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魔剣戦記 Ⅱ  作者: せの あすか
35/66

11月4日 朝

----マスケア北の平原----



予定より少し遅れた。

太陽は既に登り、気温も少しずつ上がり始めた。


遅れたのは、炎の森の出口近くで魔物と遭遇したから。

それから、ボニエ川の水量が思ったより多く、渡渉(としょう)に手間取ったから。


それでも、作戦に致命的な遅れではない。

急襲部隊はそのまま作戦を続行している。





ボニエ川を渡って1時間ほど経ったところ。


前方に敵の見張り塔。

この平原で唯一の敵の拠点だ。


ここをうまく抜けなければ、ビルト急襲は成り立たない。



考えうる方法は二つ。

気付かれずに通り抜けるか、攻撃し連絡される前に制圧するか。




通り抜けるのは、至難の業だった。

姿隠し、音消しの魔法はあるにはあるが、1200人全員を隠せる術者が居ない。

いや、カールにはそれが出来るのだが、姿か音、どちらかしか隠せない。


だから予定通り、姿だけを隠して近づき急襲する事になった。






1200騎が密集し、なるべく音を立てないよう塔に近づいてゆく。


木造りの塔。それほど大きなものではない。

守兵は僅か30人ほど。



だが、まごつくと、狼煙や魔具を使われる。

そうすると、ビルトにこの部隊の存在を感づかれる。


狼煙は火をつけるのに恐らく5分。

魔具なら1分で起動する。


とにかく、速戦しかない。




1200の騎馬。皆一言も発しない。


ゆっくりと歩を進める。


蹄の音、鎧のこすれる音は隠しようもない。




塔の姿がはっきり見えるところまで来た。

そろそろ、気づかれてもおかしくない。











「おーーーーーーーい!!!!」

「おおおおおい!助けてくれ!」



平原に響き渡る大声。



塔の北側に大きく回り込んでいたクラウとダリが、塔に向かって早駆けして来たのだ。



鎧も武器も外し、馬具も服も農民や商人が使う質素な物に変えている。

クラウは無手、ダリは小弓を一つ。

まるで、山狩りの途中でなにかあった、そんな演技。




「兵士さん、助けてくれねえかーー!!!」

「おーーーい!!!」



ふたりは塔に向かって大声で呼びかけながら、塔に向かってさらに駆ける。



塔の守兵の動きが慌ただしくなるのがわかる。




見張り台に居たふたりのうち一人が、梯子を下りて報告に行く。

残ったひとりも、すっかりクラウ達に注目している。



隊長らしき男が塔の外に出て、馬に乗りクラウ達の方に歩き出す。

こちらを気にしている様子を見せている兵は、居ない。






姿を隠したまま、急襲部隊はすこし進軍の速度を上げる。








あと30m・・・・20m。






ユリースが馬上から弓を引き、射る。


ぴゅんと音がして、見張り台の上の兵が倒れ、落ちる。





数秒後、カールが姿隠しの魔法を解く。


そしてすぐさま「音隠し」の詠唱に入る。

これが成功すれば、魔具を使おうとしても声が出ない。

もしもの時の、保険だった。



見張りが倒れたのに気づき、姿の見えぬ馬蹄の音に混乱していた兵たちが、突然現れた騎兵に驚き戸惑う。





突出し孤立していた隊長をダリの弓が仕留めたのが見える。






ビッキーが一番で塔のなかに躍り込む。続いてユリース。



そこからは一気だった。


急襲部隊は瞬く間に砦の守兵全員を殺し、或いは捕縛した。


狼煙は無し。魔具も使われた様子はない。







カールはその様子を見て、魔法の詠唱を中断した。





「ふう。うまく行ったな。全員ふん縛って、すぐに発とう。」


クラウが鎧をつけながら、皆に向かって言う。


それにすぐさまダリが、のんびりした声で返す。



「いや、メシを食おう。


ビルトまではまだ少し時間がかかる。

それに、ビルトでの作戦が始まっちまたら、休んでなんかいられない。


休むなら、今だ。」



「もう、予定より遅れてる・・・・のに?」

「さすがにちょっと休みすぎなんじゃ・・・」




グゥ




ユリースとビッキーが反論しようとしたところで、クラウの腹が鳴る。



「な?

