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魔剣戦記 Ⅱ  作者: せの あすか
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11月5日 午後 ビルト城外 1

「意外でした。隊長があんな申し出を受けるとは。」


ビルト城の城壁の上で、ロレンはドゥドゥに笑いかける。

ドゥドゥは厳しい顔を崩さないままに答える。


「相手がほかの将軍・・・例えばメディティス様やマーロンであれば、喜んで迎え入れる。

そして共に戦いユリース殿を追い出す算段を始めただろう。


だが、ガスパスやファンクスはダメだ。まるで話が通じん。

いまのビルトの無秩序の中にあ奴らを招き入れたら、すぐに傍若無人な本性を現す。


それでもファンクス程度の男ならば、我々で抑えられる。


だがガスパスとあの「黒雷」だけはいかんのだ。

近衛が束になってかかっても、おそらくまるで敵わない。

王都がめちゃくちゃにされてしまうだろう。


それをユリース殿はわかっていて、我等に協力を求めてきたのだろうな。」


「会って間もない我らに・・・」


「そうだな。

瞬時に・・・おそらく直観的にそれが最善と判断して・・・

しかも我等が申し出を受ける事まで予測できていたのかも知れぬな。


あの時は度肝を抜かれたが・・・・

後で考えてみるとどこまでも理にかなっていて、それがビルトの住民を救う唯一の道だとわかる。


ふしぎな方だな、あの王女は。」


ロレンは、自らの(あるじ)を語るような口ぶりで話すドゥドゥを見て、笑いを抑えきれない。


ドゥドゥがそれに気づき、一段と険しい顔を作ってそれを咎める。



ロレンは必死で笑いをかみ殺して、原野に目を向けた。



黒い一団がもうそこまで来ている。


ゆっくりとこちらに軍を進めている。




手前には、メルケルの騎馬隊、およそ700。




少数同士の騎馬戦。

しかも、全く障害物の無い原野戦。


ドゥドゥは縦横無尽に駆ける黒雷の姿を思い浮かべ、うすら寒いような気分になる。



「勝てますか?」


ロレンがごくりと唾をのむ。


「勝てぬよ。」


ドゥドゥが即答する。

驚いたロレンが何か言おうとする前に、ドゥドゥが先を続けた。


「普通なら・・・な。

だが、王女殿も相当の強さ。

側近の者たちも強い。

後詰には我々もいる。


運が良ければ、追い返せるかもしれぬな・・・。」




(それでも、勝てはしないのか。)


ロレンは再び、唾を飲み込んだ。




ーーーーー



地面は適度に湿り気を帯びている。

こんな日は砂ぼこりが立たなくていい。

蹄も、滑らない。


ガスパスは手綱を軽く引き、馬を止める。



ほとんど同時に、350騎が止まる。



ビルトの城がもう目前に迫る。


その手前に展開する敵軍。




敵は撃って出てきた。


それも、王女自ら。


後詰には・・・おそらくあれはオルドナ近衛部隊。



なにか掴まされたか。

いや、奴らは物では動かない。



(ほだ)されたのだ。



「大義などに拠らねば戦えぬとは。」


意味を図りかねたのか、副官が不思議そうにこちらを見る。



舌打ちしたいのを抑える。


リユトならばその意図を汲んだだろうか。

或いは、北のあの女なら。




「さて、行こうか。」


手綱を握って馬を進める。


剣を2度、左から右へ。


方陣が崩れ、左右に別かれる。

両翼に2列の騎馬。自分は中央、先頭に立つ。


最高の攻撃力を誇る、騎馬のみの鶴翼。




凄まじいものを、みせてやろう。



そして、勝つ。






敵軍中央の銀色の鎧・・・王女らしき人影に狙いを定めて、剣を突き出す。



隊形を一糸も乱さぬまま、黒い巨大な鳥が動き始めた。



ーーーーーーー



(予想以上だ。)


ユリースは手に汗がにじむのを感じていた。


まるで一つの生き物のように動く黒い塊。

それが流れるように翼を広げた。


そのままこちらに向かってくる。



それほど早くない速度で。

それがまた不気味さを醸し出す。




中央にいる背の高い男と目が合う。




(笑ってる・・・)



