第五領域:黄金繁栄都市・『パラダイスロスト』
第五領域:黄金繁栄都市・『パラダイスロスト』
現在この領域の支配者である大富豪の女性:"ユキノ=カレンデュラ"は、為す術もなく追いつめられていた。
「クッ……一体、何なのよ!?アンタ達は!!」
絶世の美貌を誇る彼女だが、このときばかりは違った。
憎々し気に彼女が見つめる先には、二人組の男子高校生がこちらに向かってきていた。
彼らは息の合った様子で並走しながら、ユキノへ返答する。
「俺の名前は、山田 つくるだ」
「そして奇遇だな。……俺の名前は、佐藤 たもつだ」
何が奇遇なのかは分からないが、こうして黄金繁栄都市・『パラダイスロスト』の領域支配者であるユキノは、つくるとたもつの二人組と運命的な出会いを果たした――。
「ヨ〜〜〜ッシ!!いかにも非合法な感じの人で溢れ返っているから、規制とか気にせずにどんどんちっちゃい女の子とランドセルを書きまくれるぞ〜!!」
「分かったネー!!楽しいネー!」
「フフッ……今宵はこの豪華なホテルの寝室で、義理の息子と妊活に励みますわ……」フフッ……
「はあ〜〜〜!!こりゃ、どこもかしこも関白さんがたまげるくらいの豪奢ぶりじゃないのか!?……こりゃ、江戸城なんか目じゃないってよ!!」
「たくさんギャンブルスポットがあって良いけど、僕はね、競馬が一番好きなんですよ!!……あと、どこかで麻薬とかも解禁されてないかな?」
「暗黒街じゃねーか!……って、ツッコみたいけど、たぶん本当にここって暗黒街なんだろうな……」
現在、この『パラダイスロスト』には、かつてつくるとたもつの二人によって圧制から解放された人々が、彼らの行くべき道を切り開くかのように――あるいは、ただ単に自身の欲求を満たすためだけに、この暗黒領域に大挙して押し寄せていた。
ロリ系専門のエロ漫画家やサンバのノリをしたレースクイーンのお姉さん、妖艶な義母や不老不死の人体実験のために江戸城に囚われていた町民達、ペットの相談を受けたにも関わらず競馬の話をし始めるほどのギャンブル狂とそれに突っ込む辛口芸人……etc.
彼らを前に、ユキノの親衛隊や護衛兵が激しく取り乱していた。
「何だコイツ等は……!?」
「クソッ、賭場があの変なオッサンに荒らされまくってやがる!?誰か、腕利きのディーラーをかき集めてくれ!!」
「うすら寒い笑みを浮かべた不審者がデッサンノートを手に、幼女達に声をかける事案が発生中!!……この非合法都市にも”秩序”があるのだと、変態不審者に教えてやれッ!!」
『ユキノさえ良ければ、あとはどーでもいい』。
世界規模でユキノに尽くし、ユキノに見向きもされずに使い捨てられようともそれで構わない、といった在り方が骨の髄まで染みついた『パラダイスロスト』の者達だったが、転倒世界からやってきた者達のあまりにも無秩序かつ滅茶苦茶な自分本位ともいえる行為の数々を前にして、とうとう堪忍袋の緒が切れた。
――これ以上は、我慢ならぬ。
『アトラクシオン』の連中のように、自身が信じる絶対的な”何か”、信念のようなモノのためにこちらに攻撃を仕掛けてきたのなら、こちらも相応の敵意と信念を持って最後の一人になるまでユキノのために戦う事が出来た。
だが、この転倒世界から来た者達は、自分達が絶対の支配者として崇める"ユキノ=カレンデュラ"に目もくれず、ただ自分達の欲求を満たすがために、好き勝手にこの世界を現在進行形で荒らし回っているのだ。
――こんな奴らに、これ以上僅かでも自分達が生きる世界を荒らさせてたまるモノか。
そのような義憤ともいえる感情が極限を超えた彼らは、あれほど全財産や家族すら質に入れる勢いで全てを捧げるほど尽くしてきたユキノのもとを離れ、現在この世界で好き勝手に振る舞う”転倒世界”勢力の対処に追われていた。
ゆえに、現在ユキノはこの世界の絶対的な支配者であるにも関わらず、自身のみでここまで辿り着いたこの二人の相手をしなければならなかった。
とはいえか弱き女性に見えても、ユキノとて一つの世界の頂点に立つ”領域支配者”の一人。
単なる男子高校生の二人など、廃滅因子による権能ですぐに瞬殺できる……はずだった。
「何でよ……何でコイツ等に、私の攻撃が全く効かないのよッ!?」
ユキノが絶叫を上げながら、なおも権能によって生み出した極大の光弾をいくつも高速で、つくるとたもつへと撃ち放つ――!!
