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魔剣戦記 Ⅱ  作者: せの あすか
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11月4日 夜 ビルト城内 2

松明が新しいものに交換される。




ぱちぱちと、松の脂が燃える匂い。


決して良い臭いではないのだが、ユリースはこの臭いが好きだった。


昔、トラギアの城で嗅いでいたからだろうか。

はっきりと覚えているわけではないが、何となく懐かしい感じがする。




いま自分は、他国の王座を侵そうとしている。

その事実を改めて認識したユリースは、ひと知れず肌を粟立て背筋を伸ばした。






回廊の一番奥まで進んだところに、入口と同じ構造の扉が現れる。


この先が、玉座の間だ。






さっきと同じようにユリースが蝶番を壊し、兵士たちが丸太で扉を突く。

さっきよりも少し楽に、扉が動く。





隙間が開いたとたん、玉座の間から風が吹く。

やけに乾燥して、香を焚いたような不思議な香りを伴う風。


それから数回丸太を突くと、扉は向こう側にバタンと倒れた。



何かが出てくるかもしれないと、ユリース達は身構える。





しかし、無音。



そして、暗闇。







松明を持った兵士たちが先行する。


「気を付けて。」


ユリースは暗闇を見据えたまま、兵士たちに声をかける。





かなり広い空間。



正面に、左右に、松明の灯りが散ってゆく。




「ヒッ」


左から声。


「どうした!」


クラウが駆け寄る。


「死、死体・・・?」


兵士の声が響く。




続いて右からも、同じように死体が発見される。



死後かなり経っているらしい、カラカラに乾いた死体。




そして、正面の玉座が照らされる。


そこに座る人影。







動揺する兵士たちを抑えつつ、ユリースはゆっくりと玉座に向かう。



王冠をかぶり玉座に座ったままで朽ち果てた死体。





「オルドナ王だね。」


ユリースは死体をよく観察したうえで、そう断言した。



「どういうことだ・・・」


ロレンが唇を震わせる。




「死んでからかなり経ってる。

他の死体もずいぶん身なりがいい。

重臣とか、貴族かもしれない。


どういう事なんだろう。」



ユリースが、体中の水分を全て抜き取られたようにしわだらけのオルドナ王を見つめながらつぶやく。




ロレンはすっかり言葉が出ず、呆然とした顔をしている。


もしこれが本当に王なら彼らは長い間死人のために王都を警備していた事になるのだから、それも仕方がない。



左右の探索を終えたビッキーとクラウが近づいてきた。


「あっちは10人くらい死んでるぜ。

こりゃ、ひでえもんだな。

でも何で死んだんだ、こいつら・・・?


