表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔剣戦記 Ⅱ  作者: せの あすか
46/66

11月5日 未明 マスケア郊外

ーーーーオルドナ軍 特別攻撃隊ーーーー


夜明け前。

昨日の夜に降った小雨が霧に変わり、戦場を白い海の底に沈めている。


アスラの部隊は、街の真南、南西と南東二つの門からちょうど同じ距離の所に陣取って、休んでいた。




その中央を、ひとりの斥候が慌てた様子で駆ける。

響く足音が戦場につかの間訪れていた静寂を乱す。




斥候はアスラの寝所の前で立ち止まり、跪いて報告する。



「隊長!敵に動きが!」


アスラが夜着のまま飛び出してくる。


「夜襲か!?」


「いえ、どうやら・・・撤収をしているようなのです!」


「退却か?なんだ・・・兵糧か、他の戦場で何かあったか・・・・

それとも・・・・


とりあえず着替える!

斥候を張り付けてよく動きを観察しておけ!」


「ハッ!」


斥候が戻っていく。





悪い予感が止まらない。




アスラは急いで寝所に戻り、着替え始めた。




ーーーーメルケル軍 中軍ーーーー



街の中から、歓声が聞こえる。

自分らの勝利だと思っているのだろう。



囲みを解いたのは、退却するためじゃないってのに。



「いくぞ、出発だ。急がなくていい。

陣形を乱さず、ゆっくりだ。」


脇に居る伝令兵に伝える。

すぐに伝令が走る。

命令が全軍に染みわたっていくのがわかる。



一番東にいるスティードの軍が、東に進み始める。

続いて第二軍にオレ達。

そして第三軍はメーグ。



7000人全軍で、敵の王都ビルトの方向に。





てっきり退却だろうと思って眺めていた見張りが慌てて報告に降りるのがわかる。



そして街の中から聞こえていた歓喜の声が、消えた。









丁度その時、日が昇って、霧が光った。


一気に気温が上がり、霧が掻き消える。




まぶしい光が差し込む。


鎧が、剣が、旗が。

戦場のすべてが、光る。




壮観だ。


ここまでの軍に育つとは。

そして、オルドナ相手にこれだけの戦が出来るとは。


正直、本当にできるなんて思っていなかった。


だがあの頃思い描いた事が、いま現実になろうとしている。







右手・・・南側にアスラの部隊が見える。




中央のアスラ。

さすがに早い。


もう全隊員が完全武装で、騎乗している。



だがこちらを睨んだまま、動かない。

今動いても勝ち目がないからだ。







城攻めであれば、向こうに分があった。

向こうは守兵が約5000、アスラの部隊が当初より少し数を減らして400程度。

対するこちらの兵は全軍で7000。


普通城攻めは、攻める側は最低でも守る側の1.5倍の兵力が必要と言われる。

だから、アスラもボーノも守り切れる確信があったに違いない。




だが野戦ならどうか。

守兵が全員出てくれば、おそらく互角。

壁の守りや治安のために街に1000人でも残すなら、こちらの圧倒的有利という事になる。


地の利が望める複雑な地形ならまだしも、ビルトとマスケアの間は何もない平原。

こういう時は、単純に数がものをいう。





だから、こっちの動きを”野戦への誘い”と見るならば、敵は動いてこない。


しかし。


この7000がビルトに攻め込むと思ったならどうか。






「報告!敵が街から出てきました!!!

ほぼ全軍!!」




そうだろう。


ボナが落ちて、ソラスも囲まれている。

ビルトが落ちたら、オルドナは持たない。


だから黙って通すことは出来ない。

まともな軍人なら、絶対に。






「進軍を早めるぞ。」



伝令が飛ぶ。









アスラの軍が動いた。




風のように早く、こっちに、真っすぐ。





対決をお望みか。



いいぜ、存分にやろうか。



直属の500のみを分けて隊列を組む。

残りの部隊には、そのまま進軍を続けるように命じた。





ーーーーマスケア 守備部隊ーーーー


西のボナ砦には敵軍は残っていないはず。

だからマスケアを囲んでいた奴らがビルトに向かうのなら、街に守兵を残す意味はない。


逆に王都が落ちるような事がもしあれば、マスケアは自然と落ちる。

それに、すでに兵糧は底をつきつつある。




敵の真意はわからない。

だが迷っていては取り返しがつかないことになる。


だから即時、全軍出撃を決めた。






もはや策も陣形もない。


敵の背中めがけて、突撃するのみ。





アスラの軍が動くのが見えた。

中軍。敵総大将を狙っているようだ。




ならばこっちの狙いは、あの新参の女。






敵軍の背中に割って入る。


思ったより脆い。

簡単に崩れる。


兵の練度の差か、それとも追撃されるのに慣れていないか。


勢いに乗ってぐんぐん突き進む。





旗。


背の高い坊主頭の女の背中が見える。






どんどん近づく。





「ウオオオオオオオオオ!!」




戦場で初めて雄たけびを上げた。


意識せずに、自然と出た。



勝てる。


この不利な戦を、自分の力で勝たせることが出来ると感じる。








だが




その時、軍全体が揺れたように感じた。


後続の動きが鈍るのがわかる。

敵の抵抗も強くなった気がする。





「敵襲!!!!伏兵!!!!!」

「後ろ!!500程!!!」

「弓は間に合わん!反転して迎え撃て!!!」

「止まってはダメだ、このまま進んで敵将の首を取るぞ!」



斥候や小隊長たちが口々に叫ぶ。



伏兵?


