11月3日 午後 コルテス島 プラティア
橋を落としてすぐ、トニはプラティアに向かった。
そして昼になるのを待ち、サグラニ卿とトニを中心にした制圧隊はオルドナ兵の詰め所を襲った。
それは難しい戦いだった。
プラティアは島の唯一の出入り口に当たる街だ。
人口が多いので治安維持の常駐兵も多いし、島中を周回するオルドナ兵もここを拠点にすることが多い。
詰所は街道沿い・街の中心部・市場前の三か所にあり、それぞれに30人ほどの兵が待機していた。
3つのうち、敵の援軍が来る可能性が一番高い街道沿いの詰所をトニが受け持つ。
中心部の詰所にはサグラニ卿。全体の状況がつかめるように。勝利宣言が伝わりやすくなるように。
最後の一つ、市場前には明確なリーダーは置かなかったが、住民の中でも屈強な者を多くあてがった。
結果は、全ての詰所で勝利。
難なく、という訳にはいかず、住民からも22名の死者が出た。
うち15人が市場前の詰め所を受け持った連中だ。
もちろん、けが人も多数出ている。
それでも、街にいるすべてのオルドナ兵を、殺し、取り押さえ、あるいは投降させ捕縛した。
これでプラティアは、コルテスの住民の元に帰ってきた。
住民の歓声が、そこかしこで聞こえる。
トニは部下に街道沿いの警備を任せ、街の中心部までやってきた。
部下と何やら話し合っていたサグラニ卿がトニに気づき、片手を上げる。
「やあ。」
「ああ。」
ふたりは10年来の旧知のように、笑いあった。
「右手を・・・・」
トニは、サグラニ卿の腕の包帯に気づく。
「ああ、不覚を取った。もう若くはないな。
・・・もう金輪際戦場に出る事はなかろう。
最後の、名誉の負傷だよ。」
サグラニ卿はにまっと笑う。
「まだ老け込んでいい時じゃないですよ。これから忙しくなります。
僕はこれからすぐに、ジーラントに向かいます。
あそこはここよりも厳しいはずです。」
「いまからか。到着は明日になるな。それまで持てばいいが。」
「そうですね・・・・
そうだサグラニ卿、一つお願いがあります。
この周辺の集落に、それぞれ協力者を置いています。
ここ以外は兵が少ないので多分皆うまくオルドナ兵を抑えてくれてると思うのですが、巡回をお願いしたいのです。
もしかしたら、うまく行ってないところがあるかもしれないし。」
「心得た。周辺の残党捜索もしておきたいから、明日以降になるが、構わぬな。
自警団も組織しないとならぬな。
それに・・・
そうだな、巡回に出る時に食料も持っていこう。
おそらく足りてない集落もあるだろう。
ここの倉庫にはオルドナに運ぶはずだったものがあるからな。
まったく、改めてなぜコルテスが飢えなければならなかったのか、と思・・・・」
とすん、とひとつ音がして、サグラニ卿の表情が笑顔のまま固まる。
そのまま、どうっと倒れる。
トニには何が起こったのかがわからない。
見るとサグラニの頭に、矢が一本突き立っていた。
飛んできたほうを見る。
詰所とは反対側の民家の脇。
弓を持って震えて立ち尽くす、ひとりの若いオルドナ兵。
討ち漏らしたか、隠れていたか、外から帰ったか。
「オアアアアアアアアアアアアア!!!!」
トニは絶叫しながら兵士に向かって走る。
もう戦は終わってるのに。
なぜ殺した?
普段ならばサグラニ卿も殺気に気づいただろう。
トニだってまるで気付かないことはまず無い。
だが、気が抜けていた。
もう終わったと思っていた。
兵士は、それほどの腕前には見えない。
おそらく恐怖し混乱して、自分でも訳がわからずに放った矢だろう。
そんな矢が驚くほど正確に、強い威力を持って飛ぶ事が、ままある。
でも。
なんで今、なんでこの人に向けてそんな奇跡のような矢が放たれるのか。
神というモノが居てこの筋書きを描いたとしたら、そこには悪意しか感じない。
この島は、この人を中心に秩序を取り戻すはずだったのに。
トニは、大きくなり続ける兵士の血だまりの中でいつまでも立ち尽くし、慟哭した。





