11月4日 午後 オルドナ王都 ビルト
ーーーービルト城下町 守兵詰所ーーーー
午後になって、南からの乾いた風が止まった。
空には雲が低く垂れこめる。
(すこし降るのかもしれない。)
作戦には好都合だった。
雨は音や姿を隠してくれるからだ。
ユリースは侵入して最初に、城下町と城を隔てる跳ね橋の機構を壊すために、橋の脇の機械室に忍び込んだ。
そこでトニが書いた手順書に従って作業する。
留め具を一つ外しておけば、門を閉めようとしても鎖が空回りするはず。
急襲部隊が一直線に城を目指すために、絶対に必要な作業だった。
それを済ませた後は兵士の詰所をいくつか回り、その場で思いついたことをやった。
ひとりで人気のない場所にいる兵士は、気絶させて隠す。
連絡用の烽火台を壊しておく。
馬の手綱や鐙を切っておく。
武器の置き場を変えておく、隠しておく。
居るはずの人間が居ない。
あるはずの武器がない、連絡がない。
動くはずの馬が動かない。
ひとつひとつは小さな事だ。だがこれが火急の時には致命的な混乱を呼ぶ。
だからこそ守兵や近衛のような常駐軍は、普段から規則正しい生活をして整理整頓を徹底させる。
そうしておけばいざと言う時に何も考えず、なにも迷わずに最速で出動出来るからだ。
これだけやればもはや守兵たちが作戦の障害になる事はない、と思えるだけの事はやった。
それにそもそも守兵は、有事といえど全員が壁の守りから離れることは出来ないはずだった。
ぜんぶで4000程いるうちのおそらく2000ほどは、壁内侵入が成功した後であっても壁から動けない。
それから、ビルト郊外に詰め所を持つ特別攻撃隊は、今日の朝王都を離れマスケアの戦線に参加したらしい。
えらく戦慣れしているらしい部隊が援軍に来ることを考えずに済んだことは、僥倖だった。
問題はやはり近衛部隊。
王都を守るオルドナの最精鋭部隊だ。
城内500と城下町1500、合わせて2000。
全員が騎馬を扱えて、かつ手練れだ。
彼らの詰所を見て回ったが、さすがに緩みは全くない。
下手に手を出して警戒態勢を取られることは、避けたかった。
(これくらいかな。)
この詰め所では武器をいくつか隠し、扉を簡単にあかないよう細工した。
そしてユリースは事前に打ち合わせた通り南の正門前の広場に移動する。
ときたま頬に雨粒が当たる。
(降りだした、か。)
ユリースはひとしきり空を見上げた後、ゆっくりと広場の中央に歩を進める。
大きな街。
市民が守兵が、雨に備えようと慌ただしく行き交う。
完全武装で大剣を持ったユリースは目立つはずなのに、なぜか誰も気づかない。
(いまからここが、戦場になる。)
ユリースはぐっと歯を食いしばる。
民間人を殺さない、巻き込まない。
味方の軍には徹底してあるはずだった。
けれど、どうしても被害は出るだろう。
それをわかっていて、やらねばならない。
手の中の魔具のボタンを3度押す。
内通者とクラウ達、同時に合図が送られるはず。
そしてユリースは、100人から居る正門の守兵のなかに単身斬りこんでいった。
ーーーービルト城下町 正門前----
3回。
合図が来た。
すぐに広場の方で騒ぎが起こった。
さて出番だ。
この日が来ないことを祈ってきたが、ついに来てしまった。
門を、開けなければ。
ビルトの正門は二つの動作で開く。
まず開門用の魔具を起動する。
それから、魔具についているハンドルを回す。
ハンドルを回すと、魔具の力で何十倍に増幅されて重い門が開く仕組みになっている。
安全のための細工がしてあって、普段はふたつのハンドルを同時に回さなければ開かないんだが、ひと月ほど前にその細工を壊しておいた。
それ以降は実は一人でも開けられる状態だったのだが、皆律儀に二人で回すもんだから、誰も気づかなかった。
クソ真面目も善し悪し、だ。
皆の注意が広場に向いている間に、ハンドルをどんどん回す。
整備の奴らが念入りに油を挿してくれてたから、少しも軋まない。
やっぱり、クソ真面目も善し悪し、だ。
みんなもっと力を抜いて上手くやっとけば、門は開かなかったんだぜ。
ほら、もう半分開いた。
「お・・・おい!!貴様何してる!!!」
おっと、バレた。
クソ中隊長だ。
こんな時でも一番に邪魔してくるとは・・・
つくづく相性が悪い。
「イヤ・・・・これが勝手に開いてきて・・・止まらないんです!!!うわー」
うっそ~。まわせまわせー!
