1008年12月22日 炎の森
昼間なのに暗いのは、天を覆う黒煙と日の光を遮る雨雲、それから滝のように降る雨粒のせい。
地を這う水でぬらぬらと黒く蠢く地面。雨水は地面に落ちたそばから蒸発し、行く手に靄を掛ける。
「こっちで大丈夫なのか!!」
クラウが大声を出す。
それでも大雨の轟音でなかなか聞き取れない。
「え!?なに!?」
ビッキーが聞き返すが、クラウはもう一度言うのをあきらめた。
どうせ大したことではないし、体力の無駄だ。
タヤンは早くからそれに気づいていたのか、ずっと無言を貫いている。
炎の森に入って二日目の朝。
雨は夜明け頃から降り始めて、もうかなりの時間降り続いている。
ー炎の森に入ったらとにかく真東ー
トニとジャンからは、そう聞いていた。
だが太陽の光が見えないし磁石も効かない。
方角を測るものが無いので、どうしても「なんとなく東」になる。
既に三人とも、正確な進路などわからなくなっている。
3人共、蹄に熱対策の付与を付けた馬に乗っている。
着ているのも、以前竜の巣に着ていった、氷の力の法衣だ。
これで馬の足は保護できるし、溶岩や火山弾に襲われても熱だけは防げる。
溶岩と雨のせいで気温と湿度が異常に高いのだが、法衣の中が涼しいので三人は比較的快適に移動出来ていた。
だが視界が悪いのだけはどうにもならない。
迷って帰れなくなるようなドジだけは踏みたくないので、タヤンとクラウで頻繁に木に印を打っていた。
目的は、以前ジャン、トニのふたりと行動を共にしていた「コビ」というコボルトの捜索だ。
トラギア崩壊より前に、あのふたりは炎の森の中で偶然コボルトの集落に迷い込んだことがあるらしく、その集落見つけられればきっとコビの行方も分かると思っているようだった。
もう行方不明になって4年経つというので、いまさらという感じもするが・・・
ジャンとトニはずっとコビを気にかけていて、なんども捜索隊を派遣したのだが、炎の森は溶岩のせいで頻繁に地形が変わってしまうので毎回捜索は難航し、集落の再発見には至っていない。
以前集落は海沿いにあったらしいのだが、いまは当時よりかなり海岸線が北上しているはずなので、海沿いを歩いても無駄。
幻を見たのではないかー
捜索隊に参加したメルケルの若者は、後にそう言ってジャンとトニを疑ってかかったという。
今回も、見つかるはずがない。
当のクラウたちですら、そう確信していた。
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少し雨が小降りになった。
心做しか空が明るくなったように感じる。
「なんであたしらがあいつらの小間使いなんか・・・
旅団は王女様のために動く組織だろ?」
ビッキーが不満を漏らす。
「まあ、そうだけどな。でも今回はユリースの希望でもあるんだ。
もしコボルトの集落を見つけてうまく交渉できれば、ほら、奇襲の時の手引きをしてもらえるかもってさ。」
「あーなるほどね。だけどホントにこんなとこに住んでるのかね。
亜人って言っても暑いとか寒いとかは私らと同じでしょ?」
「エルフなんかは寒さに強くて暑さに弱いって聞きますね。他はあんまり聞いたことないです。」
タヤンが口をはさむ。
「まあ、軍の訓練よりはましだね。あたしあれやっぱり苦手だよ。
いくらある程度自由があるって言っても、周りとまるで違う動きをするとぶつかるから気を使うんだよね・・」
旅団の面々は、奇襲軍の中にあってもある程度独断で動く事を許されていた。
それは彼等に軍に属した経験がない事もあったが「独断で動ける副官がいたほうがやりやすい」という、ユリースたっての希望があっての決定だった。
ビッキーはそれを、ユリースの気遣いだと思っている。
長く自己流で戦ってきた旅団の面々に軍の動きはそぐわない。力を発揮できない。
それをわかって、自由をくれた。