だが、二人はそれらを打ち消し、対応できずに直撃したとしても特に動じる様子を見せずに、ユキノのもとへと疾走していく。
それというのも無理はない。
なんせこの二人は、夕暮れの教室でつくるが告白したもつがそれを受け入れた事で交際が始まりそうだったモノの、『それっぽい事を僅かでもしたら、問答無用で"ボーイズラブ"を名乗るべき!!』という堅苦しい事を他人から言われる風潮が両者とも大嫌いだったので、付き合って2秒で破局を迎えた……という異例の過去を持つ。
『例え同姓同士だろうと、相手を好きな気持ちに嘘はつけない!』
『でも、他人から"ボーイズラブ"がうんぬんとか指図されるのは嫌だ!』
自分の心にどこまでも正直に生きながら、僅かな時間で『それっぽい事を僅かでもしたら、問答無用で"ボーイズラブ"を名乗るべき!!』という堅苦しい風潮を打ち破ったことによって、人々を縛る見えざる”檻”や”枷”というモノを破壊し、圧制に囚われていた人々を開放したつくるとたもつ。
そんな自身の意思で新しい一歩を踏み出してきた彼らだからこそ、ユキノの廃滅属性である”虚栄”などに遅れを取るはずなどなかった。
ユキノと違い、例え同姓同士だろうと互いを想う気持ちを認めているからこそ、どんな強大な苦難が待ち構えていようとも二人で共に突き進み。
ユキノがどれほど絶世の美女だろうと、隣にそれ以上の絆で繋がった相棒がいる事の頼もしさを知っているから、そんなモノに目がくらんだりしない。
世界の頂点に昇りつめながら、未だナクア=ヤショダラという相手を想う気持ちと向き合えていないユキノが敵う相手ではなかった。
――そう、”虚栄”を纏ったユキノ=カレンデュラという女性にとって、どこまでも自分達の在り方にまっすぐなつくるとたもつの二人組は、まさに天敵以外の何物でもなかったのである。
こちらに迫りくる、つくるとたもつを前に、ユキノが絶叫を上げる――!!
「こっちに……来ないでぇェェェェェェェェェェッ!!」
ユキノの前に、自身を囲むかのように障壁が展開される。
これこそが、”虚栄”の権能が最も適した形で発揮される堅牢堅固なる結界であった。
だがそれすらも、つくるとたもつが同時に仲良く放った拳によって、盛大に打ち砕かれる――!!
破砕音と共に砕け散る障壁。
ユキノは短く呻きを上げながら、自身の身を守るかのように両腕で自身の前を防ごうとしていた。
……だが、いつまで経っても、覚悟していた痛みが襲ってこない。
おそるおそる腕をどかし、目を開けるとそこには、自分に向かってそれぞれの片手を差し伸べているつくるとたもつの姿があった。
どういう意図があるのか、と恐々としながらも警戒した様子を隠そうともせずに、ユキノが尋ねる。
「ア、アンタ達……一体、どういうつもりなのよ!?」
完膚なきまでに自身の権能が全て敗れ去ったとはいえ、敵意を漲らせたユキノ。
そんな彼女に対しても、つくるは何の気負いもなく答える。
「何って……囚われのプリンセスを開放しに来たんだズェ……!!」
「か、開放……?アンタ達、私を倒しに来たんじゃないの……?」
上目遣いで訊ねるユキノに対して、「そんなわけがあるか」とたもつが冷徹に返す。
「俺達は”誰か”に伝えたい想いがあるのに、新しい一歩を踏み出せず、自分から狭い檻の中に閉じこもっているお姫様を救い出しに来ただけだ……と言っても、俺達が出来るのはここまで。この手を取るかどうかを選ぶのはアンタの判断次第だがな……」
「どっちを選んでも、俺は恨まないぜ!」と、つくるが横から茶々を入れ、たもつが若干の呆れた表情を浮かべる。
それらを見ながら――ユキノは彼らが本当にどうしようもなく、ただそれだけのためにここに来たのだという事を理解してしまった。
”虚栄”という廃滅因子を持つ自分だからこそ、他者の嘘ならばどれほど取り繕おうとしたところですぐに分かる。
だが、この二人はどこまでも――自身の在り方にまっすぐだった。
世界の危機を救うためとか、邪悪な敵を倒すためでもなく――ただ引きこもっている奴がいるから、連れ出しにきたという余計なお世話以外の何物でもない理由で、領域支配者である自分のもとまで危険も顧みずやってきたのだ。