「なに!!!なぜだ!!早く戻せ!!!」
「うわああ!もどらない・・・・!!!」
ちょっとわざとらしかったか。まあいいや。
「アクソ貴様!!!!!それから離れろ!!」
おっと。
中隊長が、剣を抜いた。
おふざけも限界か。
門の外を見る。
1200の騎馬の砂ぼこりが見える。
どうやら作戦通り。
おし、あとはうまく逃げるぜ。
「隊長!!!あれを!!外!!!敵では!!???」
皆の注意が今度は城外の砂ぼこりに向く。
今だ。
隊長に切りかかる。
首筋に剣が入った。
血が噴き出す。
瀕死の中隊長が驚いた顔でこっちを見る。
うへえ。
「ゴアアア!!!
こいつ・・・・が!!
裏切りものだああ!!!」
バカヤロウ、でかい声出しやがって・・・・
大人しく死にやがれ・・・・
周囲の仲間たち・・・元仲間だった奴らが血走った眼でこっちを向く。
クソ。
やっぱりこうなる。
おれはそんなに強くねえんだ。
お前らの感覚で無茶な作戦立てやがって。
ジャンよ。それからトニも生きてんだよな?
おまえらに貰った命とはいえ、さすがにこれは高くつくぜ?
このクソみてえな国を、責任もってぶっ壊せよ?
そんでうまく行ったら、英雄にでも祭り上げてくれよな。
母親の事は、頼んだぞ。
約束破ったら、承知しねーぞ。
ーーーービルト 正門外 メルケル軍急襲部隊 後方ーーーー
カールは慣れぬ馬上で集中を深める。
ぼそぼそと詠唱を始める。
(邪魔。)
集中を乱そうとする雨粒に心の中で毒づく。
手綱は部下に引いてもらっている。
鞍も、戦闘用でなく、旅人などが使う揺れの少ないものに変えている。
部隊の突入に合わせてカールが非魔法を使い、ビルト城下町全体の魔法を無効化する。
出発前の軍議で、それを皆に伝えた。
魔法部隊がビルトに居るとは限らない。むしろいる可能性は低い。
しかし、それでも魔法を無効化しておけば、連絡用の魔具、武器や防具の付与魔法を無効化できる。
戦いがずっと楽になるはずだった。
皆、最初は反対した。
だが、どれだけの効果があるかを説明し、納得させた。
非魔法が禁呪である事は皆知っている。
だがそれに対する罰がどんなものかは皆には伏せてあった。
魔法を失う。魔法の恩恵を失う。
それはもう、覚悟の上だ。
(僕だけが知っていればいい。)
そろそろ先頭のふたりが門に辿り着くころ。
長い詠唱と共に集中は深まり、もはや深い瞑想のような状態になっている。
最期の言葉をつぶやく。
薄紫色の光と共に無音と混乱が拡がっていくのがわかる。
(拡がれ、もっと。)
街全体が光の玉の中に入った。
ずっと光が消え、音が戻る。
カールは目を開け、部下に向けて頷く。
次々と伝令が飛ぶ。
その様子が、なぜだか他人事のように感じられた。
ーーーービルト正門前ーーー
カールがやった。
その情報は各部隊ごとに配置している伝令によって、即座に全軍に伝えられた。
先頭はクラウとビッキー率いる400。
その後ろにはキャスカ率いる400。
そして後詰には本来ダリが指揮を執るはずだった400。
だが先刻ダリは突然部隊の指揮の辞退を申し出た。
理由は不明。だが本人の決意が固いようだったので、みな受け入れるしか無かった。
いまは、形式上タヤンが後詰の400を率いている。
ダリに何があったのか。クラウはずっとそれを考えている。
ユリースに付いて行った兵がが潜入成功を報告してきた後、ダリは呆然とした様子でひとり帰ってきた。
そして突然、作戦からの離脱を申し出た。
指揮はともかく、戦力として従軍だけはして欲しいと皆で嘆願し、ダリは渋々それを受け入れた。
何があったのか。
責任感の強いダリの事だ。
よほどのことがあったに違いない。
ならばもう、問わない事にする。
それはなんとなく、旅団の面々の共通認識になった。
ただ、この作戦では後詰が重要な役割を果たす。
タヤンには荷が重い。となるとあとで指揮権をユリースに渡すか。
そうすると先鋒がしんどくなるが・・・・
「クラウ!ぼっとしてんじゃないよ!!
