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魔剣戦記 Ⅱ  作者: せの あすか
40/66

11月4日 夕刻 オルドナ王都 ビルト 1

ーーービルト城に続く跳ね橋ーーー


雨はいっときだけ強さを増して、すぐにまた小降りに戻った。


秋から冬に向かうこの季節、空はますます暗く、気温はつるべ落としに下がり続ける。




軽鎧の内側の下着が湿って、ぬるぬると気持ちが悪い。


これは汗なのか、雨なのか。

それとも返り血なのか。


ユリースにはもうわからなかった。




すでに急襲部隊の全軍が、ビルト城内に侵入した。


ユリースは部下たちと共に城内に陣取り、跳ね橋の上で、城の外から(′ ' ' )攻撃してくる近衛兵を迎え撃っている。




さすがに軍事大国オルドナの最精鋭部隊。よく訓練されている。

隊長も優秀だ。とにかく反応が早く、強い。



ユリースが指揮する400騎は、既に100騎ほどその数を減らしていた。





敵の近衛も守備兵も、次々と新手を出してくる。

弓も石も飛んでくる。時には槍も。


そろそろ、限界だ。


そう思ったときに、後方の工兵から作業完了の合図。




「すぐに上げて!味方が居ても構わない!」



指示を出す。





鎖が巻き取られる音。

普段は魔具の力で動くはずだが、今はカールの非魔法で魔具が動かない。

恐らく人力。4-5人は必要だろう。




ゆっくりと、跳ね橋が上がりはじめる。




それを見て敵が一斉に押し込んでくる。



雨あられのように弓を射てくる。



バタバタと周りの兵士が倒れる。






あまりに多い矢。



ユリースの左肩と右腿に矢が突き立った。




深手ではない。


が、無視できない痛み。




跳ね橋がさらに上がる。

城下町側から見て腰程度まで。




勇敢にも飛び移ってくる敵兵がいる。






ユリースは橋の縁に立ち、彼らを堀に蹴り落とす。



鎧を着たままで堀に落ち、溺れていく兵。




ユリースは精神と肉体、両の痛みに耐えながら戦い続ける。





橋がさらに上がる。


橋の上に立っているのが難しくなってきた。


味方兵が次々に城内に滑り降りる。






もう兵に弓が当たる心配はない。





ユリースは一人最後まで残り、ほぼ上がり切った跳ね橋の上に立つ。




そして鎖を巻くのを止めさせた。






敵はもはや攻撃を止めている。








戦の喧騒が止む。

いつの間にか、雨も止んだ。






「隊長さんは?城内ですか?それともここに?」


ユリースの声が静かに響く。





背の高い壮年の男が一騎、前に出てくる。


「私が近衛隊長だ。ドゥドゥ・コスと申す。ユリース王女とお見受けするが、間違いないか。」


慇懃な物言い。

長いひげ、細い顔。


落ち着いた声、そして堂々とした姿。

いかにも近衛隊長という風体。



ユリースは痛みに耐えながら言葉を紡ぐ。



「その通りです。

先般布告した通り、オルドナの横暴を止めに参りました。

既に先行した部下が城内に入っているはずです。」



「痛恨の極みだな。まさかここに自ら突入してくるとは・・・・


どうする気だ、王を殺すつもりか?

それとも王を人質にして我々に降伏を迫る気か?


そこに何年籠る気だ?」



「これからの事はなにも、決めておりません。

ですが無益な戦いは望みません。

王の安全も保証いたします。

もちろん我々が王城内の近衛兵を制圧できた場合の話ですが・・・」



ドゥドゥはユリースの答えに、明らかにほっとした様子を見せた。



「王はもう何年も病床に臥せっておられる。

手荒なことはしてくれるなよ。

もし何かあれば、近衛全員火の玉となって貴様を殺しに行くぞ。」



「そうならないことを願います。

ドゥドゥ殿・・・できれば、後ほどまたお話がしたいと思っております。


それでは。」


ユリースは身をひるがえし、ほとんど直角になろうとしている跳ね橋を滑り降りた。




数分後跳ね橋は完全に上がり、城下町と城内は寸断された。





ーーーーその頃、ビルト城内ーーーー


ビルト城内の巨大な中庭で300騎の近衛騎兵と遭遇したクラウとビッキーの隊は、苦戦していた。


こっちはまだ350人ほどいる。


数の上では勝るが・・・。



個々の力も組織力もまるで違う。

装備もあっちが上だ。






「なんとかなんないの・・・クラウ!!」


ビッキーが手練れの2人の剣を必死で受けながらクラウに呼びかける。



「・・・・!!」


クラウも大柄な槍使いを相手にしていて全く余裕がないようだ。




(返事くらい返せよ)



