再び ビルト城外
ガスパスは戦線を離脱して川の方に向かって行く。
北方にでも逃れるつもりか。
ユリースはそれを見届けもせず馬から飛び降りて、血だらけで仰向けになっているダリに駆け寄る。
追撃どころではない。
ダリが、死んでしまう。
肩口から腹にかけてぱっくりと開いた大きな傷から、止めどなく鮮血が溢れている。
黒い肌の上を滑るその赤が、てらてらとやけに生々しい。
クラウも飛んできた。
半分泣いている。
もう、助からない。
二人ともそれを確信していた。
血が流れすぎてる。
内臓も、多分深くやられている。
ガスパスは抜け目なく、ダリの命を奪うための仕事をきっちりとしていったのだ。
ダリがなにか喋ろうとする。
ユリースもクラウも、ダリが話し出すのを止めなかった。
どのみち助からない。
どう見積っても、助からない。
だったら、止めずに話を聞きたい。ひとことでも多く。
「ユ・・・ユリース。」
ダリの手を取って、ユリースは何度も頷く。
「悪かった・・・な。」
ユリース今度は首をぶんぶん横に振る。
ダリは顔を少しだけユリースの方に向けて続ける。
「だけど、戦は・・・やっぱり・・・
ダメだ。
戦だけ・・・は・・・
おま・・・
おまえが、戦・・終わらせろ。
戦の無い世を・・・たの・・・む・・・」
何度も、何度も頷くユリースの目から涙がぼろぼろと落ちる。
戦が、この人を殺してしまった。
自分が起こした戦が。
その悔しさと悲しさが、胸の奥から込み上げて止まらない。
「わが・・・った・・・
わかったよ、ダリ・・・
約束・・・するよ・・・」
ユリースは両手で握ったダリの手を額の前まで持ってきて、祈るようなしぐさで泣く。
ダリは、今度は反対側にいるクラウの方を見て、少し微笑む。
「ありがとう・・・ござい・・・ました。
あなたの・・・おかげで・・・」
「バカ、やめろ!昔の話だ・・・!
リーダーはてめえだろ!
い、いつものように・・・
えらそうに・・・しやがれってんだ・・・」
クラウもぽろぽろと涙を流している。
ユリースの知らない過去が、この2人にはあったのか。
そんな秘密の昔話を、いつか皆でわいわい聞きたかった。
そんな思いが、またユリースの悲しみを煽る。
「へへ・・・
そう・・・だな。・・・悪りい。
でも、あんた・・・お前の・・・おかげで・・・
楽し・・・かった。」
「ああ、楽しかったな。
俺たちみんな、おまえが居たから、ここまでやってこれた・・・
これから・・・
これから、おれらどうすりゃいいんだ・・!」
「・・・バカヤロ・・・
ガキじゃねんだ・・・そのくらい・・・
自分で・・・カハッ」
ダリは少し咳き込む。
一旦荒い息をして、また咳をする。
それが収まると、ダリはひとつ深く息を吸ってからまた話し始めた。
「頼みが・・・」
「何でも言って。」
ユリースが食い気味に返す。
「ビルトに・・・チャイって・・女がいる・・・
もうす・・・ぐ・・・子供が・・・
助けてやって・・・くれ。」
「チャイだね。わかった。わかったよ。」
「任しとけ・・・任しとけ!」
「頼む・・・ぞ。」
ダリは、少し満足そうな顔をしてから、静かに目を閉じた。
浅い呼吸を何回かする。
瞼の後ろで、瞳が震えるように動くのがわかる。
クラウが力なく開いたダリの掌に顔を埋めて慟哭する。
「ダリ・・・」
ユリースが絞り出すように呼びかける。
ダリはそれには答えなかった。
そして最後の息を、長く静かに吐き出した。