このまま突っ込むよ!!!」
ビッキーに声を掛けられてクラウは我に返る。
そう、いまは戦場。それも大局を左右する一番大事な戦だ。
考え事をしている暇などない。
「おう、わかってる!!やってやろうぜ!!」
クラウが幅広の両手剣を横に構える。
ビッキーは馬上用に改良した長めの片手剣と小さめの盾をつけている。
「竜の双角、軍属としての初陣だね。」
賞金稼ぎ達の間で、ふたりはこう呼ばれた時期があった。
クラウはともかくビッキーはふたりセットで呼ばれることを随分嫌がっていたのだが・・・
そのビッキーが、自らその二つ名を口にした。
クラウは、嬉しいようなこそばゆいような気持ちになる。
「ああ。歴史に名が残っちまうかもしれねえな、俺たち!!」
「ごめんだね。その時はあたしの名前は消してもらうよ!」
門が迫る。
半分以上開いたまま。
守兵たちの混乱が見て取れる。
兵同士の争いがあったようだ。
ふたり、血まみれになって倒れている。
内通者の顔は知らない。
だが状況を見るに、おそらくやられたのは内通者だろう。
クラウは一瞬心の中で祈りをささげる。
そして。
「トラギア女王軍、参上だ!!!」
クラウが大音声を上げながら門の中に駆け入る。
守兵は怯み、踏みつぶされまいと左右に散る。
広場に入ると、多数の兵に囲まれたユリースが見えた。
いや、すでに50人から居る敵の半数以上が倒れている。
クラウとビッキーの隊はそのままユリースの脇を抜け、一直線に城に向かう。
最初の400全員が壁内に入る。
近衛の数人がクラウ達の行く手をふさぐ。
ユリースの工作とカールの魔法によって連絡がうまく行ってないのだろう、馬を準備する時間はなかったようで全員が徒歩だ。
だが相手は近衛。油断はできない。
「相手にしたくないな。抜けられるようなら抜けてしまおう。」
クラウは構えた剣を握りなおす。
「何者!」
近衛のひとり、将校らしき男が剣を構える。
クラウは巨大な両手剣を、馬上から男らに向かって力任せに叩き込む。
敵は盾を構える。
ガツン
3人が盾を並べて受けた。
だが、馬の勢いとクラウの馬鹿力をまともに食らって全員吹き飛ぶ。
「へへ、見やがれ!このまま突っ切るぞ!!」
「馬鹿力が久しぶりに役に立ったね!」
ビッキーが冷やかす。
彼女も向かってきた近衛兵一人を仕留めていた。
この勢いのまま、城門を抜けられる。
ふたりは確信した。
ーーーービルト 正門内ーーー
「ゆーりーーいーーーーすさああああん!!!!」
雨で曇ったメガネを気にしながらキャスカが正門に辿り着いたのを、ユリースが出迎える。
すでに正門周辺は完全に制圧し、敵はいない。
「とりあえず入れたね!指揮権を貰うね!!」
「それが・・・」
キャスカはダリの離脱を伝える。
「合図が来なかったから変だと思ってた・・・
じゃあ、私が殿やったほうがいいね。
キャスカ・・・・この部隊、頼める?」
キャスカは頷く。
「先鋒と後詰の距離把握、伝達、分断の回避、救援ですね。
出来る限りやってみます。」
「ありがとう。危険があったらあなたは自分の命を最優先に。
兵に任せて。」
「もちろんです!そもそも私、武器を使えませんし!」
ユリースとキャスカは微笑みあい、そこで別れた。
ーーーーメルケル軍後方 後詰部隊ーーーー
カールは魔力の過剰放出でふらふらする頭を抱えながら、必死で馬にしがみついていた。
部隊は中軍に引きずられるように前進している。
時折近衛兵と思しき敵兵が脇から攻撃を仕掛けてくる。
味方兵は善戦している。だが組織的な抵抗が出来ない。
この軍には指揮官が居ないのだ。
カールは戦闘では役に立てない。
せいぜい邪魔にならぬようにする事。
敵の的にならないよう伏せておく事。