しかし、それでも今までと比べたら随分不自由だ。
旅団の面々・・・特に前衛のクラウとビッキーは、集団の中で戦うに適した剣術と戦法を身につけるため、日々兵に混じって訓練に勤しんできた。
「オレもあれは疲れる。だがまあ楽しくもあるよ。この歳でイチから学ぶなんて事はなかなか無いからな。」
「あんたまだ27だろ。「この歳」なんて老け込む歳じゃないよ。あのグランゼとかいうジジイ見ろよ。一昨日あんたの所に習いに来てただろ?」
「ああ、この武器の使い方聞きにな。あの爺さんはなかなかおもしれえ。歳かさだからって偉そうにしないし、勉強熱心だしな。
あんな風に歳が取れる人間がいるんだな。」
「メルケルはそういう人が多いかもしれません。良くも悪くも実力主義というか。権威やハッタリでは通用しないんです。人の入れ替わりが激しいし高い家柄とか身分みたいなものも無視。
貴族の子弟なんかはメルケルに来てもすぐに逃げ出しますからね。ナントカ家のご威光が通用しないよ~って。」
タヤンが嫌味を言う。彼は普段は温厚で素直な人間だが、どうも貴族や王族に対して偏見を持っているらしく、時々こういう事を言う。
ユリースにはそんな態度を見せないのだが、それはユリースが今なんの後ろ盾も権力も持っていないからなのだろう、とクラウは思っていた。
「ははは、なるほどな。」
クラウは張り付いたような愛想笑いをした。
実はクラウは西方の貴族の出で、跡継ぎ問題のゴタゴタに嫌気がさし、家を捨てて東アストニアに移住してきた人間だった。
この事を知るのは旅団でもダリのみ。
賞金稼ぎ、傭兵、職人。
こういう世界では得てして良い家柄の人間が嫌われる。
例え家を捨てて、戻らぬ覚悟を持ってその世界に入ってとしても、「金持ちの道楽」「上手くいかなかったら帰るところがある」などと揶揄され、仲間として認められるまでに随分苦労する事になる。
クラウは最初からそれを危惧し、出自を隠して今までやってきた。
それを後悔もしていないし、間違いとも思わない。
だが、バレたらどうなるか。
賞金稼ぎの仲間たちに今まで通り接してもらえるのか。
全く自信は無かった。
会話の流れが悪くなったからか、集落を見つけられる気がしない徒労感からか、3人とも無言になってしまった。
雨はいつの間にか止んでいる。
少し馬も休ませたいので、3人は馬をおり、徒歩で休憩場所を探す。
暫く歩くと、枯れ木や倒木だらけだった森が突然開けた。
広場のようになったところの中央に進む。
ーおおきな、白い岩?
赤く白っぽく固まった溶岩の上に、ぽこんと突き出ている。
「なんですかこれ、岩?まん丸ですね。」
「えらくツルツルだな・・・」
「なんだろね。ちょっとどいて。」
ビッキーが盾の縁で岩を叩いてみる。
コウゥゥン
長く深い残響音。
「なんか・・・中は空洞?みたいだね・・・」
「壊して中見てみるか。なんかお宝の予感がするぜ?」
「ええ・・・?いやだなあ・・・絶対変なもの出ますよ・・・」
雲の切れ間から日の光がひとすじ射した。
周囲の雨粒がキラキラと光る。
きっと良い事が起こる。
そんな予感。
「自然のものではなさそうよね。
倉庫っぽい。穴開けてみよう。
あんたらノミとか持ってる?」
「小さいのならありますけど・・・・槌はないです。」
「盾で槌の替わりになるだろ。やってみるよ。貸して。
・・・ちょっとどいてて。」
ビッキーはノミを受け取り、それを白い岩に当てて盾を振り下ろす。
カァン
カァン
ノミが白い岩を少しずつ削る。
ぽろぽろと、小さい白いかけらが飛び散る。
「お、結構削れるな。ちょっと根気がいるか。」
「そうだね。いいよ、休んでて。」
カァン
カァン
静かな森。
遠くからノミの音がやまびことなって帰ってくる。
暫くしてクラウと交代。
カァン
カァン
いつしか、さっきまでの雨が嘘のように晴れていた。
