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魔剣戦記 Ⅱ  作者: せの あすか
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11月5日 早朝 コルテス島 ジーラント

ジーラントの街、正門前。


昨日の夜トニの説得に応じて投降してきた兵士たちが並べられている。



オルドナ兵が21人。

ジーラント元住民から成る守備兵が6人。



「これで全員かな?」


トニは兵士たちを、手首を縛ったまま並べて立たせる。



「さっきも言ったけど、このまま、移送する。

まずプラティアだ。


悪いけど縛ったまま馬車に乗せるからね。」



「痛え・・・なあ、もうちょっとコレ緩めてくれねえかな?

もう抵抗しねえ。約束しただろ?」


オルドナの将校らしき男が、見えない背中を見ようとしながら訴えるが、トニは一瞥しただけで取り合わない。


その様子を見て不安になったのか、守備兵の一人、筋骨たくましい短髪の若者が、おどおどした様子で言う。


「オレたちはどうなるんだ?

身分は保証するってあんた言ってたよな?


色々やっちまったからジーラントに戻れねえのはいいとしても・・・

コルテスの他の街で暮らしたり・・・できるんだよな?」


「その辺は道中で説明するよ。

さあ、日が出てるうちにプラティアに着きたい。さっさと出よう。


タスク!いるかな?」


トニに呼ばれて群衆からひとりの男が前に出てくる。

道具屋の主人、タスクだ。



「トニ。ホントに一人でいいのか?

途中何か出たり・・・オルドナの残党にでも絡まれたら危ないぞ?


それに・・・」



タスクが言い終わらないうちに、トニがかぶせる。


「大丈夫です。逆に一人のほうが都合がいい。


それより後の事を頼みます。

カレドンさんが死んでまとめ役が居ない。

僕はあなたが適任だと思う。


法律とか警備とかの案はさっき渡した本にまとめてあるから・・・


ああそうか、タスクは字が読めなかったですね。

悪いけど、誰かに読んでもらって。」



「ああ・・・まあやっては見るけど・・・正直オレには荷が重いよ。

落ち着いたら戻って来てくれよな。」



トニはそれには答えず、少しだけ口角を持ち上げた。



「じゃ、行きます。


皆さん、彼を助けてやって下さい!」


トニは群衆を見渡し、語り掛ける。

何人かが返事をするのを聞いて、トニは笑みを浮かべて馬車の手綱を取った。







「・・・戻ってこない気かもな。」



タスクはぽつりとつぶやいた。





ーーーー数刻後ーーーー



「この辺だったかな。」



ジーラントを出てから南西。

次の集落までの道のりのちょうど半分まで来たところで、突然トニは馬車を脇道に進めた。


さっきまで大笑いしながら話していた馬車の荷台の兵士たちが不思議そうにトニを見る。


「なんだ?休憩か?体力ねえなあ。」

「プラティアはあっちだろ、早く進もうぜ?」

「のどか湧いちまったよ、水をくれないか?」

「オレのションベン飲むか?多分そこまで届くぜ?