挟撃か。





つまり・・・敵の策に嵌ったということか。






混乱の極致。





前を見る。


いつの間にか女が進軍を止め、こちらを向いて槍を構えていた。




ーーーーメルケル軍 中軍ーーーー



アスラ達の攻撃は苛烈を極めた。

小細工が全くない、正面からの攻撃。



ジャンはなんとか応戦するが、軍同士の戦いでは練度が違いすぎて相手にならない。


どんどん押し込まれ、追いまくられる。



「ハッハ!!!情けないねえ!」



アスラの笑い声が響く。


味方の兵はもう恐怖で戦意を失いつつある。


だがその時、後方の伝令から声が聞こえた。


「奇襲成功!!!敵将を追い詰めています!!」





アスラの所に敵の伝令が報告に行ったのが見える。


彼女は悔しそうな表情をしながら兵をまとめ、後方第三軍の方向に駆け出す。








「ナリコ!ナリコ!!」


ジャンは中軍に向かって叫ぶ。



「うるさいな、一回でいいよ。」


弓隊の小柄な女中隊長が出てくる。



「100人でもいいから連れて一緒に来てくれ!

あいつを追う!」


「いいよ。すぐだろ?


あんたら!!!!

何人か適当についてきて!!」


ナリコは振り返り、部下に向かって大声を上げる。


「おうよ。」

「いこうぜ。」


すぐに男たちが反応し、隊列を組んだのが、200人。

その他の兵は、我関せずと進軍を続ける。


(やっぱりナリコの隊はいい。)


その素早さ。

おおざっぱな指示でも自分たちで必要数を判断して隊列を組んだ兵たち。


ふつうの軍ではありえないこの隊の動きに、ジャンはひどく感心していた。



ーーーーメルケル軍 後方ーーー-



夜のうちに少しずつ兵と馬を移動させて、マスケアの壁東端の山間に兵を隠す。

残りの全軍を、東に進軍させる。

敵の出撃を待って山間の兵が後方を突く。


それがジャンの考案した作戦だった。


(まるっきりあの人の言った通りになったよ。)


伏兵部隊を任された大隊長のアークは舌を巻いていた。

と共に、自分が置かれた状況に若干の緊張を覚える。


(これで敵将を逃したりしたら・・・)





だが敵はひどく混乱している。

迎え撃とうとするもの、離脱しようとするもの。

小隊ごとに、兵ごとに動きがバラバラだ。


抵抗と呼べるような抵抗もなく、アークの隊は敵軍の中を突き抜ける。


(いける・・・)


アークは手ごたえを感じていた。





敵中央、やや前よりに敵将が見える。




オルドナの大隊長だった男。

将軍たちの死でマスケアの守りを指揮せざるを得なくなった。



その戦ぶりは誰が見ても、将たるに値するものだった。


相手への敬意が芽生える。

そして、羨望に似た気持ちも。




(俺も・・・あんたを倒して、将軍になるぜ。)



アークが長剣でボーノの背中に切りかかる。


ボーノは振り返り、すんでの所で盾を構え、受ける。



反対側からメーグがやってくる。



(邪魔だよ、横取りすんな。)


自分が収まるはずだった立ち位置をいきなり横取りした”新星”に、アークは心の中で毒づいて睨む。


メーグはそれを察して、立ち止まる。


(それでいい、そこで見てろ。)



2、3打ち合ったところで、ボーノがバランスを崩して落馬する。


アークは馬の上から突き殺そうと、剣を構える。



「殺さないで!!!」


メーグの声が聞こえてアークは剣を止める。





周囲の兵がボーノに縄をかけた。




アークは、寄ってきたメーグを睨む。



「なんだよ、邪魔すんなよ。」


「ごめん。

でも、殺す必要ない。


もうここは勝ったよ。

ね?」




「ケッ」



アークは地面に向けて唾を吐く。



「俺の手柄だかんな??」



メーグはニコッと笑う。



「まあ、たまには譲ってやらないとね。

おめでとう、期待の若手”二番手”さん!」



「この野郎!!!!」



「そんなことより残兵!警戒!


