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第九領域:灼熱紅蓮焦土・『ダイナウェルダン』

 ――"検非違使けびいし"。


 それは、"転倒世界"の日本において、古来より時の権力者に仕えてきた、精鋭無比かつ不老不死を誇る人智を超えた者達の総称である。


 現在の"大異変"という事象に見舞われ混乱の只中にある日本国内を、強権的な手段で政治・経済・軍事を皮切りに支配下に治めつつある彼らだが、その中でも強大な異能を誇る十二名の検非違使達を、人々は畏れを込めて"禁中近衛十二将"と呼ぶ――!!









 第九領域:灼熱紅蓮焦土・『ダイナウェルダン』


 そこは、灼熱のマグマが至る所で噴出し、炎竜が飛翔・闊歩する超危険地帯というほかない世界。


 この地を統べるは『炎竜帝王』と称される”グレンカイザー”。


 王者の風格とあらゆる存在を焼き尽くすかの如き猛々しさを兼ね備えた巨大な炎竜である。


 魔王:古城ろっくを最も象徴する"炎上"の廃滅属性を有しているだけに、この世界は『ベリアライズ』と並んで"地獄の双璧"と呼ばれるほどの最強クラスの暗黒領域である……はずだった。





『…………………………ッ!!』





 だが、その最強を冠するグレンカイザーは現在、不様ともいえる状態で頭から地面に転がっていた。


 見ればグレンカイザーだけでなく、夥しい数の眷属(けんぞく)である炎竜達の惨たらしい屍が転がり、積み重ねられていた。


 横たえたグレンカイザーが息も絶え絶えに睨みつける先にいたのは、業火に燃えるが如く真っ赤な髪色をした大柄な一人の男だった。


 男は不可思議な呪文とも模様ともいえそうなモノが刻まれた白い布を垂らすようにして顔を隠し、狩衣かりぎぬを特攻服のようにアレンジしたモノを着こなしながら、背中に自身の髪色と同じ真っ赤に燃えるような色をしたバイクに跨がっていた。


 この男こそが、様々な特異点や怪異・異邦人が犇めく混沌と化した"転倒世界"の日本において、政治・経済・軍事をはじめとするあらゆる分野で急激に勢力を伸ばす"検非違使(けびいし)"達をまとめる最高幹部の1人である緋座鞍(ひざくら) 楼炎(ろうえん)その人であった。


 そんな緋座鞍に向けて、グレンカイザーが絞り出すような怨嗟の呪詛を放つ。


『……こ、この『ダイナウェルダン』の未来を背負う若き者達の命を奪いおって……貴様に、戦士としての誇りはないのかッ!?』


 満身創痍ながらも、それを感じさせない覇気に満ちた声と共にグレンカイザーが、緋座鞍へと戦士としての矜持を問いかける。


 グレンカイザーの言うとおり、緋座鞍はその圧倒的な検非違使としての力でグレンカイザーを含む炎竜達を殲滅しただけでなく、降伏した者や戦意のない者、まだ戦えないような幼竜であろうと容赦なく嗤いながら彼らの命を踏みにじっていったのだ。


 この世界を統べる帝王……それだけでなく、命のやり取りをした相手からの真摯な問いかけ。


 だが、そんなモノすら一顧だにせず、つまらなさそうに緋座鞍は答える。





「あっ?戦士の誇りだぁ?……んなもん、あるわけねぇだろ。こっちはお役所仕事で害獣駆除しただけの、単なる公務員様なんだからよ?」





『なん、だと……?』


 残忍な男である事は、一連の所業で理解出来ていた。


 それでも、これだけの強さを誇る者ならばそれに相応しい何らかの矜持があるはずだとグレンカイザーは考えていた。


 だが、命を賭けて挑んだ自分達の死闘が、この男からすれば単なる作業に過ぎないと言うのか。


 信じられない言葉を聞いて固まるグレンカイザーだったが、そんな帝王の様子を見て緋座鞍が、すぐに気色に満ちた――グレンカイザーにとって耳障りな声音で、話を続ける。


「だってそうだろ?お前ら、"誇り"やら何やら大仰な事を言ってきたけど、やってる事は自分等より弱い世界の人間を襲撃して食い散らかしてきただけだろうが。……それが、自分等の番になったら"戦士の誇り"やら持ち出して、爽やかなお涙頂戴三文芝居を適当にやれば許されると本気で思ってんのか?……お前ら、ムシャムシャ食ってきた相手の悲鳴とやらに耳を傾けてきた事があんのかよ?」


