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魔剣戦記 Ⅱ  作者: せの あすか
34/66

11月4日 早朝~

ーーーーソラス城前 野戦場ーーーー


夜明けと共に、どちらからともなく開戦した。

本隊の歩兵同士が本格的にぶつかっている。


コーラスは馬上で戦況を見つめ、旗で味方部隊に命令を送る。




ガスパスの騎兵は今日はまだ動かない。

ならばこちらの騎兵も温存という事で、テテロも待機状態。




コール殿下は昨日のガスパスの勢いに恐れをなし、後方に下がってしまった。

多少の武功を立てさせてやろうと思っていたが、これではどうしようもない。


殿下の護衛の男、オガミもそのままコール殿下について、後方に下がってしまった。

ああいう男こそ前線に置きたいのだが・・・その申し出を殿下が頑として断ったらしい。





右、城に近い方がかなり押し込んでいる。

あれは親衛隊か。



王女の親衛隊は、テテロの騎馬隊を除けばマリーアスいちの精鋭部隊。

白でそろえた鎧がまぶしい。そして、兵ひとりひとりが強い。

隊長が若手というのも良い。


世代交代の予感がある国というのは得てして強いものだ。

上にあがれる、大きくなれる予感は若者に希望を持たせる。

自然、年寄りも負けぬよう奮起する。


上が強すぎると若者は閉塞感を感じる。

若者が強すぎて年寄りが拗ねているくらいが、丁度いい。


親衛隊は元々は王と王都を守る軍だが、王女の親征ということで出てきた。

今王女は後方に居るが、親衛隊だけ前線に置いている。







現在マリーアス軍には、テテロ以外に将が3人いる。


それぞれ歩兵と騎馬を率いているが、正直な所、戦が上手いとはいいがたい。

”偉大なジャジール”の直系たるテテロと比べると数段見劣りする。


10年前のトケイト以降、実戦と言えば提壁に籠りオルドナを追い払う戦ばかり。

唯一領内に侵入された戦では、これ以上ない手痛い敗北を喫している。


戦における成功体験がないのだ。これでは普通将は育たない。




しかし、どんな状況でも勝手に育ち力をつけてくるものが居る。


天賦の才。


あの親衛隊長はおそらくそういったものを持っている。

コールの護衛、オガミも、間違いなくひとかどの将軍になれる男だ。


厳しい戦では、こういう新しい人材が出てくる。




マリーアスの未来に、あの者たちは必要だ。

そして、それを使う有能な王も。





一瞬セリアの体を慮る。


今日も少し風が冷たい。

病体に障らなければいいが。







意識を戦場に戻す。



左と中央で鬨の声。





すこし、優勢か。






本来の敵総大将ファンクスは、一度も戦に出てこない。

城の中で震えているのか。それとも機会をうかがっているのか。何か作戦があるのか。



実際に戦全体を動かしているのはガスパスか、それともそれぞれの大隊長の独断か。

いずれにせよ、オルドナ軍全体の戦運びにはそれほど脅威を感じない。

いっときよい動きがあっても、それが軍全体の動きと連動しないから、盛り返せる。


怖いのはやはり、ガスパスの騎馬隊だ。





昨日の夕刻、コルテスの橋が落とされたという伝令を聞いた。

トニ・メイダスは順調なのだろうか。


これで少なくともコルテスからの物資がこの戦場に届くことは無い。

ビルトからの物資の輸送はあるだろうか。直観だが、ない気がする。





ならば城外の兵、ガスパスの隊は城内の兵糧を使うしかない。


それがいつまで持つのだろうか。





コーラスそんなことに思いを巡らせた時。




「黒雷、動きます!!!」



伝令が大声で伝えてきた。





ーーーーボナ砦ーーーー



「水ぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!

水が足りない!かき集めてきて!きれいな布も!!」


マイが叫ぶ。


砦に張られた巨大な天幕の中を埋め尽くす怪我人。

その間で忙しく動き回る女たち、男たち。

多くはメルケルの街の住民で、マイの呼びかけに応じて此処までやってきた。




マイは、重傷者にだけ治癒魔法をかけ、そうでない者は通常の薬師が使う傷薬や包帯を使って治療をした。

全ての怪我人に治癒魔法を使っていたら、身が持たないからだ。




「もう水がありません!いま、北の井戸に汲みに行っていますが・・・」



「早く!!!!急がせて!!!!!

