1009年3月28日 オルドナ領 コルテス島ジーラント オルドナ兵詰所
ひそかに作物を倉に貯め込んでいた農家のおやじをボロボロになるまでぶん殴ったら、死んでしまった。
この程度で死ぬほうが、おかしい。
それでは野盗とさえ戦えないではないか。
だが、またうるさい事を言ってくるやつがいるに違いなかった。
火山の噴火の後、やけに中央がざわつきだした。
無能どもはいつも事後に慌てる。
結果俺に来た命令は・・・もっと作物を中央に寄越せ、という全くくだらないものだった。
いまこの国に戦場は無い。
あるのは前線とは名ばかりの緊張感のない砦、数を頼むだけの将、軍。
いかがわしい魔物使い、魔法使い。
それからやけにくたびれた農民と、でっぷり太った貴族。
王の姿などしばらく見ていない。
北の女将軍だけは多少マシだが、それでもそこに戦場があるわけではない。
恐らくここと同じように、下らぬ仕事を繰り返しているだけだろう。
・・・もし
あの2回の戦で俺が勝っていれば、戦場は西に果てしなく広がっていたはずだ。
メルケル、トニ・メイダス。
マリーアス、宰相コーラス。
まともにぶつからずに勝ちを攫おうとする卑怯者達。
奴らのせいで、俺の駆け回れる大地は狭まった。
そして
テテロ・・・マスカード。
戦のあと、あの無能な若造が大将軍に昇格し、あまつさえマスカードの姓を名乗った。
ジャジールの顔が一瞬浮かんで消える。
とっくに忘れていた感情が蘇ろうとするのを抑え込んだ。
バタバタと兵が入ってくる音。
「ガスパス様!領主が来ております。」
下らない。どうせ形だけ。
他の領民への言い訳のための苦情だろう。
「聞かぬ。追い返せ。」
「ハッ!」
兵が出ていく。
明日からは南のプラティアに向かう。
あそこの領主は頑固だ。
いっそ殺してやりたいとも思うが、民や領主が居なくなっては兵糧が持たない。
それくらいは俺も気を遣う。
「面倒だな。」
意図せず独り言が出た。
これは老いか。
あと2年もすれば40になる。
いつまでこんな所で燻っていればいいのか。
思うがままに戦場を駆け廻れる事は、二度と無いのではないか。
「チッ」
全く下らない。
「おい。」
侍従が入ってくる。
こいつはさっきの独り言を聞いていたのか?
「全員に伝えろ。明日はプラティアには向かわぬ。調練だ。」





