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魔剣戦記 Ⅱ  作者: せの あすか
38/66

11月4日 午後 マスケアの街

ーーーーオルドナ軍特別攻撃隊ーーーー



マスケアの城壁。


その外側に、もうひとつの城壁ができた。


だけどそれはオルドナが守りのために作ったじゃない。

メルケルのやつらが突然こさえたものだ。



材料はそれほど太くない木材と、薄っぺらい板。人の手で運べる程度のモノ。

これを組み合わせて作られた、人の背丈の倍くらいの即席の壁。



最初は頭でもおかしくなったのかと疑ったけど、あたしら特攻にとってこれが予想以上に厄介だった。


まず、敵の様子が見えない。


あたしらの任務は敵の後方攪乱。

敵に効果的な城攻めをさせないために、邪魔をするのが仕事。

だけどこの薄い壁で敵の様子が見えないと、仕事にならない。



もうひとつ厄介なのが、街を守る味方の様子が見えない事。


街を守るボーノの軍は、囲みが弱い所を見つけては撃って出てる。

それに呼応してあたしらが動く事でかなりうまくいってたんだけど、それが出来なくなった。


遠くから物見やぐらを立てて見ても、よく見えないし。




この壁を取り除かないと、街は落ちる。




だからさっきから壁に縄を駆けたり、兵数をかけて押してみたりしている。

けど壁には弓撃ちの小さな窓がついていて狙い撃ちされるし、一旦引き倒しても少しその場を離れただけですぐに再建される。



厄介だ。




つうか、気持ちよく戦わせろ、クソが。








ああ、あともうひとつ。

城内の兵糧が、尽きる。



もともと任地がビルトに近い西方軍は、兵糧を多く持ってない。

備蓄は開戦時にボナ砦にほとんど持って行っただろうし、それは退却時に敵に奪われたに違いない。


となると、そろそろ無くなるはず。



あたしらはある程度兵糧を持ってきていて、機会を見つけて城内に渡そうと思っていたけど・・・

あの薄い壁一枚が、それを邪魔する。






ぜんぶ狙ってやってるとしたら、相当頭が切れる。


ジャンの馬鹿ごときで思いつくシロモノじゃない。


相当優秀な参謀がいる。




しょうがない。まずはメシを何とかしてやらないとだ。


中隊長ども・・・全員居るな?



「方針変更だ。投石器を奪う。組みあがってる一番左のやつだ。」



メシを、放り込んでやろう。


となりの副官がぎょっとするのがわかったけど、無視だ。





・・・できれば城内とも呼応したいけど。


共有してる魔具はない。

向こうからこっちの様子も見えない。




どうするか・・・・










鏑矢だ。



ボーノは確か元近衛。

昔中央で使ってた合図は知っているはず。


あれなら、細かいことは無理だけど大筋で伝えられる。





よし、行くぜ。


あんな壁で勝ったと思ってんじゃねえぞ、ジャンの野郎。

吠え面かかしてやるよ。





ーーーーメルケル軍 本陣ーーーー



メーグが一旦本陣に戻ってきた。



「うまく行ってるな!予想以上だ!」



「っすね!運もあります。

でもやっぱり特攻も守兵も強い。

少し直属を増やしてもらえませんか?

