11月2日 午後
ーーーーボナ砦の野戦 最前線----
ガギイイイン
先鋒の第一陣が敵陣最前列にぶち当たる。が。
(なんて固い・・・・!)
スティードは焦った。
先頭には精鋭を置いているはず。
だが装備の差は歴然。兵の質でもやはり向こうが勝る。
力押しでは崩せないのか。
一旦下がる。
じわりと、敵陣が前進してきた。嫌な汗が出る。
右後方から伝令。
「第二陣前進します!左にずれて通せ、とのこと!」
(もうきた。攻めあぐねてるのがわかったのか・・・)
スティードは情けない気持ちになりながらも、すぐさま左に軍を寄せる。
風のように現れた数百騎が、敵陣に向かって突っ込んでいく。
速戦を旨とする軽装の騎兵。
先頭はジャン。脇に控えるのはメーグという坊主頭の若い女。長い槍が得意で、まだ二十歳になったばかりだが、武勇においても用兵においても、若手で一番の有望株だ。
その部隊が敵陣最前線に当たる。
颯爽とした見た目にはそぐわない、重い金属のぶつかりあう音。
ジャンが一気に、敵の重装歩兵3人を倒すのが見えた。
開いた突破口に、メーグが槍を振りかざし突っ込む。
素早く4~5人を突き殺し、すぐに戻ってくる。
鮮やか。
スティードは、初めて彼女と手合わせしたときに感じた驚きを思い出していた。
荒削りだが、伸びのある突き。薙ぎも細身のからだからは想像もつかないほど強い。
恐らく、長い腕から生まれる遠心力をうまく利用しているのだろう。
そして何より華がある。こういう人間は、兵卒より、将校よりも一番上、将軍に向いている。
このままいけば恐らく近い将来、メルケル軍を背負って立つ人材になるだろう。
そしてジャン。
やはり兵を乗せるのがうまい。
自身の剣力もあるが、それだけではこれ程強い突撃は出来ない。
馬の動きまでが良くなる気がするから、不思議だった。
敵兵の動揺が、一点から横に拡がるのがわかる。
流れが変わった。
今ならば。
スティードは自軍を前進させて当たる。
ジャンの登場で兵に活気が戻る。
押し返せる。
自分には派手さは必要ない。
堅実に敵の体力を削り取る。
ここは互角でいい。
頭の中でジャンの言葉を繰り返す。
勝負所は別にくる。
自分はそれを逃さない為にとにかく総大将の意思動通りに動く。
(決して、奢るな。
大きく負けなければいい。)
スティードは自分に言い聞かせながら、黙々と槍を振るう。
敵の陣形が崩れる。
(いける・・・!)
ぐらりと、自陣が揺れた気がした。
左の後方がざわつく。
「魔物だ!合成生物!!」
(くそ・・・・)
スティードは舌打ちする。
思ったよりずっと早く、敵が切り札を出してきた。
合成生物。
動物や魔物の体を切り刻み、治癒魔法で無理矢理別の個体の体の一部とくっつける。
頭を二つ持つもの、足が妙にたくさんある者、逆に足が二本しかない獣・・・
おぞましい、様々な姿の生き物。
そのまま死んでしまう者が多いが、まれに生き残る者がいる。
そして不運にも生き残った者は、常に体に痛みや不快感を伴うらしく、異常な攻撃性を持つ。
だからオルドナは、これを兵器として使う。
本来の治癒魔法の目的を大きく損ねる、邪法。
合成生物百匹を作るために、何匹の獣や魔物を無下に殺してきたのか。
スティードの心にぐらぐらと怒りが湧く。
「一旦引いて魔物を退治してくる!!
オタロ、ここを頼む!」
スティードは少し離れたところにいる大きな体の副官にそう声を駆け、戦場の左後方に向けて駆けだした。
ーーーートケイト地方 マリーアス軍後陣----
やはりファンクスはソラスに籠って出て来ないようだ。
臆病者は、国が崩壊するかもしれない事態に直面してもやはり臆病者らしい。
(有事に戦場に出ずしてなにが将軍だ。)
コーラスは、敵将をこれ以上ないほど軽蔑していた。
まだ会った事もなければ手合せした事も無い。
流れてくるのは噂ばかり。それも、すべて悪い噂だ。
もはや、その人物になんの興味もない。
(こんな戦は、さっさと終わらせるに限る。)
コーラスは改めてそう決意した。
トケイト砦とその周辺の小砦には、六つの大隊合わせて一万ほどのオルドナ兵が、散開して配置されている。
敵の隊長達は皆優秀だった。
きちんと連携を取り、そこかしこで細かい、かつ効果的な攻撃を仕掛けてくる。
まだ魔物も魔法も出してきていないが、マリーアス軍は思い通りに進軍できずにいた。
テテロは前線で獅子奮迅の活躍をしている。
しかし、敵の攻撃は広範囲にわたる。
とても一人ではさばけない。
(仕方ない!)
コーラスは馬に乗り、前線のテテロの所まで駆けた。
ーーーートケイト地方 マリーアス軍先陣ーーーー
最前線。重装騎兵の一団の中央。
金色の鎧をみつける。
将校を集め、作戦会議をしているようだった。
コーラスに気づき、テテロが出迎える。
「見かねたか。」
テテロは苦笑する。
コーラスも微笑んで返す。
「どうですか?」
「厄介だな。平地なのに神出鬼没。
現れては弓をありったけ放って、すぐに逃げていく。
軽装の歩兵だけをうまく狙ってきたりもする。
よく訓練されている。敵さんが実数よりも多く見えるよ。」
「なかなか難しいですね。
こんなに砦が整備されているとは思いませんでした。
どうですか、あれを出してみますか?」
「そう思っていたところだ。
一気に決めてしまおう。
最初にトケイトを落とす。
周辺は後でいい。
開始の時機はあとで決めよう。
投石器の準備だけ頼む。」
「了解!」
コーラスはまた後方に戻る。
「さて、訓練の成果を見せてやりましょう。」
コーラスは、ふさふさと柔らかい馬のたてがみを眺めながら、そう独り言ちた。
ーーーートカ砦ーーーー
ガスパスは苛ついていた。
戦況の報告が入ってこない。
いや、入ってきてはいるが、有用な情報がない。
敵がどこまで来た。
味方のどの将軍が出た、どこにいる。
そんなことは聞かなくてもわかる。
欲しいのは、敵の陣容、正確な兵士数。
それからこちらの内通者に関する情報。
敵の輜重隊の動き、間者の動き。
この多面作戦は、単なる戦ではない。
どこかで、何か仕掛けてくる。
「おい。どこかで情報が止まってるんじゃないのか?
メルケル軍とマリーアス軍の陣容、兵士数はなぜ伝わって来ない。」
脇で控える間者に言ってみる。
「一人、帰ってこない者がおります・・・・
それから、中央からの連絡がここ数時間、途絶えています。
なにかあったのでしょうか・・・・」
「それを確認するのがお前の仕事ではないのか。
とにかく情報が欲しい。
このままでは、動けんぞ。」
間者が恭しく礼をして出ていく。
ガスパスはひとしきり部屋の中を歩き回った後、あきらめたようにどっかと椅子に座った。





