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魔剣戦記 Ⅱ  作者: せの あすか
33/66

11月3日 夕刻 ボナ砦

ーーーーメルケル軍 本陣ーーーー


敵は・・・父親は砦に籠った。

だがジャンは攻撃の手を一切緩める気は無かった。



(このまま落とす。)


この流れを失う訳にはいかなかった。

朝まで待てば、恐らく敵は体勢を立て直す。

粛々と撤収し、追撃を組織的にいなしながらマスケアに入り、そのまま籠るだろう。




決めてしまいたい。



投石、矢、梯子。あらゆる手段で守兵を倒し、砦の石積みを壊し、乗り越えようとする。


犠牲は大きい。しかしそれを厭う訳にはいかない。




グランゼが死んだ。

死体は見つかっていない。

魔法の火球が落ちた現場には、誰の者ともわからない黒焦げの塊が数百転がっているだけだ。



歳の差はあれ、10年近く苦楽を共にしてきた仲間だ。

ジャンは自分でも驚くほど大きな喪失感を感じていた。


ここで手を緩めたら、あの死が無駄になる。


(この戦を勝つために・・・・今ここで、父上を倒す。)


ジャンは、そう決意していた。




ーーーーボナ砦 壁内の詰め所ーーーー


予想に反して、メルケル軍はさらに激しく攻撃を仕掛けてくる。

無限の体力、いや気力か。



陽が沈んでも、彼らは攻撃を止めないだろう。

それは、彼らの眼を見ればわかった。



このままではいずれ砦が崩壊する。




12000居た兵がすでに7000を割った。


全て死んだわけではない。

多くは負傷し離脱した。多くは捕虜になった。

そして、多くは敵方に投降した。



すでに、メルケル軍は捕虜を殺さないという噂が広まっていた。

それどころか、負傷兵を自陣の後方に集め、治療しているらしいと。




もはや、この流れは止められない。

ならば決死の覚悟でやるしかない。








「全軍、打って出る。マスケアまで走るぞ。

全ての隊長に伝令。鉦の音と共に西門を全開し、ひと固まりで走る。


中央、ファンクス、それからガスパスに伝令。

ボナを放棄すると伝えよ。

いいな、すぐに行け!」



伝令が何人か駆ける。





このまま敵の侵入を許せば、壊滅するだろう。

ならば自らの意思で動いたほうが、いくらかマシだ。


厳しい追撃はあるだろうが、それでも軍の(かたち)は保てる。




剣を抜き、見つめる。


刃こぼれはしていない。

それは、自らが剣を振るっていない証拠だ。


「あの戦からだな。自分で前線に立たなくなったのは。」


誰にともなく言葉が出る。

周囲の部下たちが、不思議そうに見つめてくる。




ジャジールの最期の突撃の様子を思い浮かべる。


最後にジャジールは何か呟いた。あれは何と言ったのか。

それが気になって、眠れぬ夜を過ごした事もあった。



師と仰いだナテュメも逝った。

長年争ったメルケルの傭兵隊長も、今日あっさりと、黒焦げになって死んだ。



王とは長い間会えていない。

近頃はその真意がどこにあるのかわからない。



そして自分を殺そうとしているのは、ほかならぬ自分の息子。





自分の人生とは何なのか・・・

いや、もはや自分の成したい事が何なのかすらわからない。




ならば軍命、あるのみ。



この国を守れ、王と王都を守れ。



やはりそれしかないのだな。私には。








ーーーー宵の口 メルケル軍ーーーー


7000の大きな塊が砦の口から吐き出された。

オレ達メルケル中央軍は、執拗に追撃をかける。



敵は疲れている。馬の脚はそれほど早くない。

それに、士気が全く違う。


この優位を活かして削れるだけ削りたい。大将首を取ってしまいたい。





既に宵闇は深い。しかし幸い月も星も明るい。



オレはずっと先頭を駆けている。


部下が馬を何頭か用意してくれた。

疲れたら馬を替えるためだ。

もう3頭目。おかげでずっと先頭でいられる。



もう、何人斬ったかわからない。

何人射たかわからない。



だがオレは追撃の間ずっと、敵を殺さずに倒す事を心がけてきた。




マイの存在が、敵にも知られてきている。


”負傷した捕虜は、治療を受けられる。”


この噂は、ギリギリの所で戦う敵兵の心をくじく。




戦って死ぬくらいなら、敵に捕まったほうがいい--

そんな風に思った兵は弱い。


実際魔法を封じ副将を失った後のオルドナ軍は、明らかに弱かった。


この追撃中も、諦めて歩を止めてしまう兵を多く見かける。





間違いなく勝ち戦になる。


その確信はあっても、本陣にはなかなか届かない。







街道をひた走る。








曲がっていた街道が直線になった所で、ついに将軍旗が目に入る。


同時にその向こうに、マスケアの街を照らすたくさんの灯がぼうっと光って見えた。


敵があそこに逃げ込む前にこちらの刃が届くか届かぬか。

ギリギリの勝負だ。




「馬を!!!」



部下に最後の替え馬を用意させ、走りながら乗り移る。



ついてきているのは僅か400騎。

将たちは居ない。

だが充分だ。



「行くぞ!!!!ここで敵大将軍の首を取る!!!