外傷があるわけじゃねえみたいなんだ。」


「こっちは5~6人かな。

どうする?ここには生きてる人間は居ないみたいだけど・・・


・・・なんか、あたしらやる事無くなっちゃった?」




ユリースは少し思案する。


「あの通路のひとに書状を渡してた人間が絶対にいるはず。

探そう。なるべく早く。」


「明日にしねえか?ちょっと暗すぎるぜ・・・」


「ダメ。カールの魔法が効いてるうちがいい。

何となくだけど・・・勘!おねがい、今すぐ!」


「お、おう。わかったよ、すぐにやろう・・・」


ユリースの剣幕にクラウが気圧される。





「それと・・・ロレンさん!」



「・・・ああ?」


うつろな目をしていたロレンは、突然名指しされて驚いた様子だ。



「あなたの縄を解きます。武器は渡せないけれど・・・

中庭に戻って、メルケルの部隊からあと50人ほど連れてきて欲しいの。


この城でなにが起きてるのか、すぐに調べなければ。お願い。」


ロレンは少し考えて、ユリースの顔を見る。

その目には、はっきりとした意思が戻っていた。



「・・・わかった。

貴公らに協力しよう。


だが・・・・いや・・・・」


ロレンは一旦王の遺体を見て、またユリースに向き直る。


「この状況を見せられて、まだオルドナに義理立てするのもおかしいな。

わかった、全面的に協力しよう。

外の隊長にも説明しておく。


貴公らは・・・どうするのだ?」


「まずこの玉座の間をくまなく調べます。

誰か生きているものがあれば、捕えて尋問します。


いまはそれくらいしか考え付きませんが。」



「わかった。では。」



ロレンは速足で玉座の間を出ていった。






「なあ。」


クラウが真っ暗な天井や奥の暗闇をキョロキョロ見回しながら言う。


「さっきからこの風・・・・どこから吹いてるんだ?」


ビッキーとユリースはきょとんとして、顔を見合わせた。




ーーーーーーーーーーー



玉座の後ろ側に二つの通路が見つかった。




ひとつは奥のいくつかの部屋に続いていた。

執務室、寝室など一通りの居住空間で、数人が住めるくらいの設備が揃っている。

そのうちの一室には、明らかに最近まで人が住んでいた形跡が残っていた。


だが人の気配はない。


ここにある程度まとまった数の兵士たちを残すことにし、全ての部屋をくまなく調べるよう命じた。





もうひとつの通路は、下へ降りる階段だった。




「石造りの螺旋階段・・・か。相当深いね。」


ビッキーが階段室の入り口から下を覗き込む・・・が、暗くて全く見えない。



「もしかしたら、緊急用の隠し通路、みたいなやつ?」



「むぐむぐ・・・はほうへいはははいな。ふいってひよふぜ。」



クラウが口をもごもごさせながら答える。



「あんたあそこにあったケーキ食べたの・・・・?

こんな死体だらけの所でよくやるわ。

毒でも入ってたらどうすんだよ・・・」



緊張感のない二人のやり取りに、ユリースが噴き出す。

直後、ユリースの顔がゆがんだ。


「あんた、傷痛むのかい?

そんなに軽傷じゃないんだ。無理すんなよ?」


「いま休んで、敵を逃がすほうがよっぽど痛いよ。」


ユリースの言葉にビッキーがニヤッと笑った。


「あんた、変わったね。そういうの嫌いじゃないよ。


だけど、死んだりしたら取り返し付かないんだからね。

誰もあんたの変わりはできない。

あたし個人にとっても、この国?これからあんた達が作る国にとってもね。


だから、ダメならちゃんと言いな。

後はあたしらに任せてさ。」



「う、うん。ありがとう。」



ユリースはビッキーの言葉にちょっと赤面して、頷いた。


ビッキーは踵を返して、照れ隠しにひとりでさっさと階段の方に向かう。



「降りるんだろ?ならさっさと行こうぜ。」


「うん!」


ユリースは、小走りでビッキーの後を追いかけていった。



ーーーーーーーー



大人数の靴音が円形の壁に反響し、まるで波音のように迫る。




一番下のクラウが立ち昇ってくる松明の煤の向こうで悲鳴を上げる。


「おいおい、まだ底が見えないぜ!?」


クラウに続く兵は10人ほど。

一番後ろにはビッキーとユリース。

その後ろにはさらに5人の兵がついてくる。


これが多いのか少ないのかはわからないが、大人数の白兵戦になる可能性は低いとユリースは見ていた。


「ずいぶん深いね。横穴もなかったよな?」


「うん。風はやっぱりこの下から来てるね。」


すでに2階分くらいは降りたが、階段はまだ続くようだ。



クラウは歩を進めながらも喋り続ける。



「城の構造からして、そろそろ地面の下だよな。

抜け穴なら、堀の下まで行くのかも・・・


お!終わった!ここまでだ!」


クラウの大声が響く。


「うるさいな、響くんだから静かに話せよ。」


兵たちに続いてビッキーとユリースも下まで降りてくる。



小部屋。


そしてその奥に回廊。


おそらく普段は魔法の灯りがついているのだろうが、いまはやはり真っ暗だ。



回廊の両側に、かすかに扉のようなものが見える。



「あれは・・・牢?」

「シッ」


ユリースがしゃべろうとしたところで。ビッキーが黙るように合図をする。



静寂。



天井から滴る水音。




そして、かすかなうめき声と、衣擦れの音。






人がいる――!