塔を襲ってみんな興奮してるから疲れに気づきにくいんだ。

さ、すこし座ろう。


ちょっと作戦と関係ない話なんかもしよう。

寝られる奴は短い時間でも目を瞑るといい。」


兵たちの心からの安堵のため息が漏れたのを聞いて、ユリースとビッキーは自らを恥じた。





ーーーーソラス城前 野戦場ーーーー




ガスパスの軍は横に逃げた。

テテロの騎馬隊がそれを追いうちにする。


既に黒雷を40騎以上仕留めていた。


こちらの騎兵がやられた数はほぼ同数。

歩兵はかなりやられている。


数の上では負けだが、これはかなりの成果だ。

黒雷は一人が10人の働きをすると言われている。

実感としても、そのくらい強い。


それを40騎なら、400の兵を倒したに等しい。





初めてガスパスの鼻を明かした。

テテロは興奮していた。




乱戦の中であれば、足を止めた斬り合いであれば、黒雷と十分に戦える。


(間違っていなかった)


装備を整え、鍛え上げ、試行錯誤を重ねてきた騎馬隊。

テテロの分身。


それがガスパスの分身たる黒雷と、同等以上の戦をしている。





黒雷の先頭が乱戦を抜けた。

次々と離脱する。


そして少し離れたところで、先ほどまでと比べて一回り小さい方陣を作る。



テテロはそれを追わずに、歩兵とひと固まりになってにらみ合う。



ガスパスは、憤怒の表情でテテロを睨めつける。





「もう、貴様の得意な戦はさせぬぞ。」


テテロは呟いた。






ーーーーコルテス島ジーラント 領主の館前ーーーー


トニの友人でジーラントで道具屋を営むタスクは、叛乱が予想外の方向に進んでしまった事を感じ、途方に暮れていた。



領主の館を取り囲むのは、思い思いの武器を手にした住民たち。

領主の館には、オルドナ兵たちとジーラントの住民から成る守備兵の連中が、一緒になって立てこもっている。



領主のカレドンは既に死んでいた。

叛乱が起こってすぐ、オルドナの兵長が守備兵の連中と協力して領主の館に侵入し、首謀者と思しき領主を斬ったのだ。


住民たちはこれに怒り狂い、見回りのオルドナ兵や守備兵の連中をそこかしこで殺し始めた。



この地域はオルドナ軍の横暴がひどかったから、住民たちの恨みは深い。

それがオルドナ兵のみならず、オルドナに協力的だった守備兵の連中にも向いてしまったのだ。



危機を感じたオルドナ兵と守備兵は、協力して領主の館を占拠して、立て籠もってしまった。




住民たちは夜通し領主の館を取り囲み、彼らは血走った眼で脅しの言葉をかけ続け、火矢を射かけ、様々な音を出し威嚇し続けている。



おそらく、館の中のやつらは生きた心地がしないだろう。



オルドナ兵はともかく、守備兵の連中はジーラントの人間だ。


もともとの守備兵団長で、オルドナに協力的だったラナという女をトニが殺した。

それで守備兵の連中も住民寄りになるだろうと予想していたのだが、長年支配者側に居たことで、守備兵の連中も変わってしまっていた。

ラナが居なくなっても彼らは態度を変えず・・・無理な徴発や横暴に手を貸し続けた。

だから住民は相変わらず守備兵にも恨みを持っている。


それが、最悪の事態を呼び込むことになってしまった。



このままでは、オルドナ兵も守備兵も、皆殺しにされる。

それがわかっているから、奴らも必死の抵抗をする。

兵たちは戦闘訓練を受けているから、当然住民たちのほうにより大きな被害が出る。







下手をすればジーラントは、滅びる。






(トニ・・・・早く、来てくれ。)