ビッキーは滑らかに固まった溶岩の上で昼寝。
タヤンは暇を持て余し。笛にするのにちょうどいい草の葉を探している。
馬はのんびりと飼葉を食んでいる。
時間の流れが止まったような錯覚。
こんな贅沢な時間は、メルケルに居ては望めない。
3人とも、久しぶりの休暇、という心持ちだった。
ピーピーと、タヤンの草笛が鳴る。
どうやら、お誂え向きの葉っぱを見つけたようだ。
カァン
カラン・・・・カラン・・・
小さな欠片が空洞に落ちる音。
タヤンが草笛を止める。
カァン・・・
ガラガラッ
大きな破片が落ちた音。
「お。開いたね。」
ビッキーが気付いてクラウに近づく。
ブルルルッ
馬がすこし暴れて、警戒したような声を出す。
「お、おい・・・・・・」
クラウは呆然としている。
「何かありました?」
タヤンも近づいてきた。
ビッキーとタヤンがクラウを挟むようにして、3人で深い穴の中をのぞく。
丁度太陽の光が上手く差し込み、中がよく見える。
「これ・・・・」
ビッキーの顔がみるみる青ざめる。
「なんで・・・・」
タヤンが声を震わせる。
どうやら地上に出ていたのは、大きな建物の屋根のごく一部だったらしい。
覗き込むと、下には円形の大広間。
その中央に折り重なるように
大量の人骨。
かなり時間が経っているのか完全に白骨化しており、腐臭などは無い。
が、埃と骨と黴が混じって溶岩の熱で蒸された、なんとも言えぬイヤな臭いが立ち昇ってくる。
何年も封じ込められていた、濃密な死の臭い。
「おええええええ」
ビッキーがたまらずに吐く。
クラウも堪えきれずに、胃の内容物を残らずまき散らした。
「ざっと50人・・・もっといるでしょうか・・・」
タヤンは青ざめた顔をしながらも、しっかりと状況を見て観察している。
「人間ではない、コボルトですね。頭骨が小さい。手足も短い。
服も、ちょっと変わってますね。」
「なんだってこんな事に・・・・」
「おえ・・・・わかんないけど、あいつらが言ってた集落ってのがここなんだろうね。
もう誰も生きちゃいないってのは確実みたいだよ。」
「見てください。あの死体、頭骨に大きな傷がある。多分剣です。」
「殺されたって事か。人間に?」
「自分たちで殺しあったかもしれないからわからないけどね。」
ヒヒン!!
馬が警戒の声を出す。何か来たか?
3人はとっさに穴から離れる。
こんな気味の悪い穴に落とされたら、事だ。
ガサッ
森の中から、馬よりも大きい赤い体が這い出てくる。
「火トカゲ・・・・」
タヤンが呻くように言う。
厄介だった。
火の精霊と魔物の中間のような奴。
真っ赤な体に虎のような黒い縞。
長く太い体と尻尾。ぬめっと光る肌。
そして太く短い脚と鋭い爪。
平たい顔に大きい口。
動きは素早く力も強い。
おまけに炎まで吐くし、そもそも体に触れるだけで火傷をするほど体温が高い。
「初めて見たよ。バカでかいサンショウウオ、ってとこだな。」
クラウが間抜けな感想を述べる。
「さっきのノミの音を聞いて来たのかもね。マズったかもよ。」
「どうも私たちを食べたいみたいですねえ。」
「来るぜ・・・」
地を這って来る。のろまそうな見た目からは想像もつかないほど、速い。
ビッキーだけ右に位置を変えた。
クラウとタヤンは動かずに迎え撃つ。
火トカゲはまずビッキーに襲いかかった。
腕を振り上げて殴りつける。ビッキーは飛びずさってよける。
すかさずクラウが近づき、一撃を加える。
火トカゲの肩口に剣が当たる。
が、ぬめぬめとした体液で剣が斜めに滑る。
皮一枚切っただけ。
タヤンが横に廻ってメイスの一撃。左後ろ足に当たる。
火トカゲが呻き、後から来た男二人を見て口を大きく開く。
炎。
巨大な赤い舌のように、二人を包み込む。
その隙を突いてビッキーが横から片手剣でわき腹を思い切り突く。
深く、剣が刺さる。
キギャアアアアアアア!!!!!
