第32話 帰還
一日遅れてしまいましたが、更新再開です!第三章スタートということでこれからも応援よろしくお願いします!
三人の奴隷少女達を救出した俺達は、気絶した彼女達の体調を考慮してダンジョンへ帰るペースを大幅に落とすことにした。その結果、何とかダンジョン付近へ帰ってくることができたのは予定よりもかなり遅い時間になってしまったのだ。
「着いたー!」
「やっと帰ってこれましたね……」
アルファとモアも流石に疲れが顔に出ている。しかし、疲れはあるが今は戻ってきたということに対する喜びの方が大きいという感じである。ツヴァイとフィーアも嬉しいらしく、いつもより三割増しで尻尾が振られている。
辺りはすっかり暗くなっていた。だが、辺りが既に暗いおかげでダンジョンへ入ろうとする冒険者の姿は近くにない。帰還するのには都合が良い。
奴隷少女達はまだ気を失ったままだ。ボロ雑巾のような布切れだけを服としてまとわされ、かなりやせ細った様子が見られることから推察するに、あの奴隷商人からはろくな生活を送らせてもらえなかったのだろう。
そんなところを大きなドラゴンに襲われ、更に魔物を連れた謎の乱入者が現れた。立て続けにそんな命の危険を感じるようなイベントに立ち会ったのだ。これほどまでに眠りこけてしまっても何もおかしなことはない。
幸い、命にかかわるほど衰弱しているものはいなかった。だから、俺達は今は寝かせて置いてあげるべきだと判断したのだ。まあ、意識ある状態でダンジョンへ入るとなったら間違いなく面倒なことになっただろうし、英断だったと思っている。
「さて。帰るか、我が家へ!」
「はい!」
「うん!」
元気な掛け声と共に俺達は我が家であるダンジョン、"殲滅"の迷宮へ帰還したのだった。
◆◇◆◇◆
俺達がダンジョン内の道を進んで行くと、開けた場所が見えてきた。俺が罠盛り沢山の迷路を抜けてきた冒険者達を迎え撃てるようにと設置した大部屋だ。
ダンジョン内の迷路は非常に入り組んでいるのだが、そこは勝手知ったるダンジョンの中。迷わず最短距離で下層の大部屋へと到着した。まあ下層と言っても全五階層の下層だけどな!悪かったな!小規模で!
大部屋に近づくにつれ、中に人影があるのが見えてきた。魔物達にはこの大部屋まで来た冒険者がいたら迎撃しろと言ってあったので魔物達の中の誰かかもしれない。
俺達は気持ち早足になって大部屋へと急いだ。
大部屋に出ると、中には二人の人がいた。否、二体の魔物がいた。
一体は狐の魔物だ。一見美しい美女なのだが、明らかに人のものではない耳と尻尾がついている。耳や尻尾等に生えている金と茶が混ざった毛並みは美しく、神々しさすら感じるほどだ。俺達の方に背を向けているため、九本の抱き心地がよさそうな尻尾がこちらを誘うようにゆらゆらと揺れている。
もう一体は蜘蛛の魔物だ。上半身は黒髪の美女だが下半身は恐ろしく、巨大な蜘蛛。この魔物もこちらに背を向けているので正面から見た時どうなっているかは分からないが、赤いラインが上半身下半身共にまるでボディペイントのように禍々しく描かれている。
…………ツキヨとヨミ……だよな?何というか、おどろおどろしさが増しているような気がするのだが……。
いや、気にしないことにしよう。気にしたら余計疲れることになるという確信がある。
二体の魔物は俺達の気配に気づいたらしく、ゆっくりと振り返った。
「主様が留守にしていんすのをいいことに、また湧いてきたでありんすか。鬱陶しいったらありんせん」
「まったくじゃのう……。愚かな冒険者どもめが……」
怖っ!!!
思わず一瞬身体竦んだぞ。
ここに辿り着いた冒険者ってこんな気持ちになるのか……。冒険者やガルプテン王国の兵士達に初めて同情したわ……。
これが、本物の殺気!
