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魔剣戦記 Ⅱ  作者: せの あすか
31/66

11月3日 午後 ソラス城前 野戦場

ーーーマリーアス軍 本陣ーーーー


もはや戦ではない。狂人同士の殺し合いだった。


鬨の声が異常に大きい。

半狂乱で、笑いながら戦う兵まで居る。

動けなくなった敵には、確実にとどめを刺す。必要がなくても、首を落とす。




(これは・・・もう一旦退却すべきなのでは)




コーラスは前線で指揮を執りながらも、戦を続けること自体に疑問を持っていた。


そろそろ、兵が自分の指揮を離れて勝手に動き出すのではないか。

そんな予感さえする。




なにか策はないか。頭を巡らせても、何も出てこない。





テテロは最初からそういう心づもりだったようだ。

開戦と同時に重装の騎兵と共に敵の真っただ中に突っ込み、圧倒的な力を見せつけている。


他は互角だが、テテロが押し込んだ分こちらが優勢になっている。






これでは、死者が出すぎる。





一旦兵を引くよう、王女に掛け合ってみるか。


そう思ったときに、後方から騎馬の一団が現れる。


マリーアス王家の旗。

王女か、と一瞬思ったが、輿がない。


と、なると。



コーラスは一団を率いてきた金鎧の将に恭しく礼をする。




「直々のご出陣痛み入ります。コール殿下。」




「おう、コーラスか。どうだ、戦況は。」



(聞いても解らないくせに。)


コーラスは一瞬そう思って、それが表情に出ないよう気を付けながら答える。


「ハッ。こちらが優勢に推移してはおります。

ですが・・・兵、将ともに少々荒ぶっており、凄惨な戦となりつつあります。」



コールは言葉だけでは理解できなかったようで、戦場に目をやる。

累々と横たわる死体。

血と糞便の臭いが漂ってきそうな光景。


コールの顔がみるみる青ざめる。

吐き気を催したのか、口を片手で抑える。





「・・ひどいありさまだな。


優勢ならば私は、出ないで良いな。

まずは後方で指揮を執るからな。

何かあったら呼ぶのだぞ。」


(わかってるよ。さっさと帰りな、役立たず。)





コーラスは馬を返し、戦場に戻ろうと兵の方に駆ける。

かなり離れてから、自分がコールの言葉に返事も会釈も返してないことに気づき、苦笑した。




ーーーーテテロの騎馬隊ーーーー


「いいぞ、このまま反対側まで抜けてしまおう!!」


騎馬隊に下知を出しながら、自分も長剣を振るう。

もう何人斬ったかわからない。


こうしてオルドナ兵を斬りつくすのが、宿願だった。


この程度の軍ならば、ほとんど損害なしでいける。




敵陣を突き抜けた。

一旦集まって、陣を組む。



2000騎。百ほど削られて、1900か。

これだけの戦果を挙げているのだ、やむを得ない。



敵軍を見る。

左手、つまり南側にソラス城。西側正面に敵、その向こうに自軍の本陣。


もう一度突き抜けて、自軍に帰ってやろうか。


そう思って敵を睨む。





こちらを睨んでいる一団がいる。






ふと、敵軍の表情が変わったのが見える。

後ろ?


東から何か来るのか。




テテロは一旦自陣の後方にさがり、東の原野を見る。



乾いた草原に舞う砂煙。



そして、硬い蹄の音。

まだ姿は見えない。

だがテテロは確信していた。




「来たか。」





黒雷。


あのガスパスの騎馬隊。





挟まれるのはさすがにまずい。


テテロは戦場を北から大きく迂回し、自軍と合流する事に決めた。




ーーーーマリーアス 本陣ーーーー




「ガスパスが来ます!!!」



伝令の大声に、自軍が凍り付くのがわかる。




「緊急!大隊長はコーラス様の元に!!!」

「テテロ将軍、本軍と合流して待機中!!!」

「後方本陣が前進を始めております!!」

「敵軍、ガスパスと合流。隊長を集めて軍議中と思われます!!!」



コーラスは次々にくる報告を、ただ聞いている。


野戦でガスパスが来たらどうするか。

事前に打ち合わせてある。


まず軍を一つにまとめる。

コーラスを中心において堅陣を敷く。


盾を構えた、守り中心の陣。弓は至近距離でしか撃たない。

攻められたところに遊軍として置いてあるテテロが向かい、少しずつ削る。



(訓練通りでよい。)