心の中で毒づきながらビッキーは自分の相手を観察する。



ひとりは黒い肌の女。バカでかい両手剣を力いっぱい振り回してくる。

ふつう隙だらけになるはずなのだが、なぜかこの女には突くべき隙ができない。


もう一人はレイピアを持った顔の濃い男。

こっちは顔に似合わず繊細な剣。速く正確な突きが次々に飛んでくる。


どっちも、1対1であっても倒せるかどうかという手練れ。



女の両手剣は盾で受けるしかない。

当然受けるたびに吹き飛ばされるし、躱しても隙が無いので攻撃に転じることが出来ない。

もし剣で受けたら、細長いビッキーの剣は簡単に折れるだろう。


そこに男の方の速い突き。

正確に急所を狙ってくるから、常に動き続けなければならない。


この二人の落差が大きすぎて、ビッキーは何度も危ない場面を作られている。


体力もずいぶん使う。腿も腕もぱんぱん。

大汗と緊張と疲れで喉が渇いて仕方ない。




こんな状況だから、周りの戦況がわからない。兵たちに指示が出せない。


クラウも声を出せないほど苦戦しているなら・・・





この戦場は勝てない。






「一旦下がるよ!!!」


ビッキーが大声を上げる。

味方が声を上げる。



が、後ろを向けば斬られる。


おそらく兵士たち皆が似たような状況なのだろう。


皆じりじりと下がる事しかできない。




その間にも味方兵は次々と倒れる。






このまま押し切られたら、全滅する。

そう思ったときに、敵陣に動揺が走るのがわかった。





後方から馬蹄の音。




「ねええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇさああああああん!!」




間抜けな大声が戦場に響く。



「いい所に来るねえー!」


ビッキーはニヤつきを隠せず、歯を見せながらそう声を上げる。





キャスカの隊、無傷の400。


100騎が素早く分かれて側面を付く構えを見せる。

残りの300は、ビッキーとクラウの隊と入れ替わるべく、後方から味方の合間を縫って前線までやってくる。






敵は素早くこれに反応した。


兵をまとめ、後退。

中庭から玉座のある建物への入り口をふさぐ形で、方陣を敷く。


よく訓練された集団の動きは、不思議な美しさを伴う。




ビッキーもクラウも、しばし敵の動きに見惚れた。







「苦戦してますね!!!強そうだー、敵。」


キャスカが二人の所までやってきた。

この数か月で馬の扱いがずいぶんうまくなっている。

もう、精鋭の騎兵たちと比べても見劣りしない。


「あんた、またいい所に来たねえ。助かったよ。」


「いやー、遅くってごめんなさい。ちょっと迷いました。」


「どこで迷うんだよ!一本道じゃねえか!」


「へへ。」


キャスカはペロッと舌を出し、すぐ真面目な顔になって敵陣を見る。


「あんなところでしっかり固まられるときついですね。

どうやって抜こう・・・」




「そうだね・・・・弓で突っついても効きそうにないよねえ。」


「なんかねえかな。投石とか・・・きっかけみたいなもんが欲しいよな。」


「ユリースさんを待ちますか?」


「いや、さすがにそれはできねえな。あいつまだ橋だろ?日が暮れちまう。」




「なあ。」


ビッキーが思案顔で誰にともなく呼びかける。


クラウとキャスカがビッキーの方を向き、首をかしげる。



「クラウ、あんたとあたしで馬降りて、徒歩で突っ込む?」



クラウがあんぐりと口を開ける。

キャスカのメガネもズレた。


「徒歩ですか?なんでわざわざ?」





「あたしらさ、今までずっと馬なんて乗らずに戦ってきたんだ。

もちろん戦のために馬の訓練も相当やってきたけどさ、どうもしっくりこないって言うか、ぎこちないんだよな。あんたも感じるだろ?」


クラウもこれには大きくうなずいて同意した。


「確かにな。やっぱ慣れてねえと難しいよな。


だが徒歩でか?大丈夫か?」



「軍は全部このメガネちゃんに預ける。

あたしら二人は別動隊として二人で突っ込む。


馬の怖いのは速い速度で突っ込んでくる時だ。

こっちから突っ込むんなら、大した脅威じゃない。」




「メガネちゃんは全然自信がありません。


でも姐さんが出来るっていうんだからできるんでしょう。

今全部で650くらいでしょうかね。

やれるだけやってみます。


ね、クラウさん。今のままじゃ突破口がないんだから、やってみましょ?」


メガネちゃんの呼び名が気に入ったらしいキャスカが、メガネを直しながら答えた。



「わかったぜ。


だが、ちょっと気合い入れないとな。

どう考えても決死の突撃だからな。」




ビッキーが近衛隊を睨みつけながら答える。


「あたしは死ぬ気なんてさらさらないし、絶対にあそこをぶち抜く気で行く。

あんたも腹くくりな。死ぬ覚悟じゃない、何としても死なずに勝つ覚悟をしな。」


「おう、わかったぜ。いつもながらお前は・・・・

なんつーか、強いな。」


「あたりまえだろ。あんたたちを勝たせるためにあたしは来たんだからね。」


ふたりは馬を降りる。



キャスカは各隊の隊長に指揮系統の変更を伝えに行く。


軍の隊列と配置が変わった。



弓兵を中心とした200程が分かれて左に。


