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魔剣戦記 Ⅱ  作者: せの あすか
36/66

11月4日 日中

ーーーマスケア包囲戦 オルドナ軍本営ーーーー


マスケアの街は、鉄の産地であるマスケス山の南側に貼り付くように作られた、鉱山の町だ。

北側は天然の崖に守られ、残る三方を人の背丈の2倍から3倍の高い壁に守られている。門は東南と西南に2つあり、どちらも大きい鉄製で、とても人力で壊せるような代物ではない。


メルケル軍は、その外壁をぐるりと取り囲む形で包囲している。


攻略するには壁を壊す、門を壊す、壁を乗り越える。この三つか、あるいは敵の降伏および逃走。



壁や門を壊すには攻城兵器が必要だ。

既に投石器4台、破壊槌2台、高梯子は無数に準備されている。


ぜんぶ一度に稼働できれば、それほどかからずに壁を壊せる。


しかし厄介なのが、壁の外に陣取る特別攻撃隊だ。

とにかく足が速い。戦闘能力が高い。



何かしようとするとアスラがやってくる。

それで兵器の準備は出来なくなるし、なにより歩兵や騎馬、他の部隊と連携した動きが出来なくなる。



守る側にとって、攻城兵器は単体では致命的な脅威にはなり得ない。

壊した壁を登ってくる兵が居なければ、意味がないのだ。




アスラはそれを知っていて、一番効果的な所に様々な攻撃を仕掛けてくる。

メーグはなんとかそれを阻止しようと試みていたが、迷いないアスラの動きに翻弄され、後手を踏んでしまっていた。




それに、壁内のオルドナ軍もなかなかに厄介だった。

囲みが弱いとみると、門から打って出て攻撃を仕掛けてくる。

かと思えば、今度は壁上に多くの兵を集め、一斉に長弓を打ってくる。


兵の損害はこちらの方が大きい。


だがこちらには兵糧と兵士を補充できるという利点がある。

その利点だけで持久戦に持ち込めば、多大な損害を受けながらもいつかは勝てる。



ジャンは決断を迫られていた。

このままこの膠着した戦いを続けるのか、それともなにか手を打つのか。





軍議でのメーグの発言を思い出す。





あの策。





あまりに突飛で許可を出せなかったが・・・・






「・・・やってみる価値はあるかもしれない。」



ジャンは呟くと、伝令を呼んだ。





ーーーーオルドナ 王都ビルト 壁外ーーーー


見張り塔からビルトまでは、滞りなく進軍してきた。



本隊は今、ビルトの正門を狙える位置で伏せているはず。


俺は今、ビルト北側の壁のそばに身を隠していた。



壁上の見張り役は、物見やぐらひとつにつきひとり。

交代は1時間ごと。要員はその時々で変わる。

これが、内部から漏れてきた情報だ。



これが正確だったとすると、北端の物見やぐらの見張り交代はもうすぐ。

俺は息をひそめ、交代の時間を待つ。





交代直後に人知れず見張りを始末する。

その間にユリースがひとりで壁内に侵入する。

そしてユリースは侵入がうまく行くよう、その場でできることをその場で決めて、やる。


見張りが倒されたことに気づかれて騒がれないよう、次の見張り交代の直前に内通者が東門を開ける。

内通者の補助も、ユリースがする。


そして開いた門に、急襲部隊1200がなだれ込む。


こういう段取りだ。



ユリース頼み。

だが、それをやってのける剣力があいつにはある。




門を通るところまでならば、かなり成功率が高いように思える。

問題は内通者が段取り通りに動くかどうか。


俺はそいつの顔も素性も知らない。

ただ、合図と作戦を知るのみ。


信じるしかない。

いちいち味方を疑ってはいられない。




そろそろ見張りの交代の時間。



弓の確認。

この弓は本番用に整備してあって、これまでの行程では使っていない。


黒く塗った金属で作られた小型のクロスボウ。

強化の付与魔法(エンチャント)が掛けられており、とにかく真っすぐ、強く飛ぶ。


矢も特殊なもの。

羽根は風の音が出ない特殊な形状。

矢じりも返しが無く、貫通性の高いもの。

表面には脂が塗ってあり、触るとツルツルと滑る。


これが急所に当たれば、音もなく確実に殺せる、という訳だ。


暗殺用の弓。

こういう汚れ仕事は、頭であるユリースにはやらせない。

純粋なクラウやビッキーにもさせたくない。

カールは・・・向いているんだろうが、残念ながら弓の腕はない。


俺がやるべきだ。そう思って、作戦を聞いた時にすぐこの役を志願した。





ようやくこの時が来た。


何度も何度も訓練してきた成果を示す時。





教会か何かの鐘の音。




交代の時間だ。

最期の、交代だな。




2分ほど経って、ひとり階段を上ってくる。