一行に緊張感が走る。



クラウがあれだけ大声を出したのだから、こちらの存在はとうに向こうに知れているはず。

もはやコソコソ隠れるのは無駄だ。



「両側にいくつも扉がある。手前からひとつずつ中を確認。

確認したら扉の前に二人ずつ置いて残りは先に進む。

扉の前に残った者は異常があればすぐ大声を!」


ビッキーが早口で兵に指示を出す。


兵はすぐに動き出す。




牢・・・というよりは、軟禁を目的とした居住空間、と言ったほうがいいだろうか。

立派な調度品、家具、それから多分奥の扉は便所。

貴族や重臣の住む豪邸のような内装。

扉が鉄格子でなければ、とても牢とは思えない。



手前の二部屋は、空。


奥の左側も空。






そして右側の部屋に、女が居た。





乱れた長い黒髪。

白すぎるほど白い肌。

厚手の灰色の夜着。

少し年齢を重ねた、だが艶と張りのある頬。


そのわき腹に、大きな血の染みが拡がっている。




その脇に、もう一人の女。


こちらは一目見て息をしていない事がわかる。

深い赤のドレスに、肘から下がる金色の飾り布(ティペット)

金で縁取った豪奢なベルト。巨大な宝石をあしらったネックレス。


痩せているが美しく身分の高そうな女が、死んでいる。





兵たちが女――生きている方の女を取り囲む。



苦しそうな息。かすかなうめき声。




ユリースが部屋に入ってくる。


クラウとビッキーは、さらに奥の部屋を確認しに行った。





女はかすかに目を開けてユリースを一瞥したが、よほど苦しいのだろう、またすぐに目を瞑ってしまう。





「説明して。あなたは誰?


そして、そこに倒れている女のひとは?」




ユリースの思いのほか厳しい口調に、脇で見ていた兵たちがぎょっとする。


女は堪えず、ただ苦しそうに荒い息をつく。



「答えてください。

でなければ、治療する事もここから連れ出すことも出来ません。」




女は、うっすらと目を開けてユリースを見る。

そして、気丈にも両腕に力を入れ半身を起こした。





「私は・・・メイラ・バウム。オルドナの宮廷魔術師だったものです。

・・・その女は、デディロという者。オルドナの宮廷に・・・潜り・・・」


女の声が震える。苦しそうに顔をゆがめる。


兵が手を貸そうとするのを、ユリースが手で制する。




「・・・様々な陰謀を張り巡らせてきた張本人です。


おそらく魔法が使えずに逃げられなかったのでしょう・・・

暗くなって・・・しばらくしてから・・・

なぜか私を殺しに・・・・」


女が苦痛に顔をゆがめ、再び床に突っ伏す。




これ以上は喋れない。

誰の目にも明らかだった。





「運びましょう。すぐにタヤンを呼んで。

魔法封じの手枷をつけるのを、絶対に忘れないで。」



ユリースは兵にそう指示を出す。



女が布団の上に寝かされる。

4人の兵士が布団の四隅を持ち上げて女を運ぶ。

他の兵たちが女の死体を運び出す。



奥の部屋でもいくつか死体が見つかったらしく、兵たちが慌ただしく動き回る。





その中でユリースはひとり立ち尽くし、さっきの女の言葉を反芻する。





メイラ・バウム。




ジャンと同じ姓の女性。




ここに軟禁されていた?




そして、元凶はこの赤いドレスの女?




これですべて、終わったの?





この国は、どうなるの?






私たちは、これからどうするの?







同じ疑問が何度も、ぐるぐると頭の中を回る。






目の前がふっと白くなって、体が軽くなったような感覚の後、ユリースはぱたりと床に突っ伏した。




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