タヤンも似たようなものだ。
横で青い顔をして、必死で馬を進めている。
「後ろから近衛の騎馬、20騎!!」
伝令が伝える。
20騎がどの程度の力を持つのか。
精鋭だろうが、こちらは400。
足を止めて対峙すればどうという事もなさそうだが、などと考えてからカールは思い直す。
(ああそうか、急ぐんだった。しかも後ろからか。)
すぐ横の兵の腕に、後ろからの矢が突き刺さる。
兵がうめき声を上げる。
いつ自分の背にも矢が突き立つか。
底知れぬ恐怖。
(日々こんな恐怖と戦っているのか)
カールはいままで兵や軍というのをどこかで馬鹿にしてきた。
脳なしが仕方なくやる仕事・・・
他人の命で盲目的に動く、道具のような人間たち・・・
戦しか能のない・・・
そんな風に思っていた自分を恥じる。
(あいつらが偉そうにする理由が少しわかったよ。)
同時に、この恐怖に耐えている自分自身を、少し誇らしく思う。
幼いころから体が弱かった。だから、武術や剣術以外の力を求めた。
それが知識であり、魔法だった。
だが最も高度な魔法を使って、どれだけ貢献しようとも、武へのあこがれは消えないし、劣等感も消えない。
(結局、そういうことなんだな。)
カールはニヤっと笑うと、突っ伏していた体を起こした。
(いいぜ、やってみるよ。)
「タヤン、指揮権貰うよ。」
並走するタヤンに話しかける。
大男は驚いた顔でカールを見た後、大げさに何度もうなずいた。
カールは伝令兵を呼ぶ。
「最後方に伝令。30騎別れて右から敵の追撃部隊の脇に回り込んで攻撃。
別の20騎は左から小弓で援護。できれば馬を狙う!!」
若い伝令兵が駆けていく。
立て続けにカールはもう一人の伝令兵を呼んだ。
「中軍キャスカに伝令!ユリースをこっちに・・・・!!!」
言うか言わないかで、前線からこちらに向かって来る芦毛の馬と銀鎧、黒い大剣に赤白まだらの頭が目に入る。
(ハハハ、もう来てたか・・・10秒でお役御免だな。)
カールはやや自嘲気味に笑いながらユリースを出迎える。
ユリースは一旦反転し、カールと並走する。
「カール!魔法、ありがとう。状況は?」
「魔法は大丈夫、城下町も城内も魔法、付与魔具全部発動しない。
後方から近衛騎馬20。対処するよう指示は与えた。
あと、ダリは外れた。後方に兵としているかどうかもわからない。
とりあえず期待しないほうがいい。」
ユリースは冷静なカールの様子に少し驚いたあと、微笑む。
「もしかして、私いなくても大丈夫だったかな。」
「バカ、あんたらのまねごとをしただけだ。早く後ろ行けよ。」
カールは手でユリースを追い払う仕草をする。
「うん、行ってくる。そのまま駆け抜けて。」
そういうとユリースは再び馬を反転させ、後方に向かって颯爽と駆けていく。
太陽も出ていないのに不思議と輝いて見える背中を見送る。
ああ、もう大丈夫だ。そんな風に思わせる背中。
周囲の兵の目つきも変わった。
軍全体が、意思を持ったように感じる。
羨望、嫉妬、安心感、希望。
カールは湧いてくる様々な感情をひとまとめにして、唾と一緒に飲み込む。
「タヤン、あれが本物の将だ。さっきのは忘れてくれ。」
「いや、カールさん、素晴らしい指揮でしたよ。あれなら一もっと大きな軍もきっと動かせる。ジャンさんに報告しときますよ。」
「やめてくれよな。僕の仕事はもう、終わったんだから。」
カールは遠くを見るような表情をする。
タヤンは少し寂しそうな顔で、その横顔を見つめていた。
ーーーー再び、先頭ーーーー
城壁。そしてその手前には跳ね橋が見える。
雨が本降りになった。
堀の水面に夥しい数の輪っかが踊る。
橋の手前に近衛部隊、およそ50騎。
ここが正念場。
城内の数百の体制が整う前に、この橋を渡らなければならない。