100騎程がクラウ達よりも右に。


中央の300程は、槍を構え突撃の構えを見せる。





「さあ、いっちょやってやっか。」


クラウが独特の形をした大剣を真横に構え、走り出した。





ーーーー再び、跳ね橋ーーーー


ユリースの傷は、思ったよりも深かった。

特に腿の鏃がなかなか抜けず、タヤンが熱した刃物で傷口を切り裂いて取り出した。


最後に強い酒で消毒する。

ユリース激痛に顔をしかめる。




「大丈夫ですか・・・少し休みましょう。」



タヤンが包帯を巻きながら提案するが、ユリースには全くその気がないようだ。

部下に芦毛の馬を連れてくるよう指示し、タヤンにはここに残って怪我をした兵の治療をするよう命じる。


そして、自分はさっさと馬に乗り、単騎で駆けて行った。


「ほんとなら・・・・というか常人なら立てないし、武器を持つのも厳しいと思うのですが・・・」



タヤンが脇でしらけた顔をして花壇の縁に座っているカールに向かって呟く。


「たぶん、ああいう無理が大事なんだろ。

見ろ、兵たちの顔。キラキラしやがって。


やっぱり僕は軍人とか兵とか、嫌いだよ。

訳が分からない。」


カールが両手を広げておおげさに首を振る。



「私も・・・ちょっとわかりません・・・が。


とりあえず、自分の仕事をします。


さあカールさん!サボってないで手伝ってください。

ほら、お湯と包帯持って、こっちです。」


名指しで命令されては無視する訳にもいかず、カールはしぶしぶ立ち上がった。




ーーーー再び、中庭ーーーー



クラウが先に走る。

ビッキーがすぐ後ろに続く。



長年賞金稼ぎとして、時には傭兵として、様々な敵と戦ってきたことが思い出される。

クラウが先、ビッキーが後。いつも、この並びだった。


壁に囲まれた城内なのに、ふたりは不思議な開放感を感じながら自らの足で駆ける。




2騎、邪魔をしに出て来た。



さっきの黒い女と顔の濃い男。

後ろに20騎ほどついてきている。


「女は力業だけど守り上手い、男の方はレイピア、速くて正確。」


ビッキーがクラウにだけ聞こえるように呟く。クラウは黙ってコクリと頷く。


女。馬上から下段でぶちかましてくる。


クラウは一瞬だけ正面から受ける構えを見せたがこれがフェイントで、受けずに躱す。


来るはずの衝撃が来ず、女はすれ違いながら体勢を崩した。

が、さすがにすぐに体制を整え構える。

その腹をめがけてビッキーが盾をぶち当てる。


女はもんどりうって落馬した。


二人目の男。

今度はクラウが大剣で思い切りぶちかます。

男はなんとか盾で受け止め、すぐに右手で突きを出してくる。

クラウはそれを剣の柄の部分で受け止める。


うしろからビッキー。

男の馬の腹に剣を突き刺す。

そして棹立ちになった馬の前足を、斬り落とす。




後続の敵の20騎が突っ込んでくる・・・とおもったら、キャスカの指示で右の100騎がその20騎を取り囲む。



黒い女が血の咳をしながら立ち上がり、突っ込んでくる。

一撃をクラウが剣でそのまま打ち返す。

ふたりは何度か打ちあう。


馬なしの地上戦であれば、力は圧倒的にクラウのほうが強い。

いちいち打ち負けるので、女は思うように剣を扱えない。



キャスカが指示を出したようで、左の200騎が敵本陣に雨あられと矢を射かけている。

次の瞬間、中央の300騎余りが突撃していく。



ビッキーは落馬しうずくまっていたレイピア男にとどめを刺す。


クラウも黒い女の左腿を深く斬った。即死ではないが、もう戦えないことは明らかだ。






そしてビッキーとクラウは、また敵本陣に向かって駆けだす。








キャスカの突撃は、相手にしっかりと止められている。


さすがに簡単に崩れてくれる敵ではない。






キャスカの軍は一旦引いて、方陣を組みなおす。




またクラウが先になって、右から敵軍の真横に突っ込んだ。

クラウがぶちかましてバランスを崩した敵に、ビッキーが丁寧にとどめを刺していく。


必ずしも殺す必要はない。肩、腿、効き手の指。そういったところを狙って戦闘力を奪う。




ふたりだけで、敵軍の端を大きく崩した。


そうなると敵軍全体が思い通りには戦えなくなる。


弓を受けていた反対側も崩れだす。




そこでもう一度、キャスカが正面から突撃。

こんどは、突き崩す気満々の、思い切った速度の突撃だ。





敵中央。

強く小さく固まっている一団。




キャスカの隊の突撃を受ける。


だがその一団は突撃してくる騎馬の勢いをうまくいなしているようで、突撃部隊はその一団に当たって左右に分かれていく。



キャスカはそれに気づくが・・・

突撃の勢いは止められない。



部隊がどんどん左右に分かれていく。



中央のキャスカは前進し、その一団の真ん前まで来た。






近衛の隊長らしき男・・・さっきクラウと打ち合っていた槍の大男が、キャスカの馬の前に立ちはだかる。


明らかにキャスカ一騎を狙っていた。



他の兵は突撃の勢いを止められず、通り過ぎるしかない。



数人の男の腕が、キャスカを馬から引きずり下ろした。




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