こらあああ!そこ!!!!」




オルドナ兵とメルケル兵。

敵同士だったものが小競り合いを始めたのを、マイが見とがめる。



「ここでは争うんじゃない!!争うならその包帯も塗った薬も全部返せ!!

ほら、返せよ!!!!


イヤなら大人しく座ってろ!!!!あんたらの戦争はもう終わったんだよ!!

それでもぐだぐだ言うようならあたしの蹴りで眠ってもらうからー!!!」



ふたりの兵士は、つかみ合った手を離し、きょとんとしてその場に座り込む。



それを見ていた初老の男が隣の女に呟く。


「戦になると人が変わる者。商売の事となると目の色を変える者。

いろいろな人間がいるが・・・

人を治すときだけ気性が激しくなる人間ってのをはじめてみたよ。」


「そ・・・そうですね。普段はあんなに穏やかで素直な女の子なのに・・・」


女も恐ろしい物でも見るような目をしている。





マイが二人に気づき、睨みつける。




「そこ!!!なにボーっとしてんの!!体調とか悪いならさっさと横になって休め!!!

無理してぶっ倒れたりしたら許さないからね!!!!」



気遣い溢れる内容にそぐわない強い口調に、二人は顔を見合わせて噴き出した。





「クスクス」



喧噪の中で不思議とよく通る小さな笑い声。


脇に並んで座るフードの一団にマイが気付く。

その中の一人が、笑っている。



「あんたたち・・・・怪我は?」



「クスクス。全員怪我はしてないよ。


あなた、魔法強いね。

その力、もっと面白い事に使えばいいのに。」



女の声。


フードがはらりと落ちる。



白い髪。白い肌。赤い眼。

見たことのない風体に、マイは息を飲んだ。




「あなた・・・・魔法使い?」




「そう。ドジって捕まっちゃったんだ。


ねえ、この手枷を外してくれない?

私も手伝ってあげるよ??」





「ダメだ。」



低く厳しい男の声。

スティードだった。

随分疲れた顔をしている。



「そいつらはグランゼさんを殺した魔法部隊だからね。

ここで解放したら何をするかわからない。


・・・このままフミさんのとこに送る。

だれも怪我はしてないはずだから、食べ物と水を与えるだけでいい。」



「そんなのつまらない。いやだー。」



白い女が口をとがらせる。




マイはこの女のあっけらかんとした物言いに底知れぬ不気味さを感じ、ひとつ身震いした。





「俺たちはこれからマスケアに向かう。

もしかしたらマスケアからもここに怪我人を送るかもしれない。

きついだろうが、よろしく頼む。」


スティードがマイに新しい包帯を手渡しながら言う。

そして、つかつかと速足で天幕を出ていく。


「わかった。気を付けて。」



マイは神妙な顔で、スティードの背中を見送った。





ーーーーマスケアの街ーーーー


山間の鉱山の街に鋭い朝日が満ちる。

ここはマスケアの街。その中央、兵士詰所。


「援軍は?」


大隊長のボーノは、作戦板を前に腕組みしている。


「わかりません。近衛に苦境は伝えております。

ガスパス様にも。ですが返答はなく・・・・」


「あてにはできないという事だな。

兵は戻ってきているか?」


「少しずつ。なんとか6000は保てそうです。」



開戦前にここに来た元気なのが2000。

メディティス将軍と共にボナを離脱して、ここまでたどり着いたのが2000。

周辺に離散していた兵が徐々に戻って来て、2000。



(たったの二日で、ここまで減ったか・・・)