 緋座鞍の言葉を受けて、グレンカイザーが激しく激昂する――!!


『……ッ!?我等とて、好きで彼らの命を喰らってきた訳ではない!!この世界では我等竜種の食物となるモノが育たず、やむにやまれず他の世界の命を糧にするしかなかったからだ!!我等の行為は生存するために必要な行為であり、犠牲になった世界の者達は必要以上にいたぶる事なく、我々の糧になった彼らに常に敬意を捧げてきたッ!!……我々の苦悩を、貴様のように意味もなく他者をいたぶるだけの下衆の所業と一緒にするなッ!!!!』


 最強と言われる竜種の帝王が放つ、本気の憤怒。


 だが、それを前にしても緋座鞍は飄々とした態度を微塵も崩しはせず――それどころか、余計に愉しげな様子を見せていた。


「テメェらの敬意なんざ、喰われる側からしたら知った事かよ!竜種ってのは、死んだ奴等とも話せたりすんのか初めて知ったわ!……あぁ、でも俺の前にいる竜もどきは、ひよこみたいにピーチクパーチク泣きわめくくらいが、関の山みてーだな?」


『……ッ!我が、雛鳥だとッ!?』


「上品に取り繕うなよ。だから、単なる"ひよこ"だって。……あぁ、でもお前ら"小説家になろう"っていう世界でも、人気作の世界には挑まずに、チビチビとエタった作品とか不人気な作品ばかりにイキッてたらしいな?……王者とか言ってるくせに、やることハイエナかよ!」


 ギャハハッ!と、緋座鞍は哄笑を上げ続けていた。


「ひよこで!ハイエナで!俺一人にやられるような糞雑魚ときたモンだ!!しかも、こんだけ色んな生き物の要素が混じってんのに、肝心の竜要素がどこにも見当たらねぇ!!……お、お前ら、俺に力で勝てないからって、笑い死にさせようとか反則だろ!!」


『……何が可笑しいッ!!その下劣な口を閉じろ、外道ッ!!』


 だが、緋座鞍は構わずにグレンカイザー……いや、この『ダイナウェルダン』という世界に生きる者達、彼等が辿ってきた軌跡を全て嘲笑い続ける。


 緋座鞍(ひざくら) 楼炎(ろうえん)という男にとって、グレンカイザーとは最早何の脅威とも認識されていなかった。


「俺達の世界じゃあ、ドラゴンってのは色んな作品に引っ張りだこな"最強種"の象徴みたいな感じなんだが……この『ダイナウェルダン』っていう掃き溜めじゃあ、竜ってのは"外見だけそれっぽくしたいろんな糞共の寄せ集め"って意味なのか?そりゃ予想の遥か斜め下を行く異文化コミュニケーションだわ!……まぁ、それよりもテメェらが"それっぽく意味のある言語のように聞こえる鳴き声を出してるだけの生き物"って言われた方が、まだすんなり納得出来るんだけどよ?」


『き、貴様……どこまで、愚弄を重ねれば気が済む!?我等が貴様に何かしたというのか!』


 そんなグレンカイザーの憤慨にも、緋座鞍(ひざくら)は「いんや?」と軽い調子で答える。


「テメェらには何の恨みも因縁もないし、実を言うとテメェらがやむにやまれずに他所の人間達を食おうが、どんだけ御大層な"誇り"とやらがあろうと、正直どーでもいいんだわ」