兵士たちは口々に不満を述べ、冗談を言っては下卑た笑い声をあげるる。



黙々と馬車を進めていたトニは、海沿いまで来てようやく馬車を止めた。

この辺の海岸は崖になっていて、高さはそれほどないがその下はいきなり深い海になっている。


昔は釣りの名所だったようだが、いまは訪れる人もいなくずいぶん寂れた場所に変わっていた。




今日はこの季節には珍しく風がない。


海はべったりと凪ぎ、空と岩の間に貼り付いている。





「おい、なんだってこんなところに・・・」



トニは全く聞く耳を持たず、馬車の荷台の枠を外す。


「ちょっと・・・待ってくれよ、こんなとこで俺たちを降ろすのか?」


坊主頭のオルドナ兵が心配そうな声を上げる。


「なあ、あんた・・・・おい!!」

「何してやがる、ふざけてんのか!」


兵たちは口々に声をかけるが、トニは耳を貸さない。


「そっちだ、降りて。


・・・いいから、歩けよ。」


全員を馬車から引っ張り降ろし、剣で脅しながら崖っぷちに座らせる。



「まさか・・・ここから落とす気じゃ・・・」


守備兵の若者が泣きそうな声を上げる。





トニは彼らの正面に立ち、血走った眼を向ける。

そして少し目を細めるような表情をして、言った。





「正解だ。


ここで、死んでもらう。」





息を飲むもの、悲鳴を上げる者、冷静に抗議する者。

様々な反応があったが、トニがそれをぜんぶ無視したのでしばらく後に全員が静まった。




「何を言っても無駄だ。


お前ら昨日・・・一昨日か?カレドンさんを殺しただろう?

その前も・・・


ジーラントで何年も、随分な事をしてくれた。


そこのあんた、黒将軍に尻尾振ってついて回ってたよな?

あんたはラナの副官だったか?

住民がどれだけあんたらを恨んでいたのか、今日よくわかっただろう?」



「だけど・・・それも目をつぶってくれるっていうから投降したのに・・・」

「そうだ、約束が違う。俺たちは本国に帰るぞ!」

「たのむ、見逃してくれ、病気の親父がいるんだ!!」


口々にまくし立てる。


が。







ズバン



彼らの後ろに回ったトニが目にもとまらぬ速さで剣を抜き、一閃する。



ひとりの兵士・・・オルドナ兵の隊長だった男の手から血が噴き出す。

見ると、両手首から先がない。



縄からは解放されたが、彼はあまりの痛みに逃げ出すこともできず、絶叫しながらうずくまる。

血の臭い、失禁した小便の臭いが入り混じってほかの兵たちの恐怖を掻き立てる。







「これでもう、泳いだり登ってきたりは出来ないね。」





そういうと、トニは次々と兵士たちの体を傷つけていった。



ある者は腕をまるごと落とされ、ある者は足の腱を切られた


またある者は背中から尻に渡る、深く長い傷をつけられた。




決して即死しない、だが二度とまともには動けないような傷。





嗚咽、絶叫、血しぶき。



地面に浸み込む量よりも多く血が流れるので、大地は真っ赤に染まっている。

のたうつ兵たちの間を歩き回りながらトニは静かに語る。





「痛いだろ?痛いようにしてるからね。

今までの皆の苦しみ、少しでも味わうと良い。


やられるとわかるだろう?

住民の君らへの恨みは、二度と消えないんだ。



・・・だからここで死んでもらう。

君らは、新しいコルテスにとって邪魔でしかないんだよ。」







そしてトニは無表情で兵士たちを崖から落としていく。


凪ぎの海にいくつもの輪っかが作られ、その中心が赤く染まる。


落ちた者はまだほとんどが生きていて、浮かんできて呻き声を出す。






最後の一人は、右腕を失くした元守備兵の若者だった。


涙と鼻水と血しぶきでぐちゃぐちゃになった顔に、うるんだ目だけがギラギラと輝く。




「親父がいる、って言ってたか?」



若者はコクコクと頷く。



トニはひとつ短い溜息を吐く。




「知らないと思ってるのかな?

悪いが僕は、君ら全員をよく調べたんだ。


君はよく街の人に因縁をつけては殴ってたってね。

食料を無理矢理奪ったり・・・時には脅して金も奪っただろ。


それに親父さんはオルドナが来る前から、君の横暴に手を焼いてたってよ。


・・・君に踏みつけられてきた人たちにも親が居て、子供や恋人がいた。

殺されたカレドンさんにもきっと大事な人がいただろ。

それくらい解るよな?


だから残念だけど、それが君の命を助ける理由にはならないよ。」



「ア・・・・」


若者の眼に絶望の色が浮かぶ。



トニは剣で無造作に若者の肩口を刺す。


そのままゆっくり剣を押す。

その背後には崖。




「ウ、ア・・・・」



若者はたまらず後ずさる。




そして彼は恐怖の表情を顔に貼り付けたまま、死の淵へと落ちて行った。

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