11月2日 午前
ーーーートカ砦ーーーー
(バカ正直すぎる。)
第一報を聞いた時の違和感が拭えない。
ガスパスはまだ、巡回で滞在中のトカ砦ーービルトとソラスの中間に位置する中規模の砦ーーで、動かずにいた。
なにか、おかしい。
マリーアスとメルケルの同盟は周知の事実。日時を合わせて来ることは予想出来ている。
こちらの兵糧不足もお見通しだろう。籠城なら最長でも一週間持てばいい方だ。
だからまず砦を落としてからソラスを囲む。マスケアを囲む。
だが仮にそれが成功したとして、その後をどう持たせるつもりなのかがわからない。
こちらの領内で補給線を確保するのが難しい事くらい、奴らなら百も承知のはず。
追い返す自身もあった。
だがあのマリーアスの若造と、メルケルのトニ・メイダスが、そんな力押しの戦をするだろうか。
何度考えても、答えは「否」だった。
となると、一番濃いのが内通か。
それなりの力を持った内通者がいるのか。
メディティスは無いだろう。
北のマーロンも無い。
近衛も有り得ない。
すると、ファンクスか。
それともメディティスの副官あたりか。
本隊のいないどこかの砦の将校か。
内通を疑い出すと、まともに軍を動かす事が出来なくなる。どんな作戦を組んでも、裏切り者がいる時点で破綻する。
他には・・・例えば暗殺。
これも軍に与える影響は大きい。
狙いが見えない。
やはり今は、動かない方がよい。
じりじりと陽は昇る。
この季節には珍しい陽気。
こんな日は馬の脚が速い。
そろそろお互いに陣容を掴む頃か、などと考えて、ガスパスは小さく舌打ちをした。
ーーーーボナ砦ーーーーー
敵方が進軍を始めたと言う一報を受けて、メディティスは全軍をマスケアからボナ砦まで動かした。
兵糧が厳しい。持って一週間。
それ以上周辺から徴発すると、住民に餓死者が出るだろう。
それだけは避けたい。
既に西方軍は、元の20,000人から、14,000にまでその数を減らしていた。
多くは帰農させ、火山の影響の少ない地域の開拓に当たらせている。
職業軍人を多く飼っておくだけの余裕が、いまのこの国にはないのだ。
南方軍はもっとひどい。ファンクスはひた隠しにしているが、どうも10,000人以上減らしているようだった。
マリーアスは恐らく全軍で14,000程度。
兵力では互角。
あとは地の利をどう生かせるか。
そして将の質だ。
正直厳しいだろう。
上手く城や砦を使えればいいが、ファンクスにはそれが出来ない。
戦でなにか光るものがあるかと言えば、皆無だ。
元々ソラスの重臣だった男。
絶妙な時期の裏切りで生き残りに成功し、裏金と根回しだけで将軍になった。
あの地域で無視できないだけの影響力があるので、おそらく王は奴をあの地位に着けたままにしているのだろう。
だから、多分南は負ける。
上手くすれば、ソラスは落とされずに持つかもしれないが。
では、こちらはどうか。
兵力ではこちらに分がある。向こうは10,000に満たないはず。
兵器は豊富らしい。事前の情報からも、進軍を見ても、恐らく十分な量揃っている。
兵の練度は比べるべくもない。所詮義勇兵。初陣の者も多い。
騎馬も少ないようだ。
地の利はどうか。
さすがに地形地理は知り尽くしている。
まずそこで不利が生じることは無い。
問題はやはり兵糧だ。
ビルトからの補給は、見込めない。
再三の兵糧の要請も無駄だった。
王からの激励の書状を将校たちに聞かせたが・・・
すでに響くものではなくなっている。
皆しらけた目をして、無表情で聞いていた。
既に王家は求心力を失いつつあった。
火山の爆発以降それは顕著になってきている。
だが当の王は病が重く、さらに伝染病のたぐいらしいので、ここ数年兵たちの前に姿を見せていない。
メディティスも・・・手紙のやり取りはあるにせよ、最後に直接話をしてからは3年以上が経っていた。
王の土気色の顔を思い出す。
あれから病はさらに進んだのか。
床の中からあの不屈の闘志で命令を発し続けているのか。
心がちくりと痛む。
作戦は決めていた。
ボナ砦を後陣とした、野戦。
向こうの攻城兵器を使わせない。
騎馬が少ないという弱点を顕在化させる。
砦前面の平地の中央に、二段構えの本陣。
魔物部隊を両翼に起き、援護させる。
あの気味の悪い者どもと付き合うのも慣れた。
最近はあまり重用せずにいたが、この戦では存分に働いてもらわねばならない。
そして、魔法部隊。
普段ビルトに居る奴らが、こっちに派遣されてきた。
総勢わずか120名ほど。
だが北方の砦を燃やし尽くした実績を持つ、恐ろしい部隊だ。
味方を巻き込む可能性があるので使いどころが難しいが・・・。
彼らがこの戦のカギを握っていることは間違いなかった。
それから左右の森に、一中隊ずつ伏兵を置いた。
攻撃はしない。とにかく伏せられるだけ伏せて置いて、時機が来たら向こうの補給線を乱す。
あわよくば、兵糧を奪う。
2~3回奪えればこちらの勝ちは確定するとメディティスは踏んでいる。
さて、トニ・メイダスは、息子はどう来るか。
国の状態や南の状況はさておき、これほど楽しみな戦はない。
トニ・メイダスにはやられ続けているが・・・・
それはこちらが攻める側だったから。
(この戦は負けはせんぞ)
メディティスはぐっとこぶしを握る。
早馬の蹄が近づいてくる。斥候だ。
「大将軍さま!敵方の陣容がわかりました!」
色黒、短髪の若い兵士。
「タカキか。申せ。」
「先鋒、スティード。
次鋒にジャン・バウム。
第三軍、本陣にユリース王女、それからあの年寄り傭兵隊長ですね。
いまは3人とも将軍を名乗ったようです。」
「トニ・メイダスは?」
「いえ・・・今のところ、出てきている様子はありません・・・・
留守番でしょうか?」
ぶわっと、肌が泡立つ。
留守番?有り得ない。
病?だとしても生きてる限り出てくる。
死んだ?ならばさすがにこちらの間者が捉えるだろう。
とすると
別働隊?
「どこかに伏せた兵でマスケアを直接突く気だ!
伝令。ボーノの一個大隊をマスケアに!すぐだ!!
門を閉ざし守りを固めろ!
弓をつかえる住民も壁に並べて待機!」
「ハッ!!!すぐに!」
「もうひとつ!!
中央、南、それからガスパスに今の陣容を伝えて置け。
ボーノへの命令の後、すぐに魔具で伝えよ!」
「ハッ!!」
攻城兵器は本隊にあるはず。
あわよくば留守中のマスケアの門をうまくこじ開けて入り込もうというのか。
確かに、事前の調査よりも兵が少し少ない。これだったか。
(なかなかやる。が、こちらが上手だという事を見せてやろう。)
遠くに砂ぼこりが見える。
ボナ西の街道は見通しがいい。
もうすぐに、姿も見えてくるだろう。
(勝負だ、ジャン。手加減はせぬぞ。)
メディティスは一瞬だけ父親の顔になり、すぐに表情を元に戻した。





