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魔剣戦記 Ⅱ  作者: せの あすか
53/66

11月5日 午後 ビルト城外 2

左からやって来た黒い波。


ぶつかってから数秒で、もう20人以上やられた。



準備は出来ていたはずだった。

訓練通り密集して隙間なく盾を並べ、こちらからは仕掛けない。

一太刀目をしっかりと受け、長槍で反撃する。

何度も何度も繰り返してきた調練。


それが、まるで役に立たない。

敵は一撃目から、丁寧に盾の隙間をついてくる。

その攻撃が正確で、早い。


まず一撃目を軒並み受け損ねる。

最前列が剥がされる。

二列目が長槍を出す。

冷静に躱される。槍を奪われる。



向こうはすばやく1列目と2列目が入れ替わる。

最前線は常に新しい相手と戦わなければならない。




まさに大人と子供、という表現がぴったりだ。




あたし自信も手練れ二人に追い回されて、捌くだけで手いっぱい。



右のクラウは?

見る余裕もない。が、同じようなもんだろう。





「だめだ、下がるよ!」


なんとか声を出せた。




左でまた二人やられた。




右肩に熱いような感覚があったのは、その時だった。




ーーーーーーーーーーーー


斬ったのは皮一枚だけ。

それでもいっとき、ガスパスの動きを止めることが出来た。


その間に兵を一人斬った。

残る敵兵は7、それにガスパス。


でも、いつまでも受けきれるような相手ではない。劣勢は明らか。




ガスパスはまだ驚いた顔をして、胸の所から滴る血を眺めている。


部下の7人が一斉にこちらに寄ってくる。

身構える。



でも、ガスパスは片手を上げ味方の動きを止めた。

兵たちが素早く反応し、ガスパスの位置まで下がる。


距離にして10歩。



ガスパスが一歩前に出て来た。


「おい、その手甲はなんだ。」



なに?世間話?



「トラギア騎士団に伝わる装備。


今は私しかいないけど。」



「なるほどな・・・昔噂に聞いたことがあるような気がするな。


・・・その剣は?」



「オルドナから父・・・トラギアの王に送られた・・・国を滅ぼした剣。」



「ああ・・・あの女の作ったおかしな剣か・・・

付与(エンチャント)は、強化だな?」




これには答えない。

わざわざ敵に手の内を見せるほど間抜けではない。


だが、この剣の出所をこいつは知っている?


「あの女、とは?」


「いつからか王宮に巣食っていた、寄生虫みたいな女だよ。

近衛をたぶらかしたんなら王城の中も見たんだろう?


居なかったのか?」


地下に居た、女の死体が目に浮かぶ。

あの女が作った?


「この剣はなんで・・・何のために作られたの?」



「オレは知らんよ。興味もない。

そんな噂を聞いたまでだ。」



「・・・我々は既に王城を占拠しました。

オルドナ王は、すでに亡くなっておられました。

その女も、恐らく死にました。


これ以上の戦いは無意味です。


どうか・・・降伏を!」



さすがに、王の死には驚いた様子をみせた。

でもすぐにまた氷のような笑みを浮かべる。


「断る。


・・・少し待て。」



ガスパスは部下に目配せする。

部下が笛のようなものを出して吹く。



リン、と高い音が戦場に響く。




ガスパスが動かない事を確認してから後ろを振り返ると、黒雷が攻撃を止めて乱戦から離脱していた。


ガスパスは剣で指示を送ると黒雷は素早く陣形を変え、メルケル軍とビルトの城門の間に方陣を組む。



「どういうこと?」



「フフフ。

王がいない、オルドナという国ももうないとなると、オレとこの隊は全てから自由になったという事。


いまオレの興味はお前にある。


・・・お前はあの隊に戻って指揮をとれ。

おれはあいつらと合流する。


それで一戦、交えるぞ。」



なんなの、こいつ。



「そんな・・・馬鹿な・・・」



「馬鹿でも無茶でも何でもいい。

退路は絶ったぞ。

半刻後に問答無用で攻撃を仕掛ける。


せいぜい頑張って準備するんだな。」



さっさと行っちゃった・・・


ほんと・・・なんなの、あいつ。



ーーーーーーーーーーーーーー



肩で息をつくクラウとビッキーの元にユリースが駆け寄る。

ビッキーの右肩には血止めの包帯がまかれている。


「大丈夫?矢傷?こっちの損害は?」


「ああ、大丈夫。痛いけど腱は無事。動くよ。」


「一瞬で、100程はやられた。

こっちの戦果は・・・・そいつだけだ。」



クラウが顎で示した方向に、黒い鎧の兵士の死体がひとつ。



「まさか・・・1人?」



「ああ。情けないけどね。


・・・恐ろしく強いよ。兵も指揮官も。

馬もまるで作戦が解ってるような動きをする・・・・」


「まるで歯が立たなかったぜ・・・

だがおれらももうだめだって時に、あいつら突然攻撃を止めやがった。」



クラウが恨めしそうに黒雷の方を睨む。


すでに敵は、黒い塊となっていた。




「なんなんだ?あれは。」


「王が死んでたって伝えたの。

でもガスパスは戦を止める気は無くて・・・

私に興味がある、指揮をとって戦えって・・・」



「はあ・・・?