「どうしてよ……どうして、私なんかのためにそこまで出来るのよ!?アンタ達はホモなんだから、私がどうこう悩んで勝手にふさぎ込んでいようと、全く関係なんてないはずでしょ!?」
罵倒……というよりかは、二人の真意が分からずに混乱しているユキノの疑問とでもいうべきモノであった。
そんな彼女の問いかけにも、動じることなく二人は返す。
「ホモとか同性愛とか難しい話は分からないけど……誰かを好きな気持ちに、嘘をついちゃいけないんだズェ……!!」
「然り。……そして俺達は、形だけじゃない本物の女性と、そういった恋愛関係でキャピ♡キャピと女子会トークをするのが夢だったんだ……」
だから、とたもつが続ける。
「すべてが終わって君が自分に正直になることが出来たら――俺達はいつでも、学校帰りのスタバやマックで君を待ってる」
そんなたもつの笑顔を見て――今にも泣きそうになりながら、ユキノが首を横に振り続ける。
「無理よ……私は自分に嘘をついてあの子から逃げ続けてきたような女よ?……今さら、マトモに顔を合わせられるはずがないじゃない!!……それに、私のこんな想いですら”古城ろっく”から分かたれた因子が、もとの一つの形に戻ろうとしているだけの単なる回帰本能かもしれなくて……」
それこそが彼女の抱え込んできた悩みの数々。
この想いが否定される事が怖い。
この想いすら作られた偽物であると言われるのが怖い。
だがそんな彼女が抱え込んできた苦悩すら、この二人は容易く一蹴していく――!!
「だからそれも含めて、全部確かめに行かないと分からない事だろう?こんなところで一人ウジウジ悩んだところで答えなんか出るわけないじゃん?」
「……えっ?」
それは当たり前の事。
しかし、ユキノはつくるの言葉に対して、虚を突かれたように呆けた表情を浮かべていた。
そんな彼女に対して、つくるが続ける。
「大体な?逃げたなんて言ってるけど、俺達なんて出会った当初はまさにいがみあってたんだ。……そんな二人でも、互いの大事さに気づけたんだ。……だからよく分かんないけど、お前も自信持て!」
「……つくるの感性頼りな発言はともかく、俺達は互いに自身の名前に込められた”創造”と”維持”という因果を超えて、二人で悪しき弊害を壊し尽くし、時代に革新をもたらす事に成功したんだ。……例え、君の言う通り運命を縛る力があったのだとしても、それは決して超えられないような存在なんかじゃない……!!」
「あ、あぁ……!?」
二人の言葉を聞いて、ユキノが激しく瞠目する。
それは、つくるとたもつほどの特別な関係ではなかったとしても、誰かに悩みとして打ち明けていればすぐに出てきた答えだったかもしれない。
けれど、ユキノには勇気がなく――それに加えて、ユキノの周りには彼女の言葉・振る舞いを全肯定し、持ち上げる人間しかいなかった。
そうして、肯定されているのに望む答えも見つからず――ユキノ=カレンデュラという一人の女性は、全てに疲れてしまったのだ。
長い遠回りの末に、それでもまだ答えどころか、その足掛かりが見つかったのみ。
それでも去来する想いを胸に、言葉を失っているユキノに対して、つくるとたもつがそっ……と再び、手を差し出す。
「最初の挑戦ってのはいつだって怖いかもしれない。――それでも、人々が自身の意思と力で一歩を踏み出せたのなら」
「――新しい風は、いつもその場所に吹いている――」
「ほ、本当に、私なんかで……良いの……?」
自分は臆病で根暗なくせに、平気で他者を傷つけながら最後に自分が一番可愛そうだと嘆き、自己嫌悪に陥りながらまた同じことを繰り返すような卑怯で面倒くさくて馬鹿な、虚勢を張ることしか出来ないどうしようもない存在だ。
外見が良くなかったら、誰にも相手にされないことくらい自分がよく分かっている。
――でも、そんな自分と本当に、友達になってくれるのか。
そんな諸々の感情を込めたユキノの問いが伝わっているのか、つくるとたもつがコクリ、と頷きを返す。
そのような二人の表情を見たのと同時に、激しく涙が溢れ出てくるが、それでもユキノは”虚栄”を脱ぎ去って彼らの手を取ろうとしていた――そのときであった。
「――ッ!?」
建物内が盛大に揺れ、轟音が響く。
慌てふためくユキノだったが、いち早くこの異変に対応したのはつくるとたもつの二人であった。
彼らは同時に、外へと視線を向ける――!!
