1009年11月9日 北方〜ブンザの町郊外
陽は燦燦と降り注ぎ、タム川のほとりに咲く白い花達が、風に合わせてキラキラと揺れる。
水は清く、多い。
冬の入り口の少し引き締まった空気。
どうしようもなく美しく、涙が出そうになる。
下腹がズキズキと痛む。
裸で自分に覆い被さるあの男のニヤ付いた顔が浮かんで、今度は吐き気をもよおす。
あの日、奴はやってきた。
手負いの軍を連れて。
自らも血を流しながら。
それはまるで、王を守るために奮迅の活躍をしてきた軍のように見えた。民を守るために自らの命を顧みず戦った軍のように見えた。
だから、壁のこちら側に入れた。
それが間違いだと気づいたのは、翌日の事だった。
奴は北方統治の会議メンバーのうち、エルフの重鎮と土着宗教の司祭を、理由もなくいきなり殺した。
そして会議を二度と開かぬと言い放ち、他の面々をブンザから追い出した。
そして軍の指揮権を私から奪うと宣言した。
異論を挟んだ私の部下は、真っ二つにされた。
私と有識者会議で何年もかけて積み上げてきた北方統治が、一瞬で崩壊した。
奴はさっさと軍を再編成し、必要なものを民から収奪し始めた。
女は片っ端から犯す。気に入らぬ男は殺す。
王が居なくなってタガが外れたのだろうが、まさかここまでのケダモノだとは。
何年も奴を見てきたはずだが、本質は見えていなかったという事だろう。
・・・或いは
自分の中にある常識とか、希望的観測と言ったものが、目を曇らせていたか。
いや、あんな人間の行動など、想像がつかなくて当然だ。
やつが現れた時に、殺すべきだった。
黒雷と言えど手負い。
全軍でかかれば、なんとかなった。
しかしその命を下すことが出来なかった。
やはりあの時点では、奴が味方に見えたのだ。
今となっては、自分を呪うしかない。
この秋晴れが終わると、雪が来る。
しかし冬をいかに乗り切るかを考えたところで、自分にはそれを行う権限が既にない。
なんだ、この無力感は。
昨日、作らせていた壁が完成した。
これで、ビルトとの物資や情報の交換はできない。
そして向こうから兵を起こしづらくなる。
当然だ。そのために作ったのだから。
我々を護ってくれるはずのものが、虎の檻になってしまった。