ふたことほど言葉を交わし、元居た見張りが階段を下りる。




新しい見張りが壁際まで出てきた。


兜を目深に被っているので顔は見えない。

この弓と矢は普通の兜なら容易に貫通するので、あまり気にしない。



とにかく急所を狙うのだ。


自分に言い聞かせる。




矢をつがえる。


祈りを込めて、真ん中にまっすぐに。




よく、狙う。


顔の真ん中。額。



この矢に風は関係ない。





よし。



引き金を引く。




その瞬間、見張りが顔を上げた。

高く昇った日が顔を照らす。

すこし幼さの残ったような、凹凸のない白い顔。



あれはーーーーー



矢が放たれる。



リーヤじゃねえかーーーー



矢が音もなく飛ぶ。



おい、ばか、避けーーーー



矢が音もなく、上を向いた白い顎に吸い込まれていく。


リーヤはすとん、とその場にへたり込む。


手応えが・・・あった。







俺は今




リーヤを殺してしまった。






ーーーーオルドナ 王都ビルト 正門ーーーー



遠目に、見張りが倒れたのが見えた。

が、ダリからあるはずの合図がない。


「なにかあったのかな?」


ユリースが呟くが、兵たちにはわからない。


斥候から異常の報告はない。

特に他に見張りがいる様子もない。


「いいや、予定通り行こう。

よろしくね。」


ユリースは振り返って兵に声をかける。

ついてきている兵は二人。

元はメルケルの工房に努める職人だった者たちだ。


ひとりが中くらいの杭をふたつ、石壁の隙間に据える。

もう一人が、表面が柔らかい材質の槌で、それを叩く。

音もせず、杭が石の間に刺さり固定される。


それを足場にして、もう一つ上にふたつ杭を打つ。


そうして瞬く間に、壁を登るための足場が出来ていく。



作業を終えて二人は降りて来た。


「ありがとう。皆の元に戻って。」



「ほんとにおひとりで大丈夫ですか・・・

もしお許しを頂ければ、決死の覚悟でお供します・・・」

「私もです・・・お供させてください・・・」


ふたりは許されないのを知って懇願してくる。


ユリースは微笑む。


「大丈夫。ひとりのほうが発見されにくいし、何かあっても対処しやすい。

それよりも、中央突破に人数がいる。一人でも多い方がいい。

あっちでクラウとビッキーを助けてあげて。」


ふたりは頷く。



ユリースもこくんと頷き、壁の上を見る。



高い壁。攻城戦なら、攻略に1年かかってもおかしくない。


この街を、1日で落とす。




「作戦、開始。」



ぽつりとつぶやいて、ユリースはするすると壁を登って行った。








ーーーーコルテス島 ジーラント 領主の館包囲戦ーーーー




「タスク。」


聞き覚えのある声。待ち望んだ声。


図らずも叛乱を束ねる事になった道具屋は、ものすごい勢いで声のする方向を振り返る。


「トニ!!!!!遅ぇぞ!!!!」


そう怒鳴った顔が、トニの顔を見た所で固まる。



落ちくぼんだ目、真っ赤な目。

痩せてどす黒い肌に血管が浮く。




一か月ちょっと前に会った時にも確かに痩せて疲れていた。

殴られたのもあってひどい顔だったが・・・



今日のはそういうんじゃない。

なにかに憑りつかれた様な。

なにか大事なものが抜け落ちたような。




「おまえ・・・ひどい顔だな。」


「そっちもね。」


「馬鹿、おれのは生まれつきだ。どうした。なんかあったな。」



「ちょっと・・・・あ、でも反乱はうまく行ってますよ。

多分ここ以外は全部。」



一応笑顔だが、無理矢理つくった物である事がまるわかりだ。




「ここはちょっと難しくなっちまった。すまねえ。


領主は殺されて・・・・


オルドナ兵と・・・守備兵のやつらも一緒にみんなにやられ始めて、それでビビッてここに籠っちまったんだ。」



「そうですか・・・住民は、誰が代表を?」



「いねえ。一応俺が仕切って、みんなを抑えてる状態だ。

皆興奮しちまってよ・・・このままじゃあいつらを皆殺しにしかねねえ。


おまえ、止めてくれよ。なんとか。」




トニは血走った眼を伏せ、少し考えるそぶり。


そのまま寝てしまいそう・・・いや、死んでしまいそうだとタスクは思う。



「説得しましょう。ちゃんと理を持って説けば、わかってくれる。

投降を呼びかけます。


とりあえず住民のみんなに説明しないとですね。

集めてもらっていいですか?」


「お、おう。わかった。すぐに。」




待ち望んだ男が来たのに


言ってることは至極まともで「いつものトニ」なのに


タスクは底知れぬ不安を感じていた。




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