「クッ……どうやら、俺達だけじゃなく”ヤツ”もこの世界に来ていたようだな……!?」
「……やむをえん、つくる!!俺達の”創造”と”維持”の意思を持って、奴を食い止めるぞ!!」
何が起きているのかを瞬時に理解している様子の二人。
そんな彼らに、一人事態についていけていないユキノがどういう事なのかと訊ねる。
「ヤ、ヤツって誰よ!?つくる、たもつ……貴方達でどうにか出来ることなの!?」
そんなユキノの問いには答えることなく、確かな戦略性を兼ね備えたたもつが真剣な顔つきで答える。
「……奴が本気を出した時点で、この世界は既に駄目かもしれない。ユキノ、君にはまだやるべき事があるだろう?……ここからは俺達に任せて、君は自身の為すべき事を為せ」
「な、何を言ってるのよ!?わ、私だって、この世界の」
「今さら取り繕うな……もう、今の君が纏えるような”虚栄”は、どこにもないはずだろう?」
「……ッ!?」
厳しく否定しながら、優しく向けられたたもつの笑み。
それだけで、彼やつくるが死地に赴こうとする事が痛いほどユキノには伝わってしまった。
……今まで、彼らよりもたくさんの人達を戦場や危険な場所に送り出してきたのに。
ここに来て初めて、大事な友を失うかもしれないという痛みがユキノの胸中を覆い尽くす。
――自分がもっと早く”虚栄”の殻を脱ぎ捨てていたら、これまで切り捨ててきた多くの人間達に別の接し方が出来ていたのだろうか。
――自分がもっと早く素直になっていたら、ユキノの隣を歩けるような存在になり、つくるとたもつの二人ともこんな出会い方ではない普通の友人関係を築けたのだろうか。
今となっては、全てが虚しい仮定に過ぎない。
それでも、過去は変えられずとも未来にだけは一抹の”希望”が欲しいと、ユキノは問いかける。
「つくる、たもつ!!……また、アンタ達と会えるわよね!?……絶対に死んだりしないわよね!」
そんな彼女に、つくるが快活な笑みを返す。
「当然っしょ。俺は色彩を持った山田つくるッスよ?……辿り着く光景は、灰色の”絶望”なんかじゃなくて、虹のように多彩な色が息づく”希望”って相場が決まってんだろ!」
そう言って、こちらに一度だけ笑いかけてから背を向け、颯爽と走り出すつくるとたもつ。
……最後まで、彼らの手を取る事が出来なかった。
それでも、駆ける事は出来るのだと自身に言い聞かせ、ユキノは地面を踏みしめて精一杯走り出していた――。
黄金の繁栄を極めた都市である『パラダイスロスト』は、今や混乱の只中に包まれていた。
転倒世界の者達は既にこの暗黒領域から逃げ去っており(妖艶な義母がホテルのキャンセル手続きで少しトラブルを起こしていたが)、残されたこの世界の者達は途方に暮れた様子で、自身の眼前で引き起こされている凶行を見つめるしかなかった。
「壊さないと……既存の、優しさに満ちた世界を一秒でも早く、壊し尽くさないと……!!」
そう口にしながら、この『パラダイスロスト』を圧倒的な力で破壊し尽くしているのは、"破壊の体現者"を名乗る筋骨隆々の大柄な青年:”壊須田 飛人”だった。
瞬く間に、黄金の都を破壊し尽くす惨状を引き起こしている飛人の前に、つくるとたもつが姿を現す――!!