怪物の絶叫が森にこだまする。
「だめだ!!!!」
ビッキーが叫ぶ。
致命傷には至らないという事だろう。
ビッキーの剣は火トカゲのわき腹に刺さったままになっていた。
体と同じ色の赤い血がどくどくと、真横に突き出た剣の柄から滴る。
魔物は怒りに燃えた目をビッキーに向ける。
まずい、武器がない。
とりあえず、盾を構える。
「おりゃああ!!!!」
クラウの特殊な形状の両手剣が怪物の右前足を切り落とす。
火トカゲが驚きの顔でクラウを見る。
焼き殺したはずなのに、という顔。
怪物は痛みと混乱で暴れ出す。
そして、突然ものすごい勢いで回転した。
太い尾がクラウの腹にぶち当たる。
吹っ飛ぶ。
タヤンはすんでのところで躱した。
「クラウ!!!」
ビッキーが駆け寄ろうとする。
火トカゲは、すかさず倒れているクラウめがけて跳躍する。
潰す気か・・・・・
「逃げろ!!!!」
ビッキーの絶叫。
「うおおおおおお」
倒れていたクラウが必死で横に転がる。
ドシンッ!!!!!!
火トカゲの体が地面に激突する。
クラウは・・・
なんとか避けていた。
そのまま、転がり続けて距離をとる。
「ハァ・・・ハァ・・・あぶねえ・・・・」
全身の痛みに顔をしかめるクラウ。
ビッキーとタヤンが駆け寄る。
「おい・・・!!!」
「大丈夫ですか!」
「大丈夫だ・・それより・・・」
火トカゲは。
グガガア・・・・
まだ立ち上がろうとしているが、足が一本無いせいでうまくいかない。
バランスを崩し、巨体を再び地面に打ち付ける。
ミシ・・・・・
足元から軋んだような音がした後、火トカゲの周囲の地面が消えた。
ガラガラガラガラ!!!!!
もうもうと上がる土煙。
火トカゲの体が瓦礫に埋まる。
クラウ達の足元は崩れない。
崩れたのは・・・さっきの白い岩の周囲。
3人は顔を見合わせる。
「崩れちまった・・・・・・」
「死体も・・・トカゲも・・・」
「埋まっちゃいましたね・・・・」
火トカゲはもう動く気配がない。どうやら息絶えたようだ。
「ちょっとどうしようもないね。ってあんた大丈夫!!?」
クラウが顔をしかめてうずくまっている。
「イテテテ。わき腹・・・たぶん肋骨何本かやられた。」
「さっき大丈夫って言ったじゃないか!」
「命には別条ねえって話だよ・・・あんな一撃食らってんだ・・・無傷でいられるかよ・・・」
タヤンがクラウのわき腹を触る。
「イテテ・・もうちょっと優しくしてくれよ・・・」
クラウが顔をしかめる。
「2本・・・3本折れてますね。とりあえず痛み止めしますが応急処置しかできません。すぐ帰りましょう。ビッキーさん用意してください。」
「ハイヨ。鞍に縛り付ける感じでいいかな?」
「はい、なるべく動かなくて済むようにお願いします。
クラウさん。あなたは命に別状ない、と仰いましたが・・・内臓が出血していたら命に係わります。あまり動かず。なるべく早くメルケルに帰ります。」
「おう。すまねえな。二人とも苦労かける。」
「うっさい。あんな怪物にあんなふうに動かれたらどうしようもないよ。黙って寝てな。」
「じゃあ、痛み止めしますよ。まずこれを飲んで。眠くなりますけど、眠気に逆らわず。寝ちゃって下さい。」
タヤンはクラウに薬湯を飲ませ、香を嗅がせた。
それから簡単な精霊魔法。
程なくして、クラウの目がとろんとしてくる。
「凄いね。おもしろい。」
ビッキーが茶化す。
「シッ!刺激しないでください。これで眠れないと後で相当辛いことになる!」
タヤンが小声で窘める。
「ゴメン!」
ビッキーはバツが悪そうにして、ぺろっと舌を出した。
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夕刻。
クラウは鞍の上で目を覚ました。
やけに太陽が眩しい。
馬の背に寝転がるようになっている。
腰には縄。手首も縛られていて動けない。
よくこんな風に固定できたものだ、と変に感心する。
「おう・・・随分寝たように思うけど・・・
どの辺だ?」
「おお!!!いつ起きたの!!メルケルまでもうすぐだよ。寝てな。」
「顔色が良いですね。どうやら深刻な怪我では無さそうです。良かった。」
「おう、ありがとな。」
鞍の揺れが脇腹に響く。
これで良く眠れたものだ、とクラウは思う。薬湯と魔法の効果だろうか。それとも単に気絶していたのか。
「・・・・・・」
クラウはコボルトの死体の山のことを思い出していた。
全員殺されたのか?