変な奴。

それであんなとこに陣を組んだってのかい。

変態、極まれりだね。


どうすんだい?そんなのに付き合うのかい?」



「いや、まともにはやりたくない。


・・・近衛に頼んでみよう。

それで動いてくれなければ・・・まずいことになるかも。」



「確かに・・・ガスパスの優勢を見たら近衛のやつらももう一度寝返るかも知れねえな・・・

あのおっさんは見た目通りのカタブツだから、一度言った事はひっくり返さねえとは思うが・・・・

兵士はそうもいかねえだろうからな。」



ユリースは頷いて、連絡用の魔具を取り出す。


ツマミを引いて魔力を解放する。

低い音が鳴り、魔具に魔力が満ちるのがわかる。


キインと一度高い音が鳴って、相手とつながったのがわかる。



「隊長さん、聞こえますか?」



「・・・ザ・・・聞こえている。

苦戦しているな。」


「投降を呼びかけましたが失敗しました。

半刻後再戦です。その時に、城から打って出てくれませんか?」


「・・・ザザ・・・いいだろう。

そのための後詰だ。ただ、ガスパスも馬鹿ではない。

わざわざあんな位置に布陣したのだ。挟撃は覚悟の上だろう。

油断するな・・・。武運を祈る。」



「ありがとうございます。」


そう言ってユリースは通話を切る。



ビッキーが心配そうな顔をする。

「大丈夫かな・・・」


「信じるしかないね。

さ、準備しよう。


クラウ、再編成をお願い。

最精鋭100人を私の直属に。

それ以外は二人で分けて。


ビッキーは軽傷者を後方に集めて。

打てる者には弓を。武器が持てない者には吹矢とか、何でもいいから渡して。


私は前方で不意打ちに備えます。

急いで。」


そういうとユリースは最前線に向けて馬を走らせる。



「すっかり、指揮官らしくなってきたね。」



「ああ。この戦の間にもどんどん成長してる。

なんていうか・・・勝てそうな気がしてくるな。」



「油断すんじゃないよ?相手もバケモンだ。


さあ、やる事やっちゃおう。」



「おう。勝とうぜ。」



「ああ。」



ビッキーとクラウは、お互いの腕をガツンとぶつけ、それぞれの持ち場に駆けていった。




ーーーーーーーーーーーーーーー


赤茶けた地面の上を騎馬隊が動き始めた。



中央にユリースの麾下100騎。

右にビッキー、左にクラウ、それぞれ200騎を従えて続く。

さらに後方には100人ほどの負傷兵の中距離攻撃部隊が控える。

総勢600。




対する黒雷。

まるで炭の塊のように見える、密集隊形の350騎。

メルケル軍が動き始めたのを見ても、全く動く様子がない。




「中央、20歩右。悟られないように。」


ユリースが低い声で言う。

麾下の100騎だけが、徐々に右に移動する。





敵陣まであと100歩の所。



「突っかける。速度を上げて。」


100騎が速度を上げる。

後方のビッキー隊も後に続く。

クラウ隊は反対方向から当たる事になっている。


50歩の距離。

黒雷はまだ動かない。



(迎撃しないつもりか)


ユリースは敵のあまりに落ち着いた布陣を目前にして、焦りににも似た感情が芽生えるのを感じる。


残り20歩。

あと数秒で当たるというところで、黒雷が動いた。



黒雷左翼100騎が分かれて、3列に並ぶ。

盾を構え、ユリースの部隊の突撃を正面から受け止める構えを見せる。


(まずい)


同数だが、向こうは練度も高く馬も良い。

もし突撃を真正面で止められた場合、後続のビッキーの軍が後ろから突っ込んできて、下手をすると踏みつぶされる。


とっさにユリースは剣を振って部下に指示を出す。


停止、そのまま右に30歩。


すばやく100騎が停止、横にズレて後続を待つ。



(さすが精鋭)


反応が早い。下手をすれば訓練でも見せなかったほどの動き。

士気は高い。




そこにビッキーの軍が追い付いてくる。

ユリースは再び前進をはじめ、ビッキーの軍と速度を合わせる。



そのまま300騎の塊になって黒雷の100騎にぶち当たる・・・

と思いきや、当たったのはユリースの100騎のみ。

ビッキーの軍は少し手前で止まり、雨あられと矢を射かける。



矢で倒れたのが数騎。

ユリースの麾下が倒したのが10騎程度。



メルケル軍の損害も、ほぼ同数との報告。



もともと黒雷はメルケル軍の半分しかいない。

損害が同数なら、こちらの圧倒的優位という事になる。




しかし


「ガスパス!来ます!」


優位の報をかき消すように斥候の声。



敵中央から稲妻のように飛び出てくる50騎が見える。




(来るか)



ユリースは迎撃すべく、離脱して身構える。




しかしガスパスはこちらには来ず、真っすぐにビッキーが居る方に向かっていった。




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