 なんせ、と緋座鞍(ひざくら)はその答えを口にする――。





「俺はただ単に、テメェらみてぇな弱くて潰しても何のおとがめもない奴らを、"検非違使"として圧倒的な権力と暴力でボコボコにすんのが、楽しいだけだからよぉ……!!」









 緋座鞍(ひざくら)の暴言を前に、今度こそ絶句するグレンカイザー。


 対する緋座鞍(ひざくら)は、言いたい事を言って満足したらしく、あとは何の感慨もないままこの世界での雑務(・・)を終わらせようとしていた。


「これで分かったろ?俺からすれば、"炎竜"だの"帝王"だのと喚いたところで、テメェらなんざ所詮"古城ろっく"とやらの、絞りカス程度に過ぎねぇんだよ……ったく、"山賊"やら"キモオタ"みたいな目障りな連中を潰さなきゃなんねぇってのに、余計な手間かけさせやがって。……言語が分かるくらいに"申し訳ない"っていう知性が本当に僅かでもあるなら、さっさと死んどけや……!!」





 そこまでが限界だった。


 自分達を侮辱されただけでなく、最強の竜種としての脅威すら"山賊"や"キモオタ"よりも遥かに劣る、と言われたのだ。


 グレンカイザーは瀕死の身体に鞭打ち、自身の内部にある"炎上"の因子を最大限に燃え上がらせる――!!





『糞雑魚野郎はお前の方だろこのボケカスがッ!……ヘラヘラと何の"覚悟"もなしで、()の縄張りを荒らしやがってッ!!!!絶対にお前は許さないからなッ!?』





 瀕死の生き残った竜達が、これまで自分達の帝王が見せた事のない剥き出しの攻撃性を発揮した事に対して、ドン引きとも言える驚愕を浮かべる――!!


 あまりにも、普段の威風堂々としたグレンカイザーからはかけ離れた姿だったが、これこそが最も魔王:古城ろっくの"悪"の因子が反映されたと言われる廃滅属性:"炎上"であり、グレンカイザーは普段"炎上"によるこれほどの激情を抑えながら、皆の平穏のため――そして、このような"来たるべき時"のために、廃滅因子による力を蓄積していたのだ。


 最強の竜種の帝王としての肉体に、これまで一度も発揮される事のなかった"炎上"による力の全力解放。


 瀕死の肉体がまるで嘘のように猛々しく起き上がり、緋座鞍(ひざくら)に向けて、極大の殺意を向けるグレンカイザー。


 戦闘で傷を負ったモノの――これまで自身の廃滅因子を"転倒世界"の者達との交流や戦闘のすえに砕かれてきた他の領域支配者達とは違い、グレンカイザーはまさに万全の状態で"炎上"の性能を引き出す事に成功していた。


 ゆえに、因子を抑制していた平時から"最強"と称されていたグレンカイザーが、現在どれほど桁外れな力を持つのかは誰にも分からない。


 だが、対する緋座鞍(ひざくら)はそれでこそようやく興が乗った!と言わんばかりに、これまでとは違う本気の歓喜の声を上げる。


「おぅおぅ!さっきよりも良い面構えをしてんじゃねぇか!!"帝王"やら何やら偉そうにふんぞり返っていた時よりも、数千億倍サマになってんぞ!!……そんじゃあ、こっちも行くぜ?」


 バイクのギアを上げながら、緋座鞍がここにきて初めて"検非違使(けびいし)"らしく、堂々とした名乗りを上げるーー!!





「司る属性は『炎』!もたらす効果は『破壊』!!……禁中近衛十二将:第五席――緋座鞍(ひざくら) 楼炎(ろうえん)!推して参るッ!!」








 ……破壊の連声(れんじょう)を辺り一面に響かせながら、『ダイナウェルダン』に紅蓮の華が咲き誇ろうとしていたーー!!

※本作の執筆にあたって、『古城ろっく』さんの名義を使用させて頂く許可を、古城ろっくさん本人から頂きました。


慎んで、深く御礼申し上げます。

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