200程で大丈夫です。」



「わかった。すぐ手配する。」


オレは即答する。


メーグはすぐにその場を離れ、巡回に戻る。




メーグに欲が出てきた。手ごたえを感じてるって事だ。



将は戦を自らが動かしていると感じた時に、ぐんと伸びる事がある。

メーグにとって今がその時である事は疑いもない。


問題は、どこまで伸びるか。



ひょっとしたら、とんでもない逸材かもしれない。

期待しすぎるのが良くないのは解ってるけど・・・・


どうしても、な。






ピイイイイイイィィィィィィィィ




キュルルルル





特攻の軍から複数の鏑矢の音。

ひとつめは真上。

ふたつめは少し斜めに。




アスラが城内に送った伝言か。





やっぱりバカだなあいつ。






・・・オレも知ってるんだぜ、その暗号。



奇襲、すぐに。うしろ。


「うしろ」は南北では南、東西では西を指す。



戦場の一番西に、奇襲がくる。






ーーーーマスケアの街 南西門内ーーーー



「撃って出るぞ!1200、すぐだ!!!」



兵を集める。



特攻が近衛時代の暗号を送ってきた。




作戦の意図は知らない。

だが特攻が勝算のない攻撃を求めてくるなどありえない。

ならば疑わず、全力だ。




ここで盛り返さなければ。

兵糧が尽きる前に。




城門が開かれる。


「出ろ!とにかく当たれ!」




予想外の攻撃に敵が慌てる・・・と思いきや、出撃を予想していたように、敵は整然と迎撃体勢を取っている。



まさか、図られたのか。




「おらああああああ!!!」




敵を挟んで向こう側からアスラの絶叫が聞こえた。




間違いない。


鏑矢はアスラが打ったもの。




よし、やはり全力だ。





ーーーーメルケル軍 最西端の戦線ーーーー



強い。あの女。そしてその軍。


まるで波?いや太い棍棒で殴られているようだ。


アスラ個人の強さや個性に隠れがちだけど、兵ひとりひとりが強い。



向こうにはなんの作戦もなく、捻りもない。

ただ延々(えんえん)と攻撃してくる。





ジャンさんから直前に伝令があったから、完全な奇襲ではない。

木の壁を倒されたときにはこっちはもう迎撃態勢を取っていた。

城側にも、外側にも。



だけど、止められない。



そして

この奇襲にはなにか目的がありそうだけど、私にはそれがなんだかわからない。






だめだ、持たない。






崩れる。








----特別攻撃隊ーーーー



「もうちょい。気合入れな!!!!」


んなこと言わなくてもあんたら気合入ってるのは解ってるけどね。


敵に対するアピールだよ。





ハゲ女、スジはいいみたいだけど、まだ若いね。

こんな最精鋭に正面から付き合うこたないのに。




さて、見えてきました。投石器。




ていうか、ボーノ。なかなかやるねえ。

こっちの目的知らせてないのに、タイミングドンピシャだ。

気合も入ってる。




「ホレ、馬鹿力部隊、行け!」


すぐうしろの50人ほどに声をかける。


屈強な男のみ、50人。


この50人で投石器を自陣まで引っ張る。






それでこの戦、勝てる。





いや、負けずに凌げる。






ーーーーメルケル軍 本陣ーーーー



「投石器を奪われた????なんで?」


消沈するメーグからの報告を受け、ジャンは訳が分からないといった風に首を傾げた。



「わかりません。でも、一直線でした。合流のチャンスもあったし、やろうと思えば城内にも入れた。こっちは総崩れでしたから・・・・」


メーグが唇を噛む。



「やられたのは仕方ない。気にするな。次取り返せばいいよ。

特攻はオルドナの最精鋭。守備部隊を率いてる奴もなかなかの将みたいだな。

それより投石器を奪って、敵が何をしてくるかだ。


壁を壊しにくるか・・・直接味方に落としてくるのか・・・

でも、投げる石がないよな?

さすがに石は運べないだろうから・・・」




そう振られてもメーグは上の空。

その目には、うっすらと涙を溜めている。





「・・・・ねえ、ジャンさん、私どうしたらよかった?

全然あの女を止められなかった。ジャンさんやスティードさんならできた?」




やはり投石器のことなど頭にないようだ。

とにかく負けたことが悔しい。そんな表情。




「んー。

わかった、まず、オレでも止められたかどうかはわからない。

それはスティードでもグランゼさんでも同じだ。」



死んだグランゼの名が出てきて、メーグはすっと泣き顔を素に戻した。



「戦場だ、勝負にはいろんな要素が絡む。

負ける時は何をやってもダメだ。


それ前提で、オレならどうしたかを言おうか・・・」




メーグがこくりと頷く。




「まず、守備軍が一番困ることをする。

例えば門を確保しようとする構えを見せる。


それで守備兵の出足は鈍る。確実に攻撃の力は削げる。


もうひとつ、アスラが確実に嫌がることを見つけて、する。

そうだな、例えば・・・一旦すこし退いて距離を取って・・・


合流して街に入ろうとするなら門を閉じに行く

守兵に何か渡して戻ろうとするならモノを奪いに行く

投石器を獲りに来たなら、投石器自体火矢で燃やしちゃえばいい。」



「そんなことできません。総司令官の許可もなく・・・」



「いいんだよ。メーグはもう将だ。


戦場は生き物。

その戦場の空気がわかるのはそこに居る者だけだ。

あのアスラの攻撃を防げるものはおそらくいなかった。

ならば防ぐのをやめる。


それを将が自分で判断できない軍は、弱い。

軍令が絶対なのは兵だけだ。将は必要に応じてそれを曲げるんだ。

できるだけ大きな目で戦全体を見ながらね。」



「それは・・・難しいです。私には。」



「いや、簡単だよ。


・・・たとえばこのマスケアで負けたって、ビルトとコルテスとソラスが落ちればオルドナは持たない訳だからさ。

ぶっちゃけた話、今オレ達はこの戦線を放棄してビルトやソラスを攻めに行ってもいいわけだよな。


守兵はマスケアを放棄するわけにはいかないから動けない。

特攻は妨害してくるだろうな。


でも一隊でこっち全部を抑えるだけの力はないから・・・」





そこまで言ってジャンは顎に手を当てて、自分が今言った事を反芻する。



「・・・・」




メーグはきょとんとした顔でジャンを見る。




「・・・なあ、メーグ。」






「・・・えっと


やっちゃいますか。」





「落ち着け。

・・・とりあえず、軍議しよう。


伝令!!大隊長以上全員集めてくれ!!!」






ときに戦は、将も兵も予想だにしない方向に流れ出す。

そういう瞬間が、ジャンはたまらなく好きだった。

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