第一話 独り煙草は好きじゃない
第一話
分厚い鉄の棺桶、今、僕は潜水艦に乗せられドイツへの長旅をしている。
上官命令で戦術調査の解明やら何か言われて、
此処まで来た。勿論、反対はした。僕はまだ、
高校生だ。一年の時、テストパイロットとかを押しつけられてたまたま軍に来たら、
入隊させられて・・・三年も経てば中尉になっていた。
まあ、学校は中退となったのだが・・・
というわけで今、居るのは伊号潜水艦の粗末なベットの上・・
汗くさい、実に不衛生だ、古い物は自分自身、好きなのだが。これは無理だ。
煙草を持つ、火をつける、吸う。
落ち着いた。全てを享受してしまうほど煙草は魅力がある。こんな物、
高校には居れば大人たちから幾らでもくすめる事が出来る。
その時、煙草の効能は綺麗さっぱり消え失せる。
「敵駆逐艦、三時方向!潜行準備!」
ブザー音、煙草に浸った体を起こす。
といって、やることは無いが・・・
だが、自分が居る二段ベットの一段目から見た光景は地獄絵図そのものだ。
転ける乗り組み員に鞭を振る上官、
後ろからくる人並みの重圧に耐えられず、踏まれそうになる奴。
”酷い”と思う前に自分の手にタバコが握られている
自己嫌悪に陥ってしまった。
2
「敵駆逐艦、爆雷投下!」
ソナー係がそう叫ぶ。
さっき、火を付けたタバコが終わりに近づいている。旨かった・・・
潜水艦は潜行を続ける。「上官・・・良かったら。」誰かが僕を呼んだ。
タバコだろうか。「タバコですか?」と僕は少し微笑んだ。
一つ年下ぐらいの彼はコックリと頷いた。
「ここに座って・・・」ベットに彼を座らせる。
僕はベットの薄い布に隠したマッチとタバコを取り出した。
タバコを取り出す。
彼はそれをゆっくりと取る。
マッチを擦る。
火が着いた。
彼のタバコの先端に引き寄せる。
彼のタバコが夕日の様なオレンジの光を発する。
「ここに灰皿あるから。」
僕は薄い布をサッとめくり、隠した。
まるで手品の種明かしの様に
「上官、貴方は優しい人だ」
「良いんだ、独りタバコは好きじゃない。」
僕と彼は無言だった。タバコを吸っていると、
なにも話す気にはならないんだ。