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魔剣戦記 Ⅱ  作者: せの あすか
51/66

11月5日 正午

ーーーーソラスの城----


一旦は血を吐き意識を失ったセリアだったが、半刻ほどすると意識を取り戻し、いまは降伏の瞬間に立ち会うべく輿に乗って前線まで出て来ていた。


(うまくごまかしたものだ。)


コーラスはセリアの赤みを帯びた顔を見て、欝々とした気分になっていた。


直前までの真っ青な顔をしていた。おそらく皆を心配させぬようにと、化粧をしたのだろう。




結局セリア王女は、ソラス守備の大隊長達が出した降伏の条件を、武装解除と大隊長の捕縛を条件に全て飲み、書類にサインした。



刻限は、正午。


正門の前には、7人の大隊長の姿。

部下に縛らせたのだろう。全員が丸腰で両手を体の前で縛られている。


うしろの城門は完全に開かれ、壁の上には夥しい数兵士が武器を持って並んでいる。





皆が日時計の針を見つめる。

魔法の日時計は、影が正午の位置に入ると、ひとつ魔法の鉦の音を鳴らした。


同時にフランクが縛られたままの両手を上げて、下ろす。




城壁の上の兵たちが壁の下に向かって、武器を投げ捨てる。


弓、矢、剣、槍、盾。鎧まで投げる者もいる。

数万の金属の滝。

雷が百も同時に落ちたような、轟音。





もうもうと舞う砂煙が収まった頃、セリアの直属の部下たちが大隊長たちに近づき、縄を改める。


部下の一人がセリアの方を向き、頭の上に手を上げて大きな丸を作る。




セリアが最小限の護衛だけを連れて、最前線に移動した。そして城に向かって魔具で拡声した声で話りかける。



「冷静なご判断に感謝いたします。


まずは大隊長達の身柄をこちらで預かります。

そして、こちらの兵士がソラス城内を改め、武器の有無を確認し、見つけた物は没収します。


ご安心ください、鋤や桑、農業や工業に使う道具は没収しません。


頂いた条件の通り、マリーアスはあなた方を対等に扱い、尊重します。

過去を忘れ、今後は良き友となれるよう、お互いに努力しようではありませんか。」



敵の兵士たちから、安堵のため息が漏れる。


セリアは、今度は自軍の方に向く。



「我が兵たち。

戦は終わりました。


今後ソラス及びオルドナ領内における一切の戦闘を禁じます。

いかなる理由があっても、住民及び武装解除した相手兵を傷つけた場合には、軍令違反とみなし厳正に処断いたします。


肝に銘じ、事に当たってください。」



兵たちが姿勢を正す。



テテロがごくりと唾を飲み込むのを、コーラスは見逃さなかった。





ーーーー同刻 ビルト城内ーーーー


昨日とは打って変わって、快晴。

秋が冬に変わる季節特有の、すこし冷たくて妙な緊張感のある空気に、昨日の湿り気が少しだけ残る。


ユリースは一杯に空気を吸い込み、吐く。

それだけでひとつ体内が浄化された様な気持ちになれる。




真っ青な空にやっていた目線を戻す。



ビルトの城と城下町をつなぐ跳ね橋は、再び降ろされていた。


中央でドゥドゥとクラウが、先ほどと反対方向にすれ違う。



すれ違いざまにクラウが声をかけた。


「な?嘘じゃなかっただろ?」


「やかましい。敵は敵。余分な事を話してやる義理はない。」


「へいへい。」


クラウは両手を広げて肩をすくめる。



お互いがお互いの仲間の所までたどり着いた。



クラウは仲間にねぎらわれて、少し照れ臭そうに笑う。


橋の向こうでは、剣を佩きながら部下からの報告を受けていたドゥドゥが顔色を変えて、部下に大声で何か言っている。



「どうしたんだ、あれ?なんかあった?」


ビッキーがクラウに尋ねる。


「ああ、さっきあっちにマスケアの戦況報告が入ったんだ。

ジャンが勝った。敵は全軍が降伏、マスケアを占拠したってさ。」


クラウは皆に聞こえるよう、少し大きな声で言う。

味方の兵も将も、歓喜の声を上げる。


「いつ?」


ユリースが尋ねる。


「決着がついたのは今日の夜明け。その後の事はわからねえって言ってた。」


「そっか・・・」


仲間の戦勝に浮かれた周囲の雰囲気とは対照的に、ユリースは考え込む。



「どうした?

