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第108話 魔王二人の最期

 戦いは魔王二人相手にサンデールとクリスリンが優勢のまま、終盤に突入していた。


 息を大きく切らせ、大量に汗を流し、足をガクガク震わせるヤンダリルとユーブラム。

 サンデールとクリスリンは血まみれではあるが、魔王と比べると幾分か余裕を感じられる様子だった。


「こ……こんなことがあってたまるか……俺たちは! お前を倒すために手を組んだんだ! なのに……こんな部下相手に負けるなど……あってたまるか!」

「だから私は――」

 

 クリスリンは風のように駆け出し、ヤンダリルの顔面に膝蹴りを放つ。


「部下じゃねえって言ってんだろうが!」

「ガッ――」


 鼻の骨を折り、鼻血を周囲に振りまくヤンダリル。

 さらにサンデールが衝撃波を放ち、胸に五つの爪痕がつく。

 立っていられなくなったヤンダリルは膝を地面につき、朦朧とした瞳で俺を見る。

 悔しさ、そして憤りを感じているようだ。

 言っておくけど俺は悪くないんだぞ。

 悪いのはサンデールたちに勝てなかったお前たちなんだからな。


 ユーブラムはそのヤンダリルの姿を見て、天高く飛翔する。

 そして俺を見据えて――突撃を開始した。

 あ、一矢報いるってやつ?

 だけど無駄だと思うんだけどな。


「迅」

「おっ?」


 戦いが始まってからユーブラムは最速の動きでこちらに向かって飛んで来る。

 全ての力を出し切っての特攻か。

 さすがにサンデールたちもこの動きには反応できないらしく、こちらに視線を向けるだけであった。

 しかし俺は呆れるだけで、ため息をつき風の剣でユーブラムを迎え撃つ。

 ユーブラムも黒い風を巻き起こし、渾身の蹴りを放とうとしている。


「〈翼竜の風剣(ストームブリンガー)〉!」

「強……」


 しかし俺の輝く風は黒風ごと、ユーブラムの体を真っ二つに切り裂いた。

 左右にパカンと割れて、俺の背後に倒れるユーブラム。

 奴の体は俺に吸収され、コロンコロンと魔魂石が足元に転がる。


「つ、つええな……お前」

「あったりまえじゃない。アレンは世界で一番強い私の旦那さんなんだから!」


 胸を張って誇らしげにそう宣言するターニャ。

 俺はいつから旦那にグレードアップしたんだ?

 と聞いても会話は成立しないだろうから、俺はターニャを無視して魔魂石を拾い、ヤンダリルの前に立ち、奴を見下ろした。


「……くそ……」


 俺と戦えなかったヤンダリルが不憫に思えてきて、俺はせめて自分の手で葬ってやろうと〈地獄の番犬の炎(クリムゾンフレア)〉で奴の体に火を点けてやる。

 もう痛みも感じていないようで、ヤンダリルは静かに目を閉じてサラサラと粒子になり俺の体と一つとなった。

 やはりヤンダリルの体からも魔魂石が転げ落ちる。


「終わったな」

「うん……」


 俺は聖機剣をしまい、元の茶髪に戻る。


「うーん……」

「どうしたんだよ、ターニャ?」


 彼女は真剣な面持ちで俺を見つめる。

 珍しいな……こんな真剣な顔をするターニャは。


「うん。やっぱり金髪のアレンも素敵だけど、元が一番カッコいいね!」

「…………」


 発想は珍しくともなんともなかった。

 平常運転のターニャであったようだ。


「サンデール……」


 クリスリンはサンデールの前に立ち、鋭い目つきで彼を睨んでいた。

 あいや、もしかしたら見つめてるのか?

 どちらとも判断はできないが……なんだか柔らかい空気が流れ始めたような気がする。


「私は、お前を倒して……それでお前の代わりに戦ってやりたかっただけなんだ……なのになんでセントレインからいなくなっちまたんだよ」

「…………」

「私は……お前がそばにいてくれると思っていたのに……勝手にいなくなるなよ」

「……うん」


 サンデールは血だらけのクリスリンの体を、巨体に似合わない優しさで包み込んだ。

 クリスリンは穏やかな表情で彼の胸の中で目を閉じる。


「私と夫婦(めおと)になって、ずっとそばにいてくれ……」

「うん」


 ターニャがその姿を見て、「おおっ!」と感嘆の声を漏らす。

 そしてウットリした顔をして、俺の腕に手を回してくる。

 いや、なんで?


「私にプロポーズする時は、情熱的にお願いね、アレン」


 情熱的って……プロポーズなんてする気ないからね?

 俺は乾いた笑みをこぼし、そろそろみんなの下に帰らなければならないことを思い出す。


「悪いけど、俺はあっちに――」

「ちょっと待てい!」

「は?」


 ターニャたちに帰ることを知らせようとすると、観客席の上、闘技場を囲む壁の上から可愛らしい女の子の声が響き渡った。

 俺達は声の方に顔を向けると、そこにいたのは声に負けず劣らずといった可愛らしい女の子が腕を組んで立っているのが目に映る。


 腰まで伸びた幻想的な銀色の髪。血のように朱い瞳。

 お姫様のような可愛らしい洋服に、尋常ではないぐらいに恵まれた容姿。

 そして……小さな体。

 あれ、どうみても子供だよな?


 そんな彼女は強きな瞳でニヤリと片頬を上げながら、俺たちを見下ろしていた。

読んでいただいてありがとうございます。


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