コビという奴も?
誰に?山賊か、それとも・・・オルドナ軍か。
「なあ。」
呼びかける。
両脇のふたりがクラウの方を見る。
「あの・・・死体のことさ。
ジャンとトニに黙って置くことは出来ないだろうか。
どうも、あれを伝えることが良いとは思えねえんだ。
もちろんお前らふたりが良ければだが・・」
「・・・なんでよ?」
「黙ってるっていうのは私には抵抗があります・・・
コビさんがあの中に居るのなら、二人には伝えてあげたいし弔ってやりたいです。彼もメルケルの恩人ですから。
私等が言わなければもう二度と見つからないでしょ?」
「そりゃ、なんて言うか・・・
いつかは、伝えなきゃいけないと思うんだけどよ。
でも今じゃねえと思うんだ。
今はオルドナを倒すための準備期間だろ?そこでこんな話伝えたら、あの二人は多分オルドナの仕業だと判断する。そうなっちまうと多分冷静じゃ居られねえ。
突撃隊長になっちまうかも知れねえし、無茶して復讐に走るかも知れねえ。戦術眼も鈍る。
とりあえず隠して置いて、全部終わって落ち着いたら・・・
正直に伝えて謝ればいいと思う。
大人数で掘り返して、墓を作ってやってもいい。
それが、俺たちにとってもあいつらにとっても、一番いいと思うんだよ。」
ビッキーは黙って考えている。
タヤンは大きく頷いた。
「なるほど、そういうことですか。
・・・いいかもしれないですね。
コビさんがあの中に居たのかどうかは分かりませんから、まだ死んでるのか生きてるのかは判断出来ない。
なら徒にふたりの心を乱すよりも、何も無かったと報告した方が・・・
波風が立たないかもしれないですね。」
「じゃあどうすんだ?どんな報告をする?何も見つけられずにこんなに早く帰ってきましたってか?」
「丁度いい事に、オレが怪我をしてる。
森で火トカゲにやられて怪我をして、捜索は打ち切って帰ってきた・・・
って事でどうだろう。」
「ハッ。情けない報告だね。あたしらの評判ガタ落ちだけど・・・まあいいのか。
暫くは軍務で賞金稼ぎどころじゃないし。
戦で活躍して名を上げれば帳消しだからね。
・・・いいよ。乗った。
あたしも賛成だ。」
「決まりですね。全て終わったら、真実をどう伝えるかを3人で相談しましょう。」
「二人とも何から何まですまねえな。恩に着るぜ。」
「随分しおらしいね。このまま死ぬみたいだ。」
ビッキーがクスリと笑う。
クラウは抗議しようと体を起こすが、傷が痛んだのか顔をしかめる。
それを見てビッキーは、今度は大声でカラカラと笑った。
(この三人が揃って死んだら、あの死体達は永久に見つからずに瓦礫の中ですか。)
少し嫌な想像をして、タヤンは人知れず顔を強ばらせた。