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魔剣戦記 Ⅱ  作者: せの あすか
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エピローグ

1009年11月30日 ビルト城内 3





キャスカは新しく入れたお茶をすする。

湯気でメガネが真っ白になる。



(お茶はやっぱり熱すぎる位がいいな。)




少し前まで、猫舌だったように思う。

いつの間にか、熱いものをそのまま口にできるようになった。


そんな風に少しずつ、変わっていく。




ビルトもこのひと月で変わった。


城の中は全て検分、死体などは運び出し、オルドナ王と重臣たちの葬儀も済ませた。

城の中は明るく、常に新鮮な空気が通っている。

通りは綺麗に掃除され、貧民街の住民には小ざっぱりとした住宅が与えられた。

貴族たちが持っていた土地や財産、私兵は没収され、新しい国に組み入れられた。

暫定だが統治機構も出来上がり、治安にも大きな問題は無い。

ボニエ川は汚いままだが、汚物を溜め込んで魔法の力で堆肥や土にする施設の建造が始まっている。



(ようや)く、ひと息つける。



明日はなにも予定がない。

このひと月で初めて事だ。



自然と深いため息が出る。




体の疲れはなんとでもなる。

だけど心の奥底が、疲れている。





もう一度地図を眺める。

広大な領土を見回す。




時折キャスカは、自分の持つ絶大な権力におののく。

今ユリースとキャスカがその気になれば、小国を滅ぼす位の事は容易にできてしまうのだから。




もちろんユリースはそんな事思いつきもしないだろう。


だけど、人は変わり得る。



トニが捕虜を虐殺し姿を隠したように。

ジャンが誰にも行き先を告げずに居なくなったように。






ジャンの件はキャスカにも大きな責任があった。

あの女の手枷を外したのはキャスカだったから。


後悔は果てしない。

考えても仕方がないとはわかっていても、罪の意識は消えない。





柔らかな西日が窓から射し込む。



最近は日が暮れると急に冷える。

石の建物だからなのか、その寒さには容赦がない。



(・・・暖炉に火をつけようかな)



昔父親に、11月中は火を焚かないものだ、と言われた事がある。

なんの根拠もないのに変な説得力があって、キャスカはなんとなく今までそれを守ってきた。


だけど今日はその言いつけを破りたい気分だった。



キャスカは机の中を漁り、火付けの魔具を探し当てた。

そして魔法の暖炉にそれを嵌め込む。


暖炉に付与(エンチャント)された炎の力が発動する。

ほどなくして、毛糸の服を通じて体全体に熱を感じる。


一日とはいえ父親の言いつけを破った後ろめたさを感じながらも、キャスカはほっと息を吐く。


(あったかい・・・)


肩が、背中が、頬が緩むのがわかる。





不意に涙が込み上げる。

一粒だけ、涙が落ちる。


慌てて深呼吸して、残りは押し戻す。






執務室のドアがノックされた。



ゆっくり、2回。


キャスカは跳ね上がって扉に駆け寄る。



ビルトでも、メルケルでも、普通ノックは4回。

2回ならそれは。





ドアを開ける。



バツの悪そうな表情(かお)のユリースが立っていた。


キャスカはたまらなく嬉しいのを悟られないように、静かに微笑む。



「護衛さんは?」


「気づかれないように出てきちゃった・・・」


ユリースは目を逸らし、鼻の頭を掻く。

その仕草が子供みたいで、噴き出しそうになる。


「後で近衛隊長さんに怒られちゃいますね、護衛さん。」


新たに近衛隊長に就任したロレンは、必要ないと何度断わっても、若手の隊員を護衛として付けて寄越す。

なかなかの手練ではあったが、彼の目を盗んでそっと抜け出すなどユリースにとっては朝飯前だろう。




笑い合いながら、キャスカはユリースを部屋の中に誘う。


扉が閉まる。





「なんだか・・・久しぶりです。」



ユリースはこくりと頷く。


この一ヶ月は、二人とも忙しすぎた。

最後に二人だけで話したのは、多分戦が始まる前だろう。



「ちょっと・・・疲れちゃった。」



ユリースは消え入りそうな声でそう言いながら、目を伏せる。



「私も・・・


私もです。」



たまらずキャスカの声が震える。



さっき押し戻した涙がぽろぽろと落ちはじめる。



「みんな、いなくなっちゃったね・・・」



そう言ったユリースの目からも涙が(こぼ)れる。





戦の前、メルケルでの日々。

熱と笑いと、希望に満ちた日々。


たったひと月前なのに、遠い昔のように感じる。


失ったものの代わりに何を得たのか。

本当にこれが最善の道だったか。


整理がつかぬままの思いが目から溢れるのを、二人とも止められない。




どちらからともなく抱き合う。

そしてお互いの肩に顔を埋めて座り込み、しゃくり上げる。


二人の肩はすぐにびしょ濡れになる。

夕闇と共に窓から忍び込む冬の空気が暖かい涙から温度を奪おうとする。





(暖炉をつけておいて良かった。)




キャスカは、心からそう思った。









オルドナ解放戦争編、完結です。


こんな長いのを読んでくださっている皆様、本当に本当にありがとうございます。

遅筆、誠に申し訳ないです。


メインのお話はまだまだ続きますし、外伝も沢山用意しております。

今後も頑張って楽しく書いていきたいと思ってます。


本当にありがとうございます。

今後ともよろしくお願い致します。


せの あすか


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