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魔剣戦記 Ⅱ  作者: せの あすか
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11月5日 午後 ビルト城外 3

「こっちかよ!」


ビッキーは慌てた。

当然ユリースの方に向かうと思っていた敵大将が突然こちらに向かってきたのだ。


ひときわ長身の黒鎧は涼しい顔をして、兵たちの海を異常な速度で渡ってくる。



間に居る味方兵が、紙で作った人形のようにバタバタと倒れる。




(これがガスパス・・・)




ぞわりと、腕に鳥肌が立つ。

矢傷を受けた右肩が、ずきずきと痛む。





「逃げて!!!」


ガスパスの後ろからユリースの声。



(残念、逃げて逃げ切れる相手じゃないよ。)



ユリースの声で少しだけ落ち着いたビッキーは、改めてガスパスを観察する。


武器は馬上剣。盾はない。

鎧は・・・材質まではわからないが、ユリースの剣が通ったはず。


おそらく一太刀目から決めに来る。

手が長いから、振り下ろしはえらく重いはず。




ビッキーは両手剣を下段左側に、体で剣を隠すように構える。


こちらの間合いを見せずに相手の攻撃を誘う。

そして、隙があったら反撃する。

そういう「受け」の構え。





一列前の兵士が倒される。




ガスパスひときわ大きく見える。




(来る)




馬上剣の切っ先がピクリと動いたかと思うと、真っすぐこっちに向かって来る。


(突き・・・と見せかけて)


切っ先が止まり、素早く振りかぶって右から薙いで来る。



(ドンピシャだ)



ビッキーの読みは当たった。




一旦切っ先を止めているので薙ぎにそれほどの威力はない。


素早く体の右に縦に剣を置いてしっかりと受け止める。


受けた瞬間に両手と肩の傷にしびれが走る。

雷撃の付与魔法(エンチャント)


だがそれも前情報で知っていた。

予測できていれば、ひるまずに済む。



(いける)


そのまま剣を滑らせ、切っ先をガスパスの左わき腹に向けて突き出す。

ここなら、(かわ)せないはず。




()った・・・)




しかし、あるべき手ごたえがない。






ガスパスは、いつの間にか右に廻り込んでいた。

有り得ない速度で。


「なん・・・だ・・・!?」



どうやって?





(馬・・・?手綱も持たずに膝だけで?)



ビッキーは剣を戻そうとする。




が。




ガスパスはするりと剣を出し、切先を巻き付けるようにビッキーの右腕に当てた。


腕の筋肉がぶつりとはじけ、血が噴き出す。




左手一本で両手剣を戻して突き出すが、力が無いので難なく弾かれる。


剣が落ちる。




ガスパスは上段に剣を構えた。




ユリースがなにか叫んでいる。

が、聞き取れない。







無防備なままガスパスを見上げる。






(これまでか)



目を瞑る。








戦場の喧騒。


強く、風を切る音。


来るべき痛みに備える。






が、それはなかなか来ない。





目を開ける。


ガスパスの左肩に一本の矢が突き立っていた。



深手ではないらしく、ガスパスは気を取り直してもう一度剣を振りかぶる。

しかしそこで、追いついてきたユリースがガスパスの背後から一撃を見舞う。


ガスパスは反転して剣で受け、たまらず離脱する。





一緒に突っ込んできていた敵騎兵たちも、ガスパスに続いて離れていった。






ユリースが息をつきながら矢の飛んできた方向を見ている。

とめどなく血を噴き出している右腕を抑えながら、ビッキーもそちらを見る。





50歩ほど向こうの原野にぽつんと単騎、肌の黒い細身の男。




見慣れたチュニック、それから大きな弓。





「ダリ!!!!!」





二人は同時に、そう叫んでいた。



ーーーーーーーーーーーーー






ダリはすぐにユリース達に合流した。

兵たちから安堵の、そして歓喜の声が漏れる。

突然離脱した将校が、この窮地に現れたのだ。



ダリはまず、あまりの痛みに脂汗が止まらないでいるビッキーに声をかけた。



「悪い。苦労掛けたな・・・。


今、いろいろ話している時間はない。

とにかく、お前はもう離脱しろ。


命に関わるぞ。」



ビッキーは頷いてその場にへたり込む。

すぐに兵士たちが輿に載せ、後方に連れて行った。


ダリはユリースに向き直る。


「この軍、俺がそのまま貰っていいな?」



言いながらダリはガスパスの去って行った方向を睨む。



ユリースはその横顔を見て、驚いていた。


眼の下には深いクマ。

肌艶も悪い。

唇が渇いていて、眼も充血している。


それだけではない。

これまでのダリとは違う、陰のある話し方。


気付かないほうが難しい、あからさまな変貌。


だがユリースは、あえてそれには触れない事にした。


おそらく、聞かないほうがいい事なのだろう。

それくらいは、ユリースにもわかった。



「・・・・助かった。ありがとう。」



「いや・・・

とにかく、ここを乗り切ろう。

ほら、今度は向こうがヤバいぞ。」




ダリが顎で指示した方向には、クラウの隊。

ここから離脱したガスパスの隊の猛攻を受けて、ずるずると後退している。






ここで反対側から鬨の声があがる。



黒雷本陣の背後、ビルト城正門から、1000ほどの騎兵が撃って出るのが見えた。


すぐさま黒雷の本陣100騎が反転し、突撃に備える。



この素早い動きを見るとやはり、最初から挟撃を受ける事を想定していたとしか思えない。

それでも勝つ自信があった、という事だろう。




黒雷はたったの100騎で近衛の騎馬1000騎の突撃を受け止めた。

黒雷の本陣は微動だにせず、残りの兵はこちらを睨んだまま。




クラウの隊がさらに後退するのが見える。



たった50騎相手に、もう崩壊寸前だ。



「うしろは近衛に任せよう。

俺たちは、大男を助けに行くぞ。」


ダリが血走った眼を敵大将に向ける。


ユリースは黙ってうなずき、手綱を強く握った。


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