「そこまでにしておけ、壊須田 飛人!!――お前の暴虐も、ここまでだ!!」
「……お前が、"破壊の体現者"を名乗っている存在だとはいえ、ここまで見境のない男ではなかったはず……一体、何があった!?」
二人にとって、壊須田 飛人とは、超えるべき強敵であったが、破壊の体現者を名乗っていようと邪智暴虐に振る舞うような狂戦士などではなかった。
自分達を認める器量があった男とは思えない変貌ぶりに、つくるとたもつが困惑の声を上げる。
そんな彼らの問いに対して豪快に笑いながら――されど、隠しきれないこの世界への侮蔑を込めて、飛人は答えを返す。
「ふん、見て分からんのか貴様ら。……この世界の者達は"廃滅因子"とやらを持って生まれただけの単なる女を、選ばれた特別な存在扱いして支配者の座に座らせ、盲目的に自分達の何もかもを差し出すような無思考で怠惰な者達ばかり。……実に、惰弱!!淘汰されるべき文明そのものであり、旧態然としたまま滅ぶべき存在である!!」
憤怒の表情とともに、飛人が叫びにも似た一方的な通告をこの世界の住人達に向ける。
「……ゆえに、力ある者の決定が全て正しく、何もかもを差し出すのを良しとするなら!……"破壊の体現者"たる俺が、この世界の全てを破壊し尽くし、喰らい尽くすまでの事よ!!」
「壊須田、お前……」
飛人の言葉を聞いて、絶句するつくるとたもつ。
壊須田 飛人。
この男も、ユキノ=カレンデュラという一人の女性の側に、誰も彼女の話を真剣に聞く者がいない事を嘆いていたのだ。
ただ、つくるとたもつがユキノに手を差し伸べたのに対し、この壊須田 飛人の嘆きは"怒り"という形で、彼女が望んでもいない支配者の座へと押し上げたこの世界の人間達へと向けられた――。
それだけの違いだったのだろう。
そんな彼らに対して、飛人が怒りとは違う闘気を滾らせながら問いかける。
「……ふぅ、つまらん事を喋りすぎたな。それで、貴様らはどうする?今なら逃げ出しても後は追わんぞ?」
そんな飛人に対して、つくるとたもつが不敵な笑みを返す。
「……愚問だな。俺達は"創造"と"維持"。破壊の名を持つ相手に背中など見せはせん……!」
「それにそんなの抜きにしても、俺達がこの世界の人達を見捨てるはずがないって分かってるから、お前もやる気満々なんだろ?……なら、俺達のやるべき事はただ一つだ」
そう言いながら、つくるとたもつが身構える。
「ユキノは既に新たな道を自分で走り始めた。……なら後は、未だにアイツへの想いに囚われているこの世界の人達や、自分の"破壊"の運命から抜け出せていない壊須田の魂を、俺達二人の絆と意思で!解き放ってやるまでの事さ……!!」
「……いらん。俺は俺の為すがままに、この世界を壊すのみ……!!」
そう答えながらも、飛人の顔にはどことなく隠しきれない喜色が浮かんでいた。
だが、その闘気は紛れもなく本物。
最後に自分達と顔を合わせたときよりも、数百倍にまで膨れ上がっていた。
『パラダイスロスト』の住人達が世界の破滅を前にしたかのような絶望的な表情を浮かべる中、つくるとたもつが互いの手の甲を、兜合わせのようにコツン、と合わせる。
そうして、強大な力を誇る壊須田 飛人という男から視線を逸らす事なく――けれども、意思だけは共にあるという響きを持って、つくるがたもつへと話しかける。
「……なぁ、たもつ」
「……何だ、つくる」
「この戦いが終わったら……俺達、付き合おうズェ……!!」
「良いズェ……!!」
つくるとたもつ。
一つの世界の命運を賭けた二人の、最大の戦いが始まろうとしていた――。
※本作の執筆にあたって、『古城ろっく』さんの名義を使用させて頂く許可を、古城ろっくさん本人から頂きました。
慎んで、深く御礼申し上げます。