ニヤリと・・・というよりも、心底楽しそうに笑うその顔を見て、ユリースは悟る。



そういう('''')類か。)



あれを、人とは思わないほうがいい。

魔獣、ドラゴン。

そういう、人外の相手だ。





あと数十秒でこっちに来る。

どう迎え撃つか。

迷っている暇はなかった。





「全隊動かずに、敵の動きに合わせて盾を前に出し、守って。

両翼も同じ。早く伝えて。」


伝令が走る。




そしてユリースは一人、前に出る。




自軍を置き去りにして、単騎で。




真っ黒な両手剣を真横にして構える。








「来い。」



ユリースは静かに、呟いた。



ーーーーー



ひとり前に出て来た敵将を見て、ガスパスは驚いていた。



(ほう。俺の首を狙うか。)



集団戦では分が悪いと見て、頭をつぶそうというのだろう。




つまり、相当腕に自信があるという事だ。




「本物か。ありがたい。


おい、お前。」



副官の名前が出て来ず、ガスパスは振り返って呼びかける。


副官が短い返事をする。



「俺は10騎のみ連れて離脱する。

全軍を率いて右から廻って突っかけろ。

詳細は任せる。」



「ハっ!!!」



副官はすぐに剣を振り上げ、全軍に指示を出す。


その指示の出し方が、ガスパスには気に食わない。


間違ってはいないが、細かすぎるのだ。

黒雷ほど訓練を積んだ兵たちなら、その半分の指示で自ら動く。


(兵士としては掛け値なしに優秀だったが・・・俺とは合わんな。)





右に離れていく副官の名前を思い出そうとしたが、やはり思い出せなかった。




ーーーー


あと20秒の所で、敵が二つに分かれた。



こっちに向かってくるのはガスパス。そして後ろに10騎。


残りはひとまとまりになり、左に大きく迂回した。

おそらく側面を突くつもりだろう。

ユリースは無視し、正面に集中する。



ガスパスはこっちに真っすぐ向かって来る。


ユリースが馬を止めて、剣を構える。




目前に迫る。

突きあげた馬上剣が陽光にきらりと光る。


切っ先が、左右に細かく振れた。


同時に、後ろについていた10騎が、左右に展開する。


5騎ずつの、鶴翼。



(まずい。)


10騎、同時に来るつもり。

おそらく全員が手練れ。

馬の質も、とんでもなく良い。


そして、正面にはガスパス。




ユリースは馬に鞭を入れ、前に出た。

ユリースの駆る芦毛の馬は出足が早く、ほんの2歩3歩で早駆けの速度に乗る。




予想外の速さに、一瞬ガスパスが驚きの表情を浮かべるのが見える。



すれ違う。


ガスパスの鋭い突きがユリースの右肩をかすめる。

ユリースの一撃は・・・ガスパスの左に居た兵士の首筋を切り裂いていた。


ユリースの右肩から一筋の血。

斬られた兵士は首から血を噴き出しながら、ゆっくりと落馬する。



お互いが振り返り、向き直る。



ユリースは最初からガスパスでなく、兵士を狙っていた。

その一瞬の判断力に、ガスパスは内心舌を巻いていた。



「やるな。王女。名は・・・何と言った?」



「ユリース。トラギアの王統に属する者です。


ガスパス将軍、降伏して頂けませんか。」



「断る。」



凍るような笑顔で即答したガスパスがユリースに向かい馬を進める。

呼応するように、後ろの9騎も動き始める。




今度はゆっくりと近づく。


ガスパスの上段からの一撃。

ユリースは一旦両手剣で受け、勢いを殺した後に手甲で剣をからめとろうとする。


違和感を感じたガスパスはすぐに剣を引きそれを阻止する。


左右から兵が二騎同時に斬りかかる。


ユリースは両手剣を片手に持ち替え、リーチの長い突きで右の兵士の肩口を刺す。

同時に左の兵の剣を手甲でいなし、バランスを崩してつんのめった兵士の顎を蹴り上げる。


ガスパスが再び正面から胸に向けて激しい突き。


ユリースはすんでの所で飛び上がりながら、体をひねって躱す。

馬上で一回転しながらガスパスに向かって剣を出す。

切っ先がガスパスの胸を掠る。


真っ黒に染め上げられた鋼鉄の鎧が、紙のように裂けた。



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