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魔剣戦記 Ⅱ  作者: せの あすか
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11月5日 朝 ソラス城前 野戦場

「あれでは何のためにファンクスの首を取ったのか!

こちらに寝返るための手土産じゃないのか!」



予想に反していまだに固く閉ざされたままのソラスの城門を睨めつけながら、テテロは前線にやってきたコーラスに不満をぶつけていた。



「こちらを敵とみなしている、という点では変わっていないようですね。

ただ、向こうから降伏の条件を出してきました。」



「条件?

そんなもの必要なかろう。奴らに何を言う権利がある?

昔から戦における降伏とは、命以外全てを差し出す覚悟でするものだろう。」



「そうですが・・・。


向こうが出してきた内容を見ますか・・・・これです。」



コーラスが出した書状をテテロがふんだくって、食い入るように読む。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ソラス城の守備兵及び住民は、以下の条件が全て満たされた場合に限り、マリーアス王国の降伏勧告を受諾する。


一、今後ソラス城はマリーアス王国の統治下には入らず、自治領として独立を保障される

一、非戦闘員のソラス住民は現状通りソラスに在住し、マリーアス軍によるあらゆる権利の侵害を受けない。

一、将校以外のソラス守備兵は武装解除の後、安全に自らの故郷或いは開戦前の居住地に移動し定住する権利を有する。

一、武装解除後の居住地の定まらない将校以外の守備兵は、武装解除の後ソラス市民権を得、ソラスに在住できる。なお、このうちマリーアス軍に合流の希望を持つものは、それを妨げられない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「なんだこれは!!こちらの利権をすべて放棄しろという事ではないか!!!!」



テテロは書状を叩きつけんばかりの剣幕で怒鳴る。



「その通りです。

これではマリーアスは、この戦で本来得られるものの半分以上を放棄する事になる。

通常であれば、到底受け入れられるものではありませんね。」


「通常だろうが何だろうが、こんなもの飲むわけがない!

兵士の安全まで保障しろだと??


もう仕方がない、このまま囲み続けて飢え死にでも何でもしてもらおうじゃないか!」



コーラスは、テテロを見据えて言う。


「テテロ殿。


これから相手の将が、女王と直接交渉をしに本陣に来ます。

あなたも・・・会議に同席をして頂きたいのです。」



テテロが言葉に詰まって、コーラスの顔を見返す。



困惑。葛藤。そんなコーラスの表情に、テテロは狼狽えた。





「まさか・・・・女王は?」






「わかりません。

ですがわざわざ彼らを呼んだのは、ほかならぬセリア女王なのです。

・・・可能性はあると思っています。」






「こんなもの飲んだら本国の政治屋共が黙ってない。

コール殿下や王弟派もそれに乗っかって勢いを取り戻す・・・

女王の立場がいよいよ危うくなってくるんじゃないのか?」





「そう思います。だから・・・・


うまい落としどころを探したい。

お願いします。」




「すぐに準備する。」




テテロは、神妙な顔でそう答えた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ソラス城からは、隊長らしき二人の人物がやってきた。


ひとりはシミールと名乗った壮年の女。老女というには若いが、短めの髪には白いものがかなり混じっている。

軍人にしては柔らかい物腰。だが、立ち振る舞いには歴戦の風格がある。


もう一人はフランクという男。寡黙、質実剛健。そんな言葉が似合いそうな雰囲気。戦でやられたのか、顎の怪我がまだ痛々しい。



本陣の中央に長方形の席が設けられた。

片側にこの二人、反対側にはコーラス、テテロ、そしてコール殿下。

コール殿下は、二人を見るなり不快感をあらわにし、いまも横柄に組んだ足をイライラとゆすっている。


従者が入場の宣言をし、女王セリアが現れる。


全員、恭しく礼をする。ここではさすがのコールもしきたりに倣う。

オルドナの二人も、このあたりは(わきま)えているようで、きちんと頭を下げる。





セリアは長卓の短辺に腰かけた。





「顔を上げてください。」


一同が正面を向く。




ここからはコーラスが仕切った。

それぞれの身分と所属などを簡単に紹介する。



その間もコールは憮然として、ずっと相手を睨みつけていた。








開会の言葉が終わって一時の沈黙の後、セリアが口火を切る。



「そちらからの要求内容を確認しました。

いくつかお伺いしたい点があります。


まず、この条文はどなたがお作りになったのでしょう?」



内容ではなく、誰が作ったのか。


これにはフランクもシミールも面食らった様子。



「わ、私共です。


いま、ソラスには7人の大隊長がおります。

その者たちで合議して、内容をすり合わせました。」



シミールが答える。




「そうですか。では、この中で、最後まで議論が白熱し内容が定まらなかった項目は?」



二人はきょとんとして顔を見合わせ、今度はフランクが答えた。



「・・・最初の項目です。

自治領としての独立の。」



「なぜ、揉めたのですか?」



「・・・要求が通る可能性が、格段に下がると思えたからです。」



「当たり前だ!!!ふざけてるのか!!!!」


コールが我慢できぬと横槍を入れるが、セリアが手で制する。




「結果、最終的にこれを入れる事にしたのですね?

