1009年10月31日 ビルト城内
玉座の間につながる、長くまっすぐな通路。
私はもう何年もこの通路から出ていない。
食事は玉座の間と逆側の格子窓から運ばれてくる。
通路の脇の小部屋で寝泊まりし、排泄する。
私が知る限り、ここに閉じ込められて数年、この通路を通り抜けた者は一人もいない。
玉座の間からは、王や重臣の言葉を伝えに来る侍女がひとり。
一年ほど前に担当が変わったが・・・その時もこの通路は使われていない。
反対側の格子窓には主に老いた侍従長が現れるが、こっちには時々別の人間も来る。
共通しているのは、皆何かに怯えたような、時には泣きそうな顔をして私に会いに来ることだ。
当然皆私がここから出られない事を知っている。
そして私とほとんど言葉を交わすことなく、用件だけを済ませて去っていく。
不思議なのは玉座の間だ。
ここに閉じ込められる直前、玉座の間には何人かの重心と従者、そして王が居たはずだ。
だがここが閉鎖されて以来、誰も出てきていない。
おそらく他に玉座の間と外とをつなげる通路があるのだろうが・・・・
だとしても、ここを閉鎖する意味がまるきり解らない。
それに、わざわざ私を閉じ込めた理由はなんだ?
玉座間から顔だけを出す侍女は、侍従長が持つ情報を必要としている。
侍従長は私に報告書を渡す。厳重に封がされていて中はわからない。
侍女は私から報告書をうけとり奥に引っ込む。
そしてしばらくすると、紙に書かれた指令や質問を寄越す。
それを侍従長に渡し、彼がその対応をする。
時には勅書が出てくることもあるし、玉座の間で使いたいらしい物品を求められることもある。
例えば油、例えばペンや紙、そして果物や菓子。
そういえば食事は一度も運んだことがないが・・・。
つまり、連絡係?運搬係?
侍従長と侍女を合わせたくない理由が何かあるのか?
そのためだけに私を?
まるで訳が分からないまま、何年も経った。
いや、とうに日付などわからないし、ここは一年中温度が変わらない。
多分何年かが経ったんだろう、と想像するだけだ。
侍従長からの報告は、他国に関するものらしかった。
それは、玉座の間から返ってくる手書きのメモの内容から想像が付いた。
この何日か、それが増えている。
毎日、何回も侍従長が現れ、報告書を渡してくる。
何か起ころうとしているのか?
いや、もはやどうでもいい。
単に面倒だ。
小部屋には幸い、お気に入りの本が3冊置いてある。
もう擦り切れるほど読んだ。
全て暗唱しているのではないかと思うくらいだ。
本を読んでいる間、心だけは自由になる。
私はここで訳の分からぬまま人生を終えるのだろう。
だから今日もまた、本を読んで心で旅する。
今日は2番目にお気に入りの、茶色い表紙。
オルドナ建国王の英雄譚だ。
今日はもう、誰にも呼ばれないといいが。