どうやら、俺達の勝ちだぜ、この戦。」



「そうだね・・・ちょっと、話してくる。」



言うとユリースはおもむろに橋を渡り始める。

無造作に、なんのためらいもなく。




総大将の突然の行動に、両軍の緊張が一気に高まる。


対岸の近衛兵が弓を構える。




ユリースはそれを手で制す。




ドゥドゥも部下に対して撃たぬよう合図しながら言う。


「そこで止まってくれ。

それ以上来るなら、撃たぬわけにはいかなくなる。」


厳しい声。



それに対しユリースは柔和な笑顔を見せる。


「隊長さん。」


ユリースはドゥドゥをじっと見つめながら話し始める。


「マスケアが落ちました。


・・・オルドナ王が亡くなっているのも見て頂きました。


おそらく、ずいぶん前から上からの命令も無いですよね。

もう、私たちが戦う理由が見当たりません。


降伏していただけませんか?」



ドゥドゥが大きくかぶりを振る。


「戦う理由はある。民だ。」



ユリースは、すこし声を大きくした。



「民の安全は保証します。あなた方の安全も。

これ以上の戦闘は無意味です。


それよりも・・・そんなことに力を使うよりも。


この国のこれからの事を、一緒に考えたいのです。」



しんと静まった中、ユリースの声だけが不思議に響く。



(俺達にも聞こえるように言ってるな。)


クラウはそう確信していた。


ユリースの言葉には、不思議な力がある。

それは敵にとっても味方にとっても大きな影響力を持つ。

知らぬうちに、引き込まれていくのだ。


それは千年続いた王族の持つ力なのか、それともユリース個人の資質なのか。

そしてその力を効果的に使う術も、ユリースは既に身に付けていた。




ドゥドゥは目を瞑る。


ユリースは続ける。


「マスケアは落ちました。ほどなくメルケル軍はここにも来ましょう。

ビルトの王城も、明け渡すつもりはありません。

それに、ソラスを攻めているマリーアス軍も恐らく負けません。

なぜなら、コルテス島でも住民による反乱が起こっているはずだからです。」



近衛隊からざわめきが起こる。

ドゥドゥが目を見開き、怒ったような表情をする。

ユリースの後ろでロレンも驚きの声を上げた。



ユリースはさらに続ける。



「あなた方の所にも、二度と補給は来ないでしょう。

いま蓄えている物がなくなったら・・・あなた方は民から奪うのですか?


民は、あなた方が勇敢に戦ったのを見ていました。

私たちも見ていました。


降伏したとしても、あなた方の誇りは失われません。」





ドゥドゥはふっと笑いを漏らす。


「王女殿、なかなかの策士だな。

これで拒否したらまるで私が悪者だ。」



ユリースは少し慌てたような顔をする。



「い、いえ、そんなつもりは・・・」



「よい。

もはや、議論の余地は無い。勝ち目もな。


・・・即刻武装解除し投降する!

条件は住民及び投降者の安全を保障する事のみだ!」


ドゥドゥの宣言に、両岸からどよめきが起こる。





戦が終わる、皆がそう確信した。




「ありがとうございます・・・」


ユリースはすこし目を伏せて黙礼した後、今度は目を泳がせる。


「ええと、どうしましょう・・・んーと。」



突然ユリースが後ろの仲間とドゥドゥを交互に見て、うろたえている。


そのあからさまな変貌に、クラウとビッキーは思わず笑ってしまった。



「ははは、すげえ困ってるな。」

「手続きとかがわからないんだろうね。キャスカ、行ってやりな。」


キャスカもニヤニヤしている。


「ホント、いきなり全然ダメになっちゃって。


っていうか私もわかんないですけど・・・

まあいいか、何とでもなりますね、行ってきます。」



キャスカが橋の中央に向かって歩く。



ドゥドゥが部下に向かい、武装解除の準備をするよう命じている。




その時、城内に居たカールが少し慌てた様子でやってきた。


そして幹部にだけ聞こえるくらいの声で報告する。



「さっき非魔法の効果が切れてすぐ、見張りから魔具で報告があった。


南から騎馬数百が近づいてる。

おそらくガスパス。

真っすぐこっちに向かってるみたいだよ。

半刻の位置。」


クラウが青ざめる。

「そりゃ・・・・大変だ!」


クラウはキャスカを追い越してユリースの元に走る。

驚くユリースに、クラウがカールから聞いた内容をそのまま耳打ちする。



ユリースの眼が険しくなる。





数秒宙空を見つめた後、対岸のドゥドゥに向かって言った。



「ガスパス将軍がここに近づいています!

迎え撃ちたい!力を貸してください!」




皆、耳を疑った。


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