第0話 迷宮
新作
「鍵しか開けれないお荷物は出ていけ!!」と追い出されたのだがいいのだろうか?【鍵師】である俺のおかげでSランクとして成り立っていたのに。俺は義母姉妹と共に世界最強のパーティーを作るから関係ないが。
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俺は4本の足でトコトコと階段を上がっていた。
辺り一面薄暗く、緑色にぼんやりと光っている魔鉱石の明かりだけを頼りに先へ進む。
人工的な石造りの階段に壁。
俺の横を歩く白髪の美女ケイト。
大きなリュックを背負い、手には自分の身長ほどの長さの柄を誇る鎌を持っている。
俺たちはと現在とある迷宮にいた。
「はぁ……」
俺は自分の姿を想像し一つため息をつく。
今俺は……猫になっている。
元々は人間だったんですよ。ええ。
変哲もない、面白みもない人間ではあったけど、粉うことなき人間であった。
それが今や、愛らしい猫だなんて……
悲しすぎて何度もため息が出るというものだ。
「ほら、敵がいたよ」
ケイトの声に、俺は顔を上げる。
階段を上がった先には、8本足で二つの紅い瞳を怪しく光らせる蜘蛛型モンスター……
スパイダー。
「ちょっと……なんだか凶悪すぎない、あれ?」
その体は人間と比べても遜色ないほどの大きさで、猫の俺からしたら巨大にも程がある。
俺はピタリと足を止め、壁の陰に隠れた。
ケイトは嘆息し、ジト目で俺を見下ろす。
「あのな。あの程度に負けるわけないだろ。お前が」
「い、いや……だってあんな大きなモンスターとなんか戦ったことないし」
「誰だって最初は未体験だ。ほら。頑張ってこい」
「初体験で死ぬ可能性も考えてください」
「大丈夫。遺体は丁重に葬ってやるから」
「そんな心配してないから! 死ぬのが嫌だって言ってるんだよっ」
「冗談だ。あんな程度のモンスター、問題ないよ」
と、ケイトは鎌を持っていない方の手で俺を抱きかかえ、ひょいっとスパイダーの方へと放り投げた。
あ、こいつ完全に俺を猫扱いしてやがる。
人間相手にそんなことしないでしょう?
と思ったが、この子ならやりかねんとも俺は考える。
スパイダーは俺の姿を視認し、ピュッと何か白いものを口から吐き出した。
「おわっ! 何すんだよ! 汚いだろっ」
俺はそれを相手の右側に旋回しながら避け、ぴょんと飛んで4本足で背中に乗りかかる。
「このっ!」
ゲシゲシッと何度も相手を踏みつける。
多分、猫がペシペシやってるようにしか見えないんだろうな……
なんて思いながらケイトの方に視線を向けると、彼女はニヤリと笑っていた。
やっぱりそうかよ!
だが、俺の踏みつけは効果は抜群だったようで、スパイダーはバタンと音を立てて崩れ落ちる。
そしてその身体は粒子となり、俺の体に吸収された。
「おおお……また強くなったのか」
俺は敵を倒したことにより、また一つ強くなった。
厳密に言えば、敵を倒したことにより、敵の能力を吸収して強くなったのだ。
後ろ2本足で立ちながら、俺は自分の前足を見下ろす。
こんな姿になったのは不服を申し立てたいところではあるが、この『モンスターの力を吸収する能力』に関しては嬉しく思っており、また強くなったことに喜びを隠しえない。
ニヤニヤが収まらない。
「シャーッ」
そんな俺に、また別のスパイダーが襲い来る。
だが俺はスパイダーを正面に見据え、右前足を突き出す。
「〈蜘蛛の糸〉!
右前足から放出される糸はスパイダーの体をぐるぐる巻きにする。
俺はピョンと飛び上がり、相手にお尻を向け、
「〈液体不定形〉」
可愛い尻尾を伸ばし鞭のようにしならせ敵を打つ。
バチーンと鋭い音が響き、敵の体は四散する。
「あはは……俺って結構強いのでは?」
俺は空中を4回転し、ガッツポーズを取った。
強くなっていく自身の力に、ワクワクが止まらない。
そしてこれからまだまだ強くなっていくであろう自分の未来に対し、果てしない多幸感が止まらない!
「何度も言ってるだろ? お前は強いって」
ケイトは当然のようにそう言う。
俺は彼女のおかげで強くなり、生き延びることができたのだ。
うん。彼女と出逢うことができてよかった。
なぜ俺がケイトと出逢うことになったのか……
なぜ俺が猫の姿になって、モンスターの力を吸収する能力を手に入れたのかと言うと……
それは昨日の午前中にまで話は遡る。