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魔剣戦記 Ⅱ  作者: せの あすか
59/66

再び ソラス

矢の雨。


空が黒く見えるほどの。



亜人には何十本も、まるでハリネズミのように大量の矢が刺さった。


その周りに倒れている敵味方の兵士たちの死体にも、(おびただ)しい数の矢が突き立っている。


周囲の弓隊から、嗚咽と嘔吐の音が聞こえる。


無理もない。異常な相手を前にした緊張感。

それから亜人と一緒にまだ生きていた味方を自分の矢で殺したかもしれない、という思い。

正常を保てるはずがなかった。







矢を受けてから暫くは、亜人の動きは止まっていた。






が。






ぎぃぃぃ・・・りリリィ





あの声。







ハリネズミがこちらを向く。





右目には矢が突き立ち、どくどくと血が流れる。


片方だけの濁った黄色の目が、テテロ達の方を見つめる。






もう、限界だった。


弓隊の全員が、絶叫を上げながら逃げ出す。


転んだ味方を踏み越え、隣の人間を引きずり倒しながら、兵士たちは走る。




亜人がまた走り出す。ありえない速さで。





恐怖の中、騎馬隊だけは何とか持ちこたえ、迎え撃とうと踏み止まっている。









そんな中でテテロは、さっきからひとり呆然と立ち尽くしていた。






ーーーーーーーーーーーー



「ジャジール様の・・・大剣」





10年前の戦でオルドナの手に渡った、マリーアスの象徴たる名剣。

若かりし頃に憧れた、あの馬上剣。




それが今、あのおぞましい亜人の手の中にあった。


何故かは、わからない。




血がグラグラと沸騰する。


喉が痛い。多分、俺は今叫んでいるのだろう。




その剣で、この殺戮を行ったのか。




なんなのだ、その悪意は。




それがやはり、オルドナの正体か。




もはや全てどうでもいい。




あの亜人を殺す。




その後で、全てのオルドナ人を殺す。









単騎で前に出て剣を構える。





りぃぃ・・・




奴がものすごいスピードで迫る。



跳躍してくる。



体全体を使った重い一撃。





正面から盾で受け止める。


ごきっと音がして、左腕が折れた。





よほどの力がかかったのか、左足の(あぶみ)がおかしな音をたててちぎれた。


しかし、剣は受け止めた。



そのまま落馬する。





馬は、恐慌をきたして駆け去る。





「うおおおおおおおおお!」





俺はすぐに跳ね起き、右手で剣を鋭く突き出す。



切っ先が亜人の左肩を貫通した。





串刺しになっても亜人は動きを止めず、右手だけでもう一度馬上剣を振りかぶる。





折れた左手を動かして盾で受けようとするが、肘から先がおかしな方向に曲がっていて盾をうまく制御出来ない。


相手の剣が盾に当たるが、正面で受けることが出来ず、盾の表面を剣が滑る。


滑った剣に右の胸を斜めに切り裂かれた。


勢いは死んでいたが、思ったより多くの血が吹き出す。


痛みは、不思議と感じない。





「ごぼあ」




呼吸が出来ない。肺をやられたか。



相手の左肩に刺さったままの剣の柄をつかみ、無理やりに動かす。





心臓に届くか?




ぐりっぐりっと動かす。









亜人はひとつふたつ痙攣したあと、体の動きを止めた。







手からジャジールの大剣が落ちる。


目から、濁った黄色が消える。





そして亜人は、驚いたような顔でこっちを見た。








正気に戻った?


のか?







亜人は胸に刺さった剣に気づく。

それから地面に落ちた剣を見てなにか言おうとしたが、言葉にはならない。







剣か。



この剣がこいつを狂わせたのか。






亜人はふっと目を伏せる。



矢が刺さっていない左目から、1粒の涙を流す。





そして、ぶるんとひとつ体を震わせると、そのまま動かなくなった。











なんなのだ。



これはなんなのだ、



オルドナの糞どもが、その剣に何か細工をしやがったのか。






「その 剣に 誰も触るな」




破壊せねば。





兵達がなにか言っているが、聞き取れない。


口から生暖かいものがあふれた。




苦い。鉄の味。嫌いな味。






いつかの戦の場面を思い出していた。



どこかの豪族の反乱の鎮圧だったかな。

初めて将軍の近くで斥候をやることになって、嬉しかったっけ。




ーーーーー





『将軍!報告致します!


この先、馬には道が悪いようですのでしばらく下馬された方がよろしいかと。


それから、砦までの道に兵を隠せるような場所はありません。


・・・ただ草が深くかなり乾燥しておりますので、火攻めにはご注意を。




はっ。もったいないお言葉、ありがとうございます。』




ーーーーー








テテロと亜人 ーかつてコビという名で呼ばれた最後のコボルトー



ふたりはお互いの体にもたれ


まるで彫像のように


立ったまま息絶えた。

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