ほら、怖いオバチャンも来るよ!!」




「クッ」


前方からものすごい勢いで駆けてくるアスラの隊が見える。


ふたりは真顔に戻り、部下に隊列を組ませた。






ーーーーーーーー


「おい!!!アスラー!!!!アスラ!!!!!!」



ジャンは前を走るアスラの部隊に向かって叫ぶ。



ボーノが捕らえられたのは、アスラにも見えているはず。

ならばここでこれ以上戦を続けるのは、無益だった。



「投降しろ!!!アスラ!!!!」






ジャンの声を聞いたアスラが剣を上にあげる。


それで特攻の隊員は足を止め、ジャンの隊に向かって反転する。



兵たちの間を割って、中央からアスラが出てくる。





「投降しろだ??あたしがそんなの飲むと思うのかい。」




「思わない。

でも頼む、投降してくれ。


これ以上は無駄だ。」




「フザケンナっ!」

「おれもそう思うぜ。」



反論しようとしたアスラの横から、一人の騎兵が前に出てくる。

初老の、長槍の男。


一見して相当の使い手とわかる立ち振る舞い。

肌は浅黒く、長い髪に無精ひげを生やしている。


「なあ、アスラ。俺たちの負けだ。投降しよう。」



「あ・・・・スー隊長!?」


スーはジャンが新兵の時の特攻の小隊長で、いまはアスラの副官として隊をまとめていた。

ジャンにとっては、戦い方を一から教えてくれた恩人、という事になる。



「久しぶりだなジャン。

つーかもう”隊長”もねえだろよ。いつの話だよ。


・・・なあアスラ、これ以上は無駄だろ。

無茶してこいつら死なせていいのかよ?」


スーは特攻の兵たちを指さしながら言う。


アスラが口をとがらせる。


「そりゃ・・・そうだけど。」



「お前の用兵は一流だ。剣の腕も状況判断もな。

ブチぎれた時だって、兵を無駄に死地に追いやるような事はしない。

皆がそれを認めてるからこそ、皆お前に付いて行く。


だが、状況を見ずに勝ち目のない無謀をするってんなら話は違う。

俺は抜けるぜ?


昔から負ける戦はしないのが信条だからな。」





「あああああああもう!!!」


アスラは天を仰いで叫ぶ。


「くっそ、わかったよ。


だが、ジャン!てめえには負けてねえからな。」



ジャンは苦笑する。



「わかってるよ。昨日もさっきも、コテンパンにやられたじゃないか。

それと戦全体の勝敗は別だ。

無駄に縄を掛けたりもしない。

オレも古巣の兵や恩人に恥をかかせることは、したくないからな。」





ジャンの言葉に、アスラの表情が少しだけ緩む。



そして、兵たちの方を向いて宣言した。



「我ら特別攻撃隊は、投降する!

皆、馬を降り武器を捨てよ!

だが、オルドナ王国最精鋭の誇りは捨てるなよ!!


堂々と、投降しよう!」




「おう。」

「畜生!」

「んだよ西方軍のやつら、情けねえ。」

「アスラさん、潔いっす!」


部隊のそこかしこから、それぞれの思いを乗せた声が上がる。









後方の残兵との小競り合いも、止んだようだった。


空気が緩む。

戦場が戦場で無くなっていく。


ナリコは後方に向かう。

スティードの隊が戻って来て、マスケアの街に向かうのが見える。







むすっと喋らないアスラを尻目に、ジャンとスーは、少しだけお互いのこれまでを報告しあった。






そんな折。




「報告!!!!ほうこーーーーーく!!!」




東、遠くから早馬が来るのが見える。


あと50歩というところで、馬が疲れ切って止まってしまう。

皆を待たせてるのを知り、伝令兵は馬を降りて残りを全力で走った。




「はあ、はあ・・・・」


「どうした?」




「報告します!

ユリース王女、昨日日没後にビルト王城の占拠に成功!


城内を探索したところ、オルドナ王は既に絶命していたとのこと!!」



「は?」

「あ?」


ジャンとアスラが揃って目を丸くする。



「どういうことだ?自決されたのか?」


スーが険しい顔で問いただす。



「いえ・・・・死後、かなり・・・

おそらく数年は経っているのではないか、とのタヤン殿の見立てです。」





聞いていた全員が、絶句した。





だが伝令兵の報告はそれで終わりではなかった。


「それから、ジャン殿個人にもう一点!!

素性はわかりませんが、メイラ・バウムと名乗る女性が城の地下牢にて発見されたとのこと!

怪我をしており、重傷です!!!」





全く予想外の報告に、ジャンは反応出来なかった。





メイラとは幼い頃死んだと聞かされてきた母の名。




父親の死に際の言葉を思い出す。





お前・・・・母親が・・・・ビルトの・・・城・・・







死の際で錯乱したのかと思ったが、どうやらそうではなかったらしい。




死んだはずの母親が生きていた。

生きているはずの王がとっくに死んでいた。





その事実を、頭の中で処理しきれない。








戦が終わったことを知ったナリコが、メーグとアークが笑顔で集まってくる。

兵たちが勝利の雄たけびを上げる。

勝利を祝福するように季節外れの明るい太陽が昇る。



その中でジャンとスー、アスラの3人は顔を見合わせて、計り知れない不気味さを共有していた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