コーラスは自分にそう言い聞かせた。



「セリア女王は?」


伝令に聞く。


「親衛隊と共に後方中央です。」



一番安全な所だ。直属の精鋭もついている。


後方中央の王家の旗を見る。

女王から左、少し離れたところに、コール殿下の旗も見える。



ガスパスなら・・・・間違いなくあれを狙って来る。



「女王とコール殿下に伝えよ。旗は降ろし、輿も目立たぬよう低い位置に、と。


それと・・・いや待て。

女王だけでいい。コール殿下には伝令を出すな。」



役に立たぬなら、おとりになってもらうのがよい。


ここであの無能が死ぬなら、それも良いだろう。





敵陣で鬨の声が上がる。


どうやら、そろそろだ。




自陣の兵も、ガスパスを目の前にして、逆に落ち着いたようだ。

興奮と狂気で何とかできる相手ではない。



ここからが、戦だ。







ーーーーガスパス騎馬隊 黒雷ーーーー


随分凄惨な戦だったようだ。

死体の数が異常に多い。



まず兵に命じたのが、死体の片付けだ。


騎馬隊の足を止めるようなものは、できるだけ排除すべきだ。




敵陣。テテロの位置は、こちらから見て中央すこし左寄り。

右に誘っている。


ならばまずは乗ってやるか。




あの男がこの数年でどれほど成長しているか、見てやろう。




あいつならおそらく小細工はしない。


これほど楽しい戦はなかなかないぞ。



いくぞ、マスカード(‘‘‘‘‘)






ーーーーテテロの騎馬隊ーーーー



黒い獣が動く。同時に、全軍が前進してくる。


さっきまでとは全く違う。統率の取れた「軍」の動き。



ガスパスは左に来た。

テテロのいない方。


これはテテロには意外だった。




黒雷は真っすぐに左方に向かう。


やはり速い。

テテロの肌がぞくりとざわめく。





堅陣で受け、敵が動きを止めた瞬間を狙ってテテロが側面にぶち当たる。


そういう段取りだが・・・




ガスパスの騎馬隊は、早すぎた。

そして、重い。



堅陣がいともたやすく崩された。


黒雷は、マリーアス軍の皮膚をゴソっと削って、すぐに北側に離脱した。


テテロの騎馬隊は間に合わない。



その瞬間、敵主力が正面から当たってきた。


逆にテテロの騎馬隊が右側面から攻撃を受けることになる。


味方が浮足立つのがわかる。



(まずい・・・)


そう思った瞬間、中央から味方の一隊が敵中軍に向けて突撃する。

横に拡がって一斉に攻めてきていた敵陣の真ん中を両断し、すぐに戻ってくる。


コーラスだった。


それで敵の勢いは削がれた。


マリーアス軍はオルドナ軍の攻撃を跳ね返した。


両軍、元の位置に戻る。




ガスパスとテテロは、左方でにらみ合う形。





黒雷の400騎が陣形を変える。


方陣がぬるりと形をなくしたかと思うと、一瞬で3列に並び直す。



(来る。)


テテロは剣を横にして掲げる。

防御態勢の指示。




ガスパスが動く。

今度は真っすぐ、テテロの軍に向けて進んでくる。





正面から見ると、さらに速い。

みるみるうちに目前までくる。



ガスパスの長髪が目に入る。

その顔は・・・・笑っていた。





(こっちは超装備の重騎兵だ。抜けるもんなら抜いてみろ!)




