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魔剣戦記 Ⅱ  作者: せの あすか
55/66

11月5日 午後 ビルト城外 4

押せない。敵は頑として動かない。



(なんたること・・・ここまでの・・・)




近衛は紛れもなく、オルドナの最精鋭部隊だ。

その近衛900騎の突撃をやすやすと受け止める、黒雷の100騎。


淡々と攻撃をかわす。

決して反撃してこない。

とにかく避け、受け止め、押し返してくる。


しかも指揮はガスパスではなく敵の副将らしき男。






被害が大きくなる前に、ドゥドゥは一旦兵を退いた。



ひと固まりになった200騎。

半分は向こうを向き、半分はこちらを向いている。


一体どれほどの調練を重ねたのか。

この恐ろしい部隊を作るために、どれだけの物を犠牲にして来たのか。


ドゥドゥは改めて、自身の判断が間違っていなかったことを確信していた。


こんなものを、街に入れてはいけない。

こんなものを作るのは、人間ではない。







黒雷の本陣200騎の向こうから、剣戟の音が鳴り響いている。


ユリース達と、ガスパス。

戦況はどうなのか。




ドゥドゥはふと気づく。



(そうか、あの200騎には頭が居ないのだ。)


ガスパスはメルケル軍と激しい戦闘の最中だ。

この200騎に指示を出していたのは副官とみられる男だが、細かい指示を出している様子はなかった。


連動して動いているように見えるが、兵それぞれが判断して戦っているのか。


ならば、そこをうまく突くことが出来ないか。




「ロレンとサカに伝令。兵を三つに分ける。左右から挟み、中央は前方から弓で牽制する。

大きく勝とうとするな、相手の気力を徐々に削る。それだけでよい。」


伝令が左右に走る。



そしてドゥドゥは馬上剣を弓に持ち変えながら下知する。


「中央200、弓を持って3列!

残りは左右に分かれロレン、サカの命に従え!」


兵たちが素早く動く。




(我等とて精鋭。簡単にはやらせんぞ。)







今年で54になる。前線を退いて後輩に道を譲ってもおかしくない年齢。


それなのにこの劣勢を楽しむ自分が可笑しくて、ドゥドゥは少しだけ笑った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


クラウはまだ踏ん張っているようだ。

ガスパスの猛攻を何とかいなし、下がりながらも軍容を維持している。




少数での突撃が不発に終わり、ガスパスは一旦本陣と合流した。

そして兵を入れ替え、息もつかせぬと再度突撃の構えを見せる。



その数、150余り。

クラウ隊は、130騎。


数で優っていたはずなのに、いつの間にか逆転されている。







ダリの隊150騎がクラウの隊と合流するのが見えた。



クラウはダリの登場にひどく驚いた様子だったが、もちろん話などしている暇はない。

目配せしただけで、ダリと入れ替わって一旦後方に下がる。



ユリースの麾下80騎は、遊撃隊としてダリ隊の右前方に陣取る。


トラギア軍は、全部合わせて360騎。




(600が・・・この短時間でここまで・・・)


ユリースは全軍を見回して、唇を噛む。



(あそこで仕留められなかった。

この損害は、自分の責任だ。)



剣を握りなおす。




ガスパスが突撃してくる。

狙いは今度もこっちではなく、ダリの隊。


(そうはさせない)


ユリースは麾下を率い、ガスパスの正面に出るべく馬を走らせた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「いいぞ、深入りするな!

突っついて戻る、それだけでいい!」


ロレンは敵にも聞こえるようわざと大声でそう言いながら、敵の左翼に散発的な攻撃を仕掛ける。


反対側のサカも同じようにしているはず。


そして、中央のドゥドゥは弓を射かける。




ふつうの弓であれば難なく叩き落すのだろう。

しかし近衛の弓は普通ではない。

コルテス産のコハの木から削りだされ、強化の付与(エンチャント)が掛けられた弓。

そして普通の矢と風切り音のしない矢を混ぜ、ランダムに放つことで敵を混乱に陥れる。

最近中央で開発された戦術で、黒雷の連中は知らないはずだった。


その証拠に、ドゥドゥ隊はかなりの成果を上げている。


弓だから死人はそれほどでないが、敵本陣の混乱を誘うことが出来た。

あちこちで軍馬が衝突を起こし、時には罵声が聞こえる。




(なるほどな。兵の能力が高すぎるのも、時には軍を弱くするか。)



おそらく、指揮官の指示に疑問を持つものがいる。

おそらく、指揮官の指示に従いたくない者がいる。




兵は上官に盲目的に従うのが責務で、そこに逡巡など通常あり得ない。


しかしおそらく、この敵本陣を指揮する副官は就任して日が浅いのかもしれない。

そして、実績がなく兵たちに認められていないのかもしれない。




「ガスパスの単独行動を支えるためには優秀な副官の存在が欠かせない。


だがその副官がうまく機能していない。


こんな弱点を放っておくガスパスではない。


・・・本来の副官はソラスで戦死でもしたか。」


ドゥドゥは自分の予測が正しい事を確信し、誰にともなく呟きながら何本もの矢を射る。





その一本が、副官の太ももを射抜くのが見えた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





ガスパスの姿・・・

ダリの隊に向かう150騎の先頭を駆けている。



黒雷の本陣が近衛に押され始めたようだ。



ここでガスパスの突撃を止めれば、戦場の空気が変わる。




勝てる。





ユリースは少しだけ手綱を引き、内腿に力を入れて馬に意思を伝える。




葦毛が加速する。


麾下の兵は付いてこれない。




今は、それでいい。







単騎で、奴を。






ガスパスまであと10秒。


奴がこちらを一瞥した。



その瞬間、ガスパスのすぐ後ろに付けていた5騎が分かれて、行く手をふさぐ。



いや、行く手を完全にはふさがず、ユリースの右手から並走するようにして、攻撃を仕掛けて来た。



それも、馬に対して。




(どういうこと!)




反撃するが、うまく躱される。




そして代わるがわる寄せては馬を狙う。




自然と進路が左にズレる。






やっとのことでひとり倒したときには、ガスパスとほぼ並行していた。





(近づけない・・・)






ガスパスの進む先には、ダリが居る。






ダリは矢をつがえて、放つ。


ガスパスは、正確に自分の額に向かって来た矢を剣で払う。




もう一矢。

今度も剣で払う、が、矢の進路はさほど変わらず、ガスパスの首筋に浅く矢が立つ。




もう一矢。

今度は深々と腹に刺さる。が、ガスパスに動じた様子はない。




(急所じゃないとわかって、わざと受けた・・・)




つまり、そうまでして速度を保ちたい。

そして、自分の体の痛みに勝る戦果を確信している。







(ダリを、討ち取る気だ。)







ガスパスがさらに加速する。


二人があと10歩ほどの所まで近づく。


ダリは動かずに、もう一矢放つ。




(違う・・・逃げて!)


声が出ない。




心臓を正確に狙った矢をガスパスは、少し体をよじって右胸で受ける。


矢はまた、深く刺さった。


だが彼は速度を緩めない。






そして



ようやくダリの元へたどり着いたガスパスは、高々と剣を振り上げた。


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