」


そう言って、大橋屋を後にした。



その日の夜。


「キャァァァァァァァァァ!うそ!嬉しい!」

「                    」


言葉にならない想いが爆発していた。

そして大橋屋から津島全体に響く、奥方様の喜びの絶叫があったとか無かったとか。


翌日、大橋屋のご主人が中村まで来て頂き美人水を持って帰られた。

話を聞くと、奥方様がとても気に入って是非大橋屋でと強く望まれたとの事だった。

その後、大橋屋の奥方殿の販売網を駆使して販売!いや大橋屋の奥方の変化に気が付いた女性陣が詰め寄り美人水は即完売したのだ。

そして・・・津島と熱田と末森城で「キャァァァァァァァァァ!うそ 嬉しい!」とみずみずしい素肌を取り戻した奥方様の喜びの絶叫があったとか無かったとか!


一月後に再び美人水を求めて、大橋屋さんの番頭さんが見えたが肩を落として帰るのを見送るしか無かったのであった・・・(来年は増産せねばと心に誓う小竹であった)






「終わった〜!」


木下家のいや中村の田んぼの稲刈りが終了した。

村人総出で、みんなで助け合うのだ。

そして、収穫の話題が"小竹の稲の実の付き方の良さ"であった。


やはり、現代で通用している正条植えの素晴らしさだろう。

ただこれからの事を考えるとどうするか悩んでしまう。

田んぼの形を整える事は、土地の所有権がからみ難しくトラブルの原因になるだろう。

既存の村では難しい。

正条植えを広げるのには新たな田んぼを作る所から始まると強く感じた。


「このままでは広げるのは無理か―」と落胆する小竹であった。



つづく


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