クラウとビッキーは一旦馬を止め、陣形を組む。
橋の幅は10m程度。
それにいっぱいに広がるように、敵の50騎が並んでいる。
こちらもそれに合わせた幅で並び、前進する。
先頭はクラウとビッキー。
ぶつかる。やはり固い。
指揮官二人のおかげで優勢ではあるが、押しまくれる相手ではない。
敵の後方から矢が飛んでくる。これも腕がいい。
それなりの犠牲を出しながら、徐々に押し込む。
敵も10人ほどが倒れた。
橋の半分くらいまで押し込んだところでどこからか大声。
「新手!左から100騎以上!!」
ビッキーが状況確認のため一旦後方に下がる。
やってきたのは城下町の近衛。全員騎馬だ。
(挟まれるとヤバい)
どうするか、一瞬考えるが・・・・
「ねえええええええええええええさああああああん!!!!」
能天気な叫び声でそれが吹き飛ぶ。
キャスカの隊が猛烈な勢いで飛び込んできて、100騎の前に立ちふさがった。
「サンキューーキャスカー!!!!」
大声を送る。キャスカは手を上げて応え、100騎を迎撃すべく兵たちに下知を下す。
兵が機敏に反応しているのがわかる。
(あれなら勝てる。)
ビッキーは確信し、最前線に戻った。
橋の上ではクラウが苦戦していた。
ひとり、若いがやけに強いのがいる。
おそらく兵卒なんだろうが・・・他とは明らかにモノが違う。
そういえば、トニも近衛で兵卒だったと聞くから、そんなのが混じっていても不思議はない。
その一人にこっちの兵士が何人も倒されている。
放っておくわけにもいかず、クラウはその男に向かっていく。
向こうもこちらを意識しているのがわかる。
クラウが近づく。
もう剣が届こうかという距離まで迫った時、突然その男がクラウに向けて腰の短剣を投げて来た。
すんでの所で躱す。
今度は男が突きを出してくる。
両手剣の柄の部分で受ける。
(狙ってやがった・・・)
クラウが馬ごと体当たりする。
相手は一旦下がりながら構えなおす。
(強い)
クラウは舌を巻いていた。
トニやジャンと対峙したときと同じものが背中を伝う。
何度か剣を合わせる。
なんとか躱し受けるが、あきらかな劣勢。
「おい!!」
戻ってきたビッキーが後ろから声をかける。
クラウは振り返らずに答える。
「ビッキー、手練れだ。こいつは俺がやる。おまえは兵卒を頼む。」
「イヤだね。」
即答。
「おまえ!こんな時に・・・」
「オリャアアアアてめえこのビッキーさまと勝負しろい!!!」
クラウを全く無視してビッキーが男に襲いかかる。
「お・・おい、気をつけろ、そいつ相当に・・・」
全く聞かずにビッキーは男に猛攻を仕掛ける。
長身から細く長い剣が矢継ぎ早に繰り出される。
男はしかし余裕を持ってさばく。
(やっぱり相当の・・・・)
その時、後ろから空気を切り裂く音。
ぷすっと音がして、男が乗る馬の胸元に矢が突き立つ。
棹立ちになる馬。その腹にさらにもう一本矢が立った。
ビッキーはまったく同様もせず無防備になった男の腕を切り落とす。
まるでこうなることを知っていたかのように。
男が落馬する。兵卒たちがとどめを刺しに行く。
「おまえ・・・」
クラウが肩で息をするビッキーに近づく。
「ココの勝利だね。あんたが苦戦してるのを見て、ここに戻る前に弓のうまいのに頼んどいたのさ。」
ビッキーはアタマを人差し指でつつきながら、ニヤッと笑い、後方の兵士ーーおそらく矢を撃った当人ーーに手を振った。
「汚いなんて言っていられない。勝利が全てだよ。」
「おう。さすがだぜ。たすかった。よし、このまま押し込んじまおう。」
ふたりが戦闘に参加する。軍の勢いが増す。
そして「竜の双角」はほどなく、ビルト城内に躍り込むことになった。