なんて、アホなことを言っている場合じゃない。
「おーい、ツキヨにヨミだろ?俺だ。今帰ってきたんだが……」
そう俺が伝え終わる前にツキヨとヨミは俺の方へと駆け出していた。
「主様!」
「我が主殿!」
二人は俺達の前までやってくると、揃って頭を下げて謝罪した。
「申し訳ありんせん。先ほどまで愚かな冒険者どもを始末していんしたので少々気が立っておりんした……」
「申し訳なかったのじゃ我が主殿。本来ならば我が主殿の気配を直ぐに察知しなければならないものを……」
どうやら二人は俺達に殺気を向けてしまったのを気にしているらしい。この部屋で冒険者を迎え撃てって言ったのは俺だし、そんなに気にしなくていいんだけどな。
「全然気にしていないぞ。こっちこそ、留守を守ってくれてありがとうな」
それにしても、始末って……。ルクハレの冒険者ギルドで聞いた感じだとそこそこ実力のある冒険者が来ているはず……なんだよな?
って、よく見たら何体か死体転がってるじゃん!死にたてホヤホヤっぽいのもあるし、どうやらツキヨのいう先ほどまでとは本当に直前のことだったみたいだ。
間違いなくその死体達の生みの親であるだろうツキヨ達は俺に感謝されたことがよほど嬉しかったらしくかなりご機嫌だ。いやいや、二人が味方で本当に良かった。
うん、謝罪や感謝はちゃんと伝えよう。謀反を起こされるような理不尽な上司にならないようにしなければ。俺はそう改めて思った。
「やっほー!ただいま!ツキヨ!ヨミ!」
「おお、モアではないか!」
俺との話が一旦落ち着いたと判断したのか、今度はモアがツキヨ達に話しかけた。
三人の話はかなり盛り上がっている。まあモアは帰り道何度も早くみんなに会いたいと言っていたからな。今回の外出は短い期間だったが非常に中身が濃かった。きっと積もる話もあるだろう。
だが、そこでモアが振った話の一つに気になる内容があった。
「ちょっと気になったんだけどさ。二人とも、なんか雰囲気ちょっと変わってない?強くなってる気もするし」
「おお、気づいたか!実はのう。人間種族の街へ出かけている我が主殿達を帰ってきたら驚かせようと思って頑張ったのじゃ」
「そうでありんすよ。まあこの蜘蛛女はわっちに張り合ってきんしたでありんすけど」
「おお、おお。何やら妾は冤罪をかけられておるようじゃのう。それはどこぞの女狐のことではなかったかのう?」
「ア゛ァ゛?」
「オ゛ォ゛?」
うん。きっと両方張り合ったんだろうな。ってか、それもう強化っていうより進化だよね。え?それって頑張ってどうにかなるもんなの?
「二人ともすごいじゃん!わたしも頑張んなきゃだね!」
モアはパーモと遭遇した時に何もできずに気を失っていたことを地味に気にしてたからな。彼女は根が真面目だし、きっとこれからもっと強くなってくれることだろう。
と、俺が一人そんなことを考えているところでツキヨが話題を変えた。
「ところで主様。その人間達はなんでありんすか?」
ツキヨはツヴァイ達の背に乗せられている三人の奴隷少女達を指差してそう言った。
あ、完全に説明するのを忘れていた。
「これは帰り道に拾った人間種族の奴隷だな」
「人間の奴隷でありんすか……。一体なんでそんなものを?」
「人間種族の街で奴隷というものを目の当たりにしてだな……。ちょっと昔の自分に重ねてしまったんだ。まあ、簡単に言えば偽善だよ」
そう。俺はやはり奴隷という存在に対して自分の過去と重ねて同情してしまうのだ。きっとこの三人の少女達をここまで連れてきたのも、まるで人として扱われていないような様子が昔の自分と重なったからだろう。
「そうでありんしたか。でも、ダンジョン内に連れ込んで危険はないのでありんしょうか?」
「まあ、敵対することにはなるかもしれないな。逃げ出すというならそれでも構わないさ。冒険者ではないようだし、突出した実力がある様子でもなかったから対した危険はないだろう。それに、箱庭の中に入れるつもりも今のところないしな。ただ、人間性は問題ないはずだぞ。こんなこともあろうかと作っておいた俺のオリジナル魔法で確認済みだからな」
「オリジナル魔法……でありんすか?」
俺はかつて、ほとんど魔法が使えなかった。だが、だからこそその分魔法に対するあこがれは人一倍強かったのだ。
強大な魔法を夢見ていたかつての俺は、趣味である読書で魔法に対する知識をかき集めた。いつの日か、自分ももっと魔法を使えるようになったらこんな魔法を使ってみたいと夢想しながらページをパラパラとめくったものだ。