タスクは祈るような気持ちで、トニが居るはずの南の空を見つめる。



少し、雲が出てきたのが見えた。








ーーーーマスケアの街 包囲戦城----



「っしゃあああああああ!!!」


女の怒声。オルドナ特別攻撃隊、隊長のアスラだ。

後ろに一つに束ねた栗色の髪。浅黒い肌に銀色の軽鎧が映える。


アスラは怒号と共に馬上から両手持ちの戟を振る。

ひと振りするたびにメルケル兵が倒れる。

それに騎兵が続く。

連動して歩兵が津波のように押し寄せ、荒らすだけ荒らして引いていく。



少し離れたところで特別攻撃隊・・・通称”特隊”とか”特攻”とか呼ばれるオルドナ最強クラスの部隊は、隊列を組みなおしこちらを向く。



「つ・・・つよい」

「なんて動き・・・」


メルケル軍に動揺が広がる。






中央、最前列のアスラが再び馬を進めてくる。



「久しぶりの実戦、楽しいね。しかも相手が裏切者のてめえとはな。

父親を殺したらしいじゃねーか。そこまで行くともはや尊敬レベルのクソだな。」




アスラがメルケル軍の中央に居るジャンに向けて話す。

ジャンは先頭に馬を進め、答える。




「いろいろあってね。でもあんたに説明しても頭が悪すぎてわからないだろうからやめておくよ。


・・・そういえば、あれから少しは腕を上げたのか?」



アスラはジャンの元同僚。お互いに特攻で中隊長だった。

当時ジャンは入隊したての19、アスラはふたつ上の21。


その頃訓練中の手合せで、アスラが一度だけ後れを取ったことがあった。

ジャンはアスラがそれを恥と思ってるのを知っていて、徴発したのだ。



「てめえ・・・1度勝ったくらいで調子に乗るなよ・・・・

いいぜ、勝負してやんよ?ホラ、出て来いよ、売国奴!」



アスラが徴発返しをするが、ジャンは乗らない。



「悪い。オレとあんたの命でカタが着くほどこの戦は軽い物じゃないんだ。

あんたの相手は、うちの期待の若手に任すことにしたよ!

じゃあな!」


ジャンは馬をくるりと反転させる。むろん、誘いだ。



「ぶっ殺す!!!!」



アスラが単騎で飛び出す。

誘いと知っていてもお構いなし。それがアスラだった。


後続の騎兵もついてくるが、着いていけない。



足の速いアスラの馬がジャンの背中に迫る。



その時。





ガギイイイイイイン・・・・・・・





横から10騎ほどが出てきて、アスラの横っ面にぶち当たる。


さらに先頭の騎兵の槍が、アスラに執拗な連続攻撃を加える。





「おおおお!!あぶねっ!!!」


アスラは下がりながら、何とか応戦する。



特攻の騎兵が追い付いてきて、槍騎兵は攻撃を止める。


スラリと長い白い手足、坊主頭の女。


「あたしが相手だよ、オ・バ・サ・ン。」


メーグは笑顔で槍をくるりと廻し、アスラを挑発する。





「てめえ女か!!ハゲてっからおっさんかと思ったよ!


ていうかさ、”オバサン”つったか?

殺意、湧くなあ。湧きまくるなあ。」


アスラはぺろりと唇をひとなめして、戟を構えなおした。



「ハゲじゃないよ。ベリーショートっていうの。

最近の流行知らないんだね、古い人は。」


メーグも槍を構える。



ふたりの間で殺気がパチリと触れ合った。




ーーーーーーーー



流行(はやり)だったのか・・・)


ジャンは後ろからかすかに聞こえた会話に、人知れず衝撃を受けていた。



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