開戦前は全軍で14000居たはずだ。

総大将メディティスは既に無く、二人の副将の行方も知れない。



絶望的な気持ちになるが、それを表に出すわけにはいかない。


今西方軍の指揮権は、自分にある。

自分が弱気を見せるわけにはいかない。



「今日になって戻った2000は、2交代で門の上に立たせる。

少しでも多く休ませろ。

ボナからの離脱組は壁上、弓と梯子対策に当てろ。


マスケア組2000は存分に働いてもらう。

攻めの薄い所から打って出て敵に攻撃を加えるぞ。


厳しい戦いになる!!皆心しろ!!!!」



声を上げ、他の大隊長、中隊長達が散っていく。




図らずもこの国最大の軍を動かすことになった。

数を減らしたとはいえ、いま自分の双肩にこの国の命運がかかっているのを感じる。




「ボーノさま!!!!援軍です!!おそらく特攻!!!」



「まことか!!!」


この国最強の部隊、特別攻撃隊。

様々な戦、特殊任務に携わってきた精鋭部隊。


メルケル軍の総大将も、この隊の出身と聞く。


隊長は、アスラという名の女。素行は悪いが腕は確かだ。



援軍としては、これ以上ない。




(守り切れる。)




ボーノは確信していた。







ーーーーメルケル軍 マスケア包囲部隊 本陣ーーーー


「特攻か・・・・」

ジャンが真っ赤な目をこすりながら起きて来た。



ジャンは朝方になってようやく混乱から立ち直っていた。

ほとんど眠れていない。


「ジャンさん、大丈夫?一旦引いた方がいいんじゃ?」

メーグが心配そうにのぞき込む。


「大丈夫だ。ちょっと身内の事でね。

混乱してたんだ。大丈夫、少し寝て頭はすっきりした。」


「ほぼ全軍集まってる。スティードももうすぐ来るみたいだよ。

敵は城内に6000。新手の、特攻?が500くらいだって。」




「おそらく中央からだな。

丁度いい。その分ビルトが手薄になったって事だもんな。

マスケアは少し時間をかけてもいいから、しっかり作戦を練っていこう。



「そうだ、思ったんだけど・・・

多分城と特攻?内と外から挟まれると思うんだよね。

で、ちょっと作戦思いついたんだけど・・・・

聞いてくれる?」


メーグが頼み込むような目で言ってくる。



「作戦?いいぜ、聞こう。

せっかくだ、皆も集めよう。


おい、集めてくれ。軍議だ!!」


ジャンが突然元気になって伝令に命令する。



(この人の戦バカもたいがいだな)


メーグは人知れず、くすりと笑った。





ーーーー再び ソラス城前 野戦場ーーーー


方陣のまま駆ける。


テテロの騎馬隊はまるで間に合わない。



戦における騎馬の最大の利点は、速さだ。

その速さを犠牲にして、やつは騎兵を重装にした。

あまつさえ、馬にまで装甲を施している。


馬も、おそらく農耕馬の血が入った、足の短いもの。


あれでは、このガスパスの騎馬隊に追いつけるはずもない。



仮に正面から削りあいをやったらいい勝負かもしれない。


だが、あっちの得意な戦いをこっちが選択してやる義理はない。




敵陣が迫る。


小細工はいらない。ただ無策に、割って入ればよい。

単なる歩兵だ。訳はない。




狙うは総督コーラスの首。

周りを精鋭で固めている。だが、届く。



歩兵の海を泳ぐ。


コーラスの陣が見える。


よほど慌てているのか、旗が乱れる。


背を向けて逃げようとしている。





おもしろい。

追いついてやろう。




ふっと、敵陣が途切れる。




なぜか馬の足が止まる。





足元に人の腰の高さほどの、木の柵。

こんなものを隠していたのか。



後続も歩を止めるしかない。




敵の一隊が、柵の向こうに現れる。





小さい箱のような・・・・






箱から一斉に短い矢が飛び出てくる。

それも連続して何本も。



剣で何本かはじくが、えらく軽い。



なんだ、この矢は。


これでは人は殺せない・・・・・・





ガスパスの馬が棹立ちになる。


首筋に一本の短い矢が刺さっている。



後続を見る。馬上の兵士には損害がないが、やはり馬を狙われている。





やられた。馬だけを狙うとは。




「一旦引く!反転!」






方陣のまま、すぐさま全員反転する。


その正面に、テテロの超重装騎馬隊が現れた。


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