決め手はなんだったのでしょう?」




「・・・この条文が無ければ、ソラス領民の本当の意味での安寧が望めない事。そして・・・」


フランクは逡巡する。

言って良い物か。そういう表情。



「そして?」


セリアはフランクの顔を覗き込んで、先を促す。


「・・・議論しているうちに、この要求が通るであろうという確信が持てたからです。」




コールが色めき立つのがわかる。

テテロも表情を厳しくする。

コーラスは、腕組みをしたまま無表情を貫いている。



フランクが、セリアを真っすぐに見据える。





セリアは、ふっと表情を緩めて言った。


「人質、という訳ですね。」






コーラスが頷く。


テテロとコールはその発言の真意を読めない。





「不本意ながら。」


フランクが答え、シミールが頷く。




セリアがテテロとコールの様子を見て、解説する。


「おそらくこのまま攻城戦を続ければ、そちらの兵糧が足りなくなります。

それがいつかはわかりませんが、そう遠くない事。


そうなると、ソラスの領民が飢える。兵も飢える。


私どもは民を皆殺しにするような選択はしないだろう、という読みでしょうか。」




「フハハ!」


コールが笑いながら立ち上がる。


「舐められたものだな、姉上。

これは突っぱねるしかあるまい。

望み通り、民草ともども死んでもらおうじゃないか!」




「お黙りなさい。」




セリアの口調が珍しく厳しくなる。

コールはあからさまに不快な顔をして鼻を鳴らし、わざと横柄に足を組んで座った。





「無辜の領民のために、勇気ある決断を頂けるだろう・・・

そう信じるに値する誠意と優しさが、あなたの降伏勧告にはありました。」




フランクがそう言ってセリアを見つめる。


セリアが、少しうれしそうな表情をしているように見える。





(敵は我々よりずっとセリアさまの内面を解っていたようだな。)




コーラスはそんな事を思い、少し笑みを浮かべる。

テテロはもう、半ば諦めたような表情をしていた。




「もうひとつお聞きします。


将校以外のソラス兵・・・という書き方をしていますが、あなた方はここに入らないのですね?」


「はい。」


これにはシミールが即答した。


「我々将校には、この戦を推し進め指揮してきた責任があります。

ここで我々の身分保障まで求めてしまうと、単なる責任逃れ、保身のための要求と捉えられかねません。

そうなるとこの要求を通す事ができないと考え、あえて外しております。


これは、大隊長全員の合意を得ています。


・・・いかようにも、処分して頂きたい。」



コーラスもテテロも、コールもこれには驚いた。



自分たちは殺されてもよい。

だが領民は何としても守る。



その覚悟に、一同がある種の感銘を受けていた。





そして、それをあれだけの条文から正確に読み取り、さらにコーラスたち家臣に聞かせるためだろう、敢えて本人達を呼んで喋らせたセリアの慧眼にも。






「よくわかりました・・・


一旦、外して頂けますか?

我々だけで少し話がしたいのです。


ケイト!」



従者が素早くやってきて、二人を陣幕の外に(いざな)う。







マリーアス側の4人だけになったところで、コールがセリアに意見する。



いつものように怒鳴るのではなく、努めて冷静に。




「飲むつもりか。あり得ないだろう。」




どうやら、もうセリアの心が決まっていることは解っているようだった。




「そうですね。飲もうと思います。

コーラス、テテロ。どうですか?」


コーラスが頭を下げて応える。


「もはや反対の理由は有りません。

・・・いえ、有ると言えばあるのですが・・・」




「本国からの、強い反対があろうかと存じます。」


テテロが助け舟を出す。



コールもそれに乗ってくる。


「その通りだな。勝ち戦には成果が必要だ。

カネ、利権、人、作物。

国が傾くほどの戦費を使っておいてそれらを放棄するのだから、相当の批判があろうぞ。」





セリアは、微笑んだ。



「些末事です。


確かに、この先十年を見たら大損かもしれませんね。

だけど、百年ではどうでしょうか?千年では?


多くの無辜の他国民が死なずに済んだ。その英断をマリーアス王家が行った。


それが正しく語り継がれれば、今後のマリーアスに大きな実りをもたらすと私は信じます。


千年王国トラギアの流れを汲むマリーアス王家旧来の指針を、私が踏みにじるわけにはいきません。」




コールはニヤッと笑い、諦めたように首を横に振る。



「姉上は何処までも父上の子だな。オレとはまるで合わん。


民に(おもね)る事が王の権威を損ねるとなぜわからんのか・・・・」


そう言いながら陣幕の出口に向かう。


「だが、王は姉上だ。

好きにするといい。


国に帰ってからは覚悟しろよ。

この件は、間違いなく大問題にするぞ。」



出て行こうとするコールをセリアが呼び止める。



「コール。

あなたが国を想う気持ちはよくわかっています。


・・・だから、これからはあなたにも力を貸してほしいのです。

これからマリーアスは、もっと強い国になる。」




「考えとくよ。


姉上はさ、もっと無能だと思っていたけど、いままで猫をかぶってたんだな。

さっきの問答はまるで父上を見ているようだったよ。


まったく・・・身内まで騙すとはな。とんだタヌキだよ。」



コールは毒づきながらも、作法通り目礼をしてから出て行く。



今までなら有り得ないことに、コーラスは驚いていた。

水と油、陰と陽だと思っていたこの二人が、この戦をきっかけに協力し合い混ざり合う事があるのか。

そうなったら、マリーアスは真の意味で一つになれるのではないか。


脇のテテロと顔を見合わせる。

テテロが頷く。

どうやら、同じような事を考えているらしかった。





「さあ、あの方たちを呼び戻しましょう。」


セリアが明るい声を出す。


「戦が、終わります。

ビルトやマスケアに、早馬を出さな・・・・グッ」



言いかけて、突然に表情が曇り、突然激しく咳き込む。



大きな音を立てて息を吸うたびに、背中が大きく波打つ。

目に涙が浮かぶ。




「女王・・・・・

失礼します・・・」


見かねたコーラスが後ろから肩を支え、背中をさする。





その甲斐も無く、セリアは両手で口を押えてさらに激しく咳き込む。





指の間から少しだけ、鮮やかすぎる赤色が漏れ出していたのを、コーラスは見逃さなかった。


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