ここがこの戦の正念場だ!!!!!」




部下がそれぞれに答える。



馬の速度を上げる。


後方の敵兵はすでに、抵抗する気力もない。

殆どがただこちらの進軍を見送るだけ。


みるみる内に将軍旗とマスケアの門が近づいてきた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




マスケアの門。もう大きく見える。

だがすぐ後ろに息子の姿がせまる。



自分も兵も疲れていた。

途方もなく疲れ、絶望している。


恐らく、追いつかれる。






仕方がない。






「伝令!


全軍先にマスケアに行け。

殿(しんがり)は私と直属の500が持つ。


・・・あとの指示はボーノに仰げ。」




トニ・メイダスの奇襲に備えて、大隊長のボーノをマスケアに戻した。


結局、メイダスの奇襲はない。奴がどこかに出て来たという情報もない。

もしや、本当にただの留守番か。それともこちらの兵を分散させるための策略だったか。


もはやそれもどうでもよい。




500騎で反転する。

脇を味方がすり抜けていく。




目の前に息子の一隊が現れる。

その数、およそ400。


敵は整列しながら歩を緩める。

騎馬の動きは良い。

だがさすがに疲れは見える。






顔がはっきりわかる位置まで来た。

中央、先頭に息子。





「覚悟はできたのか。」



深い意味はなかった。何となくこう聞いてみたかった。







「10年前オルドナに弓を引いた時から・・・とうに出来ている。」




息子は凛として言い放つ。





よい武人、そしてよいリーダーになった。


部下の眼を見ればそれがわかる。





「勝負しろ。」


剣を抜く。

向こうの部下が止めようとするが、息子自身がそれを制し、剣を掲げる。




「いざ。」





馬が馳せる。




最初はお互いに剣を思い切りぶつける。



ぐらりと頭が揺れるような衝撃。

向こうも同じように感じたのだろう。

暫くお互いに距離を取って間を取る。




再び馬を近づける。

今度は、接近したまま何合か剣を交わす。



一撃が重い。甘いところがない。

昔は上手いだけの軽い剣だったが。



10年、互いに将として何度も戦斧を交えた。


それは、父と子の対話でもあったのではないか。




息子が出奔する前と、敵同士となった後。

どちらが親子として濃密だったか。



10年前までは、ただ立場上の味方として、ただ偶然に親子として、近くにいただけだった。

まともな会話をした記憶もない。戦や国について語った事も無い。


この10年はどうだったか。

おたがいの思想を剣に込め、全力で戦った。

時にだましあい、時に正面からぶつかった。





いくつかの戦を思い出す。

殆どが負けだったが、10年幸せだったのだ。多分私は。






再び距離を詰める。




何度かか打ち合うと劣勢になる。

体力がまるで違う。

技術的にも息子が上だ。


腿が、背中が悲鳴を上げる。



目いっぱいの突きを放つ。

躱される。


返す刀で首筋を狙ってみる。

剣で切っ先の方向を変えられる。

すぐに反撃が来る。ギリギリで躱す。




強めの一撃を上段から浴びせる。

息子は、盾で受けた。








ガクンと、息子の体が支えを失った。

(あぶみ)が、外れたのだ。




息子の両手が上がる。


無防備になる胴体。





今なら、斬れる。






剣を振りかぶる。










だがそれを振り下ろすことが出来ない。









息子は危機を脱しようと、やみくもに剣をこちらに向けて来た。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




肉を抉る、嫌な感触。



なぜ。



オレは(あぶみ)を外した。


斬れたはずなのに斬られていない。


とっさに振り回した剣に、意外な手応え。





見ると、切っ先が父の胸を抉っている。

血が噴き出す。それを頭から浴びる。


致命傷だ。







双方落馬する。


ぐわんと回る頭を抱えながら、倒れた父親の元に駆け寄る。



「父上!!!なぜ!!!」



血濡れた手で父の頭をもたげる。




「わ・・・私には・・・覚悟が出来ていなかったのだな」


呼吸のたびに口から血が漏れる。

胸からも血が噴き出す。



「待て!治療者を呼ぶ!」




「無駄・・・・ジャン・・・・お前・・・ゴボボ」




「しゃべるな!!!」




「お前・・・・母親が・・・・ビルトの・・・城・・・」








「え?」






今、なんて言った?













父はひとつ血を吐いて、こと切れる。

眼をあけたまま。剣を握ったまま。



胸の傷から出続けていた血が止まる。





「新手!!!マスケアの守兵だ!!!!」




部下が叫ぶ。




反射的に、馬に乗る。





マスケアから救援に来た元気な1000ほどの敵兵と、父直属の部隊が入れ替わる。



さすがに今新手とは戦えない。




戦果は充分だ。

父の遺体を持ち帰っても仕方がない。




退却の一手。

だが声が出ない。





部下がオレの様子がおかしいのに気づいて、馬の手綱を引いてくれた。




そのまま、ボナまで戻った。

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