結果として、俺の魔法に対する知識はそれなりのものになった。前魔王ガルド・ディスペリが統べていたころのダンジョン内で魔力量は断トツの最下位であったが、魔法に対する知識であれば間違いなくトップだったと自負している。加えて今は、魔物育成キット取扱説明書『【賢】の書』に記されていた情報も頭の中に記憶している。つまり、魔法の原理的な話や応用方法はある程度理解しているのだ。
そのため、簡単なものであれば今の俺でもオリジナルの魔法を開発することができる。
今回作ったのは【闇】属性のオリジナル魔法。《マインド・カラーリング》だ。
【闇】系統の魔法は、元々精神に作用するようなものが結構ある。その力を今回の外出でも使用した《着色》を使って応用したものがこれだ。
この魔法は、人の精神の根底にある人間性の核ともいえる部分を著色する。例えば、好戦的だったり野心家だったりすると赤、純粋で穢れの少ない者は水色というような感じだ。浮き出た色が鮮やかであればあるほどその性質は強く、しっかりと心の奥底で根付いている証拠と言える。逆に、薄く、白に近い者は自分を失いかけている証拠だ。この場合、自暴自棄のような状態になっている可能性がある。
また、欲深く、他者に悪意を簡単に抱けてしまう者はその色が濁ったものになる。先ほどの奴隷商人のような黒色というのは濁り切った証拠だ。つまり、あの男は貪欲で腹黒であったのだろう。
要するに精神を判別し、その人格の質によって著色する魔法ということだ。
当然、俺の作った魔法に不具合がある可能性もある。実際に魔法を作ったのは初めてだし、何度も使って実験したというわけでもない。だが、理論上は大丈夫なはずだ。
まあ、俺の知識だけだったらこんな風に簡単に魔法を作ってしまうことなんて到底無理だっただろう。にもかかわらず、新しく魔法を作るなんてことができたのは、『【賢】の書』に記されていた知識のおかげという側面が強い。本当に『大賢者』エドガー・アシュクロフトさまさまである。
無論、似たような魔法は世界のどこかに存在しているかもしれないので、完全なオリジナルとは言えないかもしれないが。
そんな感じの事を簡単にツキヨに説明した。ツキヨは「すごいでありんす!流石は主様!」と褒めてくれた。そんな風に褒められるのは、悪い気分じゃないな。
だが、なぜアルファとモアまでエッヘンと自慢げにしているんだ?確かにダンジョンへと帰っている道すがら、少し実験とか修正を手伝ってもらったけどさ。でも君たちほとんど何もしてないよね?
その後も暫くの間ツキヨ達と雑談に興じていた。ルクハレでの新鮮な経験やダンジョンに辿り着くまでのそこそこ長い道のりによって溜まっていた疲労は気づいたら抜けていた。
まだ一週間も経っていないはずなのに、まるで何年も会っていなかったかのように盛り上がった会話はそれほどまでに楽しかったのだ。我が家が一番とはこういうことなのかもしれない。
結構な時間話していたのだが、漸く話が一区切り着いたというところでツキヨは一歩下がって咳払いをした。
「コホンッ。では改めさせてもらいんして……」
そしてそのまま俺達に言葉を伝えようとしてーー。
「おかえりなのじゃ!我が主殿!アルファ嬢!それにモア達もじゃな!」
ヨミにそれを横取りされた。
「何するでありんすか!この蜘蛛女!」
「ふんっ!女狐がもったいぶるのが悪いんじゃろうが」
そして、二人の喧嘩が始まった。
「「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ……」」
ああ。いいな、この締まらない感じ。帰ってきたって実感するよ。
あまりにも濃密すぎたルクハレでの数日を終えて、俺達はダンジョンに帰ってきたのだ。
閲覧ありがとうございました!
お待たせいたしました。第三章の開幕でございます。まあ書いていて思ったのですが、ここまでを第二章にしても良かったかもですね。いずれ時間のある時に修正するかもしれません。でも今回の話、数年ぶりの再会みたいな雰囲気ですけど実際は一週間経っていないですからね。そう考えるとなんだか茶番に見えてきてしまうのはなぜでしょう……。
さて、なにはともあれ第三章開幕ということで新キャラ登場はもちろんのこと、物語もどんどん動いていきますよ!ということで、これからの展開もお楽しみに!そろそろ作者も登場人物の口調とか把握しきれなくなりそうだ……。
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