ガスパスが先頭の騎兵にぶち当たる。



金属音。馬の悲鳴。




テテロ自身は後方にいたが、今までに感じたことのない圧を感じていた。

しかし、突破はされていない。




ガスパスは一人だけに太刀を浴びせたが、切り倒すことが出来ず脇に逃れた。

騎馬の突撃では、先頭は立ち止まると後続の騎馬に踏みつぶされるので、止まらずに抜けなければならない。


後続の黒雷も、テテロ騎馬隊を崩すことが出来ず、表面を滑るように抜けていく。

そして、黒雷の一人を討ち取っていた。テテロ騎馬隊の損害は、4人。




(崩されなかった)



テテロは手ごたえを感じていた。

戦える。少なくとも、あの時のように一方的にやられるだけではない。



しかし、ガスパスの騎馬隊は間髪入れずに後方のマリーアス陣に割って入る。



行く先には・・・・王家の旗。





(最初からそこ狙いか?)





テテロは慌てて後を追う。




その時、また正面から敵本隊が攻撃をしかけて来た。

今度は、弓。雨あられと射かけてくる。


味方の混乱。


今度はコーラスはガスパスに対応せざるを得ない。




黒雷は無理矢理にマリーアス軍の中を進む。

手向かう者は居ても、2、3切り結ぶのが精いっぱい。





テテロはガスパスの後を追い、味方陣の中を追う。


後ろに迫り、殿の兵に斬りかかる。

が、これが強い。


テテロが後ろから斬りかかっているのに、ほぼ互角。


(こんなやつが・・・・)


小柄で、偉く体格の良い男。黙々と戟を振るう。

相当強い。そして馬の扱いもうまい。


テテロの攻撃を受けながら、横からの兵の槍も捌く。

これでは、先頭のガスパスには絶対に追いつけない。






間違いなく将軍級の軍人。そんな人間が、たった400の騎馬隊の殿(しんがり)に居る。

それは、黒雷の異常な強さを裏付けるものだった。






ガスパスが王家の旗に迫る。


旗が揺れる。



拙い手綱さばきで逃げようとするコール。


ガスパスがそれを見て一瞬失望の表情を浮かべる。

王女ではなかったことに気づいたのだろうか。


だが気を取り直し、剣を振りかぶる。






ガギン!!!!!



その剣を受け止めた者が居た。


灰色の重鎧。大きな盾。手には槌のような武器。


その槌でガスパスに殴りかかる。


ガスパスは驚いた表情で、槌を剣でいなす。




騎馬隊は乱戦でも立ち止まれない。

立ち止まった瞬間に馬を狙われるからだ。



ガスパスはコールを撃ち漏らし、そのまま進んでいくしかなかった。


後続も重鎧の兵士に阻まれ、コールにはたどり着けない。





黒雷最後の一人が、テテロの騎馬隊を引き連れるようにして重鎧の所まで来た。

自然と、挟撃のような形になる。



テテロはここぞとばかり、腰の短剣を殿(しんがり)の男に向けて投げつける。

同時に重鎧が、今度は盾でとびかかるように殴りにいく。


盾だから、剣で受けるわけにはいかない。

殿の男は手甲でそれを受け止める。

ぐにゃりと腕が曲がる。


折れた。


同時に左わき腹に、テテロの短剣が突き刺さる。



他の兵の槍が、次々と男の体に刺さる。




馬から落ちて地面に顔をこすりつける頃には、男ーーリユトという名の黒雷副官ーーは、既に息絶えていた。






ガスパスはそのまま、反対側に抜けて離脱したようだった。





テテロは荒い息を付きながら、重鎧に話しかける。


「お前、名は?所属はあるか?」


「オガミ。所属はない。重臣の方からコール殿下を守れと言われた。」


「そうか、よくやった。


今倒したこの男はおそらく黒雷の中でも相当強い部類に入る。

その戦功忘れぬぞ。後でそれなりの待遇と褒美を用意する。

それまでは、このまま尽くせ。」



「・・・」



オガミは黙ってうなずく。




唇を青くしてへたり込むコールを尻目に、テテロは前線に戻る。


戻りながら、恐ろしい事に気づく。





黒雷は、最初の突撃で倒れたものとリユトのふたり以